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高校生の話




「ケガした」
「……やかましメガネ……」
「名前覚えてっつったじゃんー」
「怪我する方の辻」
「怪我しない方もいるの?」
「一年の保健委員にな」
保健室に来たら、嫌そうな顔で保健室の先生に迎えられた。そんな嫌そうな顔する?こっち怪我人なのに?怪我か病気でないと保健室なんか来ないのに。
どこだ、と聞かれたので、さっき思いっきり擦り剥いた左肘を見せる。なんか壁にざりざりってやっちゃったんだよね。しかも壁のかどっちょ。一応水で洗ってきた、と報告すれば、消毒液をてきぱき準備しながら呆れた顔をされた。まずこんな怪我をするなよ、と言いたげだ。
「あいったい!」
「皮がすごい剥けてる」
「まじまじ見ないで!恥ずかしい!」
「肉が見えてる」
「やめて!言葉にしないで!」
この人には、合法的に血と肉を見れるから本来は医者になりたかった、と曰った前科があるのだ。怖すぎる。思ったより深くやっちゃってたらしく、消毒液がはちゃめちゃに染みる。絆創膏では収まりきらないからか、ガーゼで傷口を覆われて、はい終わり、と膝を叩かれる。ガーゼの上から傷を叩かれなかっただけ良かった。
「テープがかゆい」
「耐えろ」
「お風呂とか入っても平気かな」
「平気だろ。変なことになったらちゃんと病院行けよ」
「変なことって?」
「膿んだりとか」
「俺なったことないから分かんない」
「ぐじゅって、こう、どろっとした液が出てきて、あー、あった。こうなる」
「ヒイ」
ご丁寧に棚から分厚い辞典みたいなのを出して写真を見せてくれたので、ありがとう、と引きつった声で絞り出しながらそっぽを向いた。言葉で教えてよ。ていうかなにその辞典。怪我と病気の辞典みたいなやつっぽいけど、もう俺には呪いの書にしか見えない。
「せんせえ」
「なんだ。もういいだろ、帰れよ」
「先生が女子にだけ贔屓してるって本当?」
「本当」
「嘘であれよ……」
「別に贔屓したいわけじゃない。女子の方がここにくる回数も多いし、怪我とかじゃなくて体調不良のことがほとんどだから」
「へえ」
なんだ、下心があるのかと思ってた。そんなような言い方することも多いじゃん。あれわざとだったんだ。純粋に疑問だったのでふと聞いただけなのに、意外とまともな答えが返ってきてしまった。いや、いいんだけど。
「じゃあ男子が昼休みにあったかい飲み物くださいって来てもくれるの?」
「やらん」
「なんで!やっぱ贔屓じゃん!」
「自販で買え」
「女の子にだけ!」
「あいつらは体を冷やすなって言っても足を丸出しにするし薄着でいるからな」
「あいつらって言った……」
体が冷えて腹が痛くなったり頭が痛くなったりしてここに来られると、仕事が増える。先生に特別扱いされて甘やかされる感じに持っていくことで、ようやくあったかい飲み物を飲む。おしゃれだか可愛いんだか知らないが、もう少し身体を気遣ってほしい。心配なのか文句なのか微妙な感じでぶつくさと言い捨てた先生が、だから男子は自分で見繕え、と締めくくった。案外いいやつじゃん、先生。でもそれとこれとは話は別で、無料であったかい飲み物がもらえるなら俺もそうしたいし、先生にも優しくしてほしい。
「俺も寒いとお腹痛くなっちゃうんだけど」
「奇遇だな。俺もだ」
「あったかいココアがここにいるともらえると聞いたんだけど」
「ポイントが足りないから無理」
「ポイント」
「肉ポイント」
「嫌なポイントだ……」
「あと5ポイント」
「5回肉見えるまで怪我しろっていうの!?嫌だよ!」
「うるさい。膿め」
「最低!もうここはサービスが悪いから利用しないようにってみんなに言っとくから!」
「口コミサイトかよ」


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