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只今開店中




本日の構成。カウンター、俺、父。台所、母。うめさんとはっちゃんは、泊まりがけで夢と魔法の海に行った。国じゃなくて、海らしい。お土産楽しみ。
「……ぁ、あの」
「いらっしゃいませー。どこでもどうぞ」
「はいっ」
から、からから。おずおずと開けられた扉の向こうから顔を出したのは、丹原探偵事務所のバイトくんだった。名前なんだっけ。おーかみちゃんくん?忘れた。父は必要最低限しか口をきかない上に自由人なので、今も全然接客をしようとせず新聞を見ている。それを見て、俺を見て、たくさんある空席を見回した彼は、カウンターの一番出入り口側の端っこに座った。そこ寒いでしょ。もっと中に来ていいのに。
「……………」
「お水どうぞ」
「はいっ」
まじまじとメニューを見るバイトくん。そんな珍しいものは書いてないと思うんだけど、あの胡散臭い丹原さんの関係者なので、あんまり触れずにおこう。しばらく悩んだ彼が、おろおろと顔を上げたので、注文が決まったのかと思って聞きに行く。
「はいはい。なににしますか?」
「日替わり定食、って、なんですか?」
「今日は、なんだったかな。鮭だっけ。父、日替わりなに?」
「肉」
「嘘こけ。魚だろ」
「母に聞け。俺は知らん」
「……なんかの魚だと思いますよ」
「じゃあ焼きそばおねがいします」
「はい、焼きそばね」
得体の知れない日替わり定食はお気に召さなかったらしい。しかも母に焼きそばお願いしに行く時に確認したらやっぱり鮭だったし。なんだよ肉って。適当にも程があるだろ。
「はい、焼きそば」
「いただきますっ」
「どうぞー」
「……………」
「……?」
「……あ、あとでにします」
後で!?なにが!?顔に何か付いてたりしたんだろうか。落書きとか。カウンターの陰でこそこそインカメで確認したけどそんなことはなかった。しかも父に発見されて、自撮りってやつだろう!知ってるぞ!とかでかい声で言われたし。ハムスターみたいに焼きそばを食べてるバイトくんは我関せずでいてくれたけれど、もう1人いた馴染みのおばちゃんが、たーちゃんもそんなお年頃になってねえ、と生温い目を向けてきた。そんなお年頃は通り過ぎたよ。二十歳もとっくに過ぎてんだよ、こっちは。
「ごちそうさまでした」
「はーい。お勘定?」
「ぁえ、いえ、えと、帝士さんが、これを渡してほしいって」
「ん?俺に?」
バイトくんが鞄から取り出したのは、封筒だった。中身を出して見たら、金髪美人秘書の写真だった。なに。どういうこと。家宝にすればいいの?すごい大事にはするけど。ただ訳はわからないので今度丹原さんに聞こう、と思っていると、意を決して、といった感じのバイトくんが、ぎゅっと手を握りしめて口を開いた。
「あの!俺っ、ぼくっ、と、お友達になってくれませんか!」
「え?いいけど」
「へ」
ぱかりと口を開けた彼がひどく嬉しそうに笑って、はじめてのお友だちです!と俺の手を握ってぶんぶん振るもんだから、そんなこたないだろう、と思ったけど、良かったねー、って言っておいた。なんかいろいろありそうだし。首を突っ込まないが吉。
それからバイトくんは、今日のように「所長と美人秘書が自分を置いて何処かにお仕事に行った日」に限り、うちでお昼ご飯を食べて、ちょっとだけおしゃべりして、にこにこしながら帰って行くようになった。お友達というか、なんというか。にっこにこしながらとても平和な内容を嬉しそうに話してくれるので、俺の今までの友達の概念にこういう人間はいなかったわけで、扱いとしては「天然記念物」になる。ていうか、友達の枠に入れたくない。つながりを作りたくない。特に馬鹿2人。
後日、丹原さんが店に来たので写真の意味を聞いたところ、あれに免じておおかみちゃんと仲良くしてあげてください料、とのことだった。あんなもの貰わなくたって仲良くするけどせっかくなので貰いますし、返せと言われても返しませんから。
「おおかみちゃん可愛いでしょ?」
「……同い年の男とは思えないぐらいなにも知らないんだけど」
「まあまあ。それはまあいいじゃない。ねえ」
「いいけど……」


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