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ヨシカタくんと




「みっくんなにしてんの」
「料理」
「はえー」
「邪魔だからあっち行け」
「ひどくない?ちゃんと撮りました?今の」
カメラマンさんを振り向けば、苦笑いされた。メイキングで撮影中のちょっとした様子もBOX特典に収録するって聞いてたから、これでみっくんの悪いとこがファンの方々にも伝わると思ったのに。
みっくんと兄弟役のドラマは、SNSでよくバズってる料理研究家の人が監修についてるのもあって、とにかく飯がうまそう、と話題なのだ。あと、ホームページにレシピも載ってる。簡単なので手軽に作れるらしい。俺作ったことないけど。役としては、みっくんが料理上手な兄、というところなのだけれど、みっくんが料理できるとか聞いたことない。だって指とか切ってそうじゃん。けど今普通の顔して「料理」って言ってたし、できるのかな。
「いい匂い」
「ラタトゥイユですよ」
「えー、うまそ」
「食べますか?撮影用のは分けてあるので、余ってるんですよ」
「食べる!」
おいしい。野菜がごろごろしている。小皿に分けてもらった分はあっさり無くなって、ごちそうさまでした、と手を合わせた。おそまつさまでした、とからから笑われて、みっくんの方を見る。
「なんだ」
「みっくんのは?」
「もうない」
「みっくん胃ちっちゃいんだから食べ切れるわけないじゃん」
「……………」
みっくんは真面目なところがあるので、自分が料理しているシーンのリアリティを求めるために、ちょこちょこ料理研究家の人に指導を頼んでいるっていうのは、そもそも知ってた。指導ってほどのものでもないか。シーン毎に使う料理を作ってるのを横で見てたり、それについて話したり、たまに手伝ったりとか、してる。そういう、演技力向上へのあくなき探究心っていうの?それは素直にすげーなと思うし、俺にはそこまでの熱意はないし。けど、やってるのがポンコツみっくんだからなー、って気持ちになるのも事実だ。しかも、いつもだったら「見てる」とか「野菜切ってる」とかなのに、今回は「料理」って言ったじゃん。嘘ついてるぽくもなかったし、じゃあ料理したんでしょ。だったら見してよ、気になるじゃん。
「……作ってない」
「みっくんなに手伝ったんですか?」
「一緒のものを、半分づつ作ったんですよ。かき混ぜる用の鍋の分と、お皿によそって食べるシーンの分があったんで」
「あー、さっきの」
「あっち行け」
「どれどれ」
「こっちの鍋ですね」
「育!」
「……おお……」
珍しく名指しで硬い声を向けられたけれどそんなことは気にするもんじゃない。鍋の中身の方がよっぽど衝撃的だ。みっくんの見た目からして、あと性格も鑑みて、几帳面だし割とストイックだから、どうせ細かいことまで気にしてちまちま料理してんだろうな、ってのを想像していたのだ。その想定の真逆が鍋の中にいたもんだから。まず野菜の大きさが見本と全然違う。野菜がごろごろしていておいしかったのはそうなんだけど、ごろごろっていうのはこう、ここまでのデカさを求めているわけじゃない。あと切り方が雑だ。大きさにもばらつきがあるし、形が全部違う。なんで言ったらいいんだろう。見た目が悪い。そう、うん、見た目が全然綺麗じゃない。正直美味しそうでもない。みっくんほんとイメージを裏切るよね。最高だよ。
「これも食べてもいーい?」
「あー、それは鍋かき混ぜるシーンで使うんですよ」
「えっ!?これ使うの!?出来上がり図と全然違うじゃん!」
「うるさい」
「鍋の中は映さないみたいなので。でも空鍋掻き混ぜるんじゃ、ってことで」
「ええ……俺笑っちゃう自信ある……」
「混ぜるのは俺だろ」
「混ぜてるみっくんに俺が話しかけるシーンでしょ。絶対笑うからね」
「……………」
ものすごい不満げな目を向けられたんだけど、俺悪くないと思う。もしかしてそれ、みっくんの中では自信あったの?嘘でしょ。とはいえ笑ったらNGもらうだろうなあ、と思ってはいたけど結局我慢できなくて笑った。でも笑ったけど「変なとこでツボに入ってる弟と無視する兄の関係性が逆に仲良し兄弟ぽくていい」ってことでオッケーだった。みっくんはめっちゃ不機嫌になった。
「ん。食べてみると味は普通」
「文句言うなら食うな」
「文句言ってないじゃん。普通って言ったの」
「……そうか」

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