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辻家がただだらだらするだけ



「うみあれやりたーい」
「いいぞ」
金魚すくい。どうせ取れないだろうと思っていたら、案の定取れなかった。一匹たりとも。むしろ、水にずっと浸したままばちゃばちゃかき回すので、ナメくさった金魚が紙に突っ込んできて、貫通されて破けた。がーん、という効果音が似合う顔でぷるぷるしている海の肩を、朔太郎がそっと叩いて、ぐっと親指を立てる。
「海ちゃん。まかせな」
「さくちゃん……」

まあ一匹も掬えないよな。そうだろうなあとは思っていた。そういうオチだ。がっくりしている朔太郎と、俺を振り向く海に、別に金魚はいらないだろう、飼えないぞ、と一応言ったものの、二人して聞く耳持たずに、でもこのままじゃあ帰れない!とぎゃあぎゃあし出した。うるさい。
「兄ちゃんやってく?」
「……持って帰んなくてもいいですかね」
「平気平気」
「はあ」
金魚すくいなんて、やるの何年振りだろう。ぼんやりと思い返せば、随分昔に、当也とものすごく揉めた思い出がある。どっちが先に掬えるかで散々競って、どっちも一匹も取れずに網が破けて、哀れんだ屋台のおじさんが一匹だけくれたんだけど、どっちの家で飼うか、名前をどっちがつけるか、でまた揉めた。結局当也の家で飼って俺が名前をつけた気がする。俺だって金魚すくいが得意なわけではなかったはずだ。網とカップを持たされて、がんばって!とわきわきしている海には言いづらいけれど。
「こーちゃん!あか!あかのやつ!ぜんぶあかのやつ!」
「航介黒!黒いのがあんまりいないから黒にして!レア!」
「さくちゃんのいうこときかないで!」
「あ!黒!黒黒!あれ!」
「こーちゃん!こーおちゃん!」
「ああ!もう!両側からぶつかってくるな!」
結果、一匹取れた。あれだけがんがんぶつかられて、一匹とれたことを褒めて欲しい。網は破けてないけど、もう一匹もう一匹とうるさかったので、おじさんに返した。俺が返したカップを持ったおじさんに、海が満足げな顔で手を出したので、念押しでもう一度連れて帰らない旨をおじさんに伝えれば、あっけらかんとしたおじさんは金魚を水に返した。海は泣いた。
「俺も泣きたい……」
「いらないだろ、金魚」
「ゔあああああごおぢゃんのばがああああ」
「飼えないって最初から言っただろ」
「でもがいだがっだあああああ」
「うちはペット禁止」
「……航介の鬼」
「お前……」


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