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ありまとおべんと


「有馬、住所」
「……なんで。帰るよ、普通に」
「無理だろ、タクシー使うよ」
「いい」
「よくない」
「離せって、お節介もいい加減に」
「お節介でいいから」
「……ん」
不服そうな顔で差し出された学生証片手に、大通り沿いを歩く。後ろからもそもそと聞こえてくる、嫌じゃないとかごめんとか、全部聞こえていないふりをした。あのくらいで怒るんだと思われていたらそれはそれで心外だし、朦朧としている病人にそこまで言わせてしまった俺にも非がある。だから謝られたなら謝り返さなきゃならないし、今はそんな時間すら惜しい。
幸い公園の傍で拾えたタクシーで家の前まで送り届けた時には、すっかり日も暮れて辺りは真っ暗になっていた。車の中で寝てしまった有馬を揺すり起こして、玄関前まで何とか引っ張って連れて行けば、のたのたと鍵を取り出した。
「……ただいまあ」
「……誰もいないの?」
「んー……」
今日みんな遅いって言ってたかも、と零しながら玄関口に座り込んだ有馬に、そっかじゃあ俺は帰るわ、なんて言えるはずもなく。取り合えず寝るところまでは見届けるべきだろうか、でも他人の家にずかずか入っていくのも気が引ける、なんて迷いながら玄関口で足を迷わせていると、がたりと家の奥で音がして女の子が顔を出した。
「おか……え」
「あ、すいません、これ、あの、有馬が具合悪くて」
「えっ、お兄ちゃん?」
かなた、と漏らした有馬がのろのろと顔を上げたので、話に聞いてた妹さんはこの子か、とようやく思い至る。よく見れば似た雰囲気の顔立ちだ。心配そうに額に手を当てていた彼女が俺に向き直って頭を下げるので、話しづらいだろうしと何となく膝を折った。
心配ゆえなのか兄への罵倒が混じったお礼に、そんなに気にしなくていいと返しながら、とりあえず部屋まで有馬を運ぶところまでは責任を持つことにした。自主的に歩くことが全くできない訳ではないだろうけれど、自分よりでかい男を高校生の女の子に背負わせるのは気が向かない。まあ俺だって力がある方じゃないから、どっこいどっこいなんだけど。
ベットまでどうにか引きずるようにして運んだ体を転がして、持ってきてもらった濡れタオルを額に乗せて、寒いとか言い出した有馬の体に布団を出来るだけかける。夏場だからたかが知れてるけど、気休めにはなるだろう。
「ありがとうございます、あの、えー……」
「かなた、これ弁当」
「ああ、お兄ちゃんが迷惑をかけてる、あのいつもの」
「かけてねえ」
「かけてんじゃん、今まさにそうじゃん」
げほげほ言いながら体を起こそうとする有馬を押しとどめながら、そんなに迷惑でもないです、とか何処向けだか分からないフォローを入れる。見栄張らないで寝ててほしい。結局有馬は俺の苗字も名前も教えないまま、妹さんにも聞かれないままに、弁当さんには普段からお世話になってるようで、なんて話が進んでしまった。もうこのままでいいや、面倒だし。
俺がここにいても恐らく有馬は寝ないので、看病は家族に任せて退散した方がいいかと考えていると、お礼とばかりにお茶とお菓子を出してもらった。どっかの気が利かない馬鹿な兄とは違って、妹は良い子だ。突っ撥ねて帰る訳もなく、そのままいただきながら何とはなしに有馬兄妹の会話を聞く。朦朧としている割に眠れないのか、会話の内容は大分しっかりしているようで少し安心した。急いで病院に駆け込むことになったらどうしようかと思っていたから。
「明日あたし部活あるから、お兄ちゃん一人だけど」
「大丈夫だって」
「嘘、また今日みたいに勝手に平気だと思ってどっか行くんでしょ」
「行かねえから、お兄ちゃんいくつだと思ってんだよ」
「信じらんない、あたし休もっかな」
「いいから、おい、かなた」
「だって前インフルエンザかかった時、一人で留守番させたらすっごい悪化したじゃん」
「風邪だから!ただの!げほっ、けほ」
咳き込んだ有馬を見て、あたし休むからね、と言い切った妹さんは恐らくもう既に一度懲りたことがあるのだろう。不満そうな顔を隠しもせず寝転がっていた有馬が、ちらりとこっちを見て、小声で言った。
「……だって弁当が呼んだから」
「なに?」
「なんでもない、かなたに言ってないし」
「そうですか、はいはい」
布団から手を出して、もそもそと俺の服の裾を掴んだ有馬が何か言おうとした寸前、もうこれ以上余計な迷惑かけないの、と妹さんに遮られた。けふけふと軽い咳が止まらない様子の有馬に、もうここからは家族に任せた方が良いだろうと思って立ち上がる。俺がいたらきっと寝られないだろうし、休まないことには治らない。
もごもごとなにやら言いたげな有馬に、また連絡してくれたら予定くらいいくらでも合わせるからとにかく今は直すのが先だと告げて部屋を出た。ほんとにありがとうございました、なんて妹さんに頭を下げられて、首を振る。俺が呼んでしまったのは事実だし、せめて自分で歩けてる内に無理にでも帰してればこんなことにはならなかったわけだし。
「違うんです、お兄ちゃんアホだから」
「うーん……でもなんか一応、あいつもなんかいろいろあってね」
「あの人自分の体調があんまり良くないとか判断できないんです、馬鹿だし」
「あ、でも、ほら。精神的にも弱ってたし、最近天気もおかしいし。仕方ないよ」
「ううん、お兄ちゃんいっつも弁当さんに迷惑かけてばっかりでしょ、ほんともう」
「そんなことないって」
また今度ちゃんと遊びに来てくれたらあたしも嬉しいです、なんて言われてむず痒い気分になった。恥ずかしそうにはにかんだ笑顔はどことなく有馬兄の方に似ていて、兄妹っていいなあ、とか思ったり。有馬が俺のことをどんな風に家族に話しているかは知らないけど、また今度遊びに来て、なんて気に入られてると思ってもいいんだろうか。
「……あ」
有馬の家を出て数歩、携帯を取り出そうと鞄を探れば、手の中にあったのは指輪だった。ずっと大切そうに付けていたそれには細かい傷がついていて、それでも綺麗なままの銀色が街灯の光をちかちかと反射して、目に痛い。さっき取り上げてそのまま無意識に鞄の中へ入れていたらしい、うっかり落としたりとかしなくて良かった。
なにか分かりやすい目印でも付けとかないとどっかへやってしまいそうで、また鞄をがさがさと漁れば、これも有馬から預かりっぱなしのお守りが出てきた。お守りと指輪を見比べて、足を止める。二つとも、あいつにとって大切なもので、俺が持ってるべきじゃないもので、返さなきゃいけないもので。千晶と付き合うことになったきっかけはやっぱりあの時のお参りだったような気がするんだ、なんてへらへら笑いながら、冗談めかした本気の言葉を前に聞いたことがある。その時のお守りと、お揃いの指輪。こればっかりはいくら捨ててしまいたかろうが、有馬が持ってなきゃいけないものなんだと思う。
未練がましい俺は、これを返さなければ、渡す前にうっかり失くしたふりして知らんぷり決め込めば、なんてもしもをどうしても想像してしまうけれど、その想像の中ではいつも誰も幸せになんてなれなくて、俺だけがぬるま湯みたいな自分勝手の中で一人楽しく生きていける。それはきっと違うんだって、最近やっと分かってきたところなんだ。一番望まなきゃいけないのは、俺が幸せになることよりもあいつが笑っていられることなんじゃないのかな、って。
だから、きっといつか後悔するんだろうなんて思いながら、彼と彼女がまた二人で笑えるように、なんとかならないかなって、考える。手の中で温くなった指輪はお守りの紐に通して一つにしておくことにした。もしもまだお守りの力を借りられるなら、次に会う時、これを返す時までに、なにか一つでもいい考えが思いつけますように。
「……どうせ、無理だろうけど」
ぼそり、と独り言が漏れた。暗くなった道をだらだらと歩きながら、溜息。今はまだ、彼と彼女に幸せになってほしいと思える。けれど十秒後には、十分後には、明日には。もうこのままで良いんじゃないの、って手のひら反して全部ぶん投げて、進んでぬるま湯に足を浸しに行く自分だって、あまりにも容易に想像できてしまうんだから。
だって、でも、仕方ないじゃないか。諦めきれない俺だって、有馬のことが好きなんだ。

夏はいつの間にか過ぎ去って、台風情報やら秋雨前線やらに踊らされている間に学校が始まって、朝晩の冷え込みは少しずつ強くなって、十月になった。引っ張り出した長袖は何処となく懐かしくて、一緒に出てきてしまったコートやマフラーはまた元の場所にしまい直す。まだ早い、あと少し。履き潰したスニーカーを玄関先で見下ろして、冬が来る前に買い換えようかな、と思ったり。
「お、学校?」
「はい」
「ってらー」
「いってきます」
 ばったり会ったお隣さんに挨拶して、家を出る。振った手を下ろして、鍵を鞄のポケットに入れた時に指先に触れた冷たい感覚に、少し気分が下がった。
俺は結局、まだ指輪もお守りも有馬に返せていない。学校が始まる数日前に会う機会があったから渡そうとはしたんだけど、なんだかんだとはぐらかされては逃げられてしまって。学校で会うようになってからも、あいつは明らかにその話題を避けようとしていて、酷い時なんか話を逸らすどころか用事もない癖にどこかに行ってしまうこともあるくらいだった。そろそろ伏見が怪しんでる、というより勘の良い奴のことだからとっくに察しててもおかしくないけれど、何故か一つも触れてこようとしないし動こうともしない。むしろふらふらと逃げる有馬を擁護するような態度をとったりして、意味が分からない。井生さんと話し合ったって本人が言ったって、あの馬鹿が熱出すほど悩んでるんだから、別れる直前まであんなに楽しそうだったんだから、一緒に居た方が絶対いいのに。何も知らない俺がそこまで言うのはおかしいかもしれないけど、せめて指輪ぐらいは自分で持っていてほしい。
がしゃがしゃと自転車を漕ぎながらいつもの道を進む。なんか久しぶりに自転車出したような気がするけど、気づかない内にボロになってる。靴より先にこっちか、いや自転車は最近全然使ってないから買い直さなくてもいいか、なんて思っている間に駐輪場まで着いた。適当な場所に自転車を停めて鍵をかけ、鞄を持って歩き出すと、知った背中が前を歩いていた。
「おはよう」
「はよー」
「弁当今日チャリ?」
「うん。小野寺も?」
「今日は伏見後ろで来たんだあ」
「は?」
「……昨日小野寺の家に俺が泊まったから、今日は自転車二人乗りして来たんだ」
「ああ……」
「ん?なんか俺間違った?」
「間違ってはいない、んだけど」
二人はだらだらと取り止めの無い話をしていて、俺が入っても当然のように前の話の続きをするものだから、否が応でも聞き役に回るしかない。というよりも伏見と小野寺の会話は、有馬と小野寺で話してる時とはまた違った意味でほとんどドッジボールなので、今もいまいち噛み合っていない。伏見がもっとちゃんとしてる時ならまだしも、今はまだ半覚醒状態のようでふわふわと欠伸を交えている。それでも続く会話はいっそ綱渡りのようで、よくここまで通じてない話が続くものだと感心した。こうでないと高校時代からの付き合いなんて持たないんだろうか、とふと思って幼馴染の顔がちらつき、即座に撤回。絶対こいつらだけだ。
「……あれ、弁当次授業あった?」
「ないけど、用事があって」
「ふうん」
苦笑で誤魔化しながらそう答えれば、ふと気が付いたように訝しげな顔で俺を見た伏見がすぐにそっぽを向いた。なにか言いたそうだったけど、自分から言わないなら聞かなくても良いだろう。特に、今日の用事は深く突っ込まれたくない内容だし。なんて思いながら、校舎側に曲がっていった伏見と小野寺に手を振って、図書館の方へと向かった。別に疚しいことをしようっていうわけじゃない、ただ俺が勝手に個人的に、いけないことをしているような気分になっているだけだ。
静かに開く自動ドアを潜れば外のざわめきが嘘みたいにしんとしていて、待ち合わせ場所の選択をそもそも間違えたかな、なんてぼんやり思う。カウンターの前を通り過ぎて、本の並ぶ棚の間を通った先。いくつかの机と椅子が並ぶ自習コーナーの中で、電子辞書と睨めっこしながらレポート用紙にシャーペンを走らせているその人を見つけた。ばっつりと切られた髪を見て、冬前なのに寒くないのかな、なんて。難しい顔でちっちゃい画面睨んでる彼女の席に近寄り、声をかけた。
「おはよう、井生さん」
「ん?あっ、おはよ!ごめんね、なんかちょっと、レポートがね」
「いいよ、俺もまだこれ片付けてないんだ」
「弁当くんもこれ取ってたっけ」
「うん。でも金曜だから」
「そっか、あたし水曜だ」
つまづいているらしいところは運良くぱっと見で分かったので、つらつらと綴られている文字を指差して、ここの文法見直したら分かりやすくなると思う、なんて曖昧に手助けすれば、しばらくしかめっ面で唸った挙句、ぱっと顔を輝かせた。出来た出来た、と喜ぶ様子に、可愛いなあ、なんて有馬の口癖が移りそうになる。
弁当くんに返したいものがあるんだけど明日の朝とか暇ですか、なんて内容のメールが突然届いたのは昨日の夜のことだ。こっちに来る時に、買うばっかりじゃなくてちゃんと自炊しなさい、と親に渡された簡単な料理本。そういえば貸しっぱなしだったっけ、と思い至って了承の返事をしたところ、ついでにちょっとお話しませんか、だとかなんとか、そんなこんなで。
「助かったんだー、これすっごく分かりやすくって」
「俺一人暮らし始めた時これとにらめっこしてた、失敗もたくさんしたし」
「失敗しても自分で全部食べなきゃだから、あんまり美味しくないとちょっとねえ」
「味なら上手く誤魔化せばなんとかなるけど、焦がしたりするともう」
「そうなんだよ!そう!普段しないからさあ!」
にこにこしながら話す彼女がこの本を借りたがったきっかけは、今は無いお揃いの指輪の、もう片方のためなわけであって。それが頭を過る度に、一緒に笑ってる自分も、終わったこととして話す井生さんも、痛ましくて仕方ない。それでもどうしても指輪を外した理由が聞けなくて、受け取った本を後ろ手で握りしめながら、上っ面で笑顔を浮かべて楽しい話を続けた。
もう一回、二人で話をしてみてほしい。終わらせないでほしい、俺は有馬を幸せにしたい、もう自分なんかどうだっていい。今目の前で笑っているこの人と過ごした時間はきっとすごく幸せなものだったんだ、だから勝手におしまいにしないで、なんて俺の独りよがりな我儘を押し付ける。二人が納得した結果に部外者の俺が首を突っ込むなんておかしい、そんなこと分かってる。それでも、頼むから、お願いだから。
もう諦めさせてよ。
「それでね、料理なんて今までしなかったんだけど、本とか買っちゃって」
「そうなんだ」
「でもあたしすぐやらかしちゃうんだよねえ、分量間違えたりとか」
照れたように笑って、弁当くんが暇だったら本のお礼になにかごちそうしたいの、と荷物を片付けながら立ち上がった井生さんを引き留めるように、かみのけ、とつい零した。きょとんとした顔に、いつもみたいになんでもないって撤回しようとして、やめる。だって、このままじゃ俺一人終われない。我儘でも何でも構わない、あんなにあいつをたいせつにしていた彼女が何故この結末を選んだのか知りたくて、口を開く。
「髪、切ったんだね」
「うん、最初は前髪自分でやったんだけど、がたがたになっちゃって」
「伸ばしたいって聞いてたから、さっきちょっとびっくりした」
「……もう伸ばさなくてもよくなったから、ね」
なんで、と聞こうと口を開く直前、知ってる癖に意地悪だ、とはにかまれて言葉を飲み込んだ。確かに意地悪だ、わざわざ言わせることじゃない。さっきまで座っていた椅子にまたぺたりと腰を下ろして、ちょっと溜息。俺がずっと横に突っ立ったままだったのを見て、やっぱどっか行くのやめてここで話しても良いかな、とやんわり座るよう促されて、椅子に腰掛ける。伏せた目と困ったような笑顔が、短くなった髪のせいで余計によく見えて、息が詰まった。
「弁当くんだけだよ?芽衣子にも話してないんだから」
「……理由?」
「そう。あたしね、はるかちゃんのことまだ好きなんだ」
「うん」
「嫌いになったわけでも、喧嘩しちゃったわけでもないの。知ってた?」
「有馬から、少しだけ聞いて。細かいことは知らないけど」
「あっ、はるかちゃんのこと責めちゃやだよ。あたしが言い出したんだし」
「そ、っか。そう、なんだ」
「あの人ね、自分でも気づいてないだけで、好きな人がいると思うんだ」
「……えっ?」
「あたしはその人と似てるんだと思うの。重ねてるっていうか」
それが分かってしまったから、いつか自分で気づいてその人と結ばれてほしいから、自分と一緒にいるべきではないと思ってしまったから。だからさよならすることにしたんだと俯きがちなまま言い切った彼女に、何も言えなかった。だって、そんなの知らない、そんなわけないんだ。有馬は井生さんのことほんとに大事にしてて、あれだけ彼女欲しいって言ってた割には他の子に一切目もくれなくなって、そりゃあ付き合い出すきっかけは告白だったけれど、それはただのきっかけでしかないはずだったのに。
理由はそれだけ、と顔を上げた彼女の目は少し潤んでいて、なんて言ったらいいか分からないまま真っ先に口をついたのは、ごめんなさいだった。自分の我儘のせいでまた傷つけて、とは口に出来なかったけれど、なんとなく伝わったようで、ふるふると首を横に振られる。
「はるかちゃん、えっと、有馬くん、かな。落ち込んでたんでしょ」
「うん。分かる?」
「弁当くんがこんな話するんだもん、分かるよ」
「……熱出してた」
「やだ、ほんとに?いっぱい考えてくれたんだ、嬉しい」
「今も上っ面は元気そうだけど、でも、あの」
「弁当くんは好きな人いないの?」
「は、えっ?」
「そういえば聞いたことなかったなあって、こんな話」
出来れば有馬ともう一回話をしてみたらどうだろう、と切り出そうとした言葉を遮るように笑顔を向けられて、面食らう。予想外の方向から飛んできた矢に目を白黒させていると、鞄を肩にかけた井生さんが悪戯っぽく笑った。
「リサーチだよ、弁当くんのこと気になってる子だっているんだから」
「えっ、なに、なんで。そんな俺」
「んー?心当たりがあるのかな?それとも好きな子がいるのかなあ」
「ないっ、心当たりなんて、別に」
「まあまあ、この話はお茶でも飲みながらゆっくりしましょうよ」
「井生さん、ちょっとあの、俺お茶とか別に、授業あるし」
「次の授業までまだまだあるし、あたしも次入ってるし。行こうよー」
「いや、だって、俺、えっと」
「弁当くんケーキとか好きだったりする?期間限定のセットがおいしいお店がね」
結局、ぐいぐいと背中を押されるままに学校の近くのお店に入って、本とその他諸々のお礼だと秋限定のケーキとコーヒーのセットをごちそうしてもらったのだけれど。女の子と二人ってもっとなんかこう、少なくともこんな尋問みたいな雰囲気にはならないと思ってた。
ちなみに、ケーキはものすごく美味しかった。

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