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みじかいのまとめ





「見て見て中原くん、ぶちちゃんと同じ柄のねこみみ」
「ほんとだ」
「つけて」
「嫌だ」
「いまここでつけるか、泣いても吐いても漏らしても終わらないセックスするか選んで」
「つけます」

「なんか髪の色と合わんね」
「……なんでつけさしたんだよ……」
まあ中原くんは人間だからしょうがないよね。嫌そうな顔でねこみみをつけた中原くんがソファーに座っている。その隣に座れば、ずりずりと体を引かれた。かなしー。襟首を掴んで無理やり引っ張り寄せたら、耐えるとか持ち堪えるとかいう言葉と無縁の非力な中原くんは悲鳴と共に見事俺の膝の上にすっとんできた。鼻が太ももにぶち当たったらしく、唸りながら悶えている。引っ張った俺もいけなかったけど、無抵抗にされるがままな上に当たりどころが悪くならないように受け身も取れない中原くんも悪いよね。この場合の悪いっていうのは良いって意味ね。
「は、はなぢ、でた」
「出てない、大丈夫。いつも通りかわいい」
「いひゃい」
「涙目になっちゃってんの超興奮する。動画撮っていい?」
「ばかあ」
「泣く?泣くの?ズボン脱ぐから待って」
思いっきり引っ掻かれた。猫だけに。中原くんのよわよわパンチじゃ並大抵の人間は怪我しないけど、一応は顔もお仕事の内の俳優業相手に一ミリも躊躇わず容赦なく爪立ててくんのダメだと思うよ。マイナス五点。引っ掻こうとしたのを片手で呆気なく止められてそんなに力入れてない俺の腕の下敷きになってみーみー文句言ってるところはプラス五兆点。ここで問題ですよ。差し引きはいくつになるでしょうか。
「離せばかっ、重い!」
「もうちょっと暴れて全身にじんわり汗かくぐらいまで行ってほしい」
「……きっもちわる……」
「あれ。抵抗おしまい?なーんだ」
じたばたしなくなったので手を離した。それでも大人しく人の膝の上で丸くなってるので、頭を撫でてあげた。えらいえらい。ねこみみのカチューシャ部分が見えないように上手く髪の毛で隠しながらなでなでしてたら、目があった。ふてくされている。
「なあに」
「……撫でんな」
「ねこちゃんはかわいいのが仕事でしょ?そりゃ撫でるよ。撫でまくるよ」
「その猫扱い、ぅぐ」
「よーしゃよしゃよしゃ」
顎の下に指を通して、くすぐるように撫でる。ぶちちゃんは俺のことが嫌いなので撫でようとしたら引っ掻くけれど、中原くんがこうやってぶちちゃんを撫でているのは見たことがあるのだ。おでことかこめかみとか耳の周りとか、ぶちちゃんがうっとりしそうなとこを集中的になでなでする。中原くんは人間だからこれじゃ気持ちよくないだろうけど、と思っていたんだけど中原くんは俺のことが大好きすぎるので一定時間以上触っていたらそれがなんであれ気持ちよくなっちゃうんだった。うっかりミス。
「尻尾も使う?中原くん」
「ふ、ぅう……しっぽ……」
「そー。どうするー?」
「う……」
紅潮した頬に手を当てて、爪先で顎の下をなぞる。困ったように下がった眉に、もう一押しかな、とにっこりして、だから気がつかなかった。
「わ、っあ」
「うわ、あっ?ぶちちゃん?」
「あぇ、ぶちどした、んゆ、なめ、っんん」
「えっ……えっちょっと……」
「んぶ、ぷぁっ、ぶち!こら、んぅう」
猫らしく足音を殺して寄ってきていたぶちちゃんが、すたりと中原くんの顔の目の前に着地して、俺の手を無理やり退かして中原くんの顔を舐めながらすりすりしてじゃれている。だめ、と中原くんも捕まえようとしてはいるものの、いつもに増してへろへろの手では逃げようと抜ける猫は捕まらないらしく、首に巻きつかれたり胸の下に入り込まれたりとうろうろされ、その間もずっと体を擦り付けられて甘えられ続けている。ちなみに俺も一応中原くんに触ろうとしてるしぶちちゃんをあっちにやろうとしてるのに、全部邪魔されてるしなんなら手とか爪立てながら踏んづけられたりしてる。なんで?
「もう!ぶち!こら!」
「なぅ……」
「いっつも邪魔なんかしないだろ?どした。ん?どっか悪いのか」
ついに中原くんに捕まったぶちちゃんが、申し訳なさそうな鳴き声とともに中原くんの腕の中で丸くなり、ごろごろ甘え出した。中原くんが言った通り、ぶちちゃんは賢いので、そういう雰囲気になったら邪魔はしないし、定位置になってるブランケットの中に潜り込んで丸くなってたりとかしてこっちには来ない。今に限ってなんで、と思いながら、すっかり俺のことを忘れてぶちちゃんの心配をしている中原くんがさっさと立ち上がった肩越しに、目があった。
「……この猫……」
「新城、ぶちのおやつどこやった?」
「……いつもんとこにないの?」
「ない……あ、買い置きあるか。な、ぶち。お腹空いたんだろ?さっきから俺のこと舐めてくるし」
すごい勝ち誇った感じで見下ろされたんですけど。中原くんの指をぺろぺろちゅっちゅしてるぶちちゃんが満足げに腕に抱かれてるのを、ソファーに取り残されながら恨めしい目で追う。なに?ぶちちゃん柄のねこみみつけたからいけないの?いつもお世話してくれるママはやっぱり仲間だったんだ!って思っちゃったの?クソ。あと一押しだったのに。ぶちちゃんにキレるわけにもいかないし、なにより見下されて誇らしげな顔を向けられたように見えてるのは俺の僻みのせいかもしれないし、でもすげームカつくんだけど絶対ぶちちゃん俺のことライバルだと思ってるよね?俺もぶちちゃんのこと過去最高に邪魔な壁だと思ってるよ。
「あ、こらっ、頭に登るなってば」
「あ!ねこみみ返して!またつけてもらうんだから!」
「もうつけねーよ!」
「今度はぶちちゃんが来れないように中原くんを寝室に閉じ込めてからつけようね」


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