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☆すてらびーた☆



スピカさんの星に行ってみたら、スピカさんはもう元気になったらしく、普通に動物たちのお世話をしていた。癒しと回復、増強の力、と言っていたし、自分が作ったご飯を食べれば大丈夫ってことなんだろうな。新しい命です、と小さな馬を撫でるスピカさんに、少し安心する。ちょっとだけ一緒に過ごして、お土産です、とクッキーをもらった。クッキーね、うん、クッキーか、なるほど。嫌な予感しかしない。
じぶんの星に戻って割とすぐに、ポールさんがやって来た。なるほど!へえへえ!ここがあるの星!と大喜びで本の山を片っ端から攫っている。ぺらぺらと中身をめくっては次の本に行くので、あんまり読む気はなさそうだ。
「ポールさん、どうしたんですか?」
「ん?なにが?」
「なにか、ご用事があるのかな、と……」
「ううん、この前はぼくのところに来てもらったから、今度はあるのところに行きたいなあ、と思って。ちょうどいてくれて良かった」
「じぶんの星、なんにもないでしょう」
「うん!なんにもない!」
「……………」
がーん。そう言われるとは思ってたけれど。ポールさんが、わはは、と笑ってくれてるから、まだいいけど。
こんなになんにもないんじゃかわいそうだー、と棒読みのポールさんが、一旦自分の星に帰って、なにやら白い棒を持って来た。白墨、というらしい。がりがりと地面におおきな魔法陣を書いたポールさんが、よいしょー、と平坦に手を挙げる。ごう、と大きく風が吹いて、次の瞬間、じぶんの家は、じぶんの家ではなくなっていた。
「……えっ!?」
「アップデートってやつ?あるも、魔法の使い方を知っといた方がいいねー」
「どうやったんですか?」
「それはまた教えてあげよう。中も新しくしてあげたよ」
「あっ!ベッドがある!」
「うん。え?今までベッドなかったの?」
家を作ったのに床で寝てた話をしたら、また大笑いされた。 くそお。
それからポールさんはしばらくじぶんの星でうろうろして、木とか生やさないの?川とか流さないの?この本たちは出しっ放しでいいの?と聞かれて、全てに首を横に振った。分かんないんです、やり方が。そう告げれば、腕組みをして、考えて、さっきの白墨をたくさん取り出した。教えるってことは得意じゃないから、一緒にやってあげるので覚えておくれ、だそうで。
「じゃ、今度はあるがやってみて」
「はいっ」
「うんうん。力を込めすぎると大きく育ち過ぎちゃうからね、さっきみたいに」
「はい、っむむ、うう」
「そうそう。上手、そのぐらいかな」
「はああ」
「できたねー」
みっちり教えてもらって、というかポールさんがやってるのを見て覚えて何度も挑戦して、木を一本生やすことにようやく成功した。めちゃくちゃ疲れた。ポールさんもそれは同じのようで、ふう、と息を漏らして座り込んだ。じぶんのために、ありがとうございます。木が生えたおかげで日陰ができた。本を読むのに、ちょうど良さそうだ。
「ちょっと疲れちゃったね」
「そ、そうですね……」
「んー。なんかないかな」
「なにもありません……」
ポールさんが立ち上がって、辺りを探しはじめる。なにもないから木を生やしたわけで、なんかあるわけもない。ぐったりしながら目を閉じていると、ぽりぽり、なにかを齧る音が近づいて来た。ポールさん、自分の星に戻って何か取ってきたのかな。疲れて目が開けられない。そんなじぶんの様子を見たポールさんは、可笑しそうに笑って、ぜーんぶ食べちゃおーっと、と独り言ちた。
「なに、食べてるんですかあ……」
「ん?ここにあったクッキー。なんにもないとかいって、いいものがあるじゃないか。ほら」
「ん。……ん!?」
「うわ」
「ポールさん!吐き出して!」
「はぇ?なんで?」
「早く!」
「もういっぱい食べちゃったからそれは無理、わああ」
がくがく揺さぶると、ポールさんは目を回しながら、やめてよー、そんなことされても吐けないよ、と文句を言ってきたけれど、是が非でも吐いてもらわないと困る。だってそれは、スピカさんのクッキーだ。先日散々な目にあった、スピカさんお手製の、なにが入ってるか分かったもんじゃない、かみさま特製レシピのやつ。じぶんの口に入れられた分は、お行儀悪いけど吐き出して、ポールさんが咥えてたやつを奪い取る。確かに彼が持っている包みはかなり軽くなっていて、だいぶ食べられてしまったことが分かった。
「んぁ、なにするんだ」
「これは食べちゃダメです!」
「おいしかったよ?あるが作ったの?」
「違います、これは、スピカさんが」
「ああ、聞いたことある、乙女座の、子」
「ポールさん、これ何枚、食べ……」
「ぁ、ぇ?なん、か、んん、おなかへん……」
くたん、と崩折れてしまったポールさんを仰向けにすると、はあはあと荒い息を吐いていた。頬っぺたが真っ赤で、お腹の下の方を押さえている。んん、と唸るポールさんが涙目でこっちを見上げる。スピカさんとあれこれあった時にこんな顔見た。スピカさんと!あれこれあった時に!
「ちょ、っここで待っててください、ポールさん!」
「ゃ、いかないでよお……」
「離して!お願いだから!解毒剤とかそういうものを貰ってきますから!」

現在地、スピカさんの星。作った人に聞くのが一番早かろうと、走ってきたのだけれど、答えは一刀両断だった。
「ないです」
「ひぇ……」
「ありません。愛は毒ではありませんから」
「そういうことを言っているのではなく……」
「しかし、そうですねえ、あれをあるさんに渡したのは、今度はわたしがあるさんを愛してあげたかったからなのですが、何方かが食べてしまったのなら、仕方ありませんね」
今とんでもないこと言わなかったか、この人。スピカさんが、ふう、と困ったように溜息をついた。どうやら、目的を達成するまでは、解毒も中和もできないらしい。目的、というのは勿論、スピカさんの言い方を借りるならば、相手を愛すること、意味深な方の意味で、ってことだ。作用はといえば、人の話を聞かない、重ねて手段を選ばないスピカさんらしい、どぎついものだった。強制的に行為を望む体にする、と言ったら端的に伝わるだろうか。お腹の下の方を押さえてポールさんがひんひん言ってたのはそういうことだ。どうしようもない言い方をすれば、足りなくて切なくなっちゃう、である。とんでもねえもん渡してくれやがって。どうしようもないもん作ってくれやがって。
「だって、あるさんがかわいいところが見たくって」
「じぶんはどうしたらいいんですか!」
「抱いてあげたらいいのでは?」
「いや、いやいや、嫌ですよ!」
「では、わたしがやりましょうか」
「それはそれで嫌ですよ!なに言ってるんですか!」
「……はっ、あるさん、もしかして、その方を愛して……?偽善と御厚意からではなく、愛を持ってその方の身体を暴こうと……?わたしではなく、その方と結ばれようと……?」
「偽善しかありません!愛はありません!もー!ありがとうございました!」
「クッキーの効果、時間経過で強まるように作りましたから、今頃その方どろどろですよ」
「もういやああ!」

じぶんの星に帰ったら、かみさまの言う「ナイスタイミング!」で大きくなりました。今回は前回よりもうちょっと成長して、プラス5歳ぐらいになりました。ポールさんはもう手がつけられなかったので、あれやこれやでどうにかしました。やることやったら戻りました。以上。
「……はああ……すごかった……」
「忘れて……忘れてください……お願いですから……」
「ある、次はぼく、上に」
「次はありませんから!ねえ!次なんて二度と訪れませんから!」
「じゃあさっきのクッキー作ってくれた人をぼくに紹介してくれない?」
「なんでみんなそうも積極的なんですか!」
「だって……こんなのはじめてで……」
「うわーん!」
「ある、泣かないで、おいで」
「服を着てくださあい!」
「ねえ、もっかい大きくなってみて」
「じぶんじゃできません……」
「大きくなったらさっきのまたしてくれる?」
「絶対にしません!二度と!」
「してよー」
「しません!ポールさん!さっきのはいけないことです!」
「ちぇー。じゃあコリンカに頼も」
「ああー!もう!そんなことするくらいならじぶんがやりますからあ!」
「言ったなー?」



「かみさまターイム」
「……………」
「あいたっ、痛い!ぶたないで!痛いよー、ある、どこで暴力なんて覚えてきたんだい!」
「かみさまはクソ野郎です」
「あー!悪い言葉を覚えている!純粋で可愛かったあるが!」
「チッ」
「まーまー、順調すぎるぐらい順調な攻略おつかれさまでーす!あっという間に二人も抱いたね!かみさまのタイミング、最高だったでしょう?」
「……せめて、あのタイミング、自分で操作させてくれませんか」
「いいよー」
「えっ!?いいんですか!?」
「うん。二人攻略した報酬ってことで、あるに大人スイッチをつけてあげよう。スイッチ入れる時に、何歳ぐらいになりたいか、頭の中で思い浮かべてね」
「おお……きっとそのスイッチは絶対に使うことはないでしょう……」
「それはどうかなー。あと、そうだな、苦労してるみたいだから、魔法の使い方の基礎もあるの頭の中にダウンロードしておいてあげるよ。いつまでも周りに頼りっぱなしじゃ、ヒモ男になっちゃうからね」
「ありがとうございます」
「で?スピカとポール、どっちのが具合良か、あー!いたーい!角で刺さないでー!」
「刺します」
「平和主義者なんじゃなかったのかい!ぷん!かみさま、一応はあるのこと心配して手助けしてるつもりなんだけどなあ!」
「いりません」
「あーあ、ひどいや。そんじゃ、残りの攻略、がんばってね」
「仲良くなればいいんですよね?」
「ううん。全員抱いてね」
「……は?」
「全員抱いてね」
「え?」
「全員」
「もういいです!」
「でもまあ、今までの二人がちょろいチュートリアルだったなら、残りは曲者揃いだから、ほんとにがんばってね。ピスケスと、トールと、コリンカと、レオか。他にもまあいるといえばいるけれど、誰から行くかはあるに任せるよ。けど、一回は血を見ることを覚悟しておきな」
「血……え、なに、させられるんですか」
「ここからは、ハードモードで行ってみよー」
「イージーは!?」



「……は」
ふかふかのベッド。ポールさんにアップデートしてもらった、じぶんの家。ポールさんは、ふにゃふにゃする足で、なんとか自分の星へ帰って行った。そのあと、じぶんも疲れて寝て、かみさまとまた話したような気がする。何を話したんだっけな。
とりあえず、ポールさんの様子を見に行ってみよう。申し訳なさもあるし、なにかお手伝いできることがあったら、と思うし。ゲートをくぐると、きらめく空気と花畑に出迎えられた。ポールさんはどこだろう、と歩き出して、すぐに人影を見つける。丘の上に、灰色の髪、茶色の帽子。ポールさん、に似た背中。くるりと振り向いた彼は、にこにこもしていなければ、じぶんの名前を呼ぶこともなかった。
「……え、と……」
「……………」
「……ポールさん?」
「……………」
「じゃ、ない、ですよね……」
「……キミのことは知ってる。ボクには、ボクがいればいい。だからキミはいらないんだ、ずけずけと踏み入ってきて、不敬な部外者」
それじゃあ死んでよ、と吐き捨てられた冷たい言葉と同時、空が灰色に染まる。ポールさんが召喚したオーケストラのように、白く輝く精霊たちが、手に手に槍や弓や剣や斧を携えて、全方位からじぶんを狙う。
なにか言うより前に、灰色の髪の誰かの手が、振り下ろされた。



「あるはどうなってしまうのか!そしてポールによく似た彼はいったい!未だ出会わぬピスケスとレオはどんな人なのか!コリンカの秘密ってなんだ!全部引っくるめて後編へ続く!ってとこだね、あははー。ま、全員あるが抱くんだけどね!ねー!」


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