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辻家がただだらだらするだけ



「はいチーズ」
「んあ″!」
「……………」
「空ちゃん、変な顔しないで」
「へんなかおしてねーもん!」
「陸ちゃん、もうちょっと笑って」
「……………」
「もっかい行くよ」
はいチーズ。
海は写真を撮られるのがうまい。というか、咄嗟に笑うことができるタイプの子どもだ。俺がことあるごとに写真を撮りまくっていたからかもしれない。だって友梨音が古いデジカメくれたんだもん。それに、航介は写真とか撮らないし。
それに比べて、陸と空は写真を撮られるのが格別に下手である。十年に一度いるかいないかレベルの下手さかもしれない。まず、陸は笑わない。微妙にしか笑わない。笑顔が無い子どもなわけではないし、たしかに感情表現は乏しいけれども、笑わないなんてことは断じて無い。なのにカメラのレンズが向くと話が変わって来てしまうらしく、顔が思いっきり強張る。一応ピースはするものの、すごく位置が下。とかそんな感じ。
対して空。笑顔の域を振り切れて、やべえ顔になる。本人としては満面の笑みのつもりらしいが、歯は剥き出しだし鼻の穴は開いてる。最早モンスターだ。あと変な声が出る。しかも止まらない。写真だっつってんのに手か足のどちらかが動いている。下手したら頭が動いてる。どういうことだよ。どっちも真逆のベクトルで撮られ下手なのだ。
見して見してとじゃれついてくる空にデジカメを向ければ、こわ!と飛び退かれた。いや、写ってるのは君だよ。そっと後ろから覗こうとした陸が、飛び退いた空に跳ね飛ばされて後ろにひっくり返った。慣れっこなのか、うまく受け身をとってころりと転がっている。起き上がるのに時間がかかるのは偏に空がのんびり屋さんなだけなので、大事ではない。
「空、動くとこうなっちゃうんだ」
「おばけじゃん!」
「空ちゃんだよ」
「おばけ!ぎゃあ!」
「ブレてるけどよく見て、空だから」
「こーおすけーえ!さくたろがおばけー!」
「………………」
どたどたと走っていった空が、うるせえ、と一喝されて猫のように首根っこをぶら下げられ、こっちに送り返された。航介も鬼ではないので優しく下ろしてるはずなのだが、びたーん!と床に叩きつけられた空は、おでこを丸く赤くして、うみあそべー!と海の部屋へ飛び込んでいった。なんで叩きつけられた。暴れたからか。航介がせっかくゆっくり下ろしてやってたのに当の空が床が近づいてることに気づかずいきなし暴れたんだ、きっとそうだ。よく怪我をするからと思ったこっちの気持ちに気づかない、配慮のしがいがないやつめ。まあ、本人が怪我慣れしてしまっているところもあるけれど。そして何故こっちに帰ってこないで海の部屋に行った。突然すぎて全然分かんない。頭を打って直前の記憶が飛んだんだろうか。
そんなこんなのばたばたを気にせず、ようやく起き上がって、ぷう、と一息ついた陸が、なんのスイッチが繋がったのか、ぴーす、と指を立てて再びこっちを向いた。撮らせてくれるの。ありがとう。
「……陸ちゃん、笑って」
「……………」
「……わ……わらって……?」
「……………」
だめだこりゃ。固まりきった陸のほっぺたをむいむいとほぐしていると、空が海の部屋からタオルケットを被ってうろうろと出てきて、海がその後から出てきてこっちに来た。空は「ヴオオ」とか言いながら、恐らくはおばけになりきってキッチンの方へ曲がっていったので、多分あと数秒で航介に怒られる。ほら怒鳴った。
「なにしてるの、さくちゃん」
「陸ちゃんがカメラを見ると固まっちゃうからほぐしてる」
「りくちゃん、わらうんだよ。ほら」
にー、と笑った海を見て、にへら、と陸が頬を緩ませる。咄嗟にカメラを構えたものの、シャッターを押した時にはぎゅっとしてしまっていた。惜しい。
「海。見本やって」
「いいよ。いえー」
「いえーい」
「ね。りくちゃん、カメラはこわくないよ」
「……………」
こくこく、と陸がうなずき、デジカメに映った海を見て、下手くそに笑った。まだ固い、けれど、さっきよりはマシかな。
「おい朔太郎!空押さえとけっつったろ!」
「ゔー、おばけだぞー」
「そいつは俺には難しい」
「晩飯が無くなってもいいのか!?」
「それはだめだ」
連れ戻した空の口の横には食べかすが付いていた。お前!つまみ食いしたな!


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