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12月10日〜1月3日



≫12月29日
熱は全く上がらないまま一日経ち、明日から朔太郎も休みである。今日は半休だから、午後から冬休みみたいなもん。いつもよりも朝早く出て言った朔太郎を見送って、うっかり海と二人で二度寝して、寝坊して、遅めの朝ご飯を食べた。待ち合わせの時間が迫ってきたので、準備して家を出る。今日の予定は、お墓参りだ。
「でんしゃもってく」
「どうぞ」
「おはなも」
「……大荷物になるからいいよ。貸しな」
「や、うみがもつ」
「こっち持ってよ。お線香」
「おはな!」
根負けした。お花を抱えて、クリスマスプレゼントの電車をポケットに突っ込んで、多分前は見えていない。うんしょ、と車道に出て行く海の軌道修正をしながら、歩く。朔太郎が朝車に乗って行きやがったので、市役所まで歩いて向かわないといけない。自転車とかで行ってもいいけど、乗っていったそれを市役所に置いてくるわけにも行かないので、車に積まなきゃいけなくなる。だから、珍しく今日は歩きである。
「おはなもういい」
「うん……」
「こーちゃんもって」
「はい」
「おててつなご」
「ん」
「なかよしねー」
「そうな」
歩くの疲れた、とならなければいいけど。

「うーみっ、うーみっ」
「ご機嫌だね」
「自作の海ソングだしな……」
「さーくちゃんっ、こーおちゃんっ」
「お花はさちえも明日持ってくるみたい。ちょっと草むしりだけしてあげようかなって」
「ああ」
「みて、いしちゃん、でんしゃ」
「いしちゃん……」
「墓のことかな」
「ぶーん」
「あー!墓に電車を走らす奴がいるか!」
「でもいしちゃんにこにこ」
「絶対にこにこではない!」
「海、このへんの草抜いて」
「えー、うみ、いしちゃんとあそぶたい、でんしゃかしたげるからあ」
「お供えしときな」
「あーん」


≫12月30日
「海」
「はあい」
「お手伝い、頼んでもいいか」
「うん!」
遊んでた電車のおもちゃをその辺にぽいぽいと放った海が、お手伝いってなあに、うみなんでもする、と目を輝かせて抱きついてきたので、持ち上げて移動しながら話す。
「今日から何日か、さくちゃんもこーちゃんもお休みなんだけど、なんでか知ってる?」
「おしょうがつ!」
「そう。でも、その前にしなきゃいけないことがあって」
「さんたさん?」
「サンタさんはもう来ただろ」
「でも、もっかいきてほしい。おてがみどうぞしたいの、うみ」
「書いたら出しておいてあげるから」
「きってはる?」
「貼る」
「ふふー、ありがとうかくんだー」
「それで、海にお手伝い」
移動したのは、流し台の前。ぺろんと引っかかってる雑巾に気づかない海は、おててあらう、と袖を捲り始めた。違います。
「今から、大掃除をします」
「おそうじ」
「大掃除。お掃除をたくさんするってこと」
「ふむ」
「海には雑巾がけ係を任せます」
「ふきふきするひと!」
「そう。やる?」
「やりまーす!」
袖と裾を捲って、落ちてこないようにバンドで留めて、靴下も脱がせた。三角巾をつけてやったのは気分だ。海は見た目から入るタイプだから。おそうじ!おそうじ!と盛り上がり始めた海に、雑巾を濡らして絞るように言えば、自信満々だった。
「でーきた!」
びちゃびちゃです。

「さくちゃんは?」
「車の掃除」
「こーちゃんは?」
「海とお部屋。掃除機かけてあるから、床拭いといて」
「ぴっかぴっかにしちゃうんだからね!」
「お願いします」
「びっくりさせちゃうぞー!」
「びっくりするくらい綺麗にしてくれ」
その五分後。すっかり飽きていた。雑巾は放り出され、自分の爪をいじくって丸まっている。嘘だろ。早すぎるわ。
「海?」
「はっ」
「お掃除終わりにする?」
「しない!おそーじする!ちょっとねむたくなっちゃっただけ!」
「いいよ、寝てな」
「ねない!まだやる!ああん、こーちゃん」
「なよなよしない」
「うふん」
「くねくねしない」
「むふー」
「ぬめぬめしない」
「……………」
「……………」
「む!」
「かっこいい」
「はい!」
「拭いてください」
「みゃかせろ!」
噛んだ。
気を取り直した海は、本当に床をぴかぴかにしてくれた。スイッチが入ったらしい。車の掃除をして戻ってきた朔太郎がリビングに入ろうとして、「はいるなー!」と海による怒号で止められていた。手持ち無沙汰な朔太郎は汚れた布を片手にぼけっと立っている。邪魔だぞ。
「ぴかぴかした」
「えらい」
「すごい」
「えへーん!うみ、さいこう!」
「おやつをあげよう」
「きゃっほー!」
「航介、おやつをあげてくれたまえ」
「なんでお前が偉そうにしてるんだ?」
「いちまいおおくしてくれたまえ」
「……………」
「……やばいぞ、こーちゃん怒ってるぞ」
「さくちゃんごめんねして」
「ごめん」
「……………」
「こーちゃん、さくちゃんのこといいこして」
「……………」
「あー!なかよし!なかよしにもどりました!やったね!」
「はい」
「じゃあおやつだね!」
「はい」


≫12月31日
「大晦日」
「おおみこさ」
「大晦日」
「お、おお、みさ、そ」
「がんばれ!がんばれ海!」
「おそみもら」
「ぶぶー!全然違くなった!」
「わかんない!さくちゃんのいじわる!」
「意地悪くないよ、大晦日、だってば」
「こーちゃん!」
「はいはい、そば食うか」
「あーん」
「お行儀悪いんだ、海と航介」
大晦日くらいだらけさせてくれ。年末くらいぱーっとやろうぜ!と朔太郎が肉を買ってきたので家で焼肉をして、しかしながら朔太郎と海が二人で足りない足りないと騒ぐので、早々と年越しそばを作ってやって出して、その残りを食べているのは誰だと思ってるんだ。俺だよ。
「お尻叩くやつ見ようよ」
「……海が起きてるうちは見ないって言ってんだろ」
「航介の過保護!」
「ねー、うみ、このおうたてべりでみた」
「うん」
「ゆーびのざざり、ほーほのかもり、ふーふをこれれゆけー」
「惜しいな……」
「海、踊って」
「うん!ゆっけーゆけ!かみつけー!」
「違うよ、この歌のダンスだよ」
「きょーうりゅう!せんったー!」
「駄目だ、聞いてない」

「、ぁ……?」
「……ふああ……」
「……………」
寝てた、らしい。朔太郎も同じく今起きたようで、海は起きそうにない。みんなしてこたつで寝落ちるなんて。おでこを丸く赤くした朔太郎が、しばらくぼんやりして、こっちを向いた。ふにゃふにゃ笑い、海にそっくりの顔だ。そういうと大概、「海の笑った顔は航介の方が似てるよ」と朔太郎は言うんだけど。
「あけました」
「……そうだな」
「今年もよろしくね」
「こちらこそ」


≫1月1日
海が起きたので、ご挨拶を教えてみた。
「あけましておめでとうございます」
「おめでとおございます」
「今年もよろしくお願いします」
「おねがいします」
「……江野浦家、そのご挨拶家族でもやんの」
「ああ」
「案外きちんとしてるよね」
うちはお父さんがいるようになってからしかやったことないなー、と焼き上がったお餅を持った朔太郎が台所から帰ってきた。母がそういう挨拶とか仕来りにはうるさいたちだったんだ。こうやるんだよ、と三つ指ついてのお辞儀を見せる朔太郎の真似をした海が、おでこを床にごちんした。あーあ。
「初詣行こうか」
「おまいりー」
「今年はどんな年にしたいか、ちゃんとお願いしないと」
「うみ、うみはー、おやつたべたい」
「そういうんじゃなくて」
「……むしばならない!」
まだちょっと違うが、まあいい。朔太郎は、今年こそ旅行に行きたいなー、と。俺はどんな一年にしよう。どうせ神様しか聞いていないお願い事なら、このままずっとみんなが幸せに、なんて大層なことを願っても、いいんだろうか。


≫1月2日
「海ちゃん、いらっしゃいー」
「あのね、あけまして、おめめ、おめでとうございます!」
「あらー、かわいい」
「海ちゃん、おはよう」
「ゆりねちゃん!」
新年のご挨拶周りに来た。取り敢えず先に辻家である。ぺこりとお辞儀をした海が、友梨音にじゃれついた。さちえと俊一さんが、海にお年玉をやっている。期待を裏切らない海はすぐさま封を開けて、出てきたお金に目を輝かせていた。
「こーちゃん!こーちゃっ、うみ、おかねもらった!」
「ありがとうは?」
「ありがとー!うみのおかね!えっへへ、ぱぴりこかう!」
「持っててあげるから」
「うん!こーちゃん、もってて!」
「そうやって海からお年玉を奪うつもりだ」
人聞きが悪い。そんなことはしない。うちの実家でもお年玉をもらったが、預かった。貰ったりしない。そんなに疑われると、朔太郎は以前お年玉を預かって貰ってそのまま戻ってこなかったことがあるんだろうか、と思いたくなるけれど、さちえはそんなことしないと思う。

「あ。やちよ」
「あらー。こーちゃん、さくちゃん、うみちゃん」
「指差し確認?」
「とーちゃん」
「はるか遠くを……」
ご挨拶周りしてたのよ、と大きな手提げを持ったやちよに、ばったり会った。こんにちわあ、と俺の陰に半分隠れながら挨拶した海に目線を合わせて、こんにちは、とにこにこしている。扱いに慣れている感がすごい。しかしながら、幼い頃からの付き合いで親しくはあるけど、結局のところ親戚ではないし、みわこやさちえ伝いで預かってもらう時に一緒にいたりなんだかんだで顔を見たことくらいはあるだろうが、海の中で恐らく八千代の顔は定着していない。知らん人認定を勝手に下したらしい海が、んうう、と動物のように鳴いて俺の足の隙間に挟まろうとするので、引っ張り出した。
「やああ」
「知ってるだろ」
「おうちかえろ、ねむたい」
「引き留めちゃってごめんね、海ちゃん」
「はっ、うみのことしってるひと」
「だから、遊んで貰ったことあるって」
「おとしままもらったの、みてえ」
「いいわねえ。おばちゃんも何かあるかしら」
名前を呼ばれた途端に仲良し面しはじめた。こう、なんというか、朔太郎も言ってたけど、ゆるいなあ。自分の息子ながら。
やちよが、手提げをごそごそして、チョコの大袋をくれた。おばちゃんがおうちで食べる予定だったけど海ちゃんにあげちゃう、だそうだ。でれでれだ。俺たちが小さかった頃は自分が食べる予定だったものなんて絶対にくれなかった癖に。
「ちょこれえと」
「ありがとう言いなさい」
「あいがほー」
「もう食べてる」
「いつの間に開けたんだお前……」
「さくちゃんとこーちゃんの子どもって感じねえ、どっちのちっちゃい頃にも似てるし」
「そうかな」
「そうか?」
「そうよお」
「あんまり似てないよ」
「おかきもあるからあげましょうか」
「うみなんでもたべるよ!えらいから!」
「嘘つけ、トマト食べれないくせに」
「ぷん、さくちゃんもとまとたべれない」
「嘘つくな」
「さくちゃんとまとたべれないのよ」
「あらー」
「嘘を他人に教えるな」

≫1月3日
「おやすみおしまいだねー」
「そうだね」
「たのしかったねー」
「何が一番楽しかった?」
「んー、おまいり!」
「へえ。クリスマスじゃなくて?」
「あ!それもあった!」
「忘れてたんかい……」
「あー!」
「なに思い出した」
「おとしだまっ、おかね、おかいものしてなーい!」
「今度でいいよ」
「おかーし!」
「声が大きいな」
「わあ″ー!」
「海」

「うえええん」
「お休み最後なのに海が航介に叱られて泣いてる」
「……罪悪感を煽る言い方するな」
「まあ自業自得であると思う」
「うええええざぐぢゃああああ」
「さくちゃんは味方にはならないぞ」
「ぴぎゃあああああ」


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