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橋渡し



「……………」
「あっどらちゃん起きた?」
「……は?」
「おはよ」
「……おはよ……どこ、なに……?」
「ここ?ここはあの世なんだけど」
「……俺死んだってこと?」
「死んでない。あのねえ、今俺ここで働いてて、それというのもね、まあ話は長くなるんだけど」
「じゃあいい」
「聞いてよ!」
「本当に全然興味ない。短くまとめて」
「えー。むずかしい」
「……なんか俺足ぼやぼやしてない?」
「えー?そんなわけ、うわほんとだ。怖」
「なんでこっちが怖がられなきゃいけないんだよ」
「なんていうかねえ、お仕事頑張ったからボーナスもらったの。それがお金とかじゃなくて、知り合いをこっち側に呼んでいいよーって感じで」
「説明に戻んなや、俺の足」
「そんでそれでぎたちゃんとどらちゃんとべーやんで申請通したんだけど」
「なんで3人も道連れにすんの?まだやりたいことあったし仕事終わってないのに」
「だから死んでないってば!呼べるってだけなの!ちょっとお話ししたかっただけ!誰も知り合いいないんだもん!」
「知り合いいたら嫌だろ……」
「どう?どらちゃん楽しい?生きてて」
「……どうって……死んだ人に向かってどう答えるのが正解なの……?その質問……」
「えー。こっから見てると楽しそうだから、楽しいかなって聞いただけなんだけど」
「うーん……普通」
「普通かー」
「時々つらい」
「まあね。時々はつらいよね。飲みすぎた翌朝とか」
「そんなことより俺の足なんでぼやけてんの?これ戻る?嫌なんだけど、こんな足」
「どらちゃんが幽霊とか魂とか彼岸と此岸とか信じなさすぎて相性悪いんじゃない?だからぼやっとしてんだよ」
「早く帰りたい」
「もうちょい待って。タクシー来るから」
「タクシー来んの?」
「なんだっけ、あれも呼べるって。なんだっけな、あの、どらちゃん」
「知らねえよ、なんなんだよ」
「なんか、昔の車みたいなのに顔がついてんだよ。それも呼べるよ」
「バケモンには乗りたくない」
「そう?意外と気さくだしいいやつなんだけどな」
「ボーカルくんは?楽しい?」
「普通」
「……普通か……」
「時々いい。食堂の日替わり定食がかき揚げ丼の時とかテンション上がる」
「単純で良かったな」
「あ、タクシー来たよ」
「運転手骸骨じゃん」
「嬉しい?」
「いや引いてる」



「……………」
「あ。りっちゃん、頭血ぃ出てるよ」
「……すごい痛い……」
「足ぐねった?」
「……足より頭が痛い……」
「今ね、マネージャーさんが人呼びに行った。俺はりっちゃんが動かないように見張ってる役目でね、ベースくんは人呼びに行った。あれ?マネージャーさんと被ってんね」
「……………」
「寝るの?あ!頭打った後寝たらやばいんだよ!こないだテレビで言ってた」
「痛い痛い触るな」

階段から落ちたらしい。踏み外して下まで転げ落ちて頭を打ったらしい。全部聞いた話なのはいまいち記憶にないからだ。疲れが溜まってい自覚はあるし、めちゃくちゃに眠かったのも覚えているので、恐らくそのせいだと思う。マネージャーには「一番先頭で階段降りてた人が落ちてくれて助かった」って言われた。こいつ人のことなんだと思ってんの?確かに、最後尾が足踏み外して転げ落ちたら前の人全員巻き込むことになるから、それよりはマシかもしれないけど。
「なんか俺りっちゃんが頭に包帯巻いてんの見たことある気がする」
「実際あるだろ」
「なんで頭打ったのに足も包帯巻いてんの?」
「捻挫したから」
「見たい。どんなもんか」
「すげえ腫れてるけど。見る?」
「骨見えてる?」
「見えてない」
「ほ、包帯、あの、勝手にとっちゃダメだよ……」
「バレなきゃ平気だよ」
「うわー、痛そー。ぎゅってしていい?」
「したらマジで殴る」
医者には、頭は打ったもののまあ特に異常ないんですけど過労で足踏み外してると思うんでしばらく休んだ方がいいんじゃないですか?って言われた。それをそのままマネージャーに伝えたら、真面目な顔で聞きながら頷いてた。かといってどうなるかは知らないけど。なんかついこないだギターくんの上に照明が着地した時にも病院にお世話になったし、そのごたごたで急遽休みが増えたりしたから、あんまり期待はしてない。一応フェアじゃないかと思って、医者に言われたことはそのまま二人にも伝えておいた。
「か、過労……」
「ここ数日忙しかったから。配分ミスっただけ」
「おやすみ、あの、しばらくお休みした方が、ドラムくん、いろいろしてくれてて忙しいし」
「りっちゃん忙しいの?」
「一先ず片が付いてるから今はそうでもない」
「だって。ベースくん」
「うう……あの、おれ、俺からもマネージャーさんに、あっ、なんか手伝えることとかあったら……」
「練習したら?」
「ぐ……」
「どーせりっちゃん夜更かししてたんでしょ」
「寝てはいたんだけど。朦朧としながら仕事する方がコストパフォーマンス下がるし」
「なんて?」
「……えと……ちゃんと寝ないと効率が悪いってこと……コストパフォーマンス……?」
「へえ。じゃーそのコストパがあれだったんたね」
「コストコみたいに言うなよ……」
「一日8時間は寝なきゃいけないんだよ。前なんかで見た」
「8時間も寝たら頭痛くなる」
「もう血ぃ出てんのに?」
「そういう意味じゃ……ベースくんもうこいつ連れてどっか行って欲しいんだけど……」
「ぇあっ、うん、う、うるさかったよね、ごめん、あの、おじゃましましたっ」
「あう、ベースく、おええ、引っ張らないで」
ベースくんがギターくんの襟首を引っ掴んで慌てて帰り支度を整えている。順番、逆じゃダメだったんだろうか。首根っこを掴んでからばたばたしているので、ギターくんが振り回されている。ちょっと面白い。なにかあったらまたマネージャーさんに伝えるので!後でまた連絡を伝えに来ると言っていたので!とあせあせしたベースくんがギターくんを手に装備したまま病室を出て行って、最後の捨て台詞が投げられた。
「りっちゃんこの病院オバケ出るって!」
「オバケ一度も見たことないから信じてない」
「つまんねー!バカ!」
「しっ、静かにして!」
「ぐええ」


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