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高校生の話





「え。中学生の時だけど、当也のこと好きだった子、俺知ってるよ」
「ええ!?」
今日は31日なので、アイスの日です。ぱっと見何味か分からないまだら模様のアイスをつついていた朔太郎が、なんでもないことのようにしれっと言った。いやね、俺も何の気なしに、そういえば当也とが航介には浮いた話一切ないね、って振ったわけだけど。だって瀧川はあれだけ彼女彼女ってぎゃあぎゃあ騒ぐし、仲有はどこからどう見ても高井さんが好きだし、朔太郎は告白されたとか割と聞くし、時々彼女がいたり、本人は彼女いないって言ってるのに彼女だと言い張る女の子がいたり、いつの間にか三股掛けてたりする。悪気が無さそうなのと大事になってないのが唯一の救いだ。さすがに本人に直接は言わないけど、大人になってもこのままだったらやばいと思う。未来の俺が「このままだったよ」って言ってるのが聞こえる。まあそんなことは置いといて。
「えっ、え、なん、なんでそれ朔太郎は知ってるの!?当也付き合ってたの!?」
「ううん。本人は知りもしないんじゃないかなあ、告白とかもされてないだろうし」
「じゃあ余計になんで朔太郎は知ってるの!?」
「好きな人とかいるのかって聞かれたから」
曰く。中学生の時はもっぱら三人でいることの方が多くて、その中だと朔太郎が一番とっつきやすく話しかけやすいから、「弁財天くんにこのノート渡しといて」「江野浦くんのこと先生が呼んでたよ」と言った類の会話を女子から取り次ぐことがそれなりにあったそうだ。朔太郎の言葉を借りると、だって当也は暗くて無口な上に背伸びるの早くてひょろ長いし、航介はしょっちゅう怒るから怖いしすぐ手出るし、という身も蓋もない悪口になってしまうが、まあ、恐らく朔太郎が窓口になっていた理由はそのまんまだ。部活とかに入っていなかったのもあるかもしれない。女の子の方が大人になるのが早くて、小学校高学年ぐらいから「男の子ってばああだから」って感じに見られることが増えたりもする。それは別に、避けられているとかいじめられているとかいうわけじゃなくて、悪気のない距離感の問題だ。まあ、うーん、なんていうか確かに、友達だからそう言わないけど、あの二人取っ付きにくいよな…という気持ちは分からなくもない。朔太郎が一番ハードルは低い。仲良くなってしまうと、朔太郎が一番イかれてるのは分かるんだけど、その仲良くなるまでの道のりが長い。そもそもなんであの二人、あんまり笑わないんだろうな…いや笑うんだけど、笑顔見たことないわけじゃないんだけど、当也は基本の顔が無だし、航介は怒ってるからな…そりゃ中学生の多感な女子からは微妙な距離置かれてもしょうがないよ…
話を戻して。「当也の「暗くて無口」がその子には「落ち着いててかっこいい」に見えたらしいよ」とは朔太郎の言だ。大真面目に言ってるのに小馬鹿にしてる感じがするのは何故だろうか。
「頭いい子だったよ、確か。大人し系の」
「へえー、お似合いじゃん。ヒュー」
「えー、そうかなあ?当也はもっとバ……明るい人の方が好きだと思うよ」
「バカって言おうとした?」
「してない」
「そう……」
「それに結局、告白しなかったみたいだしね。なんていう名前だったっけな」
「この辺の人なの?中学生の時ってことは」
「ううん。高校受験で、いいところに行くからって引っ越しちゃった」
「そっかー。残念」
「んー」
朔太郎はあんまり残念そうじゃない。まあ、もっと明るい人のが、って言ってたし。
航介はそういうのないの?と聞いたら、航介が女の子から好かれているという類の話を俺は耳にしたことがない、という残酷な言葉が返ってきた。なんでそういうこと言うの。話にならないだけで、内心で好きな子はいるかもしれないでしょ!
「でも航介が好きになるのはなんとなくわかるけど」
「年上でしょ」
「うちの近所のお姉さんのこと多分好きだったんだろうなって時期あった」
「バレバレじゃん……」
「俺の母親のことも好きだし」
「……………」
「痛ましい目でこっち見ないで。本人にその目向けてよ」

「あ。まもりくんだ」
「どこ?」
「あそこ」
アイスを食べ終わって、そろそろ帰るか、いや本屋に寄りたいので付いてきてはくれぬか、しかし早く帰ってゲームをしたいのである、と話していたら、朔太郎が後輩くんを発見した。一人だ。お買い物かな?
「あっ、さくちゃん先輩!ちゅ、っずき先輩!」
「おしい」
「まもりくん一人?」
「さっきまでミネソタ先輩とハンバーガーを食べてました!あそこのマックで」
「航介といたの」
「食べ終わったら、ルーズリーフとペンが買いたいって言って、まもりを置いて先に行ってしまったので、追いかけにきたんです。見てませんか?」
「見てない」
「置いてくなんてサイテー」
「ていうかそれ後輩くんを上手く撒いて帰ろうとしてるよね?」
「見つけたらズボン脱がそ」
「公共の場ではちょっと……」
「でも生琉里町先輩、ハンバーガーおごってくれました!」
「……悪いやつではない……」
「まもりくんち遠いんだから、ちゃんと最後まで責任持ってお家に返してあげなきゃだめじゃんねっ」
「大丈夫ですよ!もう高校生なので、一人でも迷子とかにはなりませんよ!」
「俺も俺も」
「俺も高校生」
「お揃いですね!」
話が全く進まないので、航介に連絡してみることにした。すぐに返事はきて、「嘘はついてない」と。文房具売り場に行ってみたら、確かに嘘はついてなかった。けど、なんで一回撒こうとしたんだ。かわいそうじゃないか。
「……こいつがしつこいから……」
「苫小牧先輩なんで置いてくんですかー!」
「江野浦です」
「もう諦めなよ」
「でもハンバーガーは一緒に食べに行ってあげたんだ」
「二週間ぐらい毎日待ち伏せされてもう断んの面倒になった」
「……君は大物だな……」
「え?あっ!見てください、ぬいぐるみ付きのペンですよ!かわいい!ハンバーガーのお礼に西馬音内先輩にプレゼントしますね」
「いらないいらないいらない」
「えー、こんなにかわいいのに。じゃあサプライズプレゼントにしますね」
「言っちゃったらサプライズにならないんじゃない?」
「忘れた頃に突然渡します。曲がり角とかで」
「怖……」
「……お前らが余計なことするから」
うん。それは本当にごめん。

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