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みじかいの




「ゆりなにしてるの?」
「ひゃああ、お兄ちゃんあっち行って!」

「傷ついたから慰めて」
「……シュークリーム食べる?」
「食べる」
当也の家に行ったら、玄関を開けてくれた当也がきょとんとしながら手に持ってたシュークリームをくれた。袋とかにも入ってない直持ちだったから、今食べるとこだったとかだと思う。申し訳ないがいただこう。悲しいので。手を洗ってから受け取って、かじりながら当也の後についていく。部屋ではなくキッチンに向かうらしい。
「あのね」
「俺チョコにしよ」
「えっ!?チョコのシュークリームあんの!?なんで俺のは普通のなのさ!」
「普通の開けた後チョコのあるのに気づいて、しょうがないから普通の食べるか…って思ってたとこに朔太郎が来たから普通のをあげた」
「とっとこバカ太郎……」
「それ悪口?」
「半分ちょうだい」
「嫌だ」
「頭カチカチメガネ!」
「頭ゆるふわメガネ」
「わーん!当也のバカ!」
「あっ」
当也の部屋に先に入って立てこもってみたはいいけれど、これでは肝心の話ができないこと、そもそも当也の部屋なので俺が立てこもっても意味がないこと、こうしている間に恐らく当也はチョコのシュークリームを食べ終わっていること、を考えて静かに開けた。なんなの?と心底不思議そうに言われた。ほんとなんなんだろう。今の俺のやつ何の時間だったの?
「あのね。ゆりが俺にどっか行ってって言った」
「嫌われたんじゃない」
「ぉえぇっ……」
「吐かないで」
「……胃……胃へのダメージが……一瞬でものすごい……」
「ばっちい。トイレでやって」
「嫌われたのかなあ!?俺のこともう嫌なのかなあ!?そういう年頃!?お兄ちゃんは不要だと!?」
「声が大きい」
「ゔえええええん」
「俺だったら朔太郎みたいな兄はいらない」
「ぶん殴るぞ!」
「やめてよ……」
なんで急にどっか行けって追い出されたんだと思う?朔太郎が変だってついに気づいたんじゃん?いや俺が変なことなんかゆりだって知ってるよ変わってるお兄ちゃんも好きって言ってくれたもん、絶対好きとは言ってないよね、うんそう好きって言ってくれたらいいなって思いながら話聞いてたから好きって言ってもらった気になってるだけで…とだらだら喋っているうちに、当也がぴっと人差し指を上げたので、黙った。なんだろう。掴めばいいのかな。立てられた人差し指をそっと握れば、違う気持ち悪い、とぶんぶんされた。なんだよ。
「バレンタインでは?」
「ば……バレンタイン……!?」
「秘密にしときたいだけなんじゃない?」
「……ゆりに、俺に内緒の……か、彼氏が……いるということ……!?」
「違う」
「わ″ーっ!」
「痛い。違うってば」
当也の言うことはなんにも聞こえなくなったのでビンタして逃げた。家に帰るわけにもいかなかったので当也の家の近くの神社でちっちゃくなってたんだけど寒くなってきたから当也の家に帰った。自分ちに帰ってまたゆりに「は?なんでいんの?どっか行けっつったじゃん。日本語分かんないの?これだからお兄ちゃんは……はあ……」って言われたら多分その場で膝ついてマジで泣いちゃうと思うから。
「やちよ。ゆりに彼氏がいたら俺はどうしたらいい?」
「えー?ゆりねちゃん彼氏いるのー?かわいい〜」
「かわいくない!ねえ!やちよは一応分類的には女だから聞いてるの!」
「どこからどう見ても超可愛いやっちゃんが教えてあげると、さくちゃんが余計な事をするたびにゆりねちゃんには嫌われていくわ」
「ヒッ」
「夜ご飯何?」
「とーちゃんお皿出して」
「夜ご飯なあに?」
「出してよ」
「出さない。夜ご飯何ってば」
「生姜焼き」
「えー」
「文句言う人は外で雪に醤油かけて食べてなさい」
なんてむごい罰なんだ。当也ももう何も言わなくなった。
ご飯を食べ終わって当也の部屋に戻る。帰んないの?と聞かれたので無視した。お腹いっぱいになっちゃったとこから歩いて帰るのは勘弁なので、帰るならやちよに送って欲しい。それか泊まりたい。
「ゆりになんて謝ったら許してもらえるかなあ」
「……悪いことしたの?」
「覚えがない」
「じゃあなんか理由があって言っちゃっただけだよ。帰ったら謝られるかもよ」
「いや……なんで帰ってきたの?って冷たい目で見られるかも……」
「なんで今日そんなマイナス思考なの?」
「天気悪いからかも」
「今日晴れてたよね」
「うん。適当バチクソぶっこいてごめん」
「口悪」
ちょっとだけ笑った当也が、だからバレンタインデーだからでしょ?とベッドに仰向けになって目だけこっちに向けながら言う。そう言われても、友梨音が俺に秘密のかれぴっぴを作ってそいつに向けてラブラブチョコを鋭意製作中なんだとしたら俺はその男を一生許さないし出会った途端にチャリで轢いてバットで殴るぐらいはするよ。
「違う。全部違う」
「どこが?轢いて転ばせてから殴る。完璧では?」
「彼氏どうこうから違う」
「……まさか……彼女……ってこと!?」
「ってこと!?じゃない。朔太郎俺の話聞く気ある?」
「ない」
「出てって」
「嫌。ここに住む」
「いつも何か作ってくれるでしょ、友梨音ちゃん。だから今回もその準備してるんじゃないの?朔太郎には秘密で」
「同じ家に住んでるのに秘密なんてないよ!」
「出来るだけ隠しときたいんじゃないの。喜ばせたいんだよ」
「死んでも勘づかないようにする」
「がんばって」
「具体的には今日からここに住むとかする」
「やめて」

当也の言った通りバレンタインデーには友梨音が俺に秘密で準備したかわいいクッキーをプレゼントされたし、もちろんおいしかった。今年はお母さんにも見てるだけにしてもらったの、一人で作ったんだよ、と恥ずかしそうに言われて、俺は可愛い妹に何を馬鹿な疑いをかけていたのだろうか、と過去の自分を引っ叩きたくなった。
「ゆりどこ行くの」
「ん、えと、当也お兄ちゃんと航介お兄ちゃんにも渡しに行こうかなって」
「俺が全部もらう」
「だ、だめだよ」
「あげたくない。当也と航介には後で俺が適当に板チョコでも買って目の前で食べておくから」
「だめだよっ、なんでそんないじわるするの」
「はい」
「いじわるしないで!」
「はい。もう2度としません」
妨害失敗。ゆりの手作りクッキーなんて、当也と航介にあげるにはもったいないが、本人があげたいなら仕方がない。美味しかった以外の感想は認めないことにしよう。
「パティシエールYURIの新作を配達に来ましたあ!」
「や、やめて、恥ずかしいっ」

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