このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ヨシカタくんと




「俺ね、こないだライブした時にね、ねえ」
「………………」
「ねえ!みっくん!」
「みっくんじゃない」
「ねえ!」
「いっ……」
「ちゃんと聞いてよ!」
「耳を引っ張るな!」
また怒られた。みっくんだっておっきい声出してんじゃんか。喋ってんのに聞いてくれない方が悪くない?
なにを隠そう、みっくんと俺は兄弟なのだ。役だけど。そういうドラマをやって、それが人気だったから、今度はスペシャルドラマになるらしい。続編っていうか。2時間ぐらいの枠のやつ。今は、機材とかいろいろ準備してくれてる間、待ってるとこ。撮影場所は外で、広い原っぱだし、いい天気だし、気持ちいいから日向ぼっこがてら、みっくんの椅子も勝手に隣に設置した。俺は車の中で待ってる、ってきーきー言ってたけど、ちょっとしたらやっぱり穏やかな日差しと時々吹く涼しい風が気持ち良かったのか、黙った。ずっとなんか読んでるから、つまんなくて話しかけてんのに、無視する方がいけない。
「うるさい。休憩中」
「なんで。ねー、ねーえー」
「重い!自分の椅子に座れ!」
「みっくんいつもいい匂いする」
べたべたとみっくんの周りにひっついてたら、鼻をくすぐったいつもの匂い。なんの匂い?香水?って聞いたら、ちょっと嬉しそうな、ドヤ顔まじりのにやけ顔を隠した感じで、ふん、って言われた。あ、お気に入りなんだ。俺もつけたい、どこのか教えて、って言ったのに全然教えてくれなかったから、みっくんの服に自分の頭を擦り付けて無理やり匂いを奪うことにした。
「やめろおい馬鹿!伸びる!」
「教えてくれないみっくんが悪い」
「俺は悪くないだろ!」
ひっぺがされた。髪の毛がくちゃくちゃになってしまったじゃないか。せっかく整えてくれたスタイリストさんに迷惑だ。どうせ撮影直前に直すんだろうけど。そんなことをしていたら、忙しそうに動いていた撮影スタッフの内、前にも一緒に仕事をしたことがある顔馴染みのお姉さんが、ペットボトルを持ってきてくれた。きんきんに冷えてて、気持ちいい。いくつか種類があって、俺はサイダー、みっくんはお茶をもらって、お礼を言う。残りのペットボトルをカゴに入れ直して抱えたお姉さんが、呆れたみたいに笑った。
「なんか、本物の兄弟みたいですね。二人」
「そう?」
「はい。あ、はーい!今行きます!」
「……兄弟みたいだって!」
「こっちから願い下げだ」
「ひどい……」
「うわやめろ!つめっ、やめ、おい!」
ショックだったので、冷たいペットボトルをみっくんの服の首元から滑り落とせば、見事素肌を転がり落ちていった。シャツの中に入ったペットボトルを出そうとばたばたしているみっくんをげらげら笑っていたら、スタンバイお願いしまーす、と声をかけられて、返事をする。ぱかんと後ろから殴られた。痛い。ペットボトルで殴っただろ。
「お前ほんと……」
「あはは、動画撮りたかった」
「あ!?」
「わあー」
怖い顔で凄んだみっくんからぱたぱたと逃げると、さすがに追っては来なかった。冷たくてじたばたしてんの、面白かったなあ。


2/5ページ