このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

みじかいの




「だからね、俺は淀がいつ誰に騙されてAV堕ちするか不安でならなかったわけ」
「だははははは」
「なんで笑うのお!?」
「ひっ、ひひ、っ死ぬっ、ぶはははは」
泣くほど笑われた。ひどくない?
めーくんは根本的に嫌なやつだが、嫌なやつであることを上手く隠して生活しているので、倫理が死んでいるくせに普通の人間の感性も持ち合わせているのだ。やったね。そんなめーくんと先に知り合ったのは俺で、なんかの流れで淀の話をしたら会ってみたいって言われて、俺も淀に友達ができるのはいいことだと思ったので引き合わせて、っていうのがもう何ヶ月前だろうか。三人でご飯食べたり遊びに行ったりしたことはあったけど、淀とめーくんが二人で出かけたのはつい一週間前が初らしい。「誘っても絶対一発で来ねえ」とはめーくん談だが、確かに淀そういうとこあるからなあ。ストレートに超人見知りするし、あと面倒がりだし、外に出たがらない。それで、俺は淀とめーくんが出かけたのは淀から聞いて知ってたんだけど、淀はともかくとしてめーくん楽しかったのかな?と思って聞いてみたのだ。そしたら飲もうって話になって、今である。
「だってそうでしょ!?めーくんもそう思うでしょ」
「あいつマジで興味ないことなんも知らないもんな」
「でしょお!?俺がどれだけハラハラしながら今まで過ごしてきたか分かる!?」
「あっはははは」
まだ泣くほど笑ってる。共感の笑いなのか俺を馬鹿にしてるのかが分かんないよ。
淀と出かけためーくんは、淀の集客率にビビったらしい。ぽけっと歩いてるとほんと曲がり角ごとに声かけられる勢いで人寄せるもんなあ、淀。スマホの地図を見ながら迷子になってる人に道を聞かれる、前を見ないで走ってる子どもにぶつかられる、目の前にいた人が何か落としたので拾ってあげる、ぐらいはしょっちゃうある。ありすぎて日常風景だ。割とレアなのが、金銭目的で絡まれるやつと、肉体目的で絡まれるやつ。昔はそれも多かったけど、ピアスいっぱい開けてカラコン入れて髪染めて、と淀の見た目が派手になっていくにつれて、当社比で少しは減った。頻度は減った代わりに重度のやつが絡みに来ることが増えたので、一長一短だ。主に言うならストーカーが増えた。
「隣にいるの俺だぜ?なのになんであんな絡まれんだよ。神様かなんかなの?」
「めーくん見た目ヤバいもんね」
「殺すぞ」
「ごめんなさい……」
「面白いから途中でちょっと離れてみたわけ。結構人通り少ない、夜は歓楽街系の道で、日が暮れた頃に」
「なんでそんなコンボ決めるの?」
「何が釣れるかなと思って」
「淀その場離れようとした?」
「俺がここで立って待ってろって言った場所でずっと立ってた」
「もう嫌……俺あの子を育てていく自信ない……」
「ははっ、あー、危機感とか警戒心とかほんっとあいつ無いんだなって。ほら」
めーくんが見せてくれたスマホには、暗い道でぽつんと立っている一人ぼっちの淀が写っていて、かわいそう!と叫んでしまった。完全に置いていかれている人だ。なんか、普通あるじゃん。手持ち無沙汰になったら、スマホいじるとか。そういうの淀ないんだよね。ただぼおっとしている。ので、お前何見てんだよ!と絡まれることもあれば、ねえねえ僕暇なの?と声をかけられることもある。淀が緑のメッシュ入れてたから真似したくなった、という理由で昨日から頭が緑のめーくんが、見慣れないのか長い前髪をちまちま弄りながら話しだした。いつもは上げてるもんね。
「そんで俺しばらくほっといたんだけど、飽きたから買い物したりして」
「なんで淀のこと置いていくの!?」
「ちょっと淀のこと忘れてたから一時間後ぐらいに戻ったんだけど」
「もうちょっと人間扱いしてよ!」
「一時間で戻ったんだからいいだろ。忘れててごめんって連絡したし」
「周りに変な人いなかった?」
「電話の向こうでずっと誰かの声がしててさあ。ウケるからそのままそこにいろっつって見に行ったんだけど」
「怖」
「動画見る?」
「なんで撮ってんの?助けてあげてよ」
困っている顔の淀と、知らないおじさんが二人で並んでいる。二人の後ろから撮っているらしい動画は、充分におじさんの声も聞こえるくらいの近さだった。「はあ…はあ…かわいいね…お小遣いあげるからちょっと一緒におしゃべりしない…?なんにもしないからね…」的な感じでド直球の不審者にめちゃくちゃ言い寄られてるのだが、淀はただ困っているだけで、逃げもしなければ言い返しもしない。手を取られたりすると流石にそっと振り払うのだけれど、だったらそもそもこの場からすぐ逃げろよ。ああ、めーくんが「ここにいろ」っつったから逃げれないのか。うーん。自分をもう少し守ってあげてほしい。会話は拒否ってる代わりに自分が触られるのは仕方ないと思っているのか、べたべた触られてるのにそのままにしてるし。しばらく引きで撮ってた画面が、足音と共に近づいていく。
「こいつやべーなと思って」
「でしょ……?助けてあげてよ……」
「ちゃんと追っ払ったよ」
『どォも〜〜〜』
『ひっ』
「ガラ悪」
「温厚な方だろ」
「おじさんよりも淀の方が怯えちゃってるじゃん」
淀の身体が揺れて肩に手が乗ったので、恐らくは後ろから近づいためーくんが突然肩を組んだんだと思う。そっちの方がびっくりしたらしい淀は、困った顔から嫌そうな顔になった。しばらく無言の攻防が続いて、見えないけどめーくんの表情は想像つく。真顔は真顔で威圧感あるし、ニコニコしててもめーくん胡散臭いんだよな。あとでっかいし、雰囲気が怖いし、顔も怖い。スマホも向けられっぱなしで、このままいられるわけもないおじさんがそそくさと逃げ出したのを見送った淀が、むすっとした顔で振り向いて、動画が終わる。
『明司、お尻触んないで』
『わはは』
「はぁ!?めーくん淀のお尻触ってたの!?」
「うん」
「どこから!?」
「ずっと」
「どこからのずっと!?ねえ!淀びっくりしてなかったってことは慣れちゃってるよねえ!?どういうこと!?」
「なにが?」
「すっとぼけないでよ!不審者よりも危ない人間が俺の隣にいるんですけど!?」
その後淀に確認したけど、不思議そうな顔をされただけだった。嘘でしょ。どこからの何がどう嘘で本当なわけ?



6/13ページ