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危機管理能力



「走って逃げると追われる」
「じゃあ迎え打ったら?」
「……絶対無理でしょ……」
「俺毎回迎えに行ってあげよっか。二人いたら絡まれないかもよ。とりあえず俺は理不尽に絡まれたこと今までないし」
「嫌。絶対に来ないで。絶対に」
「来てってこと?」
「日本語分かんないの?」
今回はダッシュで逃げたらしい淀が、逃げ切ったものの結局転んで膝を結構深めに擦った傷にガーゼを貼りながら、溜息をついた。ズボン破れてるし。どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだろうか?と真剣に聞かれたが、そればっかりは分からない。神様に嫌われているとしか思えないので。
しかし、迎えに行くのはわりかし名案なんじゃないかと思うのだけれど、どうだろうか。一人より二人。淀より俺のが足速いし、引っ張ってあげたら逃げ切れるかも。殴られそうになったら、やめてください!っておっきい声で言えばいいかも。どうせ淀がいつもやってる場所なんて大体の当たりがついているのだ。嫌がられても強制的に迎えに行けばいい。怪我すんの、今月二回目だし。流石に心配だ。

ということで数日後。迎えに来たが、予想している場所のどこにもいないので焦っている次第である。嘘でしょ。いつも聞く場所にいないんだけど。もしかしてもう連れ去られた後だったりする?どこにいんの?って連絡したけどなんも返事ないし。焦るんだけど。ただの行き違いで、淀がちょうど連絡見てないだけで、俺んちの前で待ちぼうけ食らってるとかいうだけなら全然いい。心配だなーと思いながら始めたことなので、悪い想像ばかりが過ぎるのが嫌だ。1時間ぐらいそれらしき場所をうろうろした頃だろうか、ようやく淀らしき後ろ姿を暗い道で発見した。なんでこんなとこにいんだよ!こないだ殴られたとこにはいないだろうと思って範囲から外してたのに、よりによってその近くのまた人通りの少なそうなとこにいた。場所選びもうちょっと考えてよ。人が多いところがそもそも苦手なのは知ってるけどさ。
しかし、多分あれは淀だと思うんだけど、暗いからはっきりとは見えないけど多分そうなんだけど、誰かと話してるっぽい。なんだろうと思って近づいてみる。どうせまた絡まれてんじゃないの、と思ったが、話しかけているのはスーツ姿の男だ。変なツボとか買わされそうになってんの?
「1時間いくら?」
「……?」
「まあいいや。顔可愛いから高くても払ったげるよ。おいで」
「はあ」
「わ″ーっ!!!!!」
「うわ」
「ごめんなさいごめんなさいそういうんじゃないんですこの人!多分マジで意味わかってないと思うんですいません!知らない人について行くなバカ!謝れ!」
「たま?」
きょとんとした淀と、割り込んだ俺に面食らっているスーツの男。とりあえず引きずって逃げてから説明しようと手を引っ張って、俺が来た道に人が立っていたので急ブレーキをかけた。やばい、挟まれた。俺が掴んでいる力が強いからなのか、痛い痛い、と小さく文句を言っている淀を唸って黙らせると、スーツじゃない男が口を開いた。
「ほら、だから言ったろ。絶対未成年だって」
「流せそうだったのに」
「ダメだって……ボクたち、ほら帰んな。来ちゃダメだよ、こんなとこ」
「え、あっはい!帰ります!」
「1時間いくらって聞かれた」
「後で!」
「俺お金もらってやったことない……」
「語弊があるからマジでお前黙れ!ギターの話ね!ギターの!」
「あはは、見てたよ。さっき通りすがったんだけど、うまかったねー」
「……ありがとうございます」
「がんばってね。俺も昔やってたから、ちょっと親近感」
「お前なに会話弾ませようとしてるの」
「バレたか……」
「人のこと言えねー」
「はいはい。じゃあね」
「さようなら!」
横に退いてくれた男に、淀の手を引っ張ってダッシュで逃げる。あー、と何か言いたげだったが引きずられて着いてきた淀が、もう走れないとげほげほした頃ようやく止まった。
「あんなとこ行くなバカ!」
「え……なん……なんで環生いたの……?」
「迎えに行ったの!めちゃくちゃ探したわ!淀のことだからまたぶん殴られてんじゃないかと思って心配したの!」
「毎回変な人に会うわけじゃない」
「そうじゃないでしょうが!あの辺はダメでしょ!有名でしょ!?なんで知らないの!」
「なにが?」
「買われちゃうとこだったんだぞ!」
「……?」
淀がふらふらしてた辺りは、一人で歩くなってよく言われてる場所だ。何がどう危ないか、なんて細かいことは突っ込まれないけど、店の並びとか雰囲気でなんとなく察する。あやしめの店の客引きがいたりとか、未成年はとりあえず全方位で入れない感じの通りなのだ。年齢を詐欺ってたら話は別。淀は本当にそういう知識が全くない、というか興味がないことをマジで一ミリも知らないので、「?」ってまま巻き込まれかねない。さっきも、流せそうだった、って言われてたし。ていうか、こいつほんっと、相手も目的も問わずめちゃくちゃ絡まれまくるなあ!怖い!どう説明していいか分からないなりに捲し立てると、頷きながら聞いていた淀は一応納得したようだった。
「じゃああの辺は行かないようにする」
「そうして。ダメだから。ていうかもう淀は暗い道を一人で歩かないで」
「それは無理だろ」
「いやお前マジいつもギリッギリなの分かる?なんでそんな綱渡りになるの?危険を察知する力をもう少しつけた方がいいよ」
「はあ」
「お願いだからもう少し安全な世界で生きて」
「なんでお前にそんなこと言われなきゃならないんだ」
「友達だからでしょお!?」
「そ……ふうん……」
ちょっとむっとした顔だった淀が、俺の言葉を受けて、流石に隠せないと言った感じで顔を綻ばせたので、そういうとこなんだよ!と引っ叩いておいた。

数年後。
「環生。知らない人からうちの住所を書いた紙と俺の写真をもらった」
「ストーカーですね」
「そっか……噂に聞く……」
「もう家も把握されてる時点で引っ越した方が良くない?」
「そうかな」
「……写真どれ?」
「これ」
「盗撮ですね」
「それはそうだと思った」
「…………」
自分で分かった!えらい!みたいな顔でふんふん頷いているだけ、昔よりは進歩したのかもしれない。変な奴を引き寄せる体質は相変わらずだけど。
「淀顔可愛い寄りだからもっとちゃんと気をつけて。やべーやつばっか寄り付かせないで」
「かわいくない」
「そりゃ俺よりは可愛くないよ。でも世の中を大きく分けたら可愛い寄りの顔なんだから」
「お前だってかわいくないだろ」
「俺はかわいいですー。かわいいしかっこいいです。淀はそうでもないけど」
「そうだな」
「えっ?どこに対しての同意?俺が可愛いところ?」
「違う。そうでもないところ」
「だから可愛いって言ってんだろ!そうでもなくないの!」
「よくわからない」
「もー!」


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