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みじかいの



「お」
「……うーんー……」
「眠いの」
「……ちょっとだけ……」
横峯くんの肩に町田くんがもたれかかってぐんにゃりしている。されるがまま肩を貸している横峯くんに、疲れちゃったの?と聞かれた町田くんが、忙しいんだもん、お休み欲しい、とぼやいている。町田くんの「忙しい」とかマジで忙しいんだろうな。俺の思う忙しさを五倍ぐらい濃縮還元した感じだろう。映画かな。ドラマかも。今回のパンより米派会は、星川くんは新曲製作中なので不参加、育くんと清志郎くんはツアー真っ只中なので同じく不参加、新見くんは某ブランドの新作発表会にモデルとして参加するために海外にいるので不参加、ということで俺と横峯くんと町田くんしかいないのである。これだけ多忙を極めるメンバーが毎回全員集まれるわけないしどちらかというと不参加の理由が理由なので文句なんて出るわけもない。新見くんなんか国外だからね。俺やっぱり自分がここにいる理由まだ分かんないよ。
ふにゃふにゃ喋ってた町田くんに、はっと何かを思い出したらしい横峯くんが、自分のカバンを探り始めた。取り出したのは小さいボトル。からからと音がするから、何か粒状のものが入ってるっぽい。
「元気になるお薬あるよ」
「えー……」
「だいじょぶだよ。合法」
「いいよお……」
「へーきだよ、お金とか取らないよ」
「そうじゃなくてえ……薬頼りになるのは困るって言うか……」
「依存?とかもないよ。安全だよ」
「はい」
「はいどうぞ」
「横峯くんの口ぶりが多分相当やばいです」
「そお?」
「うん。俺も今のは悠がダメだったと思う」
「なにが?」
「全体的に」
おもしろかったからそのままにしたけど、と町田くんが笑っている。笑い事じゃない感じだったけどな。横峯くんに全く自覚と悪気がないのが困る。今の会話だけ切り取られて週刊誌とかに売られたら大変なことになるぞ。
「で?それなんなの?」
「なんだっけ。サプリメント」
「ふーん。疲労回復ってこと?」
「分かんない」
「……誰からもらったの?」
「りっちゃん」
「それほんとに平気な薬なの?」
「スースーするよ。食べる?」
「怖い。いらない」
「フリスクみたいな味するんだよ」
「フリスクじゃないの?それ」
「えー。そんなわけないよ」
町田くんが、騙されてフリスクを持たされているに一票、と挙手したので、二票目を入れておいた。病は気からって言うし。下手なものに手を出されるよりは、人体に有毒ではないものを持たせておいた方がマシな気がする。横峯くんはただでさえぼんやりしてるから。そんなわけないよー、と本人は笑っているが、町田くんと俺は確信した。横峯くんから見せてもらった錠剤がなんか見たことある形だったからである。でもこれでほんとにヤバい系の薬だったら、そういう薬ってラムネを装っていたりするらしいから、すぐ手のひら返して「やっぱりな…」と思うことにする。
「りっちゃんさんに聞いといて。これフリスク?って」
「マチダくん聞けば良いじゃん」
「いいよ?でも俺喋ったことないもん」
「電話したげる。あ、呼ぶ?」
「来てくれるかな」
「分かんない。暇だったら来るかも。それか女の子がいたら来る。ヨシカタくんいないし」
「じゃあ最悪俺が女の子になるよ」
「マチダくん性別変えれんの」
「いざとなれば」
「すげー。やってみて」
「やだよ、今いざとなってないじゃん」
「やってよお」

「あ、もしもし?りっちゃん?」
『何』
「俺にくれたやつってフリスク?」
『元気になる薬?』
「そう」
『なんで?』
「そうかな?ってなったから」
『依存性もないし健康被害もない、金もさしてかかってない。どこでもすぐ寝る人間にとっては元気になる薬だろ』
「言ってよ」
『言うとプラシーボ効果が薄れるだろうが』
「なにて?」
『じゃあな』
「うん。ばいばい」
「なんだって?」
「フリスクだった……」
「ほらね!ほーら!ほんとにヤバい薬だったらどうしようかと思って今俺ハラハラしてた」
「俺も」
「怖かった」
「ね。分かる」
町田くんとしみじみ頷き合った。人が少ない時でよかった。大人数の時だったらまためんどくさくなってた。横峯くんは「まあそれはそれで眠い時使えるからいっか」って言ってる。適当だなあ。


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