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みじかいのまとめ




「お」
やべ。またこの夢だ。
そう思う程度には、何度も繰り返しこの夢を見ている。真っ白なウエディングドレス。真っ赤な手。鈍く光る銀色。ドン引いた顔の金色。柔らかい腹から引っこ抜いたのは、出刃包丁だった。日本刀とか拳銃とかだと、アンリアルな感じが強くて笑っちゃうからな。今回は現実っぽくていい。白いレースに広がっていく赤に、滑る手の中を握り直した。
この夢はいつもこうやって終わる。傍に立つ花嫁を殺された花婿が、俺に何か言おうとしたところで終わる。じゃあ、それ以外の終わりを作ったらどうなるんだろうか?例えば俺がこの場で自分の首を掻っ切ってみるとか。でもそれだと、なんか、俺もこの女が好きで、お前を殺して俺も死ぬみたいな感じになっちゃうから、嫌だな。別にそういうわけじゃない。顔も知らない女だし。
じゃあ、こうしたら?
「……ふっつーに刺せるし……」
あまりにも、呆気なかった。少しだけ助走を取って、勢いづけて差し込んだ鳩尾。生温いどろどろが溢れ出してきて、うっかり手を離してしまった。倒れ込んできた肩を抱きとめて、信じられないものを見るような目と視線が絡む。なんかキスできそうな近さじゃない?誓いのキス。なんちゃって。
真っ白なタキシードとウエディングドレスに、赤い染みが広がっていく。やったね、お揃いじゃん。来世でも仲良くしてね。今生がどうだかは知らない。あまりの他人事加減に、ちょっと可笑しくなって笑った。力の抜けた重い体から手を離せば、叩きつけられるように床へと倒れて、ブーケがその横に転がっているのに気付いた。かわいい。これには血は跳ねなかったみたいだ。淡い色のそれを手に取って、さも自分が最初から持ってましたって感じで胸の前に捧げ持ってみる。指輪もなければ相手もいないのに、なかなか様になってるんじゃない?


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