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☆すてらびーた☆



「てってれー。次の難攻略にこのまま行くか、イージーモードに戻るか選べるよ」
「……!?えっ!?なに、っなんで、かみさまが!?」
「ある、うたた寝でもしてるんじゃない?コリンカというものがありながら、このこのー」
「う、うたたね……?」
「いやあ、うそうそ。実際ちょっと大変なことになってるから、頭の中身だけ避難させてるって方が正しいんだけどね。この前のコリンカと同じ状態だよ」
「……?」
「記憶ぶっ飛ぶ程やばい経験したんだと思っときなよ。かみさまからはなにも教えてあげられないからね」
「……はい」
「このけったいな夢から目を覚ました時、目の前にいるのは誰がいい?コリンカ?スピカ?ポール?大穴でレオ?ピスケス……の、ことは、覚えてないんだっけ」
「……みんながいいです」
「そりゃ無理だ。あるの頭はふわふわだな」
「ふ、ふわふわ……」
「このまま先に続くことを選ぶなら、そのふわふわ頭を捨てなきゃいけないね。イージーモードに戻るなら、どうぞふわふわでいてくれたまえよ」
「……かみさまが、じぶんに、このままでいてほしいって、言ったんじゃないですか」
「ところがそうも言ってられなくなった。ぶっちゃけ、神獣騒ぎ再びだ。なかよしこよし、は二の次。ある、君は、奪われた記憶を取り戻さないといけない」
「……え、え?なにが、どう」
「かみさまから言えることは一つだけだ。あるは、ピスケスにもう既に会っている。レオに会いに行った後、ちゃんとピスケスのところに行っている。覚えてないだろう?」
「……はい」
「一緒にいたコリンカも、ピスケスの思い出を根こそぎ取られた。神獣のやつめ、パワーアップして帰って来やがったのさ」
「神獣って、ポールさんたちが戦ったっていうやつですか」
「そう。しかも今回の件に関しては、かみさまからはあんまり口出しできない。パワーバランスが崩れるからね。ピスケスの星を壊したいわけじゃないし」
「……状況が、全く分からないんですけど」
「そこからクリアするのが醍醐味だろう?ひとつだけヒントを出すなら、ポールは威嚇丸出しでカチコミに行くと思うから、それは止めてあげてね。そうでないと、神獣のことを覚えている奴が誰もいなくなる」
「は、はい」
「あとは、スピカの手を借りなさい。あの子の守る力が必要になる。あの子が強くなるために必要なイベント、と言ってもいいかな」
「はい」
「そして、ある」
「はい!」
「次にここに来る時にはピスケスの抱きごこちっいった!痛い!やらかいとこはやめなさい!こら!ある!」

「あるさん!」
「……、」
「あっ、あ、意識が、あるさん、よかった、ああ……」
目を開けた時に目の前に広がったのは、スピカさんの泣き顔だった。わああ、と伏した彼女を慰めようと伸ばした右手は、無かった。麻痺しているのか、スピカさんのおかげなのか、痛くない。痛くないのに、全身がぐちゃぐちゃになってることは分かる。痛みが無いことは恐ろしいことなんだ、とふと思った。
今いる場所は、じぶんの星の、じぶんの家。声も出ない、首を回すこともできない軋んだ体で分かることは少ないけれど、夢の中でかみさまと話したことは、はっきりと覚えていた。ピスケスさんとの記憶が、じぶんからはすっぽり抜け落ちてしまったこと。一緒にいたコリンカさんも、同じように記憶の欠落があること。これから先、昔あった神獣騒動のごたごたが再燃するであろうこと。それを解決するには、スピカさんの力が必要になってくること。言葉にならない声で、呟き続ける。忘れないように。もうこれ以上、奪われてしまわないように。だって何か他にも、大切なことを落としてしまった気がするのだ。
しばらくして。スピカさんが、泣きながらじぶんの治療をしてくれて、じぶんは魔法陣の中。内臓が無いので、中身から治そうってことで、さっきまではスピカさんがおかゆを食べさせてくれてた。それでだいぶ回復して、今は魔法陣の中でおにぎりを齧っている。スピカさんの魔法のルールは「自分の作ったものを食べた人を癒せる」なので、なにかしら食べていないと治らないのだ。プラスアルファで上掛けされた魔法のおかげで、かなり時間は短縮されているけれど。きらきらときらめく魔力の塊が、じぶんにくっついては離れて、治癒していく。これで最大出力なんですから、後で魔力を返してくださいね、と目を真っ赤に腫らしたスピカさんが強がって無理やり笑って、魔法陣の外側から、小さな声で話しかけて来た。
「……あるさん。なにを、なにが、あったんですか……?」
「じぶんも、覚えていないんです」
「コリンカちゃんと一緒だったんじゃあ、なかったんですか」
「一緒でした。……え?スピカさん、じぶんをどうやって見つけたんですか」
「かみさまから、お告げが。わたしがあるさんの星に着いた時には、あなた、ぼろぼろで」
「……コリンカさんは?」
「だから、一緒だったんじゃあ、ってわたしも思って……」
「……どこ行っちゃったんでしょう」
「パスは繋がってます。だから、居なくなったわけでは無いと思うんですけど」
「……スピカさん」
「はい」
「髪の毛がどんどん伸びて来ます」
「あらら」
スピカさんの初見によれば。角は両方ともへし折れてた。右腕は根元から千切れてた。左手は残ってたけど、指が何本か無かった。足も形だけは無事、だけど右が特にずたずた。内臓は執拗なまでに空っぽにされていて、特に下半身に何か凄惨な怨みでもあるのかってレベルでぐっちゃぐちゃにされていた。そのせいでほぼ上半身と下半身が真っ二つ状態。顔は、左半分が割と綺麗だったらしい。右半分は「人体模型図見てるみたいでした」だそうで。
「治りました!」
「治しました……」
「ありがとうございます!」
「……つかれましたあ……」
「すいません……」
「……できれば、出来るだけ早急に、ほんと、魔力を返していただけると、ありがたいのですけれど……」
「じぶん、思ったんですけど、体液で供給ができるなら血液とか涙を飲むってかたちでもよいのでは?」
「ちょっと何言ってるか分かんないですね」
やる気満々かよ。本当に搾り取ってしまったらしく、くたんとしながら自分でスカートのホックをもたもた外そうとしているスピカさんに、心から申し訳ないような、別の手段を早く見つけた方が良いような。ちなみに、スピカさんのご所望通りにプラス3歳、17歳の姿でお相手した。スピカさんに治してもらったのに、それて得た魔力をまたスピカさんに注がないといけないとは、これいかに。
「コリンカちゃん、どこに行ってしまったんでしょう」
「じぶんみたいに、ぼろぼろになってるってことはないですか」
「……呼びかけてはいるんですけど。ぼやけてて、お返事が上手く聞き取れなくて」
しかしながらあちらから返事をしていることは分かる、ので意識レベルに問題もなく肉体的な損傷もないと見受けられる、とのことだった。まあとりあえずはコリンカさんを探しに行こうか、とスピカさんと話していると、ゲートのチャイムが鳴った。じぶんの星とゲートが繋がっているのは、コリンカさんと、ポールさんと、レオさんと、スピカさんなので、前者二人のどちらかである可能性が高い。噂をすればコリンカさんかな、とゲートの方へ二人で向かえば、思った通りの青い髪。
「コリンカさん」
「もう!あるさんのこと放って、どこに行ってたんですか!」
「……んー、隣の子のこと?スピカくん、お友達?」
「おとも……何言ってるんですか、コリンカちゃん。あるさんですよ」
「えと、コリンカさん、じぶん、ピスケスさんのところにコリンカさんと行ったらしいんですけど、それを覚えていなくって」
「……まず、そもそも、君は誰だい?」
「え?」
「へ?」
「ピスケスくんを知ってるとか、スピカくんの友達にしても、かみさまから、私なんにも聞いてないんだけど。どうしていろいろ知ってるのかな?」
「こ、コリンカさんが教えてくれたんですよ、自分の特権のことも、ポールさんのことも、トールさんのことも、レオさんのことも」
「……………」
「コリンカさん?」
「……君がいろんなことを知ってるって事実を、私は知らない。私が知らないままに君がいろんなことを知ってる理由が、私には分からない。私が教えた?冗談言うなよ、初対面の角付きくん」
「……コリンカちゃん?おかしいですよ、どうしたんですか」
「おかしいのはスピカくんの方だよ。誰にたぶらかされた?また『お友達』に騙されてるんじゃないか?」
「……彼の方のことは、あなた達が、殺したんじゃないですか……」
「まあいいさ。殴れば分かる。そっちのが早い」
「コリンカさん?」
「初対面くん、私の特権知ってるんだろ?じゃあ、勝ってみろよ。それで話を聞いてやる、オッケー?」
「こっ、はっ、ええ!?」
「君みたいなぽっと出のモブキャラに敗退して全部ゲロるほど、コリンカさんは弱くないつもりなんだけどなあ!」
自己暗示。トールさんと戦った時には、暗示内容を言葉に出していたから、そうしなきゃいけないもんなのかと思った。そうじゃなかった。暗示なんて、思い込みなんて、頭の中で唱えれば、充分すぎるほど充分なのだ。
千切れた。ぶっ千切れた。上半身と下半身がさようならするって一体全体どんな衝撃を与えたらそんな風になるんだって、スピカさんに治してもらってる時から不思議だったけれど、今この瞬間に分かった。柔らかいお腹の部分を、水平に手刀で横薙ぎにされると、千切れる。じぶんの内臓を絡めとりながら思いっきり、右から
左へ通過していったコリンカさんの手を見ながら、こういうことならばじぶんをぼこぼこにしたのもコリンカさんなのでは、なにか怒りを買ってしまったのはじぶんなのでは、とぼんやり思った。
「舐めんじゃねえぞクソ家畜がァ!」
「むごっ、えっ、ひえっ、くっ、くっついた!くっつきましたよスピカさ」
「ブチ殺す!」
「えっ」
スピカさんが、キレた。じぶんの口に飴を突っ込んだスピカさんが、上と下で分かれてしまった身体をくっつけてくれたのと同時、コリンカさんの手をひっ掴み、彼の身体を引きずり下ろしながら自分の足を跳ね上げた。要するに、ハイキックである。顎にめっちゃ綺麗に入った。横で見てて言葉を失うくらいに綺麗だった。しかしながら、スピカさんは基本的にか弱い女の子なので、あんまりコリンカさんにダメージを与えられて、
「ぐえ、」
「後で治すんで!後で!後でぜーんぶ治してあげるんで!ねっ!だからちょっとぐらいここをこうしてもいいですよね!ねえっ!コリンカさん!」
「あわわわわ……」
お見せできない感じになった。誰だ、スピカさんがコリンカさんにダメージを与えられていないとか言ったの。じぶんだ。完全に見誤っていた。どこからかいつのまにやら取り出したらしい、以前召還術を見せてくれた時に使っていた可愛らしいステッキが、血で塗れていく。頭ばかり執拗に狙っている理由、なんとなく分かった気がする。コリンカさんの特権は自己暗示なので、頭が機能している間は強いけれど、意識を失って仕舞えば要はそれまでなのだ。じぶんがコリンカさんを運んだ時も、気を失ってしまったから全ての暗示が切れて元の姿に戻っていたじゃないか。顎に蹴りを入れたのも、脳味噌を揺らすためだったのだろう。ブチ切れてるように見えて、案外頭が回っている。治しますから!治しますから!の一点張りなところが尚更怖い。恐らく目を回しているコリンカさんに、執拗に殴りかかるスピカさん。やりすぎではないかと、止めようと一歩足を前に出したら、後ろに進んだ。えっ、待って、上半身と下半身くっついてるけど逆向きじゃん、待って。
「スピカさあん!逆さまです!」
「えっ、やだあ!ごめんなさい!」
「っぶねえ!見知らぬ初対面くん、ナイスタイミング!」
「……………」
「……………」
「……?」
「……逃げましたね……」
「そうですね……」
「……え?いや、そりゃ逃げるさ。隙だもの」
「……………」
「……………」
「待って?なんで私がそんな目で見られてんの?逃げやがってってこと?スピカくんに声をかけた初対面くんが悪くない?」
「……逃げないで欲しかったですね」
「そうですね」
「なんなんだよお!無茶苦茶だなあ!逆さまにくっついちゃったのを早く治してやれよ!」
「はい」
「はいはい」
逆向きにひっついてしまった上半身を治してもらった。突貫だったからこんなことになったんですよ、コリンカさんがいきなり斬りかかってきたりするから、とスピカさんがぶつくさ言っている。コリンカさんはちゃんと待っている。というか、ばつが悪そうである。じぶんのことを忘れてもスピカさんに頭が上がらないところは忘れなかったらしい。そこも落っことしてこられたら良かったのにね。
驚くべき瞬発力で逃げたコリンカさんは、はひー、と頭から血をだらだらしながらぜえぜえしている。治してくれるのはスピカさんなので、いくら元々の男の体に戻り、じぶんをぼっこぼこにぶん殴れるだけの自己暗示をかけていたとしても、怪我が治るわけではないのだ。
「終わりました」
「はい」
「じゃあ続き始めてもいいですかね」
「……なんていうか……痛いのはちょっと……ねえ……」
「治す側も大変なんですよね」
「あー!もう!いいよ!分かったから!充分だよ!」
「終わりですか」
「豆腐みたいな身体しといて煽ってくんじゃねえよ!お前すっげー弱いじゃんかさ!」
「ぐう……!」
「コリンカさん!あるさんのことを悪く言わないでください!」
「ひっ、もう!そのステッキ振りかぶんないでよ!痛いんだよ!鋭利で!」

閑話休題。
「もう殴らないんですか?」
「……んー。一発目の時点で、気づいてはいたんだけど。私の中に、何故か君の魔力が流れてるんだよね。それに混じってスピカくんのも。何かあったかは覚えてないし、初対面くん、あるクンだっけ?ほんっとに一ミリも記憶の端にすら君のことは残っていないんだけど、身体が覚えてるって言ったらいいのかな。私の一番大事な中心の霊基が、君を知ってる。スピカくんの切れっぷりといい、多分おかしいのは私の方かなって予測はつけられるだろ?」
「……大人ですね」
「みんなのおねーさんだもん。ぶいぶーい」
なにがあったらそうなるのかの説明は出来ないので、割愛させてもらう。両手でピースサインしているコリンカさんは、言葉通りお姉さんに戻っていた。予測をつけて君達が正しいんじゃないかって思ってるだけでそうではないと判断し次第また殴りかかるんでそこんとこよろしくだぜ!と物騒なことも言われたけど。
「あるさんも、ピスケスちゃんに会った思い出を消されてるそうです。コリンカちゃんもそれと同じで、誰かに頭を弄られてるんじゃないですか?」
「うーん、私そういう干渉にはかなり抗体あるんだけどなー……自己暗示の特性持ってるのに洗脳され放題じゃ困るだろ?それこそピスケスくんの特権とかで上塗りされないと無理なんじゃあ、」
「……あれ?」
「……ん?」
「……えーと。言いにくいんですけど、言っていいですか?」
「いいよ。多分みんな同じこと考えてる」
「ピスケスさんが、じぶんと、コリンカさんの記憶を消したんじゃ、ないですか?」
「……なんのために?」
「それは……」
「あるさん、他にも奪われた記憶があるなら、それが本当にピスケスちゃんが欲しかったものかもしれません。一つずつ洗い出して、無くしたものを探しましょう」
「……ピスケスさんの特権って?」
「記憶操作。消去から上塗りまで、基本何でもござれだね。私の天敵。ピスケスくんに頭を覗かれたら自己暗示が根元からへし折られる」
「記憶操作……」
「なにか忘れてることはありそうかい?」
ポールさんのことも、トールさんのことも、レオさんのことも、もちろんコリンカさんやスピカさんのことも、覚えてる。かみさまのことも覚えてる。かみさまの本棚で見た本のことも、じぶんの特権である大人スイッチのことも、覚えてる。いろいろ話して、けれど、失われた思い出が見つからなかった。コリンカさんはじぶんのことを忘れているから頼りにならないし、スピカさんには話してないこともきっとあるはずだ。あとはポールさんに聞くしかないか、と肩を落としたところで、スピカさんがぐっと拳を握った。
「わたし、その、双子座の方とも、……そうですね。あるさんの言葉を借りるなら、仲良くして、みたいです」
「……スピカくんがそう言いだすようになれるくらい、あるクンは重要な立ち位置にいるんだなあ、と今の所は他人事なコリンカさんは思うのでした」
「もう。からかわないでください」
「スピカさんも、ポールさんのところに行ってみますか?」
「はい。あるさん、あの、わたし、あんまり、知らない方、得意ではなくて、ええと、どきどきします」
「大丈夫ですよ!ポールさん、優しいから」
「はい、そうですね。うん、大丈夫」
「手でも繋いでいきますか」
「……はいっ」
スピカさんが本当に嬉しそうに、花が咲いたように笑うので、手を繋ぐの、ちょっとどきどきした。覚えてるコリンカさんだったら、ヒューヒューだよ!フゥー!って全力でからかいにきてうるさかったはずなのに、今のコリンカさんは平然としていて、スピカくんのことだからどうせまた迫っちゃうぜ、と欠伸混じりに漏らした。早く戻ってほしいなあ。なんのために誰がやったのかもまだ確定はしていないけど、じぶんの知ってるコリンカさんを早く返して欲しくなった。

はじめまして、はじめまして、なんてご挨拶は早々に終わり、現在地、ポールさんの星。ぼくと話したことを洗いだせばいいんだね、と頭を捻ってくれたポールさんのおかげで、なにを奪われたか知ることができた。
「神話時代の記憶だ」
「……どういうことです?」
「あるにはもともと、この身体を得る前の、神話の思い出が残ってた。会いたい人はいる?って聞いたら、女神様の名前をあげるから、びっくりしたんだよ」
「そう、なんですか……」
「そう。でも、今のあるからはそれが全部すっぽり抜けてる。思い出があるけどストッパーをかけられてるせいで神話の膨大な魔力は使えない、って話だったけど、ストッパーがかけられているのはあるの体だけだろ?」
「ははーん、分かってきたぞ。あるクンから神話の記憶を盗んだ犯人は、神獣を再臨させようとしてるわけだな」
「そうだと思う。記憶から魔力を引っ張り出せば、再召喚は可能なわけだし」
「……わ、わたしの、お友達が、したことですか……?」
「誰がやってるのかは分かんないよ。ピスケスくんが噛んでるのは確かだけどね」
「ぼくらが殺した神獣の大元は、スピカに女神の代替えをさせて、そこから神話の記憶にアクセスしたんだろ?今回は代替えはいらない、あるの記憶をエネルギーとして消費したらそれで召喚のための魔力には充分だから」
ピスケスさんが、コリンカさんからじぶんの思い出を抜いたのも、じぶんから自分の記憶を抜いたのも、ここまで辿り着くのを遅めるための時間稼ぎ。恐らくは、もう神獣の再召喚は終わっていると見たほうがいいだろう、とポールさんが腕を組んだ。スピカさんは、自分のせいで起こった事件の再燃に、血の気を引かせて、真っ白な顔をしている。冷たい手を握れば、ちょっとびくっとして、でも握り返してくれた。大丈夫。スピカさんのせいじゃない。誰のせいでもない。けど、解決しなきゃいけないのはじぶん達だ。
「ピスケスに会いに行こう。なにが起きてるか吐かせないと、またあんなことになるわけにはいかないんだから」
「そうそう。こんなに楽しそうな思い出、取られる身にもなってみろよ。楽しかったんだろうなあって予測だけで君と付き合っていくの、案外地獄だぜ?」
「……あるさん。わたし、いけないことと分かっていても、お友達にもう一度会えるかもしれないと思うと、少し嬉しくなってしまう自分がいるんです。大切な貴方に危害を加えるかも知れなくても、嬉しいと思ってしまうんです」
「スピカ。あいつはもうきみの友達なんかじゃない、星々を滅ぼそうとする悪だ」
「分かってます。分かってるんです、でも」
「スピカさんのお友達、じぶんも会ってみたいです」
「ある!?」
「仲良くなれるかも知れないじゃないですか。ねっ、スピカさん」
「……はい……」

さてさて。奪われた記憶の内容も分かったところで、黒幕ピスケスの神獣退治編、はっじまっるよー。とはいっても、かみさまそろそろ、コメディパートが欲しくなってきたんだけど。あと絡み合いパートとか。お色気パートとか。なんとかしてよ、ある、主人公でしょ。ラッキースケベとか駆使して、がんばってー。
「うるさいですよ、かみさま」


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