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おはなし




四人一部屋から二人一部屋に昇格したので、じゃんけんで部屋割りをした。俺とりっちゃん、ボーカルくんとベースくんになって、りっちゃんがめちゃくちゃ文句言ってきたけど、じゃあ誰と一緒なら文句言わないんだろう。マネージャーさんとか?でもそれはそれで嫌がるのか。ていうか俺、ちゃんと決まった時間には起きるし。早起きはしないけど。寝坊もしないとは言い切れないけど。遅刻は多分しない。絶対ではない。
和室だったので、この場合お布団は自分で敷いたらいいのか、それとも誰かが敷いてくれるのだろうか、とぼんやり考えながら部屋の中をいろいろ見ていると、襟首を引っ張られた。
「わあ」
「これ」
「ん?」
りっちゃんがスマホを向けてきたので見れば、なんか美味しそうな刺身とか、分厚い肉とか、そういうのが表示されてた。なんだろう。これ食べたぞーって自慢?でも自慢だったらもっと自慢げに性格悪そうな顔すると思う。そうじゃないからそうじゃないんだろうな。
「うまそうだね」
「食べたいか」
「え。食べたいけど」
「わかった」
「……食べれるの?」
「食べれる」
「なんで?」
「なんでって。あ、金?出してもらえば」
「誰に?」
「言っとく」
「だから誰に?」
「今晩だから」

全然全くなにひとつ伝わってこなかったけど、どうも自己負担なしで美味しいご飯が食べられるらしいということだけでついてきた。なんだかんだ言ってそれが一番大事ですからね。
りっちゃんがニコニコしながらある程度下手に出ているので、多分えらい人たちなんだろう。この人たち誰なの?って今聞いたところで、恐らく答えてはくれなさそうだ。あとで聞こ。俺はこの人たちのことを知らないけれど、あっちからは知られているらしく、割と褒められた。悪い気はしない。おじさんが一人と、お兄さんが二人。なんかテレビとかで見たことある、料亭?みたいなとこに連れてこられたんだけど、ちょびっとずつ美味しいものがいろいろ出てくるので、「おいしい?」「これも食べる?」「若いんだからいっぱい食べなさい」「お酒飲む?」「お刺身好き?」「お肉もっと食べる?」とかいうのに全部頷いて返事した。えらい人は怖いこともあるのに、この人たちは優しい人たちだなあ。りっちゃんも美味しいものが食べたくてお呼ばれしたんだろうか、としばらく食べ物に夢中でほったらかしてしまった方へと顔を向けて。
「……ん?りっちゃんは?」
「あー、横畑さんが捕まえてるよ。今日仕切ってくれてるしね」
「ずっと断られてたしなあ。秋くんってお酒平気なの?」
「んー。そんながばがば飲ませなければ平気、と思います。あんま酔い潰れたりは……」
「そっかそっか。横峯くんお肉食べる?」
「食べます」
「じゃああげようねえ」
おいしい。おいしかったので、最初に座ってたとこにりっちゃんがいなくなってたことはすっかり忘れてしまった。それからしばらくいろんな話をしたけど、でもいつも「余計な口をきくな」「いらんことまで喋るな」「何も考えずにいろいろ言うな」って散々りっちゃんとマネージャーさんから言われてるから、さすがにちょっと学習して、これぐらいならセーフだろうというところまでで我慢した。プライベートのことまでは喋らなくていいんですよ、ってマネージャーさんも言ってたし。
それからしばらくして、明日リハなんだよね?そろそろもうこんな時間だし、なんて話がちらほら出てきて、もっかいりっちゃんがいた方を見たけど、いなかった。どこ行っちゃったんだろ。きょろきょろしてたらお箸おっことしちゃって、机の下を覗き込んだ。
「うわ!」
「ん?」
「り、りっちゃんが転がってる」
「え?あ、ほんとだ。いつから寝てたんだろ」
「横畑さんに聞かないと分かんないよ。あ、ダメだこのおじさんも寝てるわ」
「びっくりした」
「びっくりしたねえ」
「生きてるから大丈夫だよ」
よしよし、と慰められて、机の下から覗き見てしまった「床に転がってぐったりしてるりっちゃん」という衝撃映像は忘れることができた。怖えよ。
しかし忘れたところで、床に転がっているりっちゃんを連れて帰れる人間はこの中に俺一人なのである。泊まってるとことかは外の人に言わなくていいって言われてるし。幸いなことに、りっちゃんはしつこく揺さぶって起こせば起きる。まだ服着てるから。これで服を着ていなかったら完全に家と勘違いしてる可能性あるから起きないかもだけど、流石にそこまでではないらしい。起きてくださーい、と机に突っ伏してる方の人を起こしている人の横で、りっちゃんを揺さぶった。ら、隣の人が血相変えて止めに来た。
「えっ?強い強い!そんな乱暴な!」
「だいじょぶですよ」
「いや首ガックガクなってたよ!」
「だってこんぐらいしないと起きないし……」
「……起きる前に吐かない?」
「吐きそうな時はちゃんと出るって教えてくれますよ」
「そ、そう?そうか……」
「……ゔーん……」
「あ、起きた。秋くんが断れない勢いで飲ませたでしょう、あんたいい加減にしなさいよ」
「……あ?ああ……ああうん……すまん……」
「後でちゃんと謝ってくださいね」
「うん……」
ぼんやりして寝ぼけてるっぼかったけど、お会計はしてくれたので、マジで一円も払わずに美味しいご飯と美味しいお酒をいただいた形になる。呼ばれて連れられてきただけだけど、呼んだ本人がぐでんとしてるので、お礼はした方がいいだろうと頭を下げてありがとうを言った。ああ全然いいのいいの!って感じの返事だったけど。
「横畑さんがずっと秋くんのこと誘ってたの。忙しいからって断られてて、しつこく誘うのやめなさいってこっちも言ってたんだけどね」
「ねー。この人ここが地元だから、どうしてもって今回は聞かなくて。ドラマの主題歌書いてもらいたいって話もあるから、って無理やり約束取り付けたんだよ」
「へえ」
「しかもサシ飲みは恥ずかしいっつって俺たち連れてこられたし。乙女か?このおじさん」
「社員旅行だと思って楽しむことにしよっつってな」
「ほんとそれ……あ!こんな話してごめんね。気にしないで、明日がんばってね!」
「はあい」
「帰れる?タクシー呼ぼうか」
「あ、そんぐらいは自分で」
「横畑さん財布出しますよ!いいですね!」
「はいこれ、これ使って帰りな。足りなかったら名刺あげるからここに請求しな」
「えと、あの、いや」
「いいの!もらってあげないと多分明日このおじさん恥ずかしくて死にたくなるから!」
「顔を立てると思って!」
「え、あ、はい、じゃあ」
お金を握らされた。いいのかなこれ。俺がマネージャーさんに怒られない?お兄さん二人に小突かれながらおじさんがヨロヨロ遠ざかって、一応座敷からは歩いて出たけど道の端っこで座ってたりっちゃんが立ち上がった。吐く?それとも帰る?って聞いたけど、返事がないので帰りたいと思う。タクシーも捕まえられたし。
「どちらまでですか?」
「ええと、住所……」
「……東京都、」
「違う違う違う。黙ってて」
「……………」
「えっと、このホテルなんですけど」
「あー、大丈夫ですよ。車出しますね」
「はあい……」
「……?」
どこだここは……みたいな顔で外を見ているけれど、大丈夫だろうか。揺さぶりすぎて記憶喪失になったかもしれない。口とか半開きですげーぼんやりしてるりっちゃんはまあ割と珍しいので、ちょっとおもしろい。
ホテルの駐車場にタクシーがついたので、さっき握らされたお金で支払った。おつりちょっと余っちゃった。マネージャーさんに相談した方がいいかな。名刺もらってるし。ぼやぼやしたまま俺について車を降りてきたりっちゃんが、突っ立ったまま一向に進もうとしないので、服の袖を引っ張って歩かせた。確か部屋の鍵もりっちゃんが持ってる。
「ほらついたよ。鍵どこ?」
「……………」
「もー。鞄ちょうだい」
鍵とは?という顔をされたので、自分で探すことにした。りっちゃんの鞄は整理整頓されているので、どこに何があるかが分かりやすい。内ポケットに入っていたルームキーを取り出して鞄を返せば、鍵、の単語だけ残っていたのか、俺が部屋を開けている間に自分の家のキーケースを取り出していたので、しまわせた。さっきも自分の家の住所言いそうになってたしな。服着てるからギリ意識があるだけで、ほぼ寝てるのかも知れん。
「ついたよ!おやすみ!」
「……………」
「明日ちゃんと起きてね!」
「……………」
「もー!」
聞いているんだかいないんだか。靴だけはなんとか脱いだ、というか踏み散らかしたりっちゃんが部屋の中にふにゃふにゃ入ってって、近い方のベッドに上半身だけ預けて力尽きた。よじ登る元気はないらしい。服着てるから寝れないと思ってたけど、もしかしたら服脱いで寝るほど力が残ってないかもしれない。それはそれでラッキー。俺の家でも容赦なく普段通り脱いで寝ようとするから、頼むから服だけは着て寝ててくれ、そうでなければ外で寝てくれ、と頼んだ思い出が蘇った。全裸就寝は自宅だけにしていただきたい。
ほっとくわけにはいかないので、一応手が届くところにペットボトルのお水置いといて、あとベッドサイドのアラームをセットしといた。俺がこれで起きられるかは分かんないけど、りっちゃんは多分起きるでしょ。シャワー浴びてこよう。
お風呂場では、シャンプーとコンディショナーとボディーソープの違いが分かりにくくて困った。かっこいい筆記体とかじゃなくてもっとおっきく読みやすく書いといてほしい。泡立たないからびっくりしちゃったよ。備え付けで、バスローブとパジャマがあるので好きな方を使ってください、って書いてあったから、試しにバスローブを着てみた。浴衣みたいな感じかと思ったけど、思ったよりタオルって感じ。寝てる間に脱げそう。りっちゃんじゃないんだから。とりあえず喉乾いたからなんか飲もうと思ってベッドのある方の部屋へ行ったら、りっちゃんが起き上がってた。てっきりまだ死んでるもんだと思ってたから、めちゃくちゃびっくりしちゃった。
「うお、起きてたの」
「……………」
「お水飲んだ?」
「……うん」
「シャワー明日の朝にしたら?もー寝なよ、俺も寝るから。電気消していいよ」
「……………」
「?」
ベッドの上に座ってたりっちゃんがこっちに来たので、とりあえず待った。待ってたら手を引っ張られてベッドの方へ連れて行かれたので、いやまだ髪の毛とか乾かすしなんか飲みたいしスマホ充電したいから寝ないんですけど、と抵抗したものの、酔っ払っててもそもそもの力には変化はないらしかった。一応動きは止まったけど。なんだろ。もう寝るっつったから寝かそうとしてんの?いいから自分が早く寝てよ。数秒無言の時間が続き、ぼんやりこっちを見ていたりっちゃんが何かに納得したように頷いて、思いっきり背中を突き飛ばされた。
「ぎゃっ」
「……………」
「い、いった……はな……」
持ち堪えるとか受け身を取るとか、そういう時間はなかったので、普通にベッドに顔からダイブして鼻を強打した。転ぶ時には手を出せばいいってことなんて知ってるけど、頭で分かってるのと咄嗟に体が動くかどうかって別問題なわけだから。ふがふがしながら鼻を押さえて、痛みに足をばたばたさせていたもんだから、気付くのが遅れたのは確かだった。
「うぅ、……?」
「……………」
「……りっちゃん?」
「……………」
そういえば、なんでずっと無言なんだ。返事ぐらいしてよ。怖すぎる。なんで呼びかけたかって、俺はうつ伏せになっているから本当にそうであるかどうかは見えないけれど、どう考えてもりっちゃんが俺を囲うかたちでベッドに手と足をついている感じの重さが感じ取れるからである。ふかふかなので、スプリングが鳴ったりはしない。けど、こう、多分四つ這いで覆い被さられてるんだよな?って想像するに難くない感じがする。ベッドが重みでへこんでるところとか。りっちゃんは酔っ払っているので、体温とか呼吸音とか匂いとか。そういう「なんとなく」の予測でしかないのだけれど、限りなく現実に近い気がする。振り向く勇気が今のところない。逃げられる確証もないので。
どうしたもんだろうか。説得する、は多分無理だ。話が通じる理性があるとは思えない。よく考えたらそれは普段からそうか。抵抗する、も多分意味ない。りっちゃんのが力強いし。じゃあもう打つ手ないじゃん。ここでいつもこうやって、打つ手無し!残念!ってするから最後までずるずるに流されるんだろうなあとは自分でも思う。めんどくさくなっちゃうんだよな。でも今のこの状況下で「逃げるのがめんどくさかったのでそのまま流されました」は、多分ものすごいダメなことだということぐらいは、一応わかっているわけで。
「……どいてよお」
「……………」
「おーい……」
返事なし。一応逃げられないかと思って体を引こうとしたら、顔の横に手を突かれた。無言なくせにこんなにはっきりと意思を伝えてくることある?ズルだよ。顔を見ようと思ったら、後頭部に反対側の手をかけられて、そのままするすると首筋へ降りていったので、背中がぞわぞわした。バスローブの襟元で手が止まって、爪先が頸を掻く。逃げたら絶対ここ引っ張られるな。首絞まっちゃう。
「ぅひ、っ」
変な声出た。ぐ、と襟を引かれて服を肌蹴させられたからなのだけれど、俺が裏返った声をあげたからなのか、りっちゃんが止まった。でもこの人、止まってもすぐ動き出すからな。話を聞いているようで全く聞いていない。だとしたらもうこの先なんとか出来るチャンスとか二度と訪れないと思う。とりあえずこの体勢をなんとかしないと。俺から一度離れさせて、頭から水をかけるんでも椅子かなんかで殴るんでもいいけど、正気を取り戻してもらう必要がある。よーし、やるぞ。やるぞー、と思わないとまた土壇場でやっぱこの後のことがめんどくさいからやめとくかと思うであろう自分が目に見えるので、すごく気合を入れて、やるぞ!と思いながらそおっと手を伸ばして枕を掴んだ。一時停止が切れたらしいりっちゃんが、また動き出したのに釣られるように、体を無理やり仰向けに寝返らせて。
「ごめん!」
「ぐえっ」
勢い任せに枕でぶん殴ってしまったので、りっちゃんのどこに当たったかは分かんないけど、変な声と共に俺の上からいなくなって、というか吹き飛ばされて消えたので、まあ結果良しとしよう。逆上されたら最後だと思って、急いでベッドから降りてとりあえず手近にあったハンガーを構えたんだけど、ベッドの端っこに横たわってるりっちゃんは動かなかった。え?死んだ?まさかとは思うけど。
「……りっちゃーん……?」
「……………」
「……寝たふりー……?」
「……………」
ハンガーで突っついたけど、ぴくりともしなかった。ただ、背中が動いてるので息はしてる。息してるならいっか。見た感じ、血とか出てなさそうだし。
バスローブは危険だということがよく分かったので、パジャマに着替えてから寝た。



「……んん……?」
チャイムの音がする。枕元に放り出されてたスマホを見たら、まだ朝5時だった。無理。起きる時間じゃない。布団を被り直して寝ようとしたら、またピンポンが鳴った。無視して寝ようと思ったけど、どっかで電話っぽい長さでスマホが震えてる音がしてる。俺のじゃない。ってことはりっちゃんのなんじゃないの?無視を決め込もうかと思ったけど、今日リハだし、なんかあったのかもしんないし、と思って、結構頑張って布団から顔を出した。
「うわ」
「……あ″……?」
「朝見るもんじゃない」
「……開けてきて。扉……電話、マネージャー……」
「服着たらね……?」
「……無理……」
マジで無理そうな声だったので、全裸のりっちゃんは放って、扉を開けることにした。スマホには確かに「マネージャー」って書いてあったし、ピンポンしてるのもそうだろう。目をこすりこすり鍵を開けたら、おはようございます、と全然眠くなさそうなマネージャーさんが立ってた。
「どうかしたんですか?」
「……なにがあ?」
「秋さんから「死ぬ」「来て」と連絡が来ましたけど」
「そうなんだ……」
「秋さーん?返事できますー?入ってもいいですかー?」
「いいよお、俺寝てていい?」
「いいですよ」
失礼しますね、と入ってきたマネージャーさんの後をついて、自分のベッドに帰る。もそもそと布団を被って寝直そうとしていたけど、聞こえてくる会話につい口を挟んでしまった。
「うわ酒くさ。信じられない」
「……………」
「自己管理できないなら管理してあげるからそう言ってください」
「……できる……」
「できてない。どうしたらこんなことになるんですか。また女ですか?」
「……………」
「お水飲みます?」
「ん」
「正直に話せる人にだけあげます。どこの女ですか?」
「……ちがいます……」
「水はいらないということで」
「いる……」
「セルフコントロールの文字をスマホのロック画面に設定してください」
「……………」
「あ。生意気ですね。自分で呼んだくせに都合が悪くなったらそうするんですか。押さないでください」
「……ちが……ゆう……」
「横峯さんは寝ました」
「起きてるよ?」
「あ、起きてましたか。すみません」
「今回はほんとに女の子じゃないんだよ。なんかねえ、えらい感じのおじさんと部下っぽいお兄さん二人と、昨日の夜ご飯食べに行ってー、すげー美味かったんだけど、りっちゃんはいっぱい飲まされて潰れちゃったから俺連れて帰ってきたの」
「……本当に?」
「……………」
「最初からそう言いなさい」
「……………」
こくこく頷いたものの、納得いかないのか人殺しそうな目でマネージャーさんを睨んでいるりっちゃんが、さいふ、と俺を指差しながら言うので、そういえば思い出した。この人だよ、帰りのお金も貰っちゃったけど余ったから返さなくちゃ、ってマネージャーさんに名刺とお金を渡せば、呆れ顔で受け取られて、ちらりと目を落として、変な顔でりっちゃんを見て、俺を見て、また名刺を見た。
「……二日酔いですか?」
「……そう……」
「……仕事の約束はできるだけ僕を通してやってくれません?」
「……………」
「まあいいです。わかりました。お水はあげましょう」
ペットボトルの蓋を開けてりっちゃんに渡したマネージャーさんが、これはお預かりします、と俺に言った。どうぞどうぞ。
動けそうですか?必要なものは?リハの入り時間までにどうにかなります?とかいろいろりっちゃんに聞いたマネージャーさんが、聞く限りはほぼ返事はなかったっぽいけど、なにやらメモして扉の方へ向かった。かと思ったら足を止めて、布団の隙間から覗いてた俺を見て。
「必要なものを集めてくるので、それまでの間だけお願いしてもいいですか?」
「いいよお」
「すみません。貴重な睡眠時間を」
「いつでも寝れるから平気」
「そりゃそうですけど。すぐに戻りますね」
がちゃん、と扉が閉まって。数分静かになったものの、りっちゃんがもぞもぞしだした。よく見たらその辺にめちゃくちゃ脱ぎ散らかしてあるな。勝手に服が脱げるわけはないので、昨日俺が枕でぶん殴って寝てから自分で脱いだんだろう。気づかなかったけど。
「ゆう。ゆう」
「ん?」
「吐く」
「えっ?嘘」


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