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ヨシカタくんと



「お腹空いたね」
「空いたねえ」
「……………」
「お腹空いたねって」
「ねえ」
「……両耳でうるさいぞ」
しっしってされた。みっくんは冷たい。同じ年上でも、ゆーやくんは優しいのに。優しいからゆーやくんの方が年上だと思う。そうやって言うとみっくん怒るけど。
雑誌のインタビューがあるからって呼ばれたのは、某所のハウススタジオだった。なんかちょっとお家みたいなところ。こないだまで撮ってた映画のメンバーでまた集まって、数人に分かれたり一人ずつだったりでお話しして、みんなで写真も撮った。別の現場の打ち合わせがあるっていう新城さんと、ステージのレッスンがあるっていうるりちゃんが急いで帰って、それからちょっとして柚末さんがマネージャーさんの車で出ていった後すぐ、めちゃくちゃに雨が降り始めた。スマホで調べたら、局地的雷雨、大雨警報、って出てきて、あちゃー、って感じ。大変だー、とか言いながらも、スタッフは撤収作業をしているし、止むのを待ってると次の現場に間に合わないからって、庚のおじちゃんも出てった。残されたのは、俺と、みっくんと、ゆーやくん。車を回してもらえればすぐにでも帰れるんだけど、雷すごいし、とりあえず安全のために待ちます?って俺たちのマネージャーさん同士で困ってるのがさっき覗き見えた。俺は知ってる。俺もみっくんもゆーやくんも、次に仕事がないのでみんなと違って急いで帰る必要がないのだ。別に暇なわけじゃないぞ。
そんなこんなで、お腹が空いたのを我慢して、ばたばたしているスタッフさんたちの邪魔にならないように、端っこの方に三人で固まっている。みっくんがソファーのど真ん中に座っているので、ゆーやくんはその隣、俺は座る場所がないので背もたれ側からみっくんの肩に向かってぐてんってしてる。別のソファーに座ればいいじゃないかって?こうするとみっくんが嫌がっておもしろいからいいのだ。てゆーか、みっくんもっと詰めて座ってよ。
「お」
「おおう」
「……………」
突然、ばつん、と音がして電気が消えた。停電っぽい。すみません!と灯りを持って急いで飛んできた女の人に、だいじょぶですよー、と手を振る。俺がひっついてるみっくんはだいじょぶじゃなさそうだったけど。めっちゃビクッ!ってなってたし。本人無言で隠そうとしてるけど、俺はくっついてたから知ってる。
どうも、一軒家のハウススタジオなのが不幸だったのか、周りが復旧しないと電気は戻らないらしい。予備電源とかもないんだって。大きいビルならまだしも、そりゃそうだよね。かろうじてあった、撮影で使ったランタン型のランプを持ってきてくれた。片付けはだいぶ終わって落ち着いてきてる頃で、それだけは良かった。
「ねー。お腹空いたよ」
「みっくんなんか持ってないの?」
「ない。みっくんって言うな」
「にーみのみっくんじゃんね」
「じゃあつばさくん」
「新見さんって呼べ。敬語を使え」
「庚のおじちゃんとか、新城さんには敬語だもん」
「えらいぞー、育」
「俺にも敬語を使えよ」
「みっくんはイヤ」
「ポッケになんか入ってないの?」
「まさぐるな」
これ終わったらなんか食べ行こうよ、とゆーやくんが近くのごはん屋さんを検索している。嫌だ、とこの場を逃げようとしたみっくんが、ゆーやくんに腕をとられて、なんか逆さまにされて捕まえられている。痛そう。いたい?って聞いたらすげー頷いてたし。暗いから見えないけど、泣いてない?大丈夫?
「チキン南蛮」
「うまそー」
「トマトリゾット。あ、サンドイッチ、ヒレカツサンド。あとー、天丼。肉うどん。エビフライ定食」
「この辺いろいろあんだね」
「そうだな。どうする?」
「みっくんお腹ちっちゃいから、お店どこにするか選んでいいよ」
「ちっちゃくない」
「だあって、全然食べないじゃん」
「お前らが食いすぎなんだ。ていうかだから、俺は行かない」
「じゃー焼肉にしよう」
「近くにあるかなー」
「トマトリゾット!」
「お腹に優しいね」
「じゃあここ。個室あるって」
「……く……」
逃げられなかったのが悔しいらしい。きっ、とこっちを見られて、にこーって笑ったら、怒った顔を崩してもごもごしていた。みっくん、笑ってる人に怒れないよね。根本的によわっち、じゃない、優しいから。暗くてあんまり見えないし、手が暇だったのでみっくんの髪の毛を触ってたら、やめろ!って怒られた。はいはい。ふわふわできもちいのに。
「みっくん、お腹空かないの」
「基本あんま空かない」
「死んでんじゃん」
「俺のせい?」
「うるさい」
「ねえ。ねえみっくん、俺のせい?俺がお腹刺したから?ねえ、みっくんこっち見て」
「いてえ!首もげる!」
「俺自分でもパーソナルスペース狭い方だなと思うけど、育の方がめちゃくちゃ狭いよね」
「ぱーそなる?」
「人との距離」
「あー。近い方が好き」
「離せってば!もう!」
みっくんにどんってされた。ゆーやくんと話してたのに。痛いでしょうが、って突き飛ばし返したら、わあああって悲鳴を残してみっくんがソファーから消えた。嘘でしょ。
「みっくん、だいじょぶ?」
「……………」
「落っこちた」
「……うるさい……」

「あ。電気ついた」
「みっくんよかったね」
「なんで」
「暗いとこ怖いのかと思って」
「怖くない。みっくんじゃない」
「わーッ!」
「うわ」
「……………」
「みっくんびっくりした?」
「してない」
「びくってなったじゃんかー」
「突然でっかい声出すなよ」
「ごめえん」
「……俺にも謝れ……」
「だってみっくんびっくりしてないんでしょ」
「……………」
怪我とかありませんでしたか?とスタッフさんに聞かれて、大丈夫だと答える。まあ、みっくんは一回ソファーから落ちたけど、大丈夫。みんなでご飯食べに行こって話してたの、とマネージャーさんに伝えてお願いすれば、一回事務所に戻らないと、だって。ちぇー。
「トマトリゾット食べたかった」
「夜にしよっか。待ってるよ」
「やったー!ゆーやくん!」
「みっくんも来るんだよ」
「行かない」
「来るんだよ」
「行かないったら行かない」
ゆーやくんとみっくんが堂々巡りしている。多分ゆーやくんが勝つので、夜は三人でご飯が食べられそうだ。


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