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みじかいのまとめ



土曜日。午後2時。おだやかな春の日。
「……………」
「……べんと?」
「……………」
「……………」
弁当が寝ている。爆睡。声かけても全く起きない。超レア。いや、そりゃ夜は寝るんだけど今は真昼間なので、だから珍しいのだ。寝起きが悪いから夜寝ついたらなっかなか起きないし、朝もすんなりとは起きない。だからなのかなんなのか、あまり日中眠そうにしていることがないのだ、弁当は。俺なんか講義中とか眠気との戦いだったよ。勝てた試しない。
「……………」
とりあえず起きてたら嫌がられるだろうからと思って、写真をめっちゃ撮っといた。眼鏡かけたまま寝てるけど、痛くないんだろうか。クッションの上に座ったまま、机についた崩れた頬杖で上半身を支えている。さすがにこれをどかして横に寝かしたら起きるだろうな。それはもったいないのでやめておこう。音のしそうなものに注意しながら、薄いブランケットを肩からかけた。寝冷えしたらかわいそうだし。
「……………」
「……………」
「……………」
いつから寝てたんだろう。今日は前々から天気がいいことが分かってたから、家の中の全ての窓を開けて掃除するって弁当は張り切ってた。午前中は埃落としたり布団たたいたりして、近所の牛丼屋で期間限定のやつテイクアウトしてきて二人で食べて、午後はお風呂掃除を命じられてしばらくそっちにかかりきりだった。足元に散らばってる掃除用具からして、サボってたわけじゃなさそうだし、弁当がサボるとかはあり得ない。分解されてる掃除機の中のゴミでもとってたんだろうか。そんで途中で、張り切りすぎて寝ちゃったとか。なにそれ、かわいいかわいいかよ。どこまで終わってるかは分かんないけど、片付けられそうなものだけでもしまっておこう。一通り部屋の中を、できるだけ静かに片付け回って、ゴミ袋の口を縛り終えても、弁当はそのまんま固まってた。
「……………」
静かだ。外を走り抜けて行ったバイクの音が響いてくる。あと、子どもの笑い声とか。よーく耳を澄ますと、どっかの家のテレビの音。弁当の前に座ってぼんやりしてたら、なんかこっちまで眠くなってきた。休みなのに朝からいっぱい動いたし、まだお腹も空いてないし。でも二人して寝たらこのまま夜になると思って、無理やり欠伸を噛み殺した時、弁当の頭がずるって滑って落っこちたのが見えた。
「うあぶねっ」
「っい″、っ……!」
「あっごめ、全然間に合わなかった!痛かった!?大丈夫!?すげえ音したけど!」
「っ……ゔぅ……」
手は伸ばしたものの、全く間に合わなかったもので。弁当の頭が机の天板に思いっきり打ち付けられて、鈍い音がした。恐らくは打ったんだろう額のあたりに手をやってぶるぶるしている弁当の顔を上げさせる。打ったなら冷やすとか、鼻血出てたりしたら大変だし、と思って肩を掴んで引っ張り起こした。相当痛かったのか声もなくされるがままの弁当から、眼鏡が落ちた。
「うわおでこ痛そ……あっ!?壊れちゃったよ!ねえ!弁当!」
「ぅ、なに、なにが……?」
「なんか変なパーツ取れちゃってるけど!」
「おでこ……?」
「めがね!」
「……換えあるからいいよ……」
「ええ……?」
ていうか、変なパーツ取れてるって言われた返しが「おでこ?」っておかしいだろ。寝ぼけてるか、頭打って変になっちゃったか、どっちだろう。しばらくしたら青痣になりそうな打ち傷に濡らしたタオルを当てながら、眉根を寄せて痛みに耐えてる弁当を覗き込んだ。
「病院行く?」
「……平気」
「じゃあ眼鏡屋さん?」
「一応スペアあるから……明日でいいよ」
「俺も行く」
「一人でいい」
とは言ったものの、随分昔に作ったものを予備として持っていたらしく全く度が合わなくて、扉に突っ込んだり箸で宙を切ったり水物を三連続で零したりしたので、次の日ついて行った。



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