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みじかいの



「先輩って凹むこととかあるんですか……」
「は?あるし」
「ないでしょ……」
「あるっつってんだろ!散切りにするぞ」
「やめてくださあい」
じゃきじゃき!とハサミで音を立てられて、頭を抱えた。ていうかなんでもうハサミ持ってるんですか。怖い。こないだ一回マジで髪を束にして切られたから、本当に怖い。それでめそめそしてるとまた蹴っ飛ばされるんだ、ひどい。
ツアーのグッズが「なんか前の方がかっこよかった」とネットで言われているので、関わった身としては若干しょぼくれていたら、「邪魔」「でかい」と先輩にぼこすかにされたのだ。ヒノキさんは気にしてくれないし。別に気を引きたくてしょんぼりしてるわけじゃないけど、多少気にかけてくれたっていいじゃないかと思うのだ。ハサミでじゃきじゃきするよりもやることあるでしょ。
「うう」
「顔も知らない奴のこと気にするだけバカ」
「……だってえ……」
「飯食い行く」
「行きます」
「呼んでない」
「パスタ食べたいです」
「聞いてる?呼んでない」

「お前あの髪が長くて胸がでかいお姉さんと連絡とったの」
「とってないですけど」
「もったいね」
「俺被害者ですよね?」
「2本目に甘んじれば良いだろ」
「言い方……」
「3本目かもな」
「言い方!」
「垂れ目でロングヘアでなんでも許してくれて優しくて男囲ってる夢みたいなお姉さんなんだから仕方ないだろ」
どうなるかヨミくんと賭けてたのに…とピザを食べながらぶつくさ言われた。なんで人のそんなことで賭けするんですか。いじわる。読谷さんも読谷さんだ。嫌い。
先輩は優しいので、ついてこなくていいとか家で掃除してろとか言いながらも、ファミレスに入った。パスタ食べたいって俺が言ったから。だってここに来るまでの道のりにいろいろご飯屋さんあったもん、なのにここにしたってことは先輩なりに俺のことを気遣ってくれているのだろう。プラス思考、大事。
「からあげ一個欲しいです」
「嫌でーす。バカ」
「ケチ!そんなこと言うならたらこスパゲッティあげませんからね」
「それはもらう」
「横暴……」
「お皿くださいって言う」
店員さんに取り分け用のお皿をお願いした先輩が、数分後に持ってこられた明らかに子ども向けのうさちゃんとハートとリボンがいっぱいプリントされたプラスチックのお皿を見て無言になった。あの人には先輩のことが女児に見えているんだろうか。しばらく呆然としていた先輩が、まあ食べられないわけじゃないしな…とフォークを持った。
「明日俺前髪切るからお前パーマかけて」
「なんで……?」
「かけてみたい。ふわふわ頭になってみたい」
「自分でやったら良いじゃないですか」
「誰かで試さないと、イメージと違ったら嫌だろ」
「俺突然ふわふわ頭になりたくないです」
「俺だって似合わなかったら困る」
「またヒノキさんとかにやってもらったら良いんじゃないですか?」
「長さが足りないだろ」
「ああ……」
現実的な理由だった。もっとなんか、ヒノキになんか似合わないだろプークスクス、とか言う感じかと思ったのに。髪の色も変えたい…とスマホをいじりながら考えているらしい先輩が、ぱっとこっちを見た。
「甘いもん食べたい」
「メニューいります?」
「うん。欲を言うならドーナツが食べたい」
「ど……ないですね……」
「知っとるわバカ」
これにしよー、といちごのパフェを頼んだ先輩が、三口ぐらい食べたところで「もういらん」と俺に押しやってきた。先輩あんまりフルーツ系好きじゃないじゃないですか。なんで頼んだんだ。俺は好きだからいいけど。おいしい。
「こっちにしたらよかった。パンケーキ」
「先輩そんなたくさん食べれないじゃないですか」
「もうお腹いっぱい」
「でしょ」
「でも食べたい。甘いものがとにかく食べたい」
「……飲み物じゃダメなんですか?」
「お前ケーキ味のケーキとケーキ味のジュースあったらケーキ味のジュース飲むの?」
「それは話が違くありません?」
「半分こしよ」
「えー、俺まだいちごパフェ残ってる……」
「ハートして」
「ハート?」
「指で」
「こうですか?」
「うん」
かしゃ、とシャッター音がした。なんだろ。普通にハートしただけなんだけど。首を傾げたら、先輩が一つ頷いた。
「SNSにのせる」
「えっ!?やめてください!」
「日常風景も見たいですとの声があった。今」
「やめて!」
「もうアップした」
勝手に撮った写真を勝手にアップしないでほしい。もうちょっとこう、髪とか服とか、あと表情とか、あるじゃないか。先輩はいつでも自信たっぷりだからそういうのないかもしんないけど、あとヒノキさんは逆に無頓着だからないかもしんないけど、俺はある。騒いだけど、もう取り消せないだろ、と呆れられたきり見捨てられたので、自分で検索した。うわもう拡散されてる!
「髪の毛ボサボサ!」
「いつもだろ」
「嫌です!服もほぼ部屋着だし!」
「今日珍しくヨレヨレしてんなとは思った」
「先輩のばかあ!」

「お前もういいの」
「え?なにがですか?」
「……ナナセは単純でいいな」
「ええ?」


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