このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

只今開店中




本日の構成。昼の部。台所、うめさん。カウンター、俺。俺ばっかりカウンターやってるんじゃないかって?その通り。俺は台所に滅多なことでは立たない。料理ができないわけじゃないし、忙しかったら注文受けて作って出すぐらいするけど、カウンターの方が向いてるってだけだ。同じような真逆の理由で、母がほとんどカウンターに立たなかったりする。
先述の通り、昼は暇なので、台所とカウンター一人ずつでもまあ回せないことはない。しかも今日は水曜日。水曜日はなぜか特に客が少ないのだ。土曜の夜は混む。それはどこも同じなのかな。
「こんにちはー」
「いらっしゃいー、あ。江野浦さん」
「どうも。親子丼ください」
「はーい。今日お休み?」
「うん。市場が閉じてるからね」
江野浦、父。航介じゃない方。よっこいしょ、と荷物を降ろして座った人の良さそうなおじさんから、あの瞬間湯沸かし沸騰機が生まれるとは思えない。航介も別に四六時中怒ってるわけじゃないけど、いや、四六時中怒ってるんだけど、怒ってないとは口が裂けても言えないけれど、とにかく穏やかな時もあるわけで、そういう時は江野浦さんに雰囲気が近くなるかも。刺激しなければあの男も温厚なのだ。刺激に対して敏感すぎるだけで。この一家顔激似だしな。
暇なので、美味しそうに親子丼を食べてくれている江野浦さんに話しかけちゃう。人が良いので答えてくれちゃう。息子と同い年の若造なのにね。
「大きい荷物ですね」
「ん、ああ。ギターです」
「へー!どっかで練習?」
「うちで練習してると、弾けないところ見せるの、かっこ悪いから。はは」
「なにそれ……めちゃくちゃかっこいい……」
「ええ?そうかなあ」
照れた時に誤魔化すみたいに頰を掻く癖は、遺伝らしい。おいしかったです、ごちそうさまでした、ときちんと手を合わせて店を出て行った江野浦さんに、またお待ちしてまーす、と声をかけて。
「おい」
「お。息子」
「父来たか」
「来たよ。なんで?」
「あいつ俺のギター持ってきやがった」
「そうなの?」
「ケース似てるから間違えたんだろ。別にいいんだけど」
もしここで捕まえられたら交換してやろうと思ったのに、と入ってきた航介は、江野浦さんが持ってたのと同じ感じのケースを持ってた。おおー。ギター父子。
「なんか弾いて」
「死んでも嫌だ」
「なんでさ!ケチ!ハゲ!」
「ハゲてねえ」
「なんか食べる?」
「食べない」
「なんか飲む?」
「お茶」
「お茶ぁ!?何しにきたんだよ!」
「父を探しにきたんだよ」
「もういねーよ!」
「だから帰るよ」
「飯ぐらい食ってけ!」
「財布忘れた」
「ばか!バカゴリラ!」
「殴るぞ」


4/7ページ