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おのでらとふしみ



こっちとあっちを隔てているのは立った一枚のガラスだけなのに、なんでこんなにもこちら側は静かなんだろう。繋がっている場所なのに音は届かないことが不思議で仕方ない、的前で一つ前の立ちが終わるのを待っている時に聞こえるのは弦音と中る音だけだ。最後の一人が引き終わった時に一際強い風が吹き抜けて、真っ正面の的から風が吹いてきたような気になった。号令の声で立ち上がる、普段の練習と同じことを同じようにするだけなのに、上手く行かない感覚。
的前に立って、一呼吸。矢を二本取って顔を上げれば、ガラスの向こうは人だらけだった。その中でこっちを見ている見知った顔、崎原の心配そうな顔の横で西前が思いっきり寝てて、桐沢のしかめっ面。その後ろには並んでこっちを見ている一年生、今引いてんのは俺だけど三割くらいは伏見のことばっか見てるよね、知ってたけど。一本つがえて、もう一度的を睨む。とにかくまずは一本目、当ててやるんだ。
後ろで六島が弓を上げる感覚、引き切った後きりきりと鳴る弦音に耳を向けて、いつもと同じ風にすればいい。肩上げんな、肘下げろ、口割り合わせろっつってんだろうが、何万回言えば分かるんだそろそろ殺すぞ、なんて暴言までフラッシュバックして、ちょっと楽しくなった。呼吸に合わせて、指を弾く。風を切る音が耳元で聞こえて、一瞬後には別の音が安土に響いた。

「六島、二回戦っていつから?」
「もうすぐじゃね」
「雑だなあ」
「つーか伏見に聞けば?どこ行ったの、あいつ」
「俺も知らないけど。小野寺あ、伏見見てない?」
めでたく二年立ちは全員一回戦突破を決めて、それぞれもそもそと昼ご飯を食べている頃。西前に聞かれて首を横に振る、俺もどこ行ったか知らないや。一年生に試合のこと教えてやれって俺に言い置いてどっか行っちゃったし、俺そんな教えるとか出来ないから一年生にとってもあんまり嬉しくないだろ、これ。すると、伏見ならさっき中学の時の先輩に会ってくるって巻藁行ったよ、なんてサンドイッチ頬張ってる崎原が言って、へえ巻藁かあ、そっかあ、ふうん、なんて西前と六島の声。
「……なんだよ!」
「小野寺聞いてこいよ」
「やだよ、まだおにぎり食べ終わってない」
「聞いてきてよお、俺たちコンビニ行きたいからさあ」
「やだってば」
「伏見の昼飯まだここにあるじゃん、ついでに届けて来いよ」
「巻藁聞きに行ったついでにコンビニ行けばいいじゃん」
「じゃあじゃんけんにしよ」
「出っさなっきゃ負っけよ、じゃんけん」
「ちょっ待っ、はい!はい!?」
「はい負けー、小野寺の負け」
「お前ほんとじゃんけん弱いな」
というわけで、負けた。グーグーチョキで普通に負けた。片手には伏見の昼飯ぶら下げて、もう片手には自分の食いかけおにぎり持って、とぼとぼと巻藁へ向かう。やだなあ、調子悪いって言って練習してるとこなんて行ったら俺どうなっちゃうの、おにぎりの具にでもされそうなんだけど。
おにぎり食い切って、人のいない廊下を抜けて見えてきた巻藁の前には、人が二人いた。ちっこい方は伏見だろう、にこにこしながら話してる。じゃああのおっきい方は誰だ、私服だから高校生じゃないな。弓も持ってないし、と訝しんだところで、中学の先輩、という崎原の言葉を思い出す。一つ上、じゃなくて、二つ上の。ふと頭の何処かに何か引っかかって思わず足を止めれば、伏見がこっちに気がついた。
「お、のでら?どうしたの」
「あ、や、遅いから。あと、二回戦っていつからなのかなって、六島が」
「アナウンス入るよ、審査員の先生も準備があるから」
つっかえながら無理やり吐き出した言葉は、微妙に固まっていて。不思議そうな顔をした伏見の横でゆっくりこっちを向いたその人は、俺の知らない、でも知ってる、心の何処かで会いたくないって思ってた人だった。
二つ上の化け物みたいな先輩、十二射皆中、霞的のど真ん中、伏見が弓道始めたきっかけ、憧れ、『はるおみせんぱい』。
「はじめまして。小野寺くんでしょ?伏見から聞いたことあるんだ」
「……やめてくださいよ」
「どうして。褒めてただろ、伏見だって」
俺と同じくらいの身長、フレームの太い眼鏡、人当たりの良さそうな笑顔。伏見と同じ中学で弓道部やってました、渚晴臣です、と丁寧に自己紹介されて、つられるように頭を下げた。拍子抜け、というか、別に気構えていたわけじゃないけど。もっとなんか、怖い人なのかなってイメージを勝手に持ってたから。
さっきの三本目、ちょっと力込め過ぎてたから、あの癖をなくせたらきっともっと安定するよ、と告げられて顔を上げれば、晴臣さんは困ったような笑顔を浮かべていた。
「ごめんね、初対面なのにこんなこと言って」
「……いえ……」
「もしかして、これ言われるの初めてじゃないんじゃない?例えば伏見とか」
「あ、はい、しょっちゅう怒られて、俺」
「あはは、お前この子には怒るの?伏見が怒るとことかいっぺん見たいなあ」
「先輩には怒る理由がないじゃないですか」
ぷいっと拗ねたようにそっぽを向いた伏見をちらりと見て、こっちに視線を戻した晴臣さんが手を出した。握手でもしたいのかと思っておずおずと伏見の昼飯持ってる方の手を出せば、ひっくり返して手のひらを上にされる。そのまま無言で指をなぞられて、面食らって固まれば満足そうな溜め息。後ろで黙ったままの伏見も怖い、やだ、なんか言ってよ、俺いたたまれないよ。
「そっか、よく練習してるんだね、小野寺くんは」
「え、あ、はあ」
「手のひら、たくさん豆も出来てるし、もう硬くなってる。自信持っていいよ」
「……ありがと、ざいます」
「俺、今大学生なんだけど。コーチっていうか、そういうのになろうと思うんだ」
「弓道の、ですか?」
「そう。それで、ちょうど今伏見にも頼んだところなんだけど」
お金を取るつもりはない、むしろ自分の勉強のためだから協力してもらうくらいのつもりではいる、と前置いて。是非、仮コーチをさせてもらえないだろうか、と投げかけられた言葉に、しばらく頭が追いつかなかった。だってこの人すごい人なんじゃないの、高校の時タイトル総舐めとかしてるんじゃないの、なんで俺にそんなこと言うの。
おろおろと目を泳がせた俺に、まあ自分なりのやり方があるから考えてくれる程度で構わないんだ、と笑った晴臣さんから連絡先を受け取って、手を離される。ばくばく心臓が鳴ってる、的前に立った時なんて比にならない。だってこれって、伏見の憧れの人、に教えてもらえる、かもしれないってこと?
「決まった曜日に、放課後少しだけアドバイスするだけだけどね」
「……小野寺はとにかく、俺はお願いします」
「伏見はまずその妙な引っ掛けをどうにかしないと。どうしたの、それ」
「わかんないですけど……」
「あ、わ、分かるんですかっ、伏見のスランプの原因とかっ」
「ん?んー、そこまでは分からないけど。直す方法は一緒に探してあげられるよ」
頭の中がぐるぐるする。それはきっとすごく良いことで、伏見は憧れの先輩にもう一度習うことができて、スランプからも抜けられるかもしれなくて、俺には何もできなかったけどこの人にならどうにかできるかもしれなくて、しかも決定事項だ。俺が今から我儘言っても伏見はこの人に教えてもらうことを取り消したりはしないだろう。だからこそ、小野寺はとにかく、だ。俺はおまけであって、どっちだってよくて、でも、だから。
俺には何もできなかったのに、って、余計に思ってしまうのだ。
「あ、そろそろなんじゃない?」
「そうですね。小野寺、行こう」
「……うん」
「小野寺くん、気が向いたらでいいから、連絡ちょうだいね」
ふらりと観覧席側に歩いて行った背中を見送って、紙を握る。俺には出来ないことが、あの人には出来る。それは酷い嫉妬を伴って、汚い気持ちで頭の中がいっぱいになって、けれどあの人から全てを習えば俺はあの人の代わりになれるわけで、それはイコール、伏見に必要としてもらえるということで。
そこからは、頭が痛くて、気がついたら射場にいる感じだった。いつもと同じ風にすればいい、なんて言葉が脳を回るけど、全然なにもかもいつもと同じなんかじゃなくて、外して、外して。自分が何本引いたかもよく分からないままに弓倒しする途中、笑っちゃいそうなくらいに散々な看的が見えた。

「なんて言って欲しい?」
「……なんて、って」
「怒ってほしい、慰めてほしい、詰ってほしい、同情してほしい、とか」
前は俺が引き摺り込んだ公園、今日はブランコじゃなくてベンチに座らされて、隣で伏見が指折り数える。暗くなり始めた辺りのせいで表情は窺い知れなくて、なんて言ったらいいかわからなかった。
結果は散々、きっと俺のせい。でも誰も何も言わなかった、それも怖くて仕方なかった。別に気を使われているわけでもなくて、至って普通のことみたいに、六島も伏見もしれっとした顔してて、俺のせいなんじゃないの?って問い質してしまいたくなりそうなくらいに。違うと自惚れてしまう前に、早くお前のせいだって叩き切ってよ。
試合が終わって、いつも通りにみんな分かれて帰る途中、無言の伏見に目で呼ばれてついてきたら、ここだった。怒られるのはいい、失望されるのは嫌だ。伏見はきっと分かってるんだ、俺がどうしてあんな酷い結果を出したのか、一部始終を知っているから。それなのにどうしてなにと言わないの、どうしてほしいかなんて俺に聞かないで、いっそ一思いに怒ってくれたらいいのに。
「小野寺に任せたのは、切り込み隊長だったんだけど」
「……ごめん、なさい」
「別に、謝れとかじゃなくて。大前は良くも悪くも、その立ちの流れを作るだろ」
「でも、俺、さっき」
「ぐじぐじうるせえな、俺が喋ってんだから黙ってろ」
「……うん……」
「流れを作るのは確かに大前の役目だけど、その流れが万が一悪いものであった時に、それを切るのは落ちの役目だよ。中落ちで中りを稼げばなんにも問題はないんだから」
だから、怒るつもりはない、って。それが出来なかったのはあくまでも自分の責任なんだからお前を怒る筋合いはないと思う、じゃあ慰めてやりたいのかといえばそういうわけでもなく。自分の結果は自分のものでしかないんだから、他人にとやかく言われる筋合いはないだろう、と。詰るのも違う、そもそも他人にぐちぐち言えるほど完成されているのであればその人だけで大会優勝が狙えるんだから、他人の力なんて必要ない。同情したいなんて以ての外だ、そんなことするわけがない。悲しかったね、って分かち合うことになんの意味があるのか不思議で俺には不思議で仕方ないよ、なんてつらつらと零した伏見がぐったりと空を仰ぐ。
「だから、お前に悪いところがあったとしたら、別のこと考えてたとこだよ」
「……………」
「そうだろ?正直に言え」
「……う、あいったあ!」
「よし」
こくん、と頷きかけた瞬間、ベンチに引っ掛けてた伏見の左手がフルスイングで飛んできて後頭部にぶち当たった。目が飛び出るかと思った、なんてことしてくれるんだ。叩くにしたってもうちょっとなんかあるだろ、声かけるとか力抜くとか。
弱ってる小野寺くんのために特別に教えてあげますけどね、と意地悪にくすくす笑った伏見が、口を動かす。お前のいいところは、なんにも考えてないところだ、って。集中してるわけじゃない、そもそも集中しようともしてない。的前に立った時に弓道のことしか頭にないから、要は他のことを考えるような器用なこと出来ないから、強いんだって。
「それにお前、練習したら失敗はしないんだって、前言ったろ」
「……たくさん練習したら、その分うまく行くと思う」
「いくら練習したってうまく行かなかったらどうしようって思うもんなんだ、他はな」
「なんで?」
「なんでって、俺は知らねえけど。でも小野寺はそうは思わないんだろ?」
「うん」
「だからお前は中るんだよ。練習通り、がいつでも出来るから」
ただ、それは当然ながら的前に立った時点で目の前の的のことを考えていられる時の話であって、今日みたいにあっちこっちうろうろ別のことを考えてる時の話ではない。元々集中力がものを言う競技だ、号泣しながらサッカーやれって言ってるのと同じ。
「分かり易すぎて引きながら笑っちゃうとこだったよ」
「……ごめん」
「晴臣先輩のこと、嫌い?」
「べ、つに」
「お前にも嫌いな人とかいるんだなあって、俺は思った」
そんだけ、だそうで。そりゃいるよ、俺にだって苦手な人とか嫌いな人とか、いっぱい。誰とでも仲良くなれるわけじゃないんだ、って知る度に自分が汚いものみたいに思えてしまって、すごく嫌い。今日のあれなんて、完全に俺の独りよがりだし周りに迷惑はかけてるし、最悪じゃないか。
言いたいことはたくさんあって、でもどれも言っちゃいけないことな気がして、黙ったままの俺を見ていた伏見がぼそりと呟いた。泣きそうなの我慢して顔を上げれば、伏見はこっちを見てすらいなくて。
「俺がさあ、もうちょっとなんか、出来てたら。違ったのかな」
「……なにが?」
「調子悪いとか、お前に大前任せたとか?そういうのに甘えてたかな」
「伏見はなんにもしてないじゃん」
「なんにもしてないのは悪いことだよ」
今日の二回戦だって、俺が皆中まで持ち込んでたら無理矢理にでも上に進めたんだ、と当たり前みたいに呟かれて、目の前が暗くなった。どうしてこいつはいつも、当然みたいに全部背負い込んで、自分がもっと頑張ればよかったのにって悔やみ方しかしなくて、周りのせいにしようなんて欠片も思ってなくて、みんな自分の力不足で、及ばなかったからだって笑う。今日は誰がどう見ても試合中にも関わらずそっぽ向いて別の事に頭の中飛ばしてた俺のせいでしょ、伏見はなんにも悪くない。
言いたいことが多すぎて、伏見が自分のせいだって言うのにそれは違うって俺から言うのはまたおかしい気がして、結局さっきと同じように何も言えなくなった俺を見て、伏見が首を傾げた。
「みんな自分のせいだと思ってるよ」
「……え」
「お前はもちろんかもしれないけど、流れを切れずに引きずられたのは俺の責任。小野寺が他のことに気を取られてることを知ってて何も言えなかったって崎原も落ち込んでたし、俺が後ろからフォロー出来なかったからって六島は悔しそうだった。西前と桐沢は、そっちの立ちが進めなかったならこっちの立ちで三回戦まで何としてでも進むべきだったって言ってた」
「……でも、俺が一番悪いよ」
「自分でそう思うならそうなんじゃないの?みんなに謝ってみなよ、殴られるから」
「……………」
「ただ、悔しいのは小野寺だけじゃないってだけのことだろ」
ぱんぱんと制服を叩いて立ち上がった伏見が、街灯に照らされた下までふらふらと歩いて行ってこっちを振り向いた。暗くてよく見えなかった表情がようやく分かった、目を細めてにやにやと笑う、楽しそうな顔。こっちおいで、と手招きされて近づけば、伏見からも俺の表情は見えていなかったようで、げらげら笑われた。
「なにそれ、ひっどい顔。馬鹿のくせに落ち込んでんの?百年早いんだけど」
「だって!」
「泣いてもいいよ、俺自分よりでかい奴が泣いてんの見るの好き」
「泣かないよ!」
「今殴ったら泣く?」
「泣かねえってば、いった!お前、ほんとに殴りやがったな!」
「んだよ、泣けよ」
「うるさいっ」
泣け泣けって言われたらほんとに泣きそうだ、その場で蹲ったら伏見が上から座ってきてがしがし頭を撫でられた。重い、痛い、なんでお前そんな嬉しそうなんだよ、性格悪いにも程があるぞ。驚かせてやるつもりで肩車する勢いのまま立ち上がれば、不意打ちだったのか伏見がわあわあ言いながらすっ飛んでって、それでつい笑ってしまった。
晴臣さんに習うことにする、と伏見に告げれば嫌そうな顔をされた。俺の時間が減る、なんて、酷い話だ。だって俺にはまだ足りないものがたくさんあって、それを埋めるためならなんだって使わないと、いつまで経っても伏見とは並んで歩けない。晴臣さんに対して俺が抱いてる感情は紛れもなく嫉妬だ、でもそれってよく考えたらいいことなんじゃないのって思えてくる。相手のことを確実に自分より上の存在だと思えないと、嫉妬なんて抱かない。追いつけないから妬ましくて、羨ましいから追いかけ続ける。いつかあの人も抜かして、俺一人が伏見の前に立ちはだかることが出来たなら、こいつはきっと楽しそうに笑ってくれると思うんだ。
「伏見が頼りにならない時に俺まで使えなかったら大変だし」
「今なんつった」
「俺ががんばったら伏見はがんばんなくても良くなっちゃうかもしんないし」
「おい、なに人のこと勝手に用無しにしてんだ、泣かすぞ」
「悔しい経験するのはいいことだって前に伏見も言ってたし、勉強ってことで」
「なに一人で解決してんだよ」
「俺がんばるからね!」
「……なら、まずは来月だな」
「来月?」
「高校総体。インターハイの予選だよ、水無瀬先輩達の卒業試合だ」
「それって二年も関係あるの?」
「三年の人数よく考えろよ。水無瀬先輩、倉科先輩、高梨先輩、荘野先輩」
「前野先輩、岸谷先輩、渡部先輩……あれ?」
「三年男子は七人、弓道の立ちは三人ずつ。二人足さなきゃ試合に出れない」
一人は俺で確定としても、なんてしれっと言われて頷く。まあ順当に行ってそうなるだろう、いくら調子悪いって言ったって伏見がぶっちぎりだ。あとの一人は誰になるかって言ったら、今までの感じから考えたらお前のはずだったよ、と指をさされて、ちょっと困る。え、俺なの。崎原とかにしとかなくていいの、ほんとに俺でいいの。
「だから、小野寺は俺が直々にずっと教えてんだから、本数は誰にも負けねえの」
「でも俺、今日酷いことになったよ」
「そう、だから先生も考え直すかもしれない。でも確立的にお前が出るのが一番いい」
「そんなあ」
「約一ヶ月ある、関東大会のアレは悪い夢でしたって先生に分からせてみろよ」
五月の関東大会、六月の高校総体予選、八月の錬成会。冬場にはあまり試合がないこともあって、この先数ヶ月は練習試合と大会のラッシュになる。基本的には一つの学校で二立ちから四立ち、個人戦がある大会もある。結果を残して上に進む機会は確実にある、ただ門が狭いだけだ。
「俺もなんとかしなきゃなあ」
「……まだ治らないの?調子悪いって、なんか引っかかるやつ」
「うーん。わかんないんだよな、自分じゃよく」
だから晴臣先輩を頼ったんだけど、と弓と鞄を取りにベンチの方に戻った伏見の背中を見て、なんとなく、ほんの少し嫌な予感がした。


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