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只今開店中




本日の構成。台所、母とはっちゃん。カウンター、父。どっちもやるオールラウンダー、うめさん。店の中をうろうろして注文をとったりお皿を下げたりする人、俺。フルメンバーです。なんたって、今日行くから!って言われてる、予約、というか口約束?が、いくつか入ってるからね。あとは全員暇だったってのもある。
わいわいがやがや、賑やかな店内。儲かってる感がします。夕方の開店すぐに、プチ帰省中らしい仲有夫妻が来たけれど、即帰った。マジで何しに来たんだ。高井さん曰く、「栄養補給」だそうで。そういうこと言うと俺が仲有に血走った目で見られるんだからやめてよ。
くるくると、珍しくも手際よく動き回るうめさんに、うめさんのご贔屓さんのおじさんがまだ来てないことに気づく。確か、結婚記念日だからお祝いしたいって、奥さんに秘密だからケーキ買っといてくれって。
「あれ?世田川さんは?」
「来れなくなったって。奥さん怒らせたって」
「えー。ケーキどうすんのさ」
「後で誰かに買い取らせようぜ」
成る程。この姉野郎、目当ての客が来ないことが分かったから、てきぱき動いて、動くだけ動いて、「んじゃ、十分働いたんで。おやすみ」をやるつもりだな。前科がある。それをされると全員何も言い返せないし、何も言い返せないぐらいには手際良く働いてくれるので、文句が出ないのだ。サボりの天才か。
それからしばらくして、テレビで言うところのゴールデンタイムを過ぎ去った頃、うめさんは引っ込んだ。三時間は働いたんで!じゃない。まだお客さんはいるぞ。あとは頼れる弟のたーちゃんに任せた♡とか言われちゃってまんまとにやにや任されちゃった俺も悪いけど。からからと開いた扉に、振り向きざまにいらっしゃいませ。
「何今日混んでんじゃん」
「お邪魔します!!!!」
「都築姉は?女の人にお酒注いでほしい」
「見て!都築家の前にカマキリいた!でっかいカマキリ!」
ずかずか入ってきて定位置の端っこに勝手に座った瀧川と、ほらあ!と満面の笑みでカマキリを差し出してきた朔太郎。せめて航介がいたらストッパーになっただろうに、こういう忙しくて必要な時に限っていない。したたかに出来上がったおっさん連中に、これだからお子様は、と笑われた朔太郎が、でもこんなに大きいんですよ、とカマキリを構えて座敷に上がってったので、一時阿鼻叫喚となった。外に逃がしてらっしゃい。
「かっこいいのに」
「ペット入店不可だってよ」
「そっかあ」
「……あれ飼ってんの?」
「いや?さっきそこで拾ってた」
ざんねーん、と朔太郎がカマキリを逃がしに行った。俺もそんなに、虫大好き!自然万歳!ではないので、朔太郎ほど大きいカマキリにテンションは上げられない。男の子の好きな虫に代表されるであろうもの、朔太郎好きだよね。同じ虫でも蜘蛛とかは好きではないらしい。何が違うんだ、虫は虫だろ。
この二人の特性として、とにかく帰らないことが挙げられる。朔太郎は意外と理性的なところがあるので、仕事が忙しい時期とか、次の日に大事な会議があるとか、そういう日にはそもそもうちに来ない。瀧川は馬鹿なのでいつでも来る。下手すると最悪の場合うちで寝こけてそのまま仕事に行ったりする。だから、朔太郎が来るってことは、朔太郎は帰らないってことで、瀧川はそれに見事につられる。だから航介にいてほしいのだ。あの人は、完全に酔いつぶれて寝こけない限りは基本ちゃんと帰るので、どっちか、もしくはどっちもを、一緒に帰してくれる。今からでも来い。来てください。お願いします。ヘルプのラインしとこう。
「あ。そうだ、ケーキ買わない?」
「ケーキ」
「なんで?」
「あまった」
「なにケーキ?」
「普通のケーキ。いちご」
甘いものかー、ケーキかー、どうすっかなー、と悩んでいた二人だったが、朔太郎がぽんと手を打って挙手した。はい、辻さん。
「誕生日パーティーがしたいです」
「……朔太郎誕生日一月じゃなかった?」
「そう」
「誕生日じゃないじゃん……」
「でもしたい」
「はい!俺四月!」
「瀧川も誕生日じゃないじゃん」
「だからなんなの?」
なにこれ?俺が狂ってんの?全然誕生日じゃないのに、俺の誕生日パーティーをするんだよ!と揉めている二人に、合同でやればいいじゃないの、二回ロウソク消せばいいじゃないの、と宥める。周りのおっさんが、はい!俺一週間前に誕生日だった!とか言って乗って来てくれてるけど馬鹿二人は完全無視している。取っ組み合ってるもん。どっちの誕生日パーティーをするかで。どっちも誕生日じゃないでしょうが!
結局じゃんけんをして先と後を決めた。瀧川が勝ったので、1回目のお祝いは瀧川からだ。朔太郎がすごい目で睨んでいる。なんでそんなギスるの?だって二人とも誕生日じゃないんだよね?今日ってなにもない普通の日だよね?しかもロウソクなんかないから仏壇用のやつだよ?なにがそんなに君たちをそうさせるの?
「ハッピバースデーディーア、ときみーん、にして」
「よしみつにしようよ」
「だから誰なんだよそれは!俺の名前は時満!ノーよしみつ!」
「さくちゃーんにしよ。ハッピバースデーディーアさーくちゃーん。ヒュー」
「てめえ!」
だから取っ組み合うな。店の中で。 まだそんなに酒も飲んでないのに。

深夜。もう店は閉めた。まともな客はみんな帰った。まともじゃない馬鹿が二人残っている。ちなみに、ヘルプを出した航介からは、「俺を巻き込むな」というド正論が返ってきた。幼馴染の面倒ぐらい見てよ。瀧川は適当にその辺に捨てとくから。
「改めて、かんぱーい」
「都築も律儀だよなー、客がいる間はぱかすか飲まねえんだから」
「……普通でしょ」
「強いんだから飲んだっていいのにね」
「ちょっとぐらいはお付き合いするけど、酔っ払っちゃったら大変じゃない」
「実家なのにな」
「潰れたって自分の部屋で寝てりゃいいだけなのにね」
ねー。じゃない。適当人間どもめ。照明を半分落とした店内で、残り物をつつきながら、グラスを傾ける。はあ、とため息を零せば、幸せが逃げるぞ、と朔太郎に無駄に決まったウインクをされた。うるせー。
しばらくクソの役にも立たないどうでもいい話が続いて、瀧川が30分ぶり5回目ぐらいの発作の鳴き声をあげた。
「はーあ。彼女ほしい」
「都築。お姉ちゃん呼んできてあげたら」
「殺されるじゃん?」
「都築が?」
「瀧川が」
「でも俺意外と尽くしちゃうタイプだから小梅さんにも案外いい感じだと思ってもらえるかもしれないと思う……」
「どこから湧いてくんの?その自信」
「俺は女の子に尽くしてほしい。俺はえらそうにする」
ふんす、と鼻息荒く背筋を反らした朔太郎に、そういう男の方がモテない、と瀧川が嘲笑したが、彼女と言える関係にすらそもそも持ち込めない瀧川と、もう一押しでお付き合いぐらい軽いもんだろうに面倒臭いからというたったそれだけの理由で関係を一夜で終わらせる朔太郎には、天と地ほどの差がついていると思う。瀧川の「彼女ほしい」は、そりゃ欲しいだろうよ、だけど、朔太郎がもし同じことを言ったなら、いやお前できるだろ、って俺多分言っちゃうもん。
「浴衣デートとかしたい」
「瀧川のデートはその後を期待してんのが透け透けだから嫌だ」
「朔太郎だってしたいだろ」
「なにを?デート?うん、したい」
「したいの!?」
「え?したいよ」
「朔太郎そういう感情あったの!?」
「あるよ!なんだと思ってるの!」
「デートする時間がもったいないから最初からホテルで待ち合わせすればよくない?とかいうのかと思って……」
「それはまあそうだけど……」
そうなんかい。最低だよ。でもデートしてみたい、お花畑を2人でお散歩するの、ウフフ、と今時らしからぬ夢見がちなデート図を思い浮かべてにっこにこの朔太郎に、瀧川が微妙そうな顔をしている。分かる。しかしまあ。
「朔太郎の女の選び方って基本胸じゃん」
「うん」
「航介は歳じゃん?」
「熟女専だから」
「瀧川は?」
「俺?」
「瀧川の基準、俺分かんない」
「知りたい?たーちゃんのえっちー」
「全然知りたくないけどうちの姉と妹に色目を使うのだけはやめてほしいから予防策として知りたい」
「別に本気じゃねえし……」
「あ″!?うめさんとはっちゃんに魅力が無いって!?あ″ぁ!?」
「都築変な酔い方してる」
「疲れてんじゃない?」
「疲れてない。疲れてるとしたらそれはお前らが帰らないせい」
「でも俺も瀧川の女の子の好み分かんない。脚派なの?」
「無視?」
「俺は別に女の子ならなんでもいい。胸とか尻とか身長は気にしない」
「……………」
「……………」
「なんだよその顔は」
「……ゴリラ女で童貞卒業してる奴はやっぱ言うこと違えなって思って……」
「都築も?俺もそう思った」
「今すぐ死にたい」
この後は好みのAV女優の話になったので割愛します。


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