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おはなし




「運動ができるとモテます。男の子ですよね?モテたいですよね?」
「はい」
「はい」
「はい」
力強く三人に頷かれた。御幸くんだけ素知らぬ顔でそっぽを向いている。「いや全人類の中で僕が一番可愛いからそれ以下の人間にモテたところでどうもこうも…」という顔である。キャーキャー言われるのは満更でもないくせに、それはそれ、これはこれ、らしい。
いつもの番組で、スポーツ対決をやるそうだ。メンバーカラーの運動しやすそうな服を着た四人が、まあ言うて明楽が絶対一番だよね、と話し合っている。そりゃそう。特大のネタバレになるが、そりゃそうなのである。だって負ける要素ないしね。あ、自己紹介遅れたんですけどゆうやけこやけの道端陽太です。
「明楽って苦手な運動ないの?」
「……スノースポーツ系はあまりやったことがないな」
「や、突然スケートとかスキーとか全員できないから……」
「俺転ぶ自信ある」
「育が転んだの見て笑いながら僕も転ぶ自信ある」
「えっ、え、怪我しないでね?」
清志郎くんがオロオロしているが、育くんと御幸くんは自信たっぷりの顔である。俺も二人はこの撮影の間に一度はずっこけると思う。御幸くんに関してはあまり運動できるイメージがないし、育くんはそれなりに動けるが注意力散漫なので転ぶ。俺で予想できるってことはファンの皆さんは勿論のことだろうし、当然すぎて予告映像にすら使われないかもしれない。
「最初は準備運動ですね。まあみなさんある程度は動けるはずなので、きちんと準備する大切さは分かっていると思います」
「はあい」
「レッスンの前にちゃんとストレッチしないと明楽が付きっきりでやり直してくれるから知ってる」
「だって危ないだろう」
「それに御幸のストレッチただでさえ最低限じゃん」
「僕身体はやらかいもん。リズム感はあるし」
「なのになんで運動苦手なんだろうねえ……」
「ね。僕もそう思う。なんでなんだろうね?」
「お喋りして時間稼がないでぶつからないように広がってください」
「チッ」
御幸くんが思いっきり舌打ちした。見え見えだよ。これでぶつかんないね!と腕をぐるんぐるん回している育くんが小学生にしか見えない。いっちにー、さんし、と簡単な準備運動を全員でして、2人1組で柔軟もした。御幸くんが自分で「身体は柔らかい」と言っていたのは本当のようで、清志郎くんに背中押されて、足を開いたままぺたりと体を伏せていた。すごいな。俺多分直角から動けない。石田だったら足も開かないかもしれん。いたたた、と言いながらも清志郎くんが真面目に前屈しているのが尊い。育くんと明楽くんは元々動けるのもあって特に辛くなさそうだ。
背中合わせになって腕組んで、片っぽが反って片っぽが前屈みになるやつ。正式な名前はあるんだろうか。学校の体育とかで二人組でやらされた覚えがある。恐らくは背中の筋を伸ばすためのあれを明楽くんと清志郎くんでやりはじめたんだけど、見て真似した御幸くんと育くんがひどい。育くんが持ち上げる側をやったら、力がありすぎて御幸くんの足がぶらんぶらんに浮いてる。
「ギャー!怖い!下ろして!助けて!」
「なにやってるんだ……」
「ごめんみゆ。思ったよりちっちゃかった」
「怖かった!背中痛い!」
「じゃあ逆にしよ。俺が反るから、御幸は下やって」
「うん……」
「はい。持ち上げて」
「ん、んぐぐ、ゔぅ」
「御幸もうちょいがんばってよ!俺全然伸びれてない」
「重いぃ、無理、育デブ、重」
「はあ!?」
めちゃくちゃもめている。まだ始まったばっかの準備体操なのに。まあ御幸くん潰れそうになってたしな。明楽くんに不思議そうな顔で、今のはやれって言われてないだろ、俺と清志郎が勝手にやったやつなんだから真似しなくていいんだ、と正しいことを言われて、ただパパとママの真似っこしたかっただけのチビたちが居心地悪そうに黙っている。うん。絶対ここ使われるだろうな。また今回のも前後編になったり2時間スペシャルになったりおまけが追加配信されたりするんじゃないの?こないだのキャンプもどきみたいに。
とりあえずルール説明といこう。やる競技は、50m走、クライミング、ストラックアウト、フリースロー、ダンスの五つ。1位の人が3点、2位の人が2点、3位の人が1点、4位の人が0点。最終的に一番点数を獲得していた人の優勝。栄誉ある、運動神経一番いいモテモテボーイの称号が与えられるわけだ。まあ明楽くんになる気しかしないけど。運動能力だけで言ったら育くんもそう引けは取ってないと思うのだけれど、いかんせんバカ、もとい頭があんまりよろしくないからなあ。ルールの理解に不安が残る。やりたくないよお、と顔に書いてある御幸くんが既に膝を抱えて座っているのが気になるが、仕方ない。始めよう。
「最初は50m走ですね。ただ走るだけです」
「それなら俺勝てる気がする」
「育走るの早いもんね」
「うん!なにこの変なの?じゃまっけ」
「スターティングブロックだ。邪魔じゃない」
「でもこれがあると立てない」
「お前まさかクラウチングスタート知らないのか?」
「なに?」
「道端さん、タイム」
「どうぞ」
清志郎くんに褒められて上がった株を2秒でドン底まで下げた育くんが、これはこう使う、と明楽くんに実演してもらっている。横で真似しているが、なんか違う。御幸くんがぼそりと、僕でも知ってるのに?と吐いたのがどっちにも悲しすぎる。真似しなくていいから立って見てろと言われて、ふむふむと頷きながら見ていた育くんが、オッケー!と手で丸を作った。一度見ただけで覚える辺り、能力は高いんだよなあ。
「わかった。見たことあった」
「じゃあ準備してください」
「僕クラウチングスタートできない。あ、育と一緒にしないで。やり方は知ってるから」
「うだうだ言うんじゃない」
「はい」
「走れるかなあ……」
「清志郎、一緒にゴールしよ」
「手つなぐ?」
「清志郎と御幸は端っこ同士だ」
「ちぇー」
御幸くんが一番レーン、育くんが二番、明楽くんが三番、清志郎くんが四番になった。育くんが何故かぴょんぴょんしているので理由を問えば、「足首やらかくしとくと早くなるんだよ」だそうだが、ジャンプで足首は柔らかくなるんだろうか。ちゃんと回した方が良くない?
いちについて、よーい。スターターの係の人がピストルを掲げて、軽い音が鳴った。一番近くにいた清志郎くんがビクってなった気がしたんだけど、まさかそんなことはないと思う。育くんの足が速い、というのは本当の話のようで、スタートダッシュの時点でもうぶっちぎりだった。半分ぐらいのところで、ずっと一定に速い明楽くんがちゃんと追い上げてきて、既にへろへろしている育くんとの距離を縮めたけれど、初っ端の加速には追いつけなかったようで、一着は育くんだった。二着が明楽くん。清志郎くんが三着、御幸くんが四着。正直後ろ二人はそう大差ないけれど。
「はー!きもちよかったー!」
「お前本当速いな……」
「……………」
「……………」
「二人とも、全力疾走で疲れ切ってる御幸くんと清志郎くんにも触れてあげてください」
「えっ?こんな短い距離でそんな疲れないでしょ」
「……………」
「……速い育にはわかんないかもしれないけど、自分よりはるかに速い人が前にいるとすごく疲れるんだよ……」
「そう。ほんとそう。清志郎ほんっとにそう」
「御幸はもう少し体力をつけないとダメだ。清志郎は自分に厳しくすること」
「……はい……」
「……ごもっともです……」
的確な明楽くんからの指示に、自分でも弱点と重々承知らしい二人は深く頷いていた。しかしまあ、本当に芯から疲れ切っているわけではないので、切り替えたらしい清志郎くんがぱっと腕を伸ばして、次こそがんばるぞ!と拳を握っている。御幸くんがそれを見て、顔色悪く首を横に振った。

「クライミングです。まあ、要するに壁を登ってもらいます。ボルダリングの方がわかりやすいですか?」
「テレビで見たことある!やってみたかったんだー」
「育、前から言ってたよね」
「うん。行く暇がなかった」
高い壁にいろんな色の石が引っ付いてる。これを掴んで登っていく、といえば単純なように思えるが、突然やってできるものでもない。身体にはこれつけてもらいますからね、と自分にさっきつけられた安全ベルトを指せば、明楽くんが首を傾げた。
「道端さんもやるんですか?」
「デモンストレーションです。ジムでやってるので」
「へー!みちぴすげー!やって」
「だからやるんだって。どいてよ」
「え、こんな紐で大丈夫なの?切れないの?」
「どいてってば!危ないから!」
ちょろちょろする育くんを追い払ってから、こんな感じで、と手をかける。体作りのために通っているジムでやったことがあって良かった。今回は「時間内にどこまで登れるか」を競うルールだ。制限時間は1分半。自分は経験があるからひょいひょいと手をかけ足をかけているように見えるかもしれないが、実際やってみたらそれなりには難しいと思う。俺も最初時間かかったし。でも育くんに限ってはできそうなんだよなあ。運動神経にモノを言わせることが可能そう、という意味で。考えながら適当なところまで登ると、タイマーが鳴った。
「はい。こんな感じです」
「すげー!」
「降りますね」
「……まさかとは思うけど、僕たちも降りる時ああやって身投げしなきゃいけないの?」
「梯子があるわけじゃないので。自力で降りてきてもらう形にはなると思いますけど」
「……………」
「みちぴ。明楽高いとこ怖いんだよ」
「えっ?そうなんですか?フライングとかコンサートでやってるのに?」
「それはそれ。これはこれ」
苦いものを食べる顔の明楽くんが、まあやるしかないだろう、と自分の頬を叩いた。いや、めちゃくちゃかっこいいな。よくそんな数秒で覚悟が決まるもんだ。俺、仕事で初めてバンジー飛べって言われた時、ギリギリ限界まですごいぐずって渋ってめちゃくちゃ引き伸ばして結局引け腰のまま半ば突き飛ばされて落ちたぞ。あの時の自分に今の明楽くんを見せてやりたい。
今の順位としては、育くんが3ポイント、明楽くんが2ポイント、清志郎くんが1ポイント、御幸くんが0ポイントなわけだけど、ここで順位がそう動くとは思えない。明楽くんが優勝するのは目に見えてるし、もしかしてそうじゃなかったとしたら育くんが優勝するだろう。誰からやる?と話し合っている四人を見ながらそう思う。
「俺からやる」
「明楽くん平気ですか?心の準備してからでもいいですよ」
「早めに終わらせたい」
「がんばって」
「怪我しないで」
「落っこちないでね」
やんややんやと下三人から励まされている明楽くんが、壁を見上げて、一度目を閉じた。息を吸って、よし、と瞼を上げる。かっこいい。もうマジでかっこいい。テレビの前にいる明楽くん推しの方々が胸を撃ち抜かれてギャンと鳴くのが見える。ふう、と前髪をかき上げた明楽くんが、登る順をシミュレートしているのか瞬きもせずに壁を見つめて、スタートの合図が鳴った。
「……いや早……」
「下見ると怖いから登ることしか考えてないんじゃん?」
「降りる時どうすんだろね」
「早くありません?ほんとに高いとこ苦手なんですか?」
「苦手なんですよ。吊り系の演出、自分からはやりたがらないし」
「やるとなればやるんだけどねー。真面目だから」
「僕たちも何が何でも高いところに行きたい訳じゃないから、明楽かわいそうだし」
「がんばれー」
「あと30秒だよー」
高いところが怖くて必死だからなのか、真面目が故に苦手なことでも手を抜きたくない気持ちの表れなのか、異様に早い。途中何度か動きを止めて迷うような素振りはあったけれど、ほぼノンストップで登り切ったといっても過言ではない。タイマーが鳴って、現に初心者か疑いたくなるような記録が出たわけだし。終了の合図にはっと我に帰ったように動きを止めた明楽くんが、育くんや御幸くんの声にこっちを見た。要は、下を向いた。
「……………」
「終わったよー」
「降りといでー」
「……………」
「木の上にいる野生動物が人間に威嚇するみたいになっちゃってる」
「明楽ー」
「……………」
清志郎くんの呼び声に、ええい、と言った感じでぎゅっと目を閉じた明楽くんが、綺麗な気をつけの体勢でスーッと降りてきた。御幸くんが超笑ってる。いやしかし、明楽くんであの高さまで登れたなら、他の人じゃ越えられないのでは?ベルトを外してもらって、こっちに戻ってきた明楽くんが、険しい顔のまま聞いた。
「……俺どこまで行きました?」
「自分で分かってなかったの?」
「……道端さんが……さっき通った道なら、安全だろうと思って……出来るだけ同じルートをなぞった」
「だからあんな早かったんだ……」
「握力使い果たしてゼロになった」
「多分明楽くん一位だと思いますよ」
「次誰やる?」
「育は最後にしよ。どうせいっぱい登るから」
「じゃあ俺先にやるよ。御幸見ててね」
「うん」
二番手は清志郎くんになった。こっからのぼってあそこはこう、と脳内でシミュレーションしているようだが、どうだろうか。ただ明楽くんより身長があるので、その辺で有利かもしれない。黄色の石に手をかけた清志郎くんが、スタートの合図と共に登り出した。
「がんばれー」
「清志郎はそんなに早くないね」
「俺そんなに早かった?」
「ていうか死に物狂いだった」
「あ!あぶない」
「……………」
「明楽がもう見れないって」
「清志郎気をつけてー!」
「……こんなことを……御幸と育にやらせるくらいなら……俺があと二回登る……」
「それなんの意味もないでしょ」
「明楽に三人分のポイントが入る」
「ズル」
「見てるだけで怖い……」
清志郎くんが足を滑らせかけたのを見た明楽くんにスリップダメージが入っている。顔を覆ってしまった。さっき登っていた時は本当に必死だったらしい。危なくない道を考えながら登った清志郎くんは、明楽くんの三分の二くらいだろうか。終了の合図に、うーん、なかなか難しいですねー!と上から朗らかに笑った清志郎くんが、危なげなくひょいと降りてきた。それに小さく「あぶね!」とこぼした明楽くんが指の隙間から見ている。危なくないんですよ、ただ降りてるだけだから。
「じゃあ次僕ね」
「御幸がんばって」
「うん」
「ちゃんと掴んで前だけ見ろ、振り返って下を向いたりするな落ちるから」
「明楽うるさい」
決死のアドバイスをした明楽くんをあっさり退けた御幸くんが、ベルトをつけられながら、ふむ、と壁を見上げた。勝算はあるのだろうか。一位を取れるとは御幸くん本人も思っていないだろうけれど、自信ありげな目にそう期待してしまう。よーいスタート、と合図の音が鳴って、御幸くんが手を伸ばした。
「みゆきがんばれー」
「がんばってー」
「うん」
「……………」
「……………」
「……?みゆ?もう始まってるよ」
「うん」
「……………」
「……御幸?」
「うん。どこから登ったらいいか全然わかんない」
「タイムタイム!止めてください!」
「明楽と清志郎がやってたの見たからある程度当たりつけてたけどもう全然。なにをどうしたらこんなもんが登れるわけ?」
「嘘でしょ!?」
「企画ぶっ壊しにかかるな!」
「……あー……」
あの真面目な顔は、「全くもって何が何だか分からん」の顔だったらしい。30秒くらい壁を見上げたままウロウロし続けたので、流石にやり直しになった。三人が御幸くんの周りに立って、ここなら手が届く?いやここに届いても次に登るところがない、じゃあこっちにするか?と話し合っている。普通は順位を決める競技でこういうことにはならないと思うのだけれど、そんなのは頭からすっぽ抜けているらしい。仲良いなあ。
「御幸いけそう?」
「なんとか」
「じゃあお願いします。よーいスタート!」
「右だよ!緑のとこ!」
「左足赤いとこに乗せないと次が辛いぞ」
「あ、赤のとこには届かなそうだよ!左に行った方がいいかも」
「確かに」
「御幸右手やっぱり黄色持て」
めちゃくちゃアシストするじゃん。御幸くんも行き詰まったらこっち振り向いちゃってるし。その度に明楽くんが「後ろを見るんじゃない!落ちる!」と悲鳴に似た声を上げている。探り探り、と言った感じで登った御幸くんは、明楽くんの半分ぐらいだった。それでも充分頑張ったと思うけど。終わりの合図でひょいと飛び降りてきた御幸くんが「案外やればできた」と満足げな顔なので、いや声掛けてもらいながら超手伝ってもらってアレだったじゃん…と言いたくなったがやめた。なぜかって、満足げな顔が可愛いからである。それを曇らせるなんて俺にはできない。
「じゃあいってくる!」
「ベルトつけてから登ってください」
「そっか」
「育、急がなくてもいいからね」
「うん!」
「育、安全を優先してくれ」
「うん!」
「ここまで来たら一人ぐらい落っこちて失格がいても面白いと思うよ、育」
「それは俺もそう思うんだよね」
「こら!」
「真面目にやります」
安全ベルトをつけた育くんが、じゃまっけだなー、動きにくいなあ、とじれったそうにしている。育くん、衣装も装飾が多いと気になって踊りにくいって前言ってたもんな。
スタート、の合図で飛びつくように壁を登り出した育くんは、いや早いなやっぱり、でもなんかしゃかしゃかしてて気持ち悪いな!あとすごい蛇行してる!自分がどっち方向に進んでいるか分かってなさそうだ。とりあえず引っ掛けられるところに手や足を伸ばしているので、斜めに爆進している。
「あんなに早いのに全然遠ざかんない」
「……育ー!まっすぐ登ってー!」
「聞こえてなさそうだな……」
「あははっ、あんなとこまで行っちゃったよ」
「速さを優先してるんでしょうね」
「でしょうね……」
「あっははは、あー、お腹いたた」
残念な子だ。もったいないというか、ポテンシャルは高いのにいまいち全部を活かし切らないというか。もうめちゃくちゃに笑ってる御幸くん。もっとこっちだよー、と親切に声をかけてくれている清志郎くん。はあ、とため息を深くついて額に手を当てている明楽くん。終わりの合図で一応止まったが、スタート地点よりかなり横にずれたところにいる。高さ的には御幸くんより少し上かな?ってぐらいだ。思ったよりも自分が低い位置にいることに気づいたらしい育くんが、あれえ!?と素っ頓狂な声をあげている。
「俺がんばったのに!」
「横に進んでたよ」
「終わったから降りてきな」
「えっ、うん……」
「早くー」
「……んん……」
御幸くんの声に、もごもごと口をつぐんだ育くんが、こわいです…と小さくこぼした。その位置でそんなこと言うなよ。高いとこダメなのにもっと上まで行った人もいるんだぞ。結局もじもじした挙句に、ひーひー言いながら飛び降りてきた。着地した育くんの膝が笑っている。マジで怖かったんだな。嘘みたい。
一位は明楽くん、二位は清志郎くん、三位が育くん、四位が御幸くん、ということになる。総合得点としては、明楽くんが5点。清志郎くんが3点。育くんが4点。御幸くんが0点だ。思ったよりも結構競ってる。御幸くんを除いて。
「……みゆ……」
「ん?あ、なに?育、僕が落ち込んでると思ってるの?」
「うん……ぶっちぎりの最下位だから……」
「いや別に。こうなるなんて最初から分かってたでしょ。バケモノに人間が勝てるわけないんだから」
「そっか……?」
「だって世間一般的には僕が普通でしょ?ねえ?」
「……うーん……」
「ほら」
「いや道端さん首傾げてるぞ」
御幸くんの意見も分かる。プラス、確かに普通に考えて、普段やらないことを突然やらされてたらこんなもんだろうなという気もする。のだが、超人気アイドルグループの一員である御幸くんに夢を見てしまうのも仕方がないじゃないか。ふん、と鼻息も荒く腕を組んだ御幸くんが声を張って、頷くしかなかった。
「いい!?人には得意不得意があるの!」
「はい」
「ごもっともです」
「そうですね」

「ストラックアウトです。あそこにパネルがありますね?あれにボールを当てて、抜いた枚数を競ってもらいます」
「ビンゴってこと?」
「違います」
「え?どういうこと?」
「枚数です。枚数。当たったらあのパネルは落ちるようにできてるので、何枚パネルを外せたかを競走してください」
「列が揃ったらいいってこと?」
「誰か育くんに俺の言葉を通訳してくれませんか?」
「無理だ」
「もうビンゴだと思い込んでるから……」
「じゃあ育くんだけビンゴしてください。他の人は意味分かりましたね?」
「はい」
「何で俺だけ仲間外れにすんの!」
「何球投げられるんですか?」
「12球です。9マスなので、頑張れば全部抜きできますよ」
「それは無理かなあ……」
「ねえみちぴ!」
「じゃあ俺の話を聞いてくれ!もう!」
「やーい育怒られた」
「ううう」
まあそういうことである。ルールとしては簡単で単純だと思うし、なんならテレビで野球選手がやってるのとかも見たことある。育くんが頑なにビンゴだと思っているところ以外は、特に問題ないだろう。
野球の経験がある人はいないらしい。そりゃそうか。みんな小さい頃から今の事務所に入ってダンスのレッスンやったり子役としてテレビ出演したり舞台やったりしてたんだもんな。まず肩慣らしとしてキャッチボールをしてもらったが、御幸くんは球速がそこまでない代わりにコントロールはいい。逆に育くんは力任せなのでノーコン。清志郎くんも割とコントロールよくて、明楽くんは一番出来る子なので今のキャッチボールの間にちゃんと自分が球の方向を正確に制御できる球速を把握している。よし、なんとなくわかった、と頷いている明楽くんに、何をどうしたら自分の肉体をあそこまで使いこなすことができるのだろうか?と思う。だってなんなの?勉強できて楽器できて運動できて、じゃあ何ならできないの?意味分かんない。俺にも才能を一つくらい分けてほしい。でも俺が突然音楽に精通していても何の足しにもならないからやっぱりかっこいい明楽くんに全ての才能が集まるべきだったんだと思うし、明楽くんを作った神様も満面の笑み浮かべて空から見てると思う。
「やるぞー」
「一番は清志郎くんですか」
「はいっ、がんばります!」
よおし!逆転するぞ!と握り拳を掲げている。尊い。涙出そう。うっかり祈りそう。我慢したけど。がんばれー、とぴょこぴょこしながら応援している御幸くんも尊い。しかしうっかり見ているのがバレて、スン…ってなられてしまった。クソ!俺のバカ!御幸くんと仲良くなるチャンスをどんどんそうやって自分から失って!
清志郎くんは5枚抜きだった。ちゃんと狙ったところに当たってる感じだ。ただやっぱり経験がないので、力の入れ具合とか微妙なコントロールとかが難しかったようで。半分はできてよかったー、と本人も胸を撫で下ろしている。次は御幸くんらしい。自分でも練習で上手く行った感覚があるだけに逆に緊張しているような顔の御幸くんが、明楽くんと清志郎くんにばしばし背中を叩かれて元気付けられている。まあぶっちぎり最下位だしな。育くんは「どおせ0枚だよ」とか言って御幸くんにボールをぶつけられている。パネルを準備している間指定位置に立って俯いている御幸くんが近くにいたので、それとなく声をかけた。
「……………」
「……御幸くん上手だと思いますよ?」
「……………」
「お世辞とかじゃなくて……キャッチボール、俺も入れてもらったじゃないですか?その時ちゃんと上手だなって、狙ってるとこに投げれてるし……育くんの球とか一個も俺のミットに入ろうとしなかったし……」
「……道端さん?」
「あ、はい」
「別に僕、自分が下手くそだとは思ってませんけど……」
「へ?」
「全部抜いたら始球式の仕事とか来ちゃうかなと思って……そしたら流石に緊張するなと思ってただけなんですけど……」
「……………」
自己肯定感の化け物かよ。困った顔のままそう言われて、準備できましたー!というスタッフの声に、にっこりしたまま下がっておいた。あそこまで最下位取っといて0点でよくその自信持てるな。まあこれが出来なくても他に特筆すべき点ごまんとあるしな!顔がかわいいとか!自分に絶対的な自信が持てる人間はいいなあ!
いきまーす、と普段通りの感じの御幸くんは、7枚抜きだった。残り枚数が少なくなると難しい、と当然のことを言っていたし、あと二枚も当たってたのに球速が足りなくて弾かれてたり枠に当たってたり微妙にずれて外れたりだったので、ほぼパーフェクトと言っても過言ではない。そりゃあの自信になるわ。
「僕才能あるかもしれない。野球の」
「御幸、バットに振り回されちゃうから難しいんじゃない?」
「そっか。ダメだったわ」
「……御幸の次嫌だな……」
「どうせ0枚だよ。はは」
「ギー!」
「自分が先に言ったんじゃん!」
煽られた育くんが、せせら笑う御幸くんに掴みかかっている。自分が言ったのと同じこと言われてるだけだしな。嫌なら言うなよ、と明楽くんが呆れている。
「よーし!だりゃ!」
「もうちょっと勢い緩めてコントロールに回せないのか」
「無理でしょ。育だよ」
「育ー。よーく狙って投げるんだよー」
「うりゃー!」
清志郎くんが優しくアドバイスしてくれているが、マジですごいノーコンだな。当たると勢いで2枚ぐらい抜けるんだけど、そもそもにして当たらない。終わった時点で4枚だった。おかしいなー?と本人も首を傾げている。投げる瞬間に下見てるのがいけないんじゃないかな。
一番多いのがここにきて御幸くんなので、明楽くんは7枚以上抜かないと一位を取れない。しかしそんなに自信はないようで、5枚行けば良い方だと思っていたんだけどな、と頬を掻いている。御幸くんの才能は完全に予定外だったみたいだ。
「清志郎何枚だっけ」
「5枚だよ」
「じゃあ同じぐらいは頑張るか……」
「明楽。僕パーフェクトが見たあい」
「それは流石に厳しい」
「見たいなあ」
「……………」
明楽くんの顔がキュってなってる。御幸くんの期待には応えたいが果たして自分にそれが可能だろうか…の顔だろうか。良い人だな。俺だったら、無理だよ!で話終わってるよ。今までもこうやって御幸くんや育くんの無茶振りに応えてきたんだろうな。そしてそれによって明楽くんはいろんなことができるようになってしまったのか。苦労してるなあ。無意味にお金あげたい。でも普通に「いえ。いただけません」って丁寧に断られそう。断ってほしすぎるんだけど。あげちゃおうかな。
とか考えてるうちに明楽くんも終わった。清志郎くんと同じく、5枚。この場合は、御幸くんが一位、清志郎くんと明楽くんが同率二位、育くんが四位、という扱いになるらしい。今更思うけれど、他の人がやってる時に残りの三人がちゃんと「がんばれー!」って言ってるの、地味にえらいよな。野次じゃなくて応援。そういうの大事だよなあ。一人頷いていると、点数集計が終わったようだった。
「残り競技は二つですね。現在一位は明楽くんで7点。次に清志郎くんが5点。育くんが4点。御幸くんが3点ですね」
「えっ!?俺、育より点高いの!?」
「俺清志郎に負けてるの!?」
「そうですね」
「僕はあと4点取ったら明楽と同じになるってことだね」
「負けられないな」

「バスケです」
「はい!はいはいはーい!俺やったことありまーす!」
「これは育の勝ちだな」
「やる前から見えてる」
「そんなことあります?」
「中学までずっとやってたんですよ。ちゃんと上手です」
「ルール分かってました?」
「本能で理解してたんじゃない?」
育くんは、まだゴーサインを出していないのにもかかわらず、イエーイ!とでかい声で叫びながら、勝手知ったるという様子でボールを操って走り回っている。ああ、こりゃできる人の動きだわ。球技が苦手な自分でも分かる。はあ、と御幸くんが溜息をついた。曰く、バスケットボールは重いからさっきのように行く気がしない、と。
「俺俺俺!俺やって良い?何本?」
「5本です。ゴールした数が一番多い人の勝ちです」
「1!」
「まだです!早い!戻ってきなさい!」
「さっきうまくいかなかったから得意なのがきて嬉しいんだろうな」
「見てて見てて清志郎!」
「うんうん」
一人でドリブルしながらウロウロしている。もう早く始めてあげたほうがいいと思います。
というわけで、順当に育くんからになった。もういい?はじめてもいい?とカメラを見ながらわくわくしている。普通にバスケ好きなんだろうな。
「いきまーす!いち!」
「当たり前のように入るし」
「に!さん!」
「早くない?あんなものなの?」
「さあ……バスケあんまり見たことないからなあ……」
「10までやってもいい!?」
「5本しかカウントしないけどやりたければどうぞ」
投げてスタッフからボール投げてもらってまた投げてスタッフから、の延々繰り返しだった。ボールが入らないと数に換算されないから、入るかどうかまでは普通見るだろうと思っていたのだけれど、何本入れられるかは特に気にならないのか、そもそもゴールが決まることを確信しているのか、投げた時点でゴール下まで走ってって待ってからボールを拾いドリブルで戻ってシュート、の時もあった。目ぇキラッキラしてる。そんで、5本中4本入った。清志郎くんが、あの四角の中に当てるようにしたら入りやすいんだっけ?と育くんに聞いているが、完全に感覚でやっているらしく、わっかんない!というハキハキした使えない返事だった。
「次やりまあす」
「はい。御幸くんですね」
「目標。一回は入れる」
「そんなんあそこに向かってばーって投げてくるくるぽんってなんないようにすれば大丈夫だよ!」
「もう育何言ってるか全然分かんない。はじめます」
御幸くんは目標通りに一回入った。思っているよりも重い、僕は箸よりも重いものは持てないのに、と頰に手を当てて横座りでしな垂れている。いやあ、惜しかったけどな。コントロールがいいのは変わりないので。確かに力加減は難しかったようで、届かなかったのもあった。あと、育くんが言ってた「くるくるぽん」が何のことだか分かった。リングの中でボールがぐるぐる回って外に出ちゃうことだったらしい。
次は明楽くんだった。まあもう流石と言うか、今回は練習時間がなかっただけに、一本目を外したので「なるほど」と一つ呟いたかと思うとその後連続で三本入れて、金切り声の育くんに「やめてよお!俺に追いつかないで!」とキーキー言われて笑ってしまって外して、という感じだった。かっこいい。もし明楽くんが同じ高校にいたら体育の時間と音楽の時間の度に恋に落ちないといけないし、あと数学と国語と英語と社会と理科の時間にもときめかなきゃいけないから心臓に負荷が掛かって死ぬ。危ないところだった。
清志郎くんは二本入って、全員終わったのでこれでまた順位が変わることになる。フリースローは一位が育くん、二位が明楽くん、三位が清志郎くん、四位が御幸くんなので、それを総合得点に反映すると、明楽くんが9点、清志郎くんが6点、育くんが7点、御幸くんが3点になる。清志郎くんと育くんの順位が交代した。予想通りといえば予想通りに落ち着いたかな。
「やだあ、もうちょっとやりたい」
「まだ次が残ってるだろ」
「久しぶりにボール触ったんだもん」
「じゃあ育だけダンスは不戦敗ね」
「あと一回だけえ」
「さっきも言ってたでしょ。また今度みんなでやろうね」
「えー!やだよ!僕やりたくない!疲れる!」
「じゃあ御幸以外のみんなでやるからいいもんねーだ」
「は?そしたら僕と明楽と清志郎だけで今度スイーツバイキング行くから」
「もめるな。離れろ」
育くんがぐずって御幸くんと喧嘩しているが、パパとママが仲介してくれているので放っておいていいだろう。

「ダンスですね。これに関してはルール説明をちゃんと聞いてくださいね」
「見て清志郎。変な指」
「聞いてくださいね」
「育……」
清志郎くんががっくりしている。変な指だよ!じゃないんだよ。確かに変な曲がり方した変な指だけど。でもよく見るとどうやってんの?折れてる?
ダンスに関しては、どう点数化して差をつけたらいいか迷ったらしく、尊敬すべき先人が他の番組で取っていた手段を使わせてもらっているそうだ。ありがたい。いつまでたってもめちゃくちゃかっこいいことに変わりはないのでいつかまたメンバーが揃って踊っている姿を一ファンとしてはいつまでも待ちたいのであります。以上。
「今回は、正確性を競ってもらいます。みなさんの持ち曲が流れます、こんな風に」
「お。新曲」
「これステップばりむずい」
「で、止まります。今と同じタイミングで止まるので、サビ終わりまで踊ってください」
「えっ!?」
「音無しで!?」
「……歌っていいですか?」
「ダメですね」
「……………」
「清志郎に歌禁止するのはずるいぞ!」
「そうだそうだー。サビ終わりのソロ、清志郎の振りだけほぼ無いんだぞ」
「でもダメなものはダメです。最後の、ここですね。このポーズが決まったところでストップします。それぞれに時間を測っているので、実際の曲とどれだけ近いかを競ってもらいます」
「……待って?確認していい?」
「どうぞ」
動画を見せていたタブレットに、わらわらと四人集まってきた。どこで音消えるって?ここ。じゃあどこから振り入れたらいい?このへん?あんま前から踊りすぎても後ろがずれるんじゃない?でも先に踊んないと音止まった瞬間から踊り出せないよ。一番最後の秒数を測るんだから、カウントはちゃんと取れるようにある程度きちんと振り入れした方がいいんじゃないか?ねえもっかい巻き戻して。俺やっぱ歌っちゃダメかな?ダメでしょ。と、頭を突き合わせて話し合っている。なんか普段のダンスレッスンとかもこんな感じなのかなと思って、ちょっと特別感がある。足でカウントとってた育くんが、一回だけだから!と立ち上がって、三人に背中を向けて踊り出した。
「だー!音があれば完璧だと思うんだけど!この振り難しいんだよ!?みちぴ知ってる!?」
「かっこいい」
「ありがとう!」
「あんまり練習しちゃうと面白くないんで。そろそろはじめますね」
間に衝立を用意して、お互いの姿は見えないようにさせてもらった。明楽くんが軽くステップを踏みながら、首を傾げている。新曲かっこいいんだよなー。コンサートでやったらレーザーばりばり、って感じ。俺はダンスについての知識が全くないので、ステップが難しい、と四人が口を揃えるのに対して、やっぱりかっこいいものは難しいんだなあ、という感じだ。やってみてよ!って育くんが言わないってことは、俺如きでは絶対に真似できないことをしているのも確かなわけだし。
音が流れ出した途端、全員揃って靴の音が鳴ったのがマジでめちゃくちゃかっこよかった。歌っちゃいけないのが清志郎くん的にはものすごいハンデらしく、口をぎゅーって噤んでいる。ラスサビ前のソロとか、メインで歌ってるのは基本清志郎くんだしな。それだけブチ抜けて歌が上手いということなのだけれど。説明した通りのタイミングで、ぷつんと音が切れる。靴音だけが響いて、二人、明楽くんと御幸くんのタイミングがぴったり合ってる。でもそれが曲に対しての正解なのかは分からない。育くんが微妙に早くて、清志郎くんが微妙に遅い気がする。でもほぼ全員揃ってる。すごいな。あと目の前で見るとめちゃくちゃかっこいいなあ!コンサートで見るのより近いからすごいドキドキする。もう俺自分の身体抱きしめてるもんね。この場所にいられるってだけでこの仕事やってた甲斐あったなと思う。最後の決めで一番最初に止まったのは育くんで、次が明楽くんと御幸くんがほぼ同時、少しだけ遅れて清志郎くん、という感じだった。
「……あー!俺ちょっと遅かった、はあっ」
「ぜえっ、はあっ、あ″、も、息できな、かったあ」
「づ、っつかれた、ぁ、ね、俺ぴったりだったあ?」
「案外、気を張るな、これ……」
「おつかれさまでした」
四人ともそれぞれにぜえぜえしている。じゃあ今撮ったのと原曲とで重ねて再生してみましょう、とはじめれば、水を飲んだり座り込んだりしていたのがちょろちょろと寄ってくる。「俺ここ遅い」「ステップやっぱミスってる」とぼそぼそ自己評価が漏れている。いや充分かっこよかったっすよ。
「というわけで。ほぼぴったりが明楽くんでしたね」
「良かった……」
「次が御幸くんになりますかね?うん。育くんの方が秒数が離れてるので、そうですね」
「……僕?」
「良かったねえ、御幸」
「たくさん練習したもんな」
「う、や、そんなに、そんなでもない」
「なんで誤魔化すの。頑張ってえらかったよ」
「身体がしっかり覚えたんだ。人一倍練習しただけのことはある」
「……やっぱ僕なんでも出来ちゃうから……」
「レッスン中何回か心折れてたじゃん御幸」
「うるさい!うるさいうるさいっ」
「あたたた」
取り繕おうとした御幸くんが、続々と努力家の一面をバラされて真っ赤になりながら育くんを叩いている。そうなんですよね。運動がそもそも得意ではない、基本やる気もそんなにない御幸くんだけれど、パフォーマンスに関しては自分がどれだけ辛かろうと他人に見せられるレベルに達するまで絶対諦めないで練習しまくるんですよね。しかもその、御幸くんが定める他人に見せられるレベル、っていうのがバカ高いわけで。一切妥協しない、自分に甘くない、めちゃくちゃストイックなことはドキュメンタリーとかで見たから知ってる。そういうところがほんっと推せるなって思う。僕がなにか足りないことで三人の足だけは引っ張りたくない、そのためならいくらでも頑張る、と一人零していた円盤の特典映像で、マジでボロクソに泣いた。その努力の結晶がこれですよ。本人は丸くなっちゃったけど。
「あと、次は育くんですね。早かったけど、秒数のカウントなので三位です」
「俺早かったかなあ」
「育いつも走るから」
「耳で覚えてるところも大きいんだろ。あとステップの癖直ってなかったぞ」
「うす……」
「最後が清志郎くんですね。やっぱり歌無しは厳しかったですか?」
「あはは、そうですね……普段自分がどれだけ歌に引っ張られてるか分かりました」
「まあ清志郎の声なかったら僕たち崩壊するからね」
「ソロのところは他と振りも違うし。仕方ないだろう」
「ありがとー」

というわけで。最終結果発表だ。明楽くんが12点、清志郎くんが6点、育くんが8点、御幸くんが5点。
「優勝は明楽くんです!おめでとうございます!」
「ありがとう。嬉しい」
「おめでとー!」
「トロフィーがあります。誰か渡しますか?」
「僕」
「俺」
「二人で喧嘩して最終的に落としそうだから清志郎取ってくれ」
「え、俺?うん。はいどうぞ」
「夫婦かよ。なにはともあれ明楽くん優勝おめでとうございます!モテモテですね!」
「うん……」
ちょっと照れるのか、恥ずかしそうにはにかんでいるのをみてしまったので心臓が痛い。これなに?ときめき?恋?
まあやり始める前に予想した通り順当に明楽くんが優勝、って感じだったので、くそー!悔しい!みたいなのもない。ぶっちぎりだしな。一応最下位の御幸くんになにかコメント貰っとこうかと思って、次は頑張ります!とは言わないだろうなと分かりつつ振ってみた。
「御幸くん。なにかありますか」
「火曜夜10時、僕が主演を務めさせていただいている『タガタメ』、次回が第3話となります。謎に包まれていたユウヒの過去が、ある事件をきっかけとしてついに明らかになっていきます。ぜひご覧ください!」
「違う違う違う!違います!」
「これを見てるってことは僕のことは好きだと思うので、ぜひドラマの方も見てください!」
「かわいい!顔が可愛いですが違います!最下位だったことについてです!」
「始球式のオファーがありましたら事務所までお願いします」
「いや……うーん……まあさっきよりは……」
「せいいっぱい頑張ります♡」
「100点ですね。かわいいので。優勝です」
「よし」
「御幸みちぴと仲良しじゃん」
「ぜーんぜん仲良しじゃない」
しれっとそう言われたので悲しくて二日寝込んだ。嘘です。


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