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辻家がただだらだらするだけ


「王子様は言いました」
「……ぼくと、けっこんしてください……」
「そう。それ」
「ウフフ……」
「それを聞いたシンデ」
「シンデレラは!?シンデレラはっ、なんてゆったの!?」
「……ごめんなさい」
「ちがーう!さくちゃんちがう!よろこんでってゆったの!シンデレラは!はいよろこんでって!」
ハイヨロコンデー!と海が高音でシャウトしたが、それだと居酒屋感が増すからやめたほうがいい。
最近のお気に入り、シンデレラ。年長さんが発表会で劇をやるらしく、先日その練習を見学したんだとか。ストーリーに完膚無きまでにうっとりしてしまった海は、その日のうちに我が家の本棚をひっくり返して童話を探しまくり、シンデレラが無いことに号泣した。ないよ、そういうプリンセス系は。君男の子でしょう、だから読まないかと思って。口々にそう言う俺と航介を拒否った海は、保育園の絵本貸し出しコーナーでシンデレラを発見し、なんとか心を持ち直した。しかし大事にするあまり抱きしめて寝ようとするので、昨日買ってきた新しいシンデレラが、今俺が持ってるこれです。
うっとりにやにやと絵本の中のシンデレラを見つめている海が、うふん、と頰に手を当てるので、乙女か、と内心でツッコミを入れた。ただのブームだろうから気にしてないけど、なよっちいのは元々だ。誰の遺伝だろう。俺か。航介ではないことだけは確実だもんな。
「うふ……やさしくて、かわいい……うみも、シンデレラとけっこんする……」
「え?無理でしょ」
「え!?」
「シンデレラは王子様と結婚してるじゃん。もう結婚してる人とは結婚できないんだよ」
「……え!?」
ショック!って感じ。あからさまにオロオロした海が、結婚してたら結婚できないの!?さくちゃんは結婚しているの!?と微妙に答えにくい質問をぶち込んできたので、いやまあさくちゃんのことはいいじゃん、とはぐらかした。海はまんまとはぐらかされた。こーちゃんは?とも聞かれたので、こーちゃんのこともいいじゃん、と同じようにはぐらかしたら、流石に不審に思ったらしく仏頂面だった。
「さちえは?」
「さちえは結婚しているよ。お父さん、あー、俊一じいじと」
「ゆりねちゃんは?」
「ゆりは結婚してない。さくちゃんはゆりにそこらへんの適当な男と結婚してほしくない」
「じゃあうみ、ゆりねちゃんとケッコンする」
「……ダメ」
「なんでー!」
「ダメ。海に友梨音はあげない」
「さくちゃんのゆりねちゃんじゃないもん!」
「海じゃ友梨音が大ピンチになった時にえんえん泣いて守れないからダメ!」
「む……!」
思い当たる節があったらしい。ぐ、と黙った海が、じゃあ海は誰と結婚したらいいの?と問いかけてきた。結婚について考えるの早くない?まだまだかなり猶予あるよ。そう教えれば、大きなあくびを漏らした海が、もそもそと丸くなりながら言った。
「でも……ふあ。まゆせんせえは、はやくケッコンしなくちゃってゆってたし」
「……そういうことは言わなくてよろしい」


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