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みじかいの



「桔平お酒飲んだことある?」
「ない」
「飲んでみたくない?」
「別に」
「……ちょっとくらいはない?」
「別に。ない」
「……………」
「飲みたいなら勝手に飲めばいいだろ」
「……試し飲みくらいいいじゃんか……」
「俺になんの関係があるんだ」
「友達でしょお!」
「?」
だから?って顔をされた。「友達でしょ」に対しての疑問なのか、「友達だからといってなぜ俺がお前の話を聞かなければならないのだ」なのか、までは分からない。後者の方がまだマシかな。桔平、俺のこと友達だと思ってるかどうかまだわかんないもん。中学生の時から一緒にいるのに。
二十歳になった。それで、ずうっと気になっていた、飲酒をしてみたいと思った。やっぱ憧れるじゃん。大学の先輩とか楽しそうだし。今までは未成年だからって断ってたり、むしろお酒が出る場には誘われなかったりとかしたわけだけど、これからは解禁になる。しかしそこで一つ問題があるのだ。俺はお酒を飲んだことがない。当たり前のことかもしれないが、自分がどのぐらい飲んだらどうなるのかを知らない。自分が飲んで平気な量は知っておいた方がいい、と先輩にも教えてもらったが、じゃあそれはどう知るのが一番安全なのか、色々考えたのだ。例えば家で飲んでみるとか。でもあんまり酔っ払いそうならその前に親に止められそうだし。他人がいる場で、飲み会とかで試してみようかとも思ったが、迷惑をかけるのは違うのでやめた。そこで桔平である。ここなら、桔平は一人暮らしだし、多少迷惑をかけても桔平の邪魔さえしなければ追い出されたりもしない。なんなら先に断って場所を借りる権利を貰っておけば、なにをしても目を瞑ってもらえる可能性すらある。桔平は、感情よりも効率とか利益不利益とかを優先するので、桔平にとっての利を先に提示しておけば、その代替えとしてなにか俺がやらかしても許されることがあるのだ。友達として胸は痛むが、しょうがない。あと桔平がお酒飲んでるとこも見てみたいし。
だから誘ったけどマジで釣れない。おいしいって噂のおつまみをコンビニで買ってきたとか、桔平もお酒飲める量知っとかないと困るんじゃない?とか、いろいろ言ってみてはいるんだけど、全然響かない。ふうん、へえ、それで?って感じ。いっぱい買ってきたのに。俺は先に飲み始めてて、でもまだ一本しか開けてなくて、俺が飲んでたら桔平も飲んでくれるかなと思ってたのに何にもしてくれないしむしろ無視するから、さびしい。クッションを抱きながら桔平ににじり寄る。
「ねえってば。一緒に飲もうよ」
「俺じゃなくてもいいだろ。彼女とかいないのか」
「いない」
「いづるでも呼んでやろうか。喜んで付き合うと思う」
「岸くんはまだ未成年でしょ!」
「そうか。法律的にはダメだったな」
「そうだよ!えっ?待って?」
「俺は自分はアルコールが苦手だろうなってことは知ってる。注射の前とか消毒されると赤くなるし」
「そのアルコールとは違うんじゃ……ねえ?岸くんの話なんだけど」
「だから飲まなくていい。必要性も感じない」
お前一人で飲めばいいだろう、気分が悪くなったら介抱くらいはしてやるから、となにやら雑誌から目も離さないまま適当に言われて、ふくれっつらをした。一緒がいいって言ってるでしょ。なんなの。
「いじわる。ケチ」
「だから一人で好きに飲めばいいだろう。死なれたら困るから面倒くらいは見てやる」
「俺は桔平と二人でお酒を飲みたいの!それで酔っ払っちゃって次の日頭いててみたいのがやりたい」
「……体調不良になりたいってことか?」
「違う!楽しみたいって話!」
「頭痛を?」
「伝わんないなあ!もう!」
マジで不思議そうな顔をしているので、本当に意味が伝わっていない可能性の方が高い。分からないふりとかじゃなくて、「一緒にお酒飲んで楽しくなろうよ!」の意味が心底理解できないのだろう。悲しい。やけくそで、持ってきたビニール袋の中から缶を取り出して開けると、勝手にすることにしたのか、と納得したように雑誌を見るのに戻ったので、開けた缶を桔平に持たせた。
「なんだ。いらない」
「かんぱーい!ほら、乾杯したら飲まなきゃいけないんだよ」
「そんな決まりはない」
「決まりはなくてもそういうものなの!」
「マナーとかそういうのは嫌いだから破ることにしている。返す」
「うるさいいいから飲めー!」

反省した。
「き……桔平……?ごめん……大丈夫……?」
「……………」
「二度としないから……」
「……………」
あまり刺激しないように潜めた声で小さく呼びかけているのだけれど、煩わしそうに片手を振って丸くなられてしまって、なんかもう泣きそうになった。ほんとに悪かったと思ってる。嫌がる人に無理させるのは人間として絶対にやっちゃいけないことなのだ。いくら友達でも。
しつこくしまくってもういい加減にしろと思われたのか、邪魔されて集中できないよりは一回
付き合ってやろうと思われたのかは分からないが。桔平の膝の上にうつ伏せになってばたばたしていたら、ようやく「もう分かった」とうんざりした声で言われたのだ。岸くんに昔、ヒノキを根負けさせられんのってヨミくんかヒノキのお母さんぐらいだよね、と半笑いで言われたのを思い出した。それで桔平と乾杯して、迷惑そうな顔でも嫌そうでも一緒に飲んでくれるのが嬉しくて、世話焼きながらおつまみもお酒も勧めてたら、桔平の顔色がみるみるうちに悪くなった。そして丸くなってしまい、今に至る。
「お、お酒そんなに苦手とは思わなくって……もっとちゃんと説明してくれたら良かったじゃん……」
「……………」
「あっ嘘です、したよね、しましたね……」
すごく睨まれているのを感じる。そんなにたくさん飲んだっけ、と思って、ぺこぺこしながら空の缶を片付ける。でも三つしかない、俺は二つ飲んだから、桔平は一つってことだよね。ものすごくお酒に弱いんだなあ。俺は別に普段と変わらないと思う。さっきまでは楽しかったけど、桔平が丸まっちゃってからは「やってしまった」の気持ちの方が強くて全然楽しくなくなったので。
「ごめん……ごめんね……?」
「……………」



後日。岸くんと桔平とご飯を食べにきた。斎藤くんは来られないんだって。残念。ぱらぱらとメニューを見ていた岸くんが、なんとはなしに言った。
「ヒノキ飲まないの?」
「桔平は飲まない!」
「うわなにヨミくん」
「桔平にお酒を飲ませないで!」
「飲まない」
「は?なんで?」
「ていうか岸くんも飲んじゃダメだよ!」
「ジュースですう」
嘘だ。なんか横文字でよく分かんなかったから注文の時も無視してたんだけど、後からメニューちゃんと見たらソフトドリンクのところにそんなものはなかったし、桔平がオレンジジュース飲んでるから岸くんが飲んでるのがお酒だと思う。
「なんで。こないだ飲んでたじゃん」
「酒を飲むと体調が悪くなる」
「ウケる。飲んでよ」
「ダメだー!」
「ヨミくんテンション高」
「か、かわいそうだからダメだよっ、俺が代わりに飲む」
「えー?」
でも本当にこの前居酒屋で飲んでたし一杯なら平気だろ?と岸くんがメニューを差し出している。ので、奪い取った。ダメだよ!缶一本で具合悪くなっちゃったんだから!
「何飲ましたの?」
「なに……なにって、缶のお酒……」
「だからあ。缶のお酒の、なに?」
「?」
「……ヨミくん知ってるう?アルコール度数っていうのが書いてあるんだよ。ちゃんと、これが高いと強いお酒ってことだからね、よーく見て今度から買うんだよ」
「うん……え?俺こんなとこ見ながら買ってない……」
「んふふ」
岸くんがめちゃくちゃ俺を小さい子扱いしてくるけれど、知らなかったことを教えてもらっているのは確かなので、何も言い返せない。桔平は「だから嫌だって言ったのに」とこっちを見て嫌そうに言った。
「ゔぅうごめんってばあ」
「ヨミくん一回ヘマするとめちゃくちゃ引きずるよね」
「桔平俺のこと嫌いにならないでえ」
「読谷のことは別に嫌いでも好きでもない」
「ううう」
「俺のことは好きだろ?ヒノキいづるのこと大好き♡って言ってみ」
「いづるのことは好きでも嫌いでもないがうざったいとは思う」
「は?死ね」
「お前が死ね」
「喧嘩してるう……嬉しい……」
「ヨミくんて酔っ払うとテンション高くなんだね」

  
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