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だから好きだって言ってるじゃないですか!!!



「脱いだ」
「……………」
「もういい?寒い」
「……………」
「聞いてんのか」
「……俺の声は入れたくないので……なんかもうちょっと喋ってください……ていうかうわこの角度エロ……」
「はあ?」
眉を顰めた秋さんが首を傾げた。だってなんか思ってたより、こう、思ってたのはもっとライブの時に見るみたいなかっこいーって感じだったんだけど、多分場所とか体勢が悪い。俺は秋さんの上に乗っかってて、もちろん踏んづけたりしないように腰は上げてるけど、それで秋さんは俺の下でソファーに寝てて、そんな体勢だからなんかこう、やましい感じがするのだ。構えてたスマホの中で、呆れたような息を吐いた秋さんが額に手を当てた。
「脱げっつったのはそっちだろ」
「えう、そ、なんですけど」
「意味わかんね……」
少し起こしていた身体を再びソファーに沈み込ませた秋さんを、スマホの端からそっと覗く。うう、生の方が刺激が強い。ていうか恥じらいもなく脱げるのすごいよな。俺だってまあ、別に平気といえば平気だけど、でもそれはファンの人に対しての話だし、きゃーきゃー言ってくれるのが分かってるからだし、あれ?でも俺も秋さんにきゃーきゃー言ってるからそんなに大差ないのかな、そしたら秋さんのこれってファンのみんなに対する俺の態度と一緒ってこと?なんかそれは、ちょっと、せっかく御幸が手伝ってくれて二人きりになったのに、もったいなさすぎるっていうか。こんな機会二度と無いんだし、秋さんいっつも忙しそうでゆっくりお話なんかできたことないし、チューぐらい、とか思ったりして。いやね、チューってゆっても、俺と御幸がファンサでするぐらいの、ちょっとちゅってして離れるだけのやつ。いやでもおこがましいよな、目の前で脱いでるとこ動画撮らしてもらって、二人で喋ったりもしてんのに、これ以上を望むのは。でもどうしても諦め切れないんだよなあ、頼むだけならタダなんだし、
「だからやっぱ、チューぐらい……」
「……………」
「……………」
「なに」
「……声に出てました?」
「全部聞こえてるけど」
「ひぇっ……」
がちゃーん、ってスマホが床に叩きつけられた音がした。嫌な音だったから、どっか割れたかも。脳直で喋ってる自覚なかったの?と鼻で笑われて、顔が真っ赤っかになるのが分かった。どこから喋っちゃってたんだろ、全部、全部って全部のこと?生で見ると刺激が強いなあ…とか本人目の前にしてぶつぶつ言ってたってこと?チューぐらいしちゃおうかなキャッホーとか邪な欲望も全部聞こえてたってこと?絶対そう。もう今すぐに呼吸やめたい。御幸、なんか遅いな?とか思って覗きに来てくれないかな。くれないだろうな、だって人見知りだもん。俺か清志郎か明楽以外の人と出来る限り会話しないもの、あの子。
「寒いから服着ていい?」
「……はい……」
「うん」
あ、も、恥ずかしい、すっごい恥ずかしい。秋さんの上にいることも、相当失礼なことしてるみたいに思えてきた。いや、もうその通りなんだけど、今までは興奮気味だったので勢いで全然そんな感じがしなかったのだ。そうやって暴走してた自分もはちゃめちゃ恥ずかしい。ずうっと「なんでこいつこんなはしゃいじゃってんのかな」って呆れられてたんだろうな。脱ぎ捨てたきりソファーの背もたれにかかっていたシャツに袖を通した秋さんが、体を起こした。邪魔になっちゃうからいい加減に退こう、そして謝ろう。そう思いながら体を引きかけて、襟を引かれた。
「ぅぶ、っ、んうぅ!?」
「……は。脱ぐよりキスのが、寒くなくていいや」
「はっ、えっ、きっ、ぇほっ、げほげほっ」
「はははは」
目を閉じて、唇がくっついて、少しだけ離れてからまた目が開くまで。作り物みたいだった。ドラマとか映画とかのキスシーン。俯瞰で見るはずのそれを目の前に押しつけられて、無理矢理止めた呼吸が復活した時には思いっきりむせてた。俺は目閉じる暇もなかったけど、でもそのおかげで秋さんがちゃんと目を閉じて、開いた時に可笑しそうに目尻が緩んだのまで見れたから、よかった。いや、よかったかな?そのせいでショックがでかい。お腹抱えるみたいに丸くなって咳き込んでる俺はさぞかし面白いらしく、からからと秋さんが笑っている。ぜえぜえしながら涎が垂れかけた唇を手の甲で拭えば、ばっちい、と嫌そうな顔をされた。さっきまで笑ってたのに何故。
「なんっ、なにするんですか!」
「え?してほしかったんだろ」
「してほしっ、で、だっ、ですけど、違いますけど!」
「日本語喋れよ」
「い、だって、急にされたって、よく分かんなかったし、俺、もっと、なんか……」
「わがままだな……じゃあいいよ。もっかい」
「はぇっ」
「減るもんじゃ無いし」
「いあ、っは、いや、まっ、はい!いえ!」
「どっちだ」
「します!」
やばい。女の子とするより緊張する。いや女の子となんかしたことなかったわ。ドラマの撮影でもほっぺだった。口は御幸とか清志郎としかない。しかもそれもふざけた延長上っていうかファンサでみんなが喜んでくれるからっていうか、ライブの演出で俺もテンションあがっちゃって飛びついたらぶつかった先が唇だったみたいなことがほとんどだから、あれ待って、俺もしかしてちゃんとこうやってキスするの初めてなんじゃない?いいやもう、そんなのどうだっていい。深く考えたらまた恥ずかしくなる。ぶんぶんと頭を横に振って、雑念を追い払った。めちゃくちゃな心臓の音が耳元で聴こえて、体温40度ぐらいあるんじゃないかってぐらい暑くて、背中が汗でべちゃっとしてる。とりあえず手のひらだけは自分の服で雑に拭いて、秋さんの肩に手を置いた。耳がキーンてなってる気がする。「しつれいします」って言いたかったんだけど、噛みまくりすぎてなんて言ってるか自分でも訳がわからなかった。多分テンパりまくってる俺が可笑しいんだろう、くつくつと喉の奥で笑った秋さんと目があって、瞼が降りた。あっこれやばい。自分も痛いぐらいに目を閉じて、唇を押しつけて、1秒もしないうちに離れる。肩を離した手が捕まえられて、顔が見れなかった。
「……………」
「……………」
「……ぁ、あり、ありがとございました……」
「……は?」
「はぇ……」
「『もう一回』でこれ?」
「これ、て、あの、ごめんなさ、冗談のつもりとか、あっそうですよねっ!ごめんなさい、俺調子に乗っ」
「口開けろ」
「ぁえ」
ぐ、と口の端から秋さんの親指が入ってきた。強制的に口を開かされて、後頭部に手がかかる。ほとんど思考が追いつかないうちに、頭にかかった手に力がこもって、再び唇を合わせられていた。指が口から抜けていくのと入れ替わりに、ずるりと滑り込んできた、なまぬるい。
「ぅぶ、っ、んんー!」
「っは、うるさい噛むな」
「待ってくらは、ぁむ、んぐ、ぅ、うー!」
うるさい、と言いたげに頭の後ろに爪を立てられて、ぎゅうっと目を閉じた。ものの、ぐちゅり、って生々しく鳴った音が余計鮮明に聞こえてしまって、目を開けた。でもそしたらめっちゃ近くに秋さんの顔見えるし、ていうか舌入ってるんですけどって聞きたくても口は塞がってるし目ぇ閉じたいのに閉じれないし、上顎舐められんのだめだ俺これぞわぞわするし、なにこれ?どうしたらいいの?満足に息もできずに、引っ掛かり気味に無理矢理吐いたり吸ったりするしかなくて、ぐるりと歯列をなぞって舌が抜けた拍子に離れたからようやく深く呼吸したら、短く笑われてまた引き寄せられた。一瞬じゃ息できないんだってば!
「ぅぷ、っはあ、ぁ、っんん、んー……!」
「は……こら逃げるな」
「にげぇ、んぅ、ぅ、ぅっ、んうう」
もごもご言ってる声は全部くぐもっては殺されて、時々唇が離れる度に「べろ出せ」「下がるな」「噛むな」と短く吐き捨てられて、返事する前に引き戻される。繰り返される度に、どんどん頭がぐずぐずになっていく。うまく息できないのもそうだし、ぬるぬるのべちゃべちゃになるのがなんかうっすら気持ちよくて。
「ゔぅ、ん、っは、ぁ、っ、ぷぁっ」
「……へたくそ」
「がへっ、ぇ、あぇ……」
「きたね。涎拭いて」
「ゔ……」
離れる、っていうより、引き剥がされる、だった。飽きました、って顔に書いてある。後ろ髪を引っ張られて離れたものの、その手をぱっと離されたら腕がふにゃふにゃで、秋さんの上にぐちゃって潰れてしまった。拭いて、と言われた通りに自分の服の袖でぐしぐし顔を拭いていると、また髪の毛に指を通された。なんだろうと思ってちらって見上げたら、引っ張られて近づかされる。俺の服の襟を引っ張って自分の口元を拭いた秋さんに、涎拭いてって俺の口の周りのことじゃなくて秋さんの口のこと?と思い至って袖を伸ばしたら、もういいって手を叩かれた。むずかしい。
「なんでそんな下手なんだよ」
「へ……へた……」
「まともなキスしたことないの?」
「なっ、いわけじゃ、あるというか、ない、こともない……」
「箱入りも大変だな」
「ぐえっ、ぁ、あき、ひゃ」
「教えてやろうか」
また口に指を突っ込まれて、引き寄せられるがままごつりと額を合わされて、薄暗くなった視界の中で、笑われる。さっきので充分とっくに体に力なんて入らなくて、重たいだろうからと浮かせていた腰も落ちてしまって、ほぼ秋さんの上に抱きついて乗っかっている感じになっていて。こうやるんだよ、と唇が開いて、後頭部にかかっていた手がするりと耳元をなぞって首筋に降りた時に、今日一番のやばいやつが背中を走り抜けて、無理矢理体を起こした。お腹に手をつくように起き上がってそのままここから逃げ出そうとしたのに、思った以上に力の入らなくなっていた体は全く言うことを聞かなくて、いつのまにか絡んでいた足が引っかかった挙句、上半身だけソファーからずり落ちた変な格好で固まってしまった。驚いたまま一瞬静まった部屋の中に、くつくつ、押し殺したような笑い声が響いて、かあっと耳まで真っ赤になる。
「ふ……腰抜けてんじゃん……」
「ぁ、あのっ、はな、離してくださいっ、ほんとに俺もう帰んないとっ」
「このまま俺が足解いたらお前頭から落ちるけど」
「いいです!」
「良かねえだろ」
「あのあのあの触んないでくださいお願いします」
「暴れると床にぶつかるぞ」
肩を引かれて、元どおり。抱え直すように腰元を弄った手に、逃げようとして、そしたら逃げようとしたのがばれて足を絡められて、見事に捕まった。今のもしかして我慢してじっとしてたら平気だったやつ?俺が意識しすぎ?でもしょうがないじゃん、だってさあ。
「……ああ」
「う……」
「そういうこと」
「ううう……」
「箱入り息子にはちょーっと刺激が強かったですかねえ」
絡んだ足に力を込められると、俺の体は秋さんに密着してしまう。経験したことない「まともなキス」の気持ちよさに、どうしようもないことになりそうなのを見咎められて、片手で両頬をまとめて潰された。手がおっきい。あったかい。ごめんなさい。なんか情けなくなってきちゃって、涙が出そうだった。ぐじゅぐじゅしだしたのもすぐ見つかって、頬を挟んでいた手が鼻に移動した。息ができない。
「泣くな、俺がいじめてるみたいだろ」
「んゔう、も、もお帰りたいれす、こっ、これいじょ、されたら、もっと変なことになるからっ」
「変なことって?」
「へん、っわああ変なとこ触んないでください!」
「だから変なとこって?」
「それは、それっ、ぇあぁ!?」
片眉を上げて素知らぬ顔をしている秋さんの手が、背中を通ってベルトにたどり着いた。逃れようにも足がしっかり絡んでて、そもそも俺はもうふにゃふにゃで、無理矢理騒ごうとした舌が、体に絡んでいるのと反対の指に捕まる。べえって無理矢理引っ張り出された舌に目を白黒させていると、静かにして、なんてわざと潜めた声で囁かれて。
「ちゃんと、最初から最後まで教えてやるから」





「ねえ御幸」
「なーに」
「……こう……好きな人が……好き……?な人?ができた……?かもしんないかも……」
「全部語尾ふわふわじゃん」
「わかんない……」
「なんで?」
「……………」
「言えないの?」
「……うん……」
「じゃあこそこそ話して」
「………、………だから……」
「え?エロい夢見ただけ?」
「ヒイイ声が大きい!こそこそ話は!?」
「育がただ欲求不満なだけでしょ?」
「常に声張るのやめてよ、わざとでしょ!」
「じゃあエロい夢見なくてもその人のことが頭から離れなくなったら教えて」
「それは……もう常になんだけど……」
「え?マジで?」
「うん……」
「僕と出かける日とその人と出かける日が同じになっちゃったらどっち取る?」
「えっ、う、うー……」
「……マジか……」
「で、でも御幸のことは好き」
「清志郎!せいしろー!お赤飯ー!」
「やめてやめてやめてよお!」


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