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みじかいのまとめ




町田くんがうちに遊びにきた。おいしいんですよ!とちょっと良さげな瓶のウイスキーを持ってきてくれて、それならばと俺がおつまみを用意してる間に、アルコールにはちゃめちゃ弱いくせに意地を張った中原くんが二口で寝た。一口でぐわんぐわんしてるのに無理やりもう一口飲むから。
「あ、これね、こないだみっくんと食べに行ったんですよ。バターチキンカレー」
「おいしそう」
「うまかったすよ」
「明日作ろっかな……」
「じゃあ今度食べさしてください」
中原くんは俺の膝の上でほっぺ真っ赤にして寝ているので、町田くんと二人でのんびり話しているのである。ぶちちゃんは中原くんの足の隙間に挟まって丸くなっている。これは淀と食べに行った親子丼、と最近食べて美味しかったものの写真をスマホで見せてくれていた町田くんが、満足したのか顔を上げた。
「新城さんもないんすか?なんか、おいしかったお店とか」
「あんましお店に食べに行かないからなあ」
「撮影終わったら2秒で帰るから誘ってもらえないんじゃ……」
「それはそうなんだけど」
「振り返ったらいないのやめてくれません?あと外で会うとめっちゃ他人行儀にすんの」
「でも俺大人でかっこよくてストイックなイメージあるから……」
「大人でかっこよくてストイックな人はリビングの床に大の字に転がってじたばたしたりしません」
「誰それ?」
「さっきのあんただよ」
「それは中原くんが町田くんとはソファー隣同士でぎゅって座るのに俺の時は必ず体を引くからいけないんだってさっきも言ったじゃん」
「俺は、いい歳した大人が全力の駄々捏ねしてんの見たくなかったんすけど」
「ない。ここ最近は外で食事してないわ」
「こんなに探してないとか!」
だらだら喋りながら俺がスマホをいじって写真を探しているのをずっと待っていてくれた町田くんが、ぐったりと体の力を抜いた。その代わり家で作ったものならある。上手にできたやつは、次回の参考になるように写真撮ってるから。
「これはエッグベネディクト。うまくできた方のやつ」
「失敗作もあるんすか?」
「ある。そっちは写真撮ってない」
「お店のやつみたい。おしゃれなカフェにありそう」
「これは天ぷら蕎麦」
「天ぷらの種類やばくないすか?」
「作ってる時超楽しかった」
「……新城さんて、どんどん上達するのにどこにも披露しないですよね……」
「料理スキルは完全に家用だから」
「これも家です?意味わかんない」
「ラムチョップはフライパンでできるよ。簡単な方だし」
「世の女子が敵に回りますよ」
「そうかなあ」
もっと見して、と言われたので、スマホごと渡す。困るようなもの入ってないし。うまそう、これは食べたことある、とすいすいスマホを操作してた町田くんが、突然大声と共に投げつけてきた。
「ギャー!」
「痛い」
「食べ物ばっかりだったから油断してたじゃないすか!バカ!」
「なにが?」
「突然18禁が殴り込んできたんですけど!」
「ああ、これは10日間お預けしたら嬉ションした中原くんがあまりに恥ずかしがるから無理やり撮ったやつ」
「解説いらない!」
「おかしいな、ちゃんとフォルダ分けといたのに。全部見れるやつに戻ってる」
「う、あ、それは俺、間違えてタップしたかも……スクロールしたら戻ったから、いっかと思って……」
「じゃあ自業自得だね。これは縛って2時間放置したら腰砕けになっちゃった中原くん」
「見せないでいい!」
いたくショックを受けたようでかわいそうなので、耐性をつけるために解説付きでいくつか見せてあげたんだけど、手で顔を覆われてしまった。指の隙間から目は見えてるけど。それ意味ないよね。
「……まさかとは思うんですけど、飯食いに行った写真とかないってことは、自分で作った飯の写真と、中原さんの変な写真しかそのスマホ入ってないってことじゃないですよね……」
「変とは失礼だな。これなんかかわいいよ、お風呂あがりにお茶飲みにきたらリビングで滑って転んでそのまま泣いちゃった中原くん」
「ちょっと貸して」
スマホを奪い取られて、ひいい、あわあ、と変な声を上げながら操作している。そんな声出すぐらいなら見なければよくない?それとも何か探してるんだろうか。自分も入ってるのがいいのかな。町田くん自分のこと撮るの好きだもんね。後ろから覗き込んで口を出す。
「中原くんと町田くんがいちゃいちゃしてるのはもうちょっと前だよ」
「うるさい!違う!」
「いちゃいちゃしてたじゃん……女子高生みたいに……」
「そこが違うわけじゃなくて、めんどくせ!ていうか量が多い!」
「昔はビデオカメラで撮ってたんだけど、わざわざ出すのが面倒だったから。今はスマホがあるから便利でねえ」
「だからこんな蠱毒みたいなデータフォルダ……一応ぶちちゃんの写真とかもあるんすね……」
「動画は流石に再生したら中原くん怒ると思うから再生していいよ」
「怒らせたくてやってんすか?気持ち悪」
「言葉選んでよ……多少傷つく……」
ある程度まで遡ったところで、もう嫌になったらしい。うんざりした顔で返却された。確認したがったの町田くんじゃんか。別にハメ撮りとか抜き目的の写真ばっかり撮ってるわけじゃないし、普通の中原くんも撮ってるし。服を着てなくて啜り泣いて喘いでる時の方が撮りたくなっちゃうだけで、でもそりゃそうじゃない?今のこの一瞬を残さないと!って思うじゃない?そのためにカメラ機能ってあるんでしょ。
このスマホ絶対落とさないでくださいよ、社会的に自殺するのと同義ですよ、と眉を顰めながら言われて、頷いた。
「大丈夫。他人に中原くんオカズにされんのはもう懲り懲りだから」
「……いやそうじゃなくて……」
「ん?あ。バックアップはちゃんとパソコンとクラウドに両方保存してあるから大丈夫」
「……うーん……」
「え、なに?あっ、自分の写真が流出するのが嫌とかそういう?」
「今どうしたらあんたを人の道に戻せるか考えてるんで黙ってください」
「こんなに真っ当なのに?」
「その信じらんないみたいなツラやめてもらえます?」
「中原くんと比べたら俺のが真っ当に社会生活営んでるでしょ?」
「……言い返しにくいところに……性格悪いことこの上ないですよね……」
「あ。これおいしかったんだけど、町田くん餃子好きだよね」
「……この状態からまだ食べ物の話ができると本気で思ってるのちょっと怖いんですけど……」


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