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おはなし



「……………」
「あっ!マネージャーさん寝てむぐぐ」
「しっ、静かにして……!」
鼻も口も塞ぐと人間は呼吸ができなくなるのでどちらかは解放してあげた方がいいと思う。寝ているマネージャーを起こさないように気遣ったのは素晴らしい心掛けだろうが、そのせいでボーカルくんの息の根を止めるのはマイナスに振れているのではないだろうか。
昼ご飯を食べて戻ってきたら、マネージャーが寝ていた。確かにこの人最近ずっと、事務所か車にいるか現場についてきてるし、俺たちはオフの日にボーカルくんが事務所に電話したらマネージャーが出たって言うし、一体いつ家に帰っているのだろうとは思っていたが、やっぱりここに住んでいたのか。そんなわけはないが、そう思うぐらい立て込んでいたのは事実だ。こっちが充分忙しいのだから、裏で動かしている人間はもっと忙しいのだろう。話しかけようとしたら電話してたこととかしょっちゅうだし。ボーカルくんが解放されたのを見て机の上にあったペンを手に取れば、きょとんと見られた。
「どらちゃんなにしてんの?」
「起きないなら何してもいいかと思って」
「だっ、ダメだよ!」
「うるせーな起きるだろうが」
「もーべーやん、まさかどらちゃんでも顔に落書きしたりしないって。メモ残すだけだよー、ねっどらちゃん」
「そう。顔に」
「そうそう!えっ?バカなの?」
「冗談だよ……」
目を丸くして指をさされたので、マジで信じられているのが逆に若干ショックだった。言ったのは自分だけど。マネージャーももそもそと体を起こしているが、これだけ騒げばそりゃそうなる。
「……すいません、寝てました……」
「おはよ」
「おかえりなさい」
「ただいまー」
「……もうこんな時間でしたか。出る準備するので、少しだけ待っててもらってもいいですか?」
「うん」
ほぼ突っ伏して寝ていたデスクの上もそのままに、カバンと鍵とスマホを持って行ってしまった。普通に書類が出ているので、何の書類だか気になって手を伸ばしたら、一度どこかに寄って戻ってきたのか、廊下を走り去る音と共に「触らないでくださいね」と捨て台詞を残された。クソ。
「どらちゃん読まれてんじゃん」
「片付けなくていいのかなって心配になった親切心だろうが」
「またまたあ」
「ははは」
「ひっ、あいたっ!な、なんで叩いたの」
「びくついててウザいから」
ボーカルくんと笑い合ってただけなのにベースくんがびくびくしてたのが本当にうざったかったので殴っただけなのだが、何か問題があっただろうか。ショックを受けるぐらいなら無駄に怯えないで欲しい。お前今の話に関係なかったろ。
しばらく待っていたら、準備できました!とマネージャーが戻ってきた。駐車場へ降りるまでの間に、あのう、といくらか気の抜けた声で話しかけられる。隣にいたボーカルくんが対応しているので、黙って聞いておいた。
「気になったので聞いていいですか」
「なに?」
「……横峯さんはなんで喋らないんですか?」
「あんね、どらちゃんがすぐ飴噛んじゃうからなんで舐めれないのっつったら時間かかるとか言うから、どんぐらいかかるか計ることにしたの」
「はあ。それと喋らないのに何の関係が」
「喋んない方が早く食べ終わるしょ」
「……飴の大きさにもよりません?」
「普通のやつ。棒がついてるやつ。わかる?」
「棒が口からはみ出てるので……」
困惑、と言った声色だが、頼んでもないのに実証されている俺も最初「なんでそんなことしてんの?」と困った声を出したので、気持ちはとても分かる。そもそもやってくれってお願いしてないし、俺が飴を噛もうが舐めようが周りに何の関係もないだろう。迷惑かけてないんだからほっといてくれ。そう最初に説明したが、ボーカルくんにはアホみたいな顔で「なんて?」と言われたし、ギターくんはその辺のコンビニで棒付きの飴を買ってきていた。馬鹿のくせに行動だけは早い。だからもう何を言おうと無駄なのだ。俺は諦めた。一部始終を知っているベースくんも無言なので、口を挟むだけ無駄だと分かっているのだろうと思う。車に着いた時、ずっと黙って飴をしゃぶっていたギターくんがようやく口を開いた。
「おわった!」
「うんとね、40分」
「遅っ。ギターくんもっとちゃんと舐めろよ」
「だからりっちゃんはいつも全部噛むから5分で終わっちゃうんでしょおが」
「でもその飴の平均って多分30分ですよね。CMしてましたし」
「そうなの?」
「俺ちゃんとがんばって食べたよ」
「まあ……個人差?はあるでしょうから。舌すごい色なってますよ」
「んえ?」
「ほんとだ。バケモノ色」
「えー」
べろ、とギターくんが舌を出した。確かに変な色だ。これから収録なんですけど。

「マネージャーさん疲れてると思う」
「……そうだな」
「ねぎらいたい!」
「どうぞ」
「どらちゃんもそう思う?いつがいい?」
「ご勝手にどうぞ」
「この日でいっかー」
「聞けよ」
話が全く通じない時のボーカルくんだ。ハイになってる。収録終わりで疲れてるのはこっちも同じだし、なんならベースくんは生放送のプレッシャーに負けて死んでる。ギターくんは始まる前に食べ損なった弁当の続きを食べていて聞く耳を持たないので、こっちに来たのだろう。タオルをばさばさしながら話しかけられて、涼しいから放っておいた。そのままばさばさしててくれ。テレビだと脱げないし照明は暑いし、今は誰も来ないから服という服を緩めているけれど、帰る時にはまた着ろって言われるんだから。
「四人で予約してたとこ五人にしてさあ」
「本人に聞いたの?」
「えっ?」
「本人に来れるかどうか聞いたのかよ」
「……えっ?来れないってことある?」
「あるだろ……」
「そう……そうかな……でも焼肉だし……焼肉だよ?」
「そうだよ」
「来るんじゃん?」
「オフの日にまで呼び立てて嫌がられないといいな」
「えー……」
鎮火した。タオルのばさばさがなくなったので風が来なくなってしまったのが唯一の不満だ。しょんぼりしながら斜め前にあった椅子の上に小さくなってしまった。それからちょっとしたら、ごちそうさまでした!と元気に挨拶したギターくんが、食べてエネルギーチャージされたからか、ずかずかこっちに近づいてきて勢いよく座るので、体が斜めになった。ふかふかのソファーがあったから一番に取ったのに、無理矢理隙間に挟まってくるのはやめてもらいたい。鼻にぶつかる勢いでスマホを向けられて、目がちかちかした。
「りっちゃん見て。かっこいかったって」
「当たり前のことをわざわざ言うな」
「違う。りっちゃんじゃない。俺の話」
「は?お前よりも俺の方がどこからどう見てもかっこいいだろ、おい聞け、こら、こっち見ろ目ぇイかれてんのかオラ」
「そんな必死なる?」
「こんなぼけぼけした、頭もぼさぼさだし服もくしゃくしゃのふにゃっとした野郎にだけは負けたくない」
「めちゃくちゃ言うじゃん……どらちゃんぎたちゃんのことそう思ってたの?」
「基本そう」
「ほら。ギターソロかっこいい。抜いてくれたカメラマンさん良い仕事。これが世間の声です」
「寄越せ」
「充電ないんだから自分ので調べてよお」
「なんでお前毎回充電ないんだよ」
ギターくんは最近エゴサーチにはまっているらしい。デビューしたてもよくやっていたがいつのまにかやらなくなったので、どうせ一週間もしたら飽きると思うが、悪い意見は自動的に無かったことに出来る都合のいい目は羨ましいなと思う。落ち込みやしなくても腹は立つだろ。
そんなようなことをやいのやいの言ってたら、マネージャーが来た。開口一番でまず服を着てくださいと言われたので無視した。
「今駐車場混んでるらしいので、もう少ししたら出ます。準備しておいてくださいね」
「お弁当持って帰ってもいい?」
「どうぞ」
「やったー。はいべーやん」
「う、ありがと……」
「どらちゃんも持って帰るでしょ」
「魚だからいらない」
「もー。わがまま言って」
「じゃあ魚だけ今俺が食べてあげる」
「ギターくんの食いかけはもっといらないんですけど」
「この充電器だれの?」
「あっ俺、俺です、ごめんなさい……」
「うん。あれ?じゃあ俺のどこ行った?」
「……同じのだっけ……」
「多分。でもそれべーやんのなんでしょ」
「ち、違うかもしんない、もしかしたら、これボーカルくんのかも」
「やー、十中八九べーやんのと思う。俺のはきっと俺が適当なところに置いて忘れてるだけだから」
「でも、あの、とりあえずこれ持ってて、ボーカルくん」
「じゃあ間違えないようにこれはべーやんのとして名前書いとこ!よし」
「あっ、あの、うん……」
「本名書いてやれよ」
「分かんないもん。べーやんって書いてあれば分かる」
「もう出ますよ」
「はあい」
「なんか出てきたー」
「ボーカルくん、ギターくんのポケットからコード出てきた」
「なんで!?」
「わかんない。はい」
「ありがとー……これ何のコード……?」
「充電器じゃないの」
「違う……」
「あの。もう出ますよ」
「分かった分かった」
「分かってない」
「うわ、やめろ、やめっ、わっ、わかった自分で着る!」
「そうしてください」
「あはははは!」
出発を無視していたら、服を頭から無理やり被せられたので、すごく抵抗した。めちゃくちゃ笑われたが、そんな乱暴なやり方あるかよ。暴れているのをものともせずにぐいぐい着せられて、ようやく頭を出したら胡乱げな目で見られていた。なんでそんな顔されなきゃならない。被害者はこっちだろうが。頭ぼさぼさになったし。
「これから先子ども扱いされたくなかったら自分で服くらい着なさい」
「口で言えよ……」
「言いました」
「……………」
確かに言ってた。無視したのは自分だった。無駄に抵抗したこっちが一人でぜえぜえしていてマネージャーがすんとしているのも気に食わないので、取り敢えず嫌がらせに真後ろをついて歩いておいた。片付けと出発の支度をしながら歩き回っているのを手伝いもせずにいたら、思いきり嫌そうな顔で見上げられたので、満足した。そしたらボーカルくんがちょろちょろ寄ってきて、充電器なくなっちゃった!だそうだ。もっとよく探してほしい。
「ねえねえねえ」
「はい」
「今度のオフの日の夜みんなで焼肉行くの。マネージャーさんも来る?」
「なぜ」
「な……なぜ……!?」
「いえ。行けたら行きますね」
「うん……」

数日後。
「絶対来ない」
「来るもん……」
「行けたら行くっつって本当に行くことある?ベースくん」
「えっ、え、う、あの、ない、あんまりないかも、しれない……」
「善処しますは要するにノーなんだから、来るわけないって」
「マネージャーさん来るもん!」
「トトロいるもんね」
「おねえちゃんのバカあ!」
「顔が汚い」
「んはは」
丁寧に真似してくれたところ悪いが、あまりしっかり見た記憶がないので似てるかどうかが分からない。ギターくんはウケてるので恐らく近いのだろうけれど。
焼肉。半個室みたいなところなのは、ボーカルくんの声のでかさを考慮した上である。俺の隣がベースくんで、前にボーカルくん、斜めにギターくんがいる。オフの日にわざわざ集まっている、というところだけ抜き出すととても仲が良いようだが、実際の流れを噛み砕くと、前々から焼肉が食べたいと言っていたもののタイミングが合わなかったり良い店がなかったりしたから、楽しみにする時間の長さによって肥大した焼肉食べたさが怒りに変換された結果、イライラベースで予約を入れた日がちょうどオフの日に被ってしまっただけである。なので、日取りは必然ではない。食べたかっただけあっておいしい。
だらだらと喋りながら食べたり飲んだりしているが、ボーカルくんは今日マネージャーを誘ったことをまだしつこく言っている。来ないと思うんだけどな。しばらくすると話題もずれて、自分の前にある肉を延々突つき始めた。もう焼けてるから早く食べたらいいと思う。
「これ俺が育ててる肉だから食べないでね」
「もうだいぶ焼けてるだろそれ」
「まだ!」
「炭狙いなの?」
「もうちょっとだけカリカリにしたい」
「忘れて炭にするに一票」
「俺も」
「ちょ、うるさい黙って。食べ頃を逃す」
「過ぎてんだよ」
「ベースくんも食べなよ。トング貸して、代わったげる」
「えっ、い、いいよ、ギターくんまだ、お腹いっぱいじゃないでしょ……」
「こいつの腹一杯を待ってたら人類が飢餓で絶滅する」
「俺だってお腹いっぱいになる時ぐらいあるよお」
「ギターくんは半生なのに焼けたって言いそうだからやらせたくない。寄越せ」
「信用なくない?」
「ねえ聞いて。焦げた」
「だから言っただろうが」
「今度からどらちゃんの言うこともうちょっと信じる……」
話に参加しないで肉だけ見つめてたのに最終的に失敗するのやめてほしい。カリカリだけど焦げた味がする…としょぼしょぼした顔のボーカルくんが肉を齧っている。ギターくんからトングは奪ったので、生焼けの肉を食べる心配はなくなった。ご飯をお代わりするか冷麺にするか石焼ビビンバにするか、とギターくんがメニューを見ながら選んでいるので、さっきまでお茶碗にしっかり入ってたはずの白米は全部消え失せたのだなと思った。よくそんな食えるな。
「あ、ベースくんさっきビビンバ食べたがってた。半分こする?」
「えっ、いっ、いいよ、申し訳ないし、ギターくん食べる分減っちゃうし……」
「肉食べにきてるから米の量減ってもいいでしょ別に」
「そ……そう……?」
「どういう理論だよ……」
「俺もビビンバ食べたい」
「じゃあさんぶんこだね」
「どらちゃんも食べる?」
「いらない」
「食べるって!よんぶんこにしよ」
「いらないっつったんだけど」
「ちゃんと冷ましてあげるから」
「あっちくなければ食べれるでしょ」
「熱いからいらないわけじゃない」
「好き嫌いしないの!大きくなれませんよ」
「もう充分大きいんですけど」
まあ食べずに置いておいても、最終的に机の上に残ってればギターくんか誰かが、誰も食べないなら食べちゃうぞ〜っつって綺麗にしてくれるだろう。ロボット掃除機みたいなものだ。
それからしばらくして、顔が赤くなりだしたボーカルくんが、あんねえ、と伸びた声でこっちを指さした。机に肘をついているが、若干溶けてる。ボーカルくんがこうなるとストッパーがいなくなって、ベースくんの導火線に火がついて最終的に爆発してその辺で死ぬことがほとんどなので、その面倒を回避したかったらこっちでベースくんの酒量を管理するしかない。本当なら自分でどうにかしてほしいのだが。いい大人が。
「こないだ仲良くなったの。三つ下のモデルさんと」
「おめでとう」
「彼女?」
「ぎたちゃんすぐ彼女って言う!彼女ができたら俺はもっとみんなに言いふらすし写真も見せるしもっと幸せな気持ちで毎日を過ごせる」
「幸福の基準を女で計るなよ……」
「彼女じゃない女の子にぶん殴られるりっちゃんに言えたことじゃなくない?」
「俺は別に彼女が欲しいわけじゃない。欲しくなくてもできるし」
「この世界が法に守られてなかったら、俺は今すぐにどらちゃんを焼肉にして食べる」
「この後お肉食べにくくなるからやめてよお」
「俺は美味くない」
「タレをたくさんつけて食べる……」
「モデルさんの話して」
「うん。仲良くなったの。足が超長いし可愛いし優しい」
「よかったね」
「俺ももう普通に好きになっちゃったから遊びに行ったり連絡取る度にちゃんと押して押して押しまくったりして」
「引けよ。相撲か?」
「でもちやほやされんの基本嬉しくない?」
「相手による」
「そんで先週夜ご飯食べに行った時に人呼びたいって言うから良いよって心が広い男っぷりを見せつけたら彼氏が来たからトイレで食ったもん全部吐いて死んだ」
「あっは!はははもっかい、最初から話して全部、あはははは」
「りっちゃん今日一楽しそうなのここでいいの?」
「いいよ」
「三つ下のモデルさんと仲良くなったんだけどお」
めちゃくちゃ笑ったし、もう一回ちゃんと最初から最後まで話してもらってしっかり二回目も腹抱えて泣くほど笑った。ギターくんに呆れ顔を向けられたが、ベースくんは笑いかけて誤魔化していたので同罪だと思う。波がようやく落ち着いた頃、真顔のボーカルくんにも「同情されると傷つくけどここまで笑ってもらえると逆に助からない?」と指をさされた。なによりだよ。
「はー。大好きになっちゃった」
「りっちゃんは最初からずっとボーカルくんのこと大好きでしょ」
「違う。ボーカルくんが貶められてる話が大好きなだけで本人はそんなでもない」
「俺の体目当てってこと?」
「大きく分けたらそう」
「ふしだら……」
「彼女に立候補したい。愛してる」
「げええ、やだやだ無理どらちゃんみたいな彼女はいらない」
「意外と可愛い顔してるだろ。ほら」
「やだーっ!性格歪んでて自宅の冷蔵庫に死体隠してそうな彼女はやだよー!」
「あー、冷蔵庫に死体はちょっとわかる」
「でしょお!?」
「分かるなよ」
「あとでっかいし……」
「脱いであげるから」
「どらちゃん自分が脱ぎたいだけじゃん!ねえいい脱がなくていいってばベルト取らなくていい!」
「ちゃんと見ろ」
「もう何回も見たことあるよお」
「俺最初、どらちゃんの下半身に自信あるって普通にそのまんまの意味だと思ってこいつ言いよるわと思ってたんだけどね」
「は?」
「ふは。意味深のやつ」
「そう。でも素直にケツから脚にかけてが綺麗だから見て欲しいだけなんだって分かった時ちょっとほっこりした」
「そのまんまってなんだよ。言葉通りだろ」
「そうなんだけどさあ……」
「てゆかりっちゃんのその自信どこからなの?誰が言ったの、それ」
「誰って……」
「……えっ自己評価なの?」
「そうやって言って、そうでもないって返されたことがない」
「まあそりゃ、筋肉ちゃんと付いてるし羨ましいけど……」
「ねえりっちゃん暑いの?」
「暑い。なんでもいいから脱ぎたい」
「アイスあるよ。食べる?」
「うん」
「そしたらどらちゃん脱がないの?もうずっとアイス食べててよ」
「お腹痛くなるだろ」
「そっかあ……ん?」
一応仕切りになってる衝立の向こうから、頭が覗いた。らしくもない笑顔に、誰だよ、と一瞬思ったが、マネージャーだった。誰かと電話でもしてたんだろうか。
「あー!マネージャーさん!」
「遅れてすみません。声が筒抜けだったので分かりやすかったです」
「ほらね!俺来るっつったじゃん!ほらあ!」
「うるさい。揺するな吐く」
「あちい!どらちゃん!」
「今なんで俺怒られたの?」
「ボーカルくんが網の上に手ぇ伸ばしてりっちゃんのこと揺さぶったから火で熱くて怒った」
「それ俺のせいなの?」
「連絡したんですけど、返事がなかったので店まで来て正解でしたね」
「え?連絡?」
「俺来てない。ベースくん?」
「えっ、う、ううん……ドラムくんじゃ……」
「来てない」
「我妻さんがお店の場所を送ってくれたので、今から行きますと返事をしました」
「えっ?あれ!?俺のスマホは!?」
「知らん」
「いつまであったのお?」
「分かんない!誰か隠してるでしょ!?」
「なんでそんなことしなきゃならないんだ」
「鳴らしたげよっか」
「ギャー尻が突然震えた!あった!」
「ボーカルくん、もうちょっと丁寧に生きないとマジでいつか取り返しのつかないことになると思う」
「俺も日々そう思う」
「……座敷なんですね?」
「そう。椅子増やすより良くない?」
「……どこに……」
「こっち荷物置いてあるからそっちのが空いてるよ」
「あっ、空けます」
「はあ」
「狭い」
「もっとそっち行ってください」
「無理」
「行けるでしょ。宮本さんは限界まで詰めてくれてますよ」
「痛い」
「狭そう」
「きつそう」
そう思うならそっちにマネージャーを入れて欲しい。ギターくんとボーカルくんからそれぞれ指をさして言われたが、不満が残った。休みなのにスーツなのか、と思っていたら、休みの日はさすがにスーツ着ないんですね、とこっちを見ながら言われたので、同じ内容の逆を張ってくるなよ、と内心で思った。焼肉だと分かっていてわざわざ着ては来ないかな。
「マネージャーさんお休みじゃなかったの?」
「所用で事務所に。休みですよ」
「ワーカーホリックだ」
「えー、休みの日は休んだほうがいいよ。休みだもん」
「今日お休みなんだから俺らにも仕事として接しないで」
「はあ」
「タメ口きいて」
「それはちょっと」
そういう切り替え得意じゃないんで、とばっさり断られたボーカルくんが残念そうな顔のままメニューを手渡した。それを受け取ったマネージャーがざっと目を通して、生追加で、と店員に声をかけた。酒を飲んでるところなんて、当たり前だが見たことがない。仕事の付き合いしかなかったから。
「マネージャーさんお酒飲めるの?」
「普通です」
「俺はいっぱい飲める」
「ぎたちゃんにつられると記憶飛ぶからマジで気をつけて」
「宮本さんは今日は酔っぱらわないんですね」
「えっ……あ、ボーカルくんと、2杯までにするって約束して……」
「そう。べーやんは2杯までにする、俺はお腹いっぱいお肉を食べる、って約束を交わしたの」
「重みが違すぎませんか?」
「でもべーやんはそれでいいって」
「や、あの、約束しないと、ていうか、した方が我慢しやすいから、です」
「なるほど。約束が守れてえらいですね」
「う、は、はいっ」
「もうお母さんじゃん」
「こんな大きい子どもはいりません」
「子どもいたっけ?」
「妻帯者に見えます?」
「うん」
「眼科に行きましょうね」
優しく言われているが、目が憐んでいる。ボーカルくんがバカもとい無邪気な顔をしているからそう感じないだけだ。マネージャーには妻も子どももいないし、家庭があったらギリギリ不可能なタイプの働き方をしている。相当心の広い相手か、旦那のことを金稼ぎの歯車としか見ていない妻でないと無理。店員が持ってきたジョッキを受け取ったマネージャーが軽くそれを上げて、まあ、と言葉を切った。
「僕のことなんて興味ないでしょう。別に面白くもないし」
「おもしろいよ!」
「……若干腹立たしいので面白がらないでもらえますか?」
「マネージャーさんのこと聞きたくて呼んだんだよ。ねっ」
「ねー」
「……何も面白くありませんよ……」
「ほらあ、例えばさあ。あのー、例えばね」
ボーカルくんが指をぐるぐる回しながら、例えばほら、あの、を永遠に繰り返している。引き出しすっからかんじゃん。なんも出てこない。何かしらかを聞かれると思って身構えていたマネージャーが、ボーカルくんの「例えば」が重なる度に少しずつ訝しげな顔になり、疑問符を浮かべたまま緊張が解けていくのがよく見て取れた。なんでもいいからなんかあるだろ。もうそこまで行ったら興味ないのと同義だ。もしゃもしゃ葉っぱを食べていたギターくんが、ぺろんと挙手した。
「はあい。どこの人ですか」
「……出身ですか?西です」
「西ってどっち?」
「この人たち相手に大まかな表現が通じると思ったら大間違いですよ」
「……そうですね。京都です」
「かっこいい……」
「や、子どもの頃に引っ越してるので……かっこいい?」
「関西弁でしょ?」
「あまり出ませんけど。親は訛るのでそれにつられる程度で」
「いいなーあ、俺方言憧れなんだよね」
「使えばいいじゃん」
「突然なんの縁もない土地の言葉喋れるわけないだろ!バカなんだから」
「自分で言う……」
「べーやんがなまるじゃん。時々」
「えっ」
「あっ、めっちゃ時々。稀にね」
「えっ……お……俺なまっ……普通に喋ってたつもりなんだけど……」
「前後不覚になった時に九割の確率で母国語で捲し立てて騒いでから寝てる。いつも割と」
「嘘……」
「記憶ないのやばいだろ」
「いいなーって。俺もなまりたいー」
「ボーカルくんの地元方言ないの?」
「わからん。だって千葉って大して離れてなくない?」
「それはそう」
「でもばあちゃんは時々何言ってっか分かんない時ある。それはばあちゃんだけかもしれんけど」
「ボーカルくんもなに言ってるか分かんない時あるよ」
「方言?」
「ううん」
マネージャーの話からはずれたが、いいんだろうか。じゃあなに?と首を傾げていたボーカルくんが、ゆうやけくんは時々関西弁のイントネーションで喋るけどそれがかっこいくて羨ましい、と言っている。誰だ。ひと段落してしまった網で一人、肉を焼いては食べていたマネージャーが、はたと気付いたように言った。
「今日ってオフだったじゃないですか。皆さん何してたんですか?」
「家にいた。疲れてたから」
「……俺もです……あっ、猫のもの買いに行ったくらい……」
「俺ゆうやけくんとこやけくんち行ってゲームしてた」
「だから誰だよ」
「ゆうやけくんだよお。えっとね」
「横峯さんは?何してたんですか」
「なにて……起きたら昼だった」
「いつもそうだろ」
「コンビニ行ってー、ご飯食べてー、洗濯畳んでー」
「ゆうやけくん!これ!この足はこやけくん」
「ああ。お笑い芸人の……道端さんでしたっけ、仲良いんでしたね」
「友達!」
「犬の散歩した」
「お前犬飼ってんの?」
「ううん」
「は?」
「なんもしてないって言うと、なんもしてないのかよ!って言われるから嘘ついた」
「その嘘何の意味があるんだよ……」
「りっちゃんに妹がたくさんいるのとおんなじじゃん」
「俺の妹は嘘じゃない」
「そうだっけ」
「人の家族を幻にするな。15人近くいるんだぞ」
「じゅ……12人って……前……えっ……?」
「間違えた。3人は妹みたいなもんだから。うっかり」
「……?」
ギターくんは変なタイミングで変なことを思い出すので困る。それを聞いたベースくんが真実に気づきかけるし。どうでもいい嘘なんだからほっといてくれ。
レトロゲームの話で盛り上がっているマネージャーとボーカルくんを放っておいたら、いつのまにかマネージャーがくたくたになってた。ボーカルくんは飲ませるタイプではないので、勝手に飲んだのだろう。普通って言ってたし、今時タッチパネルでいくらでも頼めるから、誰が何を注文したかまで知らない。
「潰すなや。めんどくさい」
「別に飲ましてないもーん」
「ギターくん」
「俺だって違いますう」
「……………」
「えっ、おれ、俺何にも……」
気づいたら俺に寄りかかるようにしてぐったりしていたので、順繰りに指差したのだが、全員自分の非を認めようとしなかった。本人の認識と実際飲める量が違うタイプなんだろうか…と思いながら、もたれかかられているのは邪魔なのでどうにか退かそうとしていると、のろのろと自分で体を起こした。なんだ、意識あるのか。
「俺にもたれないでください。重い」
「……………」
「あ、マネージャーさん吐く?」
「絶対にやめろ」
「……………」
ぼおっとしていたマネージャーが、ばしばしと俺を叩き始めたので、吐くなら頼むからどこか別のところでやってくれとベースくんの方に押した。服がゲロまみれになるのはもうマジで勘弁なので。ベースくんに一旦もたれかかったものの、3分ぐらいでこっちに戻ってきた。びくびくしながらどう扱っていいものか分からずにいたベースくんがふにゃふにゃしていて座りが悪かったらしい。ので、ベースくんを睨んでおいた。引き取れや。ボーカルくんとギターくんがなにやらくだらない話をがやがや喋っていたので、マネージャーが小さな声でぼそぼそと言い出したのを、最初は聞き逃した。
「……メジャーに……」
「あ?」
「……うちの事務所に来て最初のシングルあるじゃないですか……」
「なに?聞こえません」
「だからあ!」
「ヒッ」
「うるさい」
「すいません。だからね」
優しい声を出し直しているが、急にがなったのでベースくんが怯え倒している。お前も酔っ払ったら同じようなもんだろうが。大きい声に驚いたらしいギターくんとボーカルくんも、どうしたの?なに?とこっちを向いた。マネージャーは気づいていないらしく、主に俺の方を向いている。できれば俺じゃない相手に話しかけてほしい。ぼそぼそ喋り続けるので、だんだんギターくんとボーカルくんが身を乗り出して近づいてきた。
「俺、僕は、最初そんなに、そりゃ今人気はあるだろうけど、そんなバンドいくらでもあるしなあと思ってたんですよ。一曲だけ有名になるなんてあるあるじゃないですか。なんかのきっかけで火がついて、とか。もちろんかっこいい曲は知ってたし、インディーズ最後のライブ行ったんですよ?人が多すぎて死ぬかと思ったけどでもそれがちょっと自慢っていうかあ……それでマネージャーになって、別に仕事は一生懸命やってましたけど、最初の曲のデモ貰うまでは、正直前から持ってた人達の方に意識がいってたとこもあって」
「なに?最後なんて?」
「俺たちのことは売れないと思っていたって」
「えー」
「でも最初の……あの曲の評価知ってます?みなさんあんまり外のこと気にしないけどあの、あれリリースした時馬鹿みたいに、事務所の電話鳴りまくってたんですよ。あそこで紹介させてくれ、こっちでライブやってくれ、これに出演してくれ、って……俺は、一発目に火がついてよかったなと思ったんです。なんのタイアップもついてないのにここまで話題になって、って」
「……………」
「あ!その顔!わかってますよ!?そもそも秋さんが土台作ってたこととか人気がそもそもあったこととか!でも、わかってることと現実は別でしょお!?なんでわかんないかなあ!」
「近い……」
「最初に曲を聴いた時に、胸倉掴まれたみたくなって……自分は思い上がってたんだなって、やっぱかっこいいなあって、別にかっこいいだけじゃないんですよ?テクニック的な話もそりゃ、でもそんなの気にしながら最初聞かないじゃないですか。だからただ、こっちを見ろって引き戻された気になって、すごく申し訳なかったのもあって」
「近い。離れてほしい」
「そんなの分かんなかったから気にしなくていいよお」
「マネージャーが来てくれただけでもありがたかったしね」
「ねー。あっつい。ぎたちゃん網切って」
「うん」
「そこまでするなら代われよ」
「どらちゃんが一番大きいから」
「は?」
「聞いてますかあ!?」
「はいはい」
「それで、昔の曲も聞いたことあったから思ったんですけど、あっ別に聞き比べたわけじゃないですよ?ただ思っただけですけど、別にすごい毎晩聞いてるとかそういうわけじゃなくて仕事柄なんでそこは分かっといてほしいんですけど、それまでと全然違うなと思ったんですよ。いや全然っていうとなんか……こっちを見ろ、の内訳に、今までやらなかった表現をここで全部満を辞して入れてきたっていうのがあって、でもそれは誰に言ってるわけでもなくて。んんと、秋さんが大まかに作って横峯さんがギター弄ってって、皆さんで細かく変えていくじゃないですか。その中できっと、今までもやろうとしたらできたことを、わざと避けて通って、とっておきにしておいたのかなって気づいた時に、なんて人たちなんだろうなって」
「長くて飽きた」
「どらちゃん黙って!?」
「普通我慢できます?出来ませんよね。かっこいいのが分かってたら、早くやりたいじゃないですか。でもきっと皆さんは、自分たちならもっといろんな人に歌を届けられることを分かっていて、それで一番声が大きくなるであろう瞬間にあの曲をとっておいたんだろうなって、俺はそう受け取ったんです。だから、他の仕事は基本的に他の人に引き継いで、専念させてもらうことにしたんです。俺もちゃんと全力でお手伝いしたくて、みなさんのいいところを、かっこいいところも頑張ってるところも、いろんな人に伝えたくって、あとおもしろいところも見て欲しくて……」
「一番最後のが十割ですよね?」
「……断らない方も悪くありません?」
「は?」
「なんでいい感じだったのに一瞬でギスギスするの!もう!」
アルコールが回って支離滅裂かつ、基本早口でボソボソ喋ってるので、大変聞き取りにくい。人に聞かせるつもりで話してないと思う。そんなだから3人とも寄ってくるし、マネージャーは離れてくれないし。なんなんだ。
しかし、もっと興味がないと思っていた。ビジネスライクな関わりというか、仕事として割り切ってこっちのことを見ているのかと。だからトンチキな企画も通して持ってくるのだろうと思っていたのだが、予想よりもしっかり曲自体を追いかけられている。職業柄の目もあるが、次のボソボソが「知ってますう?サビ前のギターはちゃめちゃかっこいいんですよお?」だったので、まさかこいつ普通に好きなのか?と思った。知ってます?じゃない。知ってる。誰に話してると思ってるんだ。ギターくんは傍目から見て全く分からないが照れているらしい。自己申告なので信用ならない。
「たとえっ、例えばですけどお。……」
「死んだ」
「寝ちゃった?」
「……起きてます……」
「寝た方がいんじゃない」
「解散しよっか」
「嫌です!」
「いってっ」
ふにゃふにゃのマネージャーが急に俺の襟首を引っ張ったので、これで病院沙汰になったら労災は降りるのだろうか…と思った。その手を振り払いがてらどうにかして離れてくれないかとしばらく抵抗してみたが、無理だった。どうして酔っ払いはこういうところでしつこいんだろうか。嫌なの?マネージャーさんかわい〜、と頬杖をついているボーカルくんもそうだし、その他にも思い当たる節がある。人のことをなんだと思っているんだ。
「たとえばあ、あの、Aさんという人がいて」
「その話長い?」
「どらちゃん静かにして!マネージャーさんがこんな楽しそうなことないよ!」
「いやとりあえず離れてほしいだけなんだけど……」
「Aさんは、Bくんのことが好きなんですよ。Bくんもどうやら好きな人がいるらしくて、それはAさんの知ってる人だって教えてくれて、AさんとBくんは仲良しだから、自分のことかなって期待してるわけですよ」
「実録?」
「マネージャーさんの恋バナ?」
「でもBくんの好きな人として他の人が噂してるのはCさんなんですよ。みなさんがAさんだとしたらどうします?」
「えー……せつなあい……」
「俺は男だから男のことは好きにならない」
「Aさんは女の子です」
「痛っ、さっきからお前握力強いなクソ……」
「えー俺、俺がAさんだったら直接聞く。俺のこと好きなんじゃないの?違うの?って。違うならダメかーってなる」
「我妻さんはそうですよね。正解です」
「なにの?」
「横峯さんは?」
「わかんない」
「わかんない無しです。ちゃんと考えなさい」
「はあい」
「宮本さんは?」
「えっ、えっ、と、俺は、その、俺がAさんだったら、俺のこと好きになってくれるわけないから、あきっ、諦めます……」
「正解ですよ。宮本さん」
「だからなにの?」
「秋さんは?」
「俺の方が可愛い。あと足も綺麗。だからBは俺のこと好きだと思うし、俺のこと好きなんだろ?って聞いたらいいと思う」
「ほら。そういうとこですよ。大正解です」
「ぎたちゃんなんか思いついた?」
「うーん……聞かなければ、てゆかなんにも言わなければ、友達同士のままなんでしょ?じゃあそれでいくない?」
「拍手してもいいですか?」
「なんで?」
「そうなんですよ。そういうことなんですよ。正解です。百点」
「イエーイ。百点もらった」
「なんで俺たちには百点くれなかったの!」
「みんな百点ですよ。個々のキャラクターとしての正解です。それを即答できるところが皆さんの魅力なんですよ。意味わかります?」
「わかんない」
「わかんない」
「離してください」
「普通はみんな、自分の意見ってある程度揺らぐものじゃないですか。その時々に合わせたりとか、場所とか相手によったりとか。でも皆さんってそれがありませんよね。最初の印象と変わることはあっても、一人一人のパーソナリティーが変わらない。人から言い当てられるくらいに孤立していて揺らがない。見てて安心しますし、それを目当てに動画を追ってくるファンもいます。もちろん演奏や楽曲を好いている人はたくさんいますし、一時期はそういう人たちから日常的な動画はあまり好まれませんでしたよ。けど、僕らがそっちのプロデュースもやめなかったのは、そういうゆるい面も含めて、ふざけてるところも楽しそうなところも全部丸ごと、あなた達なんだと知って欲しかったからなんです。個別のキャラクターが立っていて個性が強い、なのに四人でいると調和して上手くいく。不思議ですよね。不思議だと思ったことありません?」
「……ある!」
「ボーカルくん半分ぐらい聞いてなかったろ」
「でも別に、そんな昔から仲良しじゃないしさあ」
「それはそう。昔のこととか知らんしね」
「喧嘩もするし」
「はあー?あんたたちの喧嘩なんか全然喧嘩じゃありませんからね!?」
「痛い痛い!腕固めんな!」
「喧嘩っていうのはこうやってやるんですよ!」
これは一方的な暴力であって喧嘩ではない。マネージャーに、忘れてても後で言うからな、アルコールのせいにできると思うな、とぼそぼそ文句を言っていたら、あっけらかんと返された。
「俺記憶なくならないんで。全部覚えてるんで大丈夫ですよ」
「……何が大丈夫?」
「後でちゃんと全部恥ずかしくなるタイプです。安心してくださいね」
「何に?」



次の日。ちゃんと恥ずかしくなっているらしいマネージャーが、大変無愛想に「…はよざいます…」と言ってきたので、指さして笑った。



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