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橋渡し





「あ。ボーカルくん」
「ぎたちゃーん」
「俺死んだ?」
「死んでない死んでない。怖いこと言わないでよ!」
「どしたの?」
「どしたもなにも、ぎたちゃんが突然来たんじゃん」
「じゃあやっぱ俺死んでるじゃん……」
「死んでないってば!なんかあれだよ、夢的なやつだよ。ユメマクラに立ったんだよ。俺が」
「じゃあボーカルくんが来てるでしょ」
「違う。ぎたちゃんが来た」
「よくわかんない」
「あ!ねえ!結婚おめでと!」
「ありがとー」
「いつから付き合ってたんですか?」
「ううん……」
「俺が彼女欲しいって言ってる間内心で笑ってんですかあ!?」
「そんなことは……」
「なんなんですかあ!?この野郎!あの綺麗なお姉さんなに!?そうやってさあ!ぎたちゃんはさあ!」
「泣かないで」
「うるせえバカ!もう絶交だから!」
「えー。そっかあ」
「……絶交は嫌だとか言ってよ……」
「仕方ないと思って」
「そんなあっさり受け入れないでほしかったんだけど」
「ボーカルくんはなにしてんの?」
「暇してる。時々みんなのこと見てる」
「神様みたい」
「べーやんがこないだお風呂で寝て死にかけたのとかも見てた」
「あの、あれ?天のお告げみたいな感じで起こすの?」
「ううん。頭蹴った」
「殺しに行ってるじゃん……」
「でもすけすけしちゃうから意味ないんだけどね」
「そうなの?じゃあもっと耳元とかで叫んだりしていいよ」
「そしたら突然俺の声が聞こえるようになったらその瞬間に鼓膜破けるけど」
「じゃありっちゃんでまずやって」
「一番お化け信じなそうだから何があっても聞こえないよね?俺の声」
「まあそうかも」
「あとさー、利香子と仲良くしてくれてんでしょ。ありがとね」
「そお。おもしろい」
「野蛮だろ。巨人だし」
「うん」
「でも女の子だから優しくしてあげてね」
「お兄ちゃんとして気になりますかね」
「ううん。あいつ優しく丁寧に扱わないと突然キレ出して手がつけられなくなるから」
「うーん……それは身内だけなんじゃ……」
「あ。そろそろぎたちゃん帰った方がいいよ。タクシー来た」
「タクシーあるの?」
「呼んだから。代金は持ってあげるから」
「あの世で使える通貨俺持ってないしね……」
「だから死んでないってば!」
「ボーカルくんも一緒に帰ろうよ」
「えー、やだよ。だって帰っても骨じゃん、さすがにこの歳にもなって骨はキツい」
「そういう理由?」
「大人がハロウィンで本気のコスプレしてると引いちゃう派だから……」
「骨でもいいじゃん。帰ろ」
「でも骨だと歌えないし。やだよ」
「あ、じゃあ、俺がここにいるからボーカルくんがタクシー乗んなよ」
「えっ?それは俺がぎたちゃんの代わりに大人のお姉さんとの結婚生活を楽しんでいいってこと?」
「違う、待って。そこを譲りたいわけじゃないから、ねえ、なに走ってんの!?」
「子どもは2人欲しいからだよ!」
「ふざけんな!止まっ、この、俺ボーカルくんより若いから!あと背も高いし!」
「なにが関係あるんだよそれ!」



「……いっ……、……?」
「あっ」
「ぎ、ぎたーく、救急車っ、すぐ来るから、う、動いちゃダメだって!」
「名前は?」
「……りっちゃん……」
「俺じゃないんだけど」

リハ中に照明が落ちてきて下敷きになったんだって。九死に一生スペシャルじゃんね、と笑ったらりっちゃんにすっ叩かれた。こっち怪我人なんですけど。ベースくんはずっと泣いてるし。薫さんもだけど。
ガワが包帯だらけな上になんかいろんなので固められてるから重症に見えるけど、そんなでもない。骨とか折れてないし。でも脱臼はしたっぽい。なんか足のなんとかって関節だっけ、よく覚えてない。思いっきり打ったのは頭で、それもよくわからんいろんな機械に乗せられてたくさん検査した。問題ないって。お医者さん曰く、一応今日のうちはここで寝てた方がいいということらしい。急になんかなったら困るからね。泣きすぎてぐったりしてる薫さんとベースくんがパイプ椅子に座り込んでいる。なんかあったら押せと俺にナースコールを握らせたりっちゃんが口を開いた。
「三途の川見えた?」
「うーん……ステージが見えた」
「そりゃリハ中に事故ったからだよ」
「そうじゃなくてえ……」
なんか、よく覚えてないけど。観客どころか誰もいないステージと、抜けるように晴れた青い空を見たような気がするのだ。


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