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高校生の話



「都築おはよ!」
「うわやめろ」
「わはははは」
朔太郎が最近、制服の裾をまくって走り去るイタズラにハマっている。時々掴む枚数を間違えて、カーディガンだけじゃなくてシャツまで引っこ抜いて捲り上げられたりするので、それは困る。いや、別に大して困りやしないけど。しまい直せばいいだけだし。げらげら笑いながら走り去られて、一瞬で乱れさせられた制服を直していたら、朔太郎がダッシュで戻ってきた。
「あ。さくた」
「どいて!」
「わあ」
半ば突き飛ばす勢いだった。しかも、お化けでも見たのかってぐらい超怯えた顔で。全く減速しないまま横を走り抜けられて、ぎりぎりでかわす。当たってたらどっちか、もしくはどっちもすっ転んでたと思うんだけど。階段方向に曲がってそのまま走り降りて行った朔太郎に、朝から危ないなあ、と見送って顔を戻して、壁に張り付いた。
「待ててめえゴラ!」
「謝ります!謝りますから!」
「止まるか死ぬかしろ!」
「……怖……」
鬼みたいな顔したゴリラが猛スピードで朔太郎の後を追いかけてった。制服はもちろんぐちゃっとしていて、同じイタズラをされたんだろうなと思うんだけど、あんなカチ切れるほどのことだろうか。ていうか、言い合う声がすげーでかい。階段を吹き抜けて全部聞こえてくる。しばらくどたばた聞こえた後に、ああ、多分今捕まったっぽい。階段の上から覗き込んだんじゃ流石に見えないけど、ひんひん謝る声がする。上がってくるかなあ、としばらく下を見ていたら、隣に誰か来た。ひょこりと同じように見下ろされて、そっちを向く。
「あ。おはよ」
「おはよー。さくたろくん捕まっちゃった?」
「うん。見てた?」
「こーのうらくん、お腹丸見えだったの」
「ああ……それで……」
怒ってたでしょ、と高井さんに笑顔を向けられて、怒ってたよ、と頷いた。彼女が見ていたということは、教室の前とか、なんなら教室内とか、人目がそれなりにある場所で思いっきりシャツごとめくりあげたのだろう。でもそれだけで、怒るは怒るでも、あそこまで切れるかな?と首を傾げていたら、戻ろっと、と踵を返した高井さんがぽつりと独り言を漏らして、答えを教えてくれた。
「まきちゃん、まだ固まってるかなー」
「……なるほど」
羽柴さんの前で起こった事件らしい。真面目な彼女なら、笑うでも恥ずかしがるでもなく、困惑から固まってしまうのも想像に難くないし、そういう反応が一番航介としては申し訳なさとか恥ずかしさとかが募るのだろう。その感情が朔太郎に対する怒りとして変換された結果があれだ。納得。すっきりした。
やめてえ、ごめんなさい、もうしませんからあ、とひいひい謝る声と共に、朔太郎を引きずりながら航介が階段を上がってきた。どこを持たれているんだろう。襟首とかだろうか。朔太郎はひんひん言ってるのに、引きずってる側の航介は顔色一つ変えてないのが、ちょっとおもしろい。
「おはよ」
「おう。おはよ」
「痛い痛い!耳千切れちゃう!」
「千切れろ。大量に出血しろ」
「ねえ、数学の課題さあ、難しくなかった?俺分かんないとこあって」
「応用のBが難しかった」
「普通に喋んないでよ、さくちゃんのかわいいお耳が取れちゃうよ!あー!」
「取れろ」
耳だった。人体の中でも持つのに適さない部分トップ3に入ると思う。


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