このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

辻家がただだらだらするだけ



「とー!もだちー!になるー!ためにー!」「……………」
「ひー!とはー!であうー!ん!だ!よ!」
「……………」
「空ちゃん、ちょっと声大きいかな……」
「え!?なに!?」
「ちょっとうるさい」
「しょうがねーじゃん、歌ってんだから!がっこで習ったの!しずかにきいて!」
「……………」
「陸ちゃん、重たくない?」
「……………」
首を横に振っているので恐らく意訳は、平気、らしい。平気そうに見えないけど。ぷるぷるしながらエコバックを背負ってくれている陸は、どう見ても重たそうだ。空と同じ量を入れたはずなのだけれど、どうして空は大声で歌いながら俺たちの周りをぐるぐる走り回り先に駆けて行っては遅えと吠えてまた走って戻ってくる余力を残していて、陸はぜえぜえぶるぶるしているのだろう。不思議だ。
航介メモに従って買い出しをしたところ、彼の持てる範囲で書かれているらしいそれはかなりの量だったので、俺一人じゃ抱えきれずに陸と空に手伝ってもらっている。車で来ればよかった、と思いかけて、車は航介と海が乗って行ってしまったんだった、と思い出す。一人で原チャで来て二人を留守番させるか、みんなで買い出しか、の二択だったわけだ。陸だけなら全然留守番させてもいいけれど、空が何かの拍子で家の窓を突き破ったりするかもしれないから、二人きりで残すのはまだちょっと危険すぎる。もう少し大きくなってからな。
「あ!かいだん!」
「空、空ちゃん、待って。ねえ、さくちゃんも陸ちゃんも君の速さにはついていけないから」
「さくたろおっそ!りくはいつもどおり!」
「……………」
ちょっとむっとした陸ちゃんが、体力消費に従ってのろのろ歩いていたのが、ちょっと早くなった。いつも通りではない、と言いたいのだろうか。でもふうふう言ってるからちょっと辛そう。どっかで休憩してあげようかな。
かいだんかいだん!と変な踊りを踊りながら跳ね回っている空にようやく追いついて、休憩。階段の何がそんなに嬉しいんだ。もうすぐ家だけれど、空のペースについていったらへとへとになってしまう。さらさらと風が吹いて大きな木の葉っぱが揺れて、気持ちよかった。俺と同じ感覚らしい陸が目を細めて、空は休憩に飽きたのか標識を登り棒のようによじ登りながら、さくたろー、なあー、と俺を見下ろしている。君には疲れるという感覚がないのか?
「なー、なあー、かいだんきょーそーしよー」
「なにそれ」
「このかいだんをー、さきに5回上がった人の勝ち」
「……上がって、帰って来て、また上がるってこと?」
「そー!ごかい!」
「いやちょっと俺は」
「よドン!」
「あっ」
空ちゃんが消えた。よドンって。「ーい」はどこに置いて来たんだ。抜け殻のように荷物を放り出して階段を駆け上がって行った空に、ぜひぜひしてたのがようやく落ち着いた陸が、ルールを反芻しているのか、ごかい、ごかい、とパーにした手を見下ろして、もそもそ荷物を降ろし出した。いや!やらなくていいよ!
「陸ちゃん倒れちゃうから!」
「……………」
ぐっと右手の親指を立てられたけれど、そういうところ航介に似ているけれど、左手がエコバックに絡まって抜けなくなっているので全然かっこついてない。もた…もた…と左手を抜いた陸が、階段を見上げて、よーいどん、のように体勢を整えて、一歩目で靴の紐を踏んづけて解けて、結び直すのにしゃがみ込んだ。その間に空がどたどたと駆けずり回っている。イヤッホー!なんて歓喜の雄叫びまで聞こえてくる。綺麗に靴の紐を結び直した陸が、もう片方もちゃんと結んでおこうと足を変えた辺りで、もう何度目か分かんないけど階段を転がり落ちるように駆け下りて来た空が、5段ぐらいすっ飛ばして宙返りして地面に着地した。すげえな。我が息子ながら目を剥いてしまった。体操選手ではないので思いっきり膝と手のひらを擦りむいていたけれど、いってえー!と言いながらまた駆け上がっていった。空の負傷を見た陸が、あわわ、という感じで自分が背負っていたリュックのポケットをまさぐって、絆創膏を出す。その絆創膏、心配性の陸ちゃんが持ってるけど、完全に空ちゃん用だよね。自分のために使ったことないんじゃない?
「おれのかっちー!いえーい!いえー!」
「……そら、」
「りくおっそ!りくっ、おそーい!のろりく!おっそ!」
「……………」
「あ!ばんそこえーど!あんがとー!」
数えてなかったけど5回目だったらしい。階段の頂上で逆立ちした空が、またも転がり落ちるように降りて来て、絆創膏を用意してくれた陸を軽快にディスって、ぷふー!と笑った。俺がこらって言う前に、陸の手から絆創膏を引ったくろうとした空に、陸が攻撃した。
「あいてー!なにすんだよ!」
「……ばかそら」
「はー!?いてっ、足ふむなよ!くつぬげちゃうだろっ、のろまりく!」
「……………」
「やめろってば!あっぬげた、ばかー!かむぞ!」
「そらのさるやろう」
「こらこら、小競り合うのをやめなさい」
「こじぇりやってねーよ!」
そんなことさくちゃん言ってません。
がうがうと喧嘩し始めた二人を引き剥がして、空の怪我に絆創膏を貼って、陸が怒る気持ちもよく分かるし今のは空が完全に煽っていたけれど靴を踏むのは陰湿だから良くないと諭し、空には自由すぎる行動を窘め。
「……つかれた……」
「さくたろじじいじゃん!じじたろ!」
「……………」
空この野郎。陸も今ちょっと笑ったろ。覚えとけよ、航介にも海にも言いつけるからな。


2/6ページ