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おはなし



休憩室に、張り紙があった。着ぐるみの頭をとって、なんだなんだと覗き込む。んーと。
「うえいたー、ふそく」
「しょーさん、ひらがな読み」
「これなにするの?」
「飯を運ぶんだよ」
「へえ。すごい」
「……しょーさんがクリスマスシーズンやる仕事のことですよ?」
「ん?」
「ほら。選抜に名前書いてありますよ」
「……ほんとだ」
「クリスマスの時期はレストラン混むからな。手伝い欲しいんだろ」
「すあまさん、しょーさん、頑張ってくださいね!」
ぬいぬいに、ぐっ!と親指を立てられた。けど俺、ウエイターとか、そういう系の接客、やったことないんだけど。なんで急に。なんで今。しかも説明なし。すあまは、ファミレスでバイトしたことあるって言ってたから、平然としている。待ってよ、焦ってるの俺だけ?去年と同じくクリスマスツリーマンみたいなやつの中の人をやればいいのかと思ってたんだけど。
「す、すあま、これ、こぼしたりしたらどうなるの」
「怒られる」
「怒られる!?」
「クビになる」
「クビに!?いきなり!?」
「ならなくても給料は減る」
「一回いくら!?」
「一万円」
「嘘でしょ!」
「しょーさん、すあまさんに踊らされてますよ」
「お前!嘘ついたな!」



「小野寺どうしたの」
「……なんでもない……」
「なんでもない人は机に突っ伏して顔を腕に埋めたりしないのでは……」
「……べんとお……」
小野寺が、朝からしょぼくれている。ので、どうしたの、って一応聞いたんだけど、この感じじゃ伏見がらみじゃなさそうだ。それならめんどくさくなくていい。顔を上げた小野寺は思いっきり暗い顔で、不安です、ってほっぺたに書いてありそうだった。ずーん、って効果音を背負ってる。
「……弁当は、塾でバイトしてて、なにしたらクビになる……?」
「は?」
「……なんでもない……」
「クビになったの?着ぐるみ」
「着ぐるみはクビにはならない……」
「どうしたの」
「……伏見に言わない?」
「言わないで欲しいの?」
「……ものすごい長期間引きずって弄られそうだから……」
「じゃあ言わない」
「……実はさあ」
曰く。小野寺がバイトしている遊園地では、これから始まるクリスマスシーズン、イルミネーションや特別イベントの関係で、レストランがとにかく混むらしい。それを見越してレストランもシーズンメニューを出すし、準じてお客さんは当然増えて行く。掻き入れ時、遊園地側からしたら最高なんだろうけど、欠点があるとすれば人手不足、ということになるそうだ。よって、着ぐるみの中の人を数人レストランのウエイターに回し、少しでも改善を図ろう、ということらしかった。そして小野寺はそれに選ばれてしまった、と。
「やだああ……無理……俺、接客とか、向いてないんだよ……あわあわしちゃうから……」
「やったことあるの」
「……高校の文化祭で、痛い目見た」
「バイトはまた違うかもしれないよ」
「でも嫌なもんは嫌」
「断れないの?別の人に譲るとか」
「……オーナーに、すごい申し訳なさそうにお願いされちゃって……」
「……………」
そりゃあ、小野寺なら尚更、断れないだろう。はああ、と溜息をついた小野寺に、有馬に聞いてみたら、とアドバイスしてみた。俺はそういう接客業、したことない。だけど、有馬は結構いろんなバイト渡り歩いてるし、そういうの得意そうだし。

「接客?」
「有馬みたいにへらへらしてなくても出来るかなって」
「俺別にへらへらしてないんだけど」
「……有馬みたいな顔面じゃなくても出来るかなって」
「顔?顔は、まあ、にこにこしとけばいいんだよ」
こんな感じー、と、にこにこへらへら営業スマイルを浮かべた有馬に、小野寺が唸った。俺も唸りたい。小野寺の「うぐぐ」の内訳は「お前みたいに顔が整ってれば普通ににこにこしてるだけでいいんだろうけどこっちはそうはいかないんだクソ」だろうけど、俺の「うぐぐ」の内訳は「ちょっと待ってマジやばい俺も接客してほしい」系なので、我慢して正解だ。
「小野寺バイト変えんの」
「ううん。遊園地の中でヘルプ入って、ちょっとだけレストランの手伝い」
「レストランかー。注文取るの大変だから、気をつけろな」
「え?」
「俺ああいうの覚えらんないから。小野寺も多分無理だろ」
「はっ……!」
盲点、という顔をしている。確かに、注文取るのもメニューをある程度把握してないと難しいだろうから、馬鹿、というか、記憶能力に欠ける小野寺や有馬には厳しいのかもしれない。アドバイスを受けるつもりが、不安を増やしてしまった。がーん、って文字を背負った小野寺がまたしょぼくれていく。ぽりぽりと頰を掻いた有馬が、まあ平気だって、と無責任に言った。
「有馬、今なんのバイトしてるの」
「ガソスタ」
「……こないだまで違くなかった?」
「夏の間はビアガーデン」
「小野寺になんか教えてあげられそうなことないの」
「んー。スーツに酒こぼした時はおしぼりで拭かない方がいいぞ」
「そういうトラブル対処法じゃなくて……」

「小野寺がレストランで働くんだってね」
「……そうなんだ」
「何しらばっくれてんの。弁当は知ってんでしょ」
「……なんで伏見が知ってるの」
「小野寺から聞いた」
あいつ、こっちには口止めしといて、自分で言ったのか。と思ったけど、伏見の言い方と表情からして、単純に「小野寺から聞いた」ではなく、「自分にだけ隠し事をしていることには勘付いたので、それはとてつもなく許し難く、ありとあらゆる手段を用いて小野寺に吐かせた」が正しいだろう。かわいそうな小野寺。せめて弄らないであげてほしい。
「珍しくまともに悩んでるみたいだから。そこまで鬼じゃないし」
「ええ……?」
「何その顔」
「……いえ」
「でさあ。弁当、一緒に覗きに行こうよ」
「……嫌がってたじゃん、小野寺」
「えー、でも、俺がいたら小野寺もがんばれるだろ?」
当然のように言ったけど、ものすごい自信だ。でも何も言えない。だって、伏見がその場にいたら、あれだけごねてた小野寺でも、がんばれちゃいそうだもん。今までにない奇跡的なものすごい頑張りを見せそうだもん。俺は実際そうなったところを見たことがある。具体的には、こないだの試験で思いっきり滑って、もうこりゃ追試受けても多分落とすなってレベルの減点を食らった小野寺が、お金払うからただ黙って隣にいて俺のことを見ててくれ、と伏見に頼み込み、恐らくは本当にお金を払って、ただただ勉強してるところをずっと見ててもらい、見事に返り咲いたのだ。何故「黙って隣にいて」だったのかといえば、口を開くと鋭利な暴言で貶されるからだろう。俺からすると、あの伏見に黙って見られてるってただの圧でしかないんだけど、小野寺にとっては違うらしい。まさか本当に追試であそこまで加点されると思わなかったしな。
「ちょこちょこ失礼なこと考えてない?」
「なにが」
「自信過剰的なこと思ってない?」
「……なんで」
人の頭の中を読まないでもらいたい。はらはらする。いいけどさ、と一息ついた伏見が、それでどうする?と首を傾げた。まあ、リーサルウェポン的な意味で、物理的に伏見を持ち出すのは、ありといえばありだ。小野寺のやる気スイッチは伏見が握ってる節はあるから。それに、見てみたい気持ちが無いと言えば嘘になるし。けどクリスマスの時期の混んでるレストラン、ってことは並ぶんだろうしなあ。伏見といると目を引くんだよなあ。
「ね、行こ」
「……考えとく」

「混んでるなー」
「混んでるね」
「……………」
「なっ、弁当」
「寒いね、弁当」
「……………」
もう俺に話しかけないでほしい。目を引く。伏見だけならまだしも、声がでかい上にアイドル顔な有馬が、とても注目を集めてしまう。だからもう俺に話しかけないでほしい。ほんと、ほっといてくれ。
何故有馬までついてきたかと言えば、普通に伏見が珍しくも有馬を誘ったからである。俺に相談は無しだった。むしろ秘密にされていた。待ち合わせ場所についたら、伏見がすでに待っていたので、じゃあ行こうか、って言ったらなかなか出発しないから、何かと思ったら有馬が来たのだ。しかも、ごめんごめーん!ってでかい声を上げながら、いつものジャージじゃない、暖かそうなコートにジーパンにショートブーツに白のざっくり編みのニット、とかいう普通の格好で、走って来たのだ。唖然とした俺を大笑いする伏見。騒然とする、駅前にちょうど居合わせた女子。ここが地獄か?と本気で思った。なんでそんな格好してんの、と一応聞けば、だって変装して来いって伏見が言ったんだもん、だそうで。見ろ!とニット帽と伊達眼鏡まで見せられて、目眩がした。やめてくれ。そういうことをするのは。本当にやめてくれ。一周回って自分を見つめ直して、いっそ死にたくなってくる。
「ねえ、弁当」
「伏見にはちょっと一回話がある」
「なに?」
「………………」
「なんなの?」
「……ここでは話せない……」
「なんなんだよー!」
「有馬の悪口だよ」
「えっ……」
「違う……」
この場で伏見と二人で話すことは不可能だと思った方がいい。周りの目を全く気にしない有馬が、滅茶苦茶に横槍を入れてくる。声がでかいんだよ、いちいち!目を引くんだよ!その見た目は!
小野寺が頑張ってるところを見に行く、もしくは応援する、という目的が木っ端微塵に粉砕しそうだ。伏見も、見て、変装、ともふもふのマフラーで口元まで覆い、またこれももふもふの帽子を被り、前髪をピンで留めた。最後の一工程で別人になった。というか、もっと言えば、性別が変わった。これがしたかったからロングコートだったのか、とすら思う。そういえば
俺は何一つ変装とかしてないんだけど、いいんだろうか。
「えー、弁当は多分気づかれないと思って」
「なんで」
「影が薄いから」
伏見と喧嘩になりました。

夏頃にも、同じバスに乗った気がする。あの時も、混んでるなー、と思ったけど、今も混んでる。イベントやってる時期に行くからいけないのか。今回はバスの乗客の比率がかなりカップルに偏ってるので、男三人は居心地が悪い。訂正、伏見と有馬と一緒にいるのが、居心地が悪い。もっと細かくいうなら、わざと女子寄りに見えるように、喋らず、怒らず、しかし口元だけはにこにこさせながら、指先を擦り合わせて可愛子ぶって寒がってる伏見と、周りをカップルに囲まれてるせいで無言で、ブーツのおかげで俺よりも背が高く、ジーパンのポケットに指先を引っ掛けてだるそうに立ってる有馬に、挟まれることが、本当に心の底からものすごく嫌だ。側から見たら今の俺ってカップルの隙間に入っちゃってる人じゃないか。ふざけんなよ、喋れよ、普段あれだけうるさいくせに。
「……ねえ」
「ん?」
「バス停どこか分かってんの?」
「ううん」
「……次の次……」
「弁当分かってんじゃん。なんで俺に聞いたんだよー」
「……………」
口を開いて欲しかったからだ、とは言えない。伏見がにやにやしながらこっちを見てくるのも気にくわない。どしたー、と首を傾げた有馬がアホみたいな顔に戻ったから、まあいいか。
そんなことしてるうちに、目的地のバス停に着いた。ぞろぞろと降りて歩いていくカップルに紛れて進む。前回は、小野寺がチケットとかいろいろやってくれたけど、今回は普通に入場しなくちゃならない。まあ、アトラクションに乗る予定はあんまりないから、フリーパスである必要はない。入園券でもいいかな、なんて話してたら、有馬が「ジェットコースター!」「観覧車!」「メリーゴーランド!」と騒ぎだしたので、乗り物券付きの入場券にした。限られた回数にしないと、有馬がアトラクションから帰ってこなくなる。
「そんないろいろ乗ってる時間ないよ」
「えー、なににしよっかな」
「寒い、弁当、寒い、あったかいとこがいい」
「……伏見はあったかいとこがいいって」
「これ乗りたい」
「……これ、最後に水に飛び込むやつだよ
「有馬目ぇ腐ってんの?」
「なんだと」
「あー、あの、喧嘩しないで、目立つから」

「なんでこれ」
「あったかいアトラクションじゃん」
「……空いててよかったね」
乗っているのは観覧車である。前後をきゃっきゃしているカップルに挟まれながら並んで乗った。並ぶ時間がそこまで長くなかったのが救いだ。高えー!と喜んでいる有馬のアトラクション欲も落ち着いたようだし、伏見の希望である「あったかいとこ」も一応は満たしている。なぜかって、簡易ヒーターのようなものがあるので。個室なのでぶりっこをやめた伏見が、はーあ、と溜息をついて硬い椅子にもたれかかる。
「すげー!」
「……馬鹿は高いところが好きだって、俺、迷信だと思ってた」
「え?なに?」
「お前のことを馬鹿だって言ったんだよ」
「なんでだよ!いきなり!」
「常に馬鹿なんだから今さら確認しなくたって馬鹿は馬鹿だろ、いきなりもクソもねえよ」
「そ……そっか……うん……?」
伏見の断言に有馬が負けた。変な納得をさせられて戸惑っている。かわいそうに。
てっぺんまで着くのが、ちょっとだけ楽しみだったりする。観覧車とか、あんまり乗ったことないし。俺が外を見ていると、伏見は一人でほっとかれてつまらなかったらしく、ねえ、ねええ、と蹴られた。今すぐにゴンドラの扉が開いてしまえばいいのに。
「なんかないの」
「……夜景が綺麗な時間に乗りたかった」
「そうじゃなくてえ」
「弁当!あそこにすっげえびかびかしてるビルがある!あそこ!」
「どこ」
「ほら!あそこだよ!」
「弁当!」
「痛い」
「いつもと違う有馬の姿をそんなに目に焼き付けたいのか!」
「え?そうなの?いっぱい見ていいよ」
「……遠慮します……」
「あ、そうだ、小野寺に見つかっちゃダメなんだから、コードネームとか決めようぜ」
「はあ」
「こっそりするんだろ!」
また有馬が変な思いつきで物を言っている。しかし、不貞腐れてそっぽを向いていた伏見が、何故か爛々としながらこっちを向いて、いいねえ、とにやにやした。嫌な予感しかしない。伏見のにやにやに期待感が高まったことなんてない。高まるのは不安ばかりだ。そんなことしてる間にてっぺん通り越しちゃったらどうしてくれるんだ。
「じゃあお前のコードネームは「はるか」な」
「ただの本名じゃんか!名前で呼ぶな!」
「おい、はるか」
「了承してねえぞ!」
「じゃあ俺がはるか貰う。今から俺のことは、伏見じゃなくて「はるか」って呼べ」
「やーい!はるか!」
「自分の本名そんな風に使って虚しくならないの?」
「うぐ……」
「ね、弁当。俺のこと呼んで」
「……………」
「呼んでよー、ねっ」
しなだれかかってこないでほしい。重い。そもそも、俺の反応と有馬の怒りを楽しみたいだけだっていうのは目に見えてるから、呼びたくない。可愛い角度で見上げられて、指先をちょっと引っ掛けるみたいに腕に絡められて、なんて整っている顔なんだろう、と他人事に思った。人形みたいだ。黙ったまま伏見を見下ろしていると、諦めてくれたらしく、舌打ちかまして離れた。チッ、って思いっきり聞こえた。
名前には敏感な有馬が立ち直ってやいのやいの騒ぎだした頃、もうとっくにてっぺんは通り過ぎていた。てっぺんだからって、それまでとそれからと、何かが大きく違ったわけじゃないけど。

「並ぶねえ」
「ディナータイムだし、仕方ないよ」
「小野寺の権力でどうにかなんねえのかな」
「その小野寺に見つかっちゃいけないんだからどうにもならないでしょ」
「そっかー」
「イルミネーション、きれー」
「伏見ぶりっこやめろよ」
「きれー」
「いっ!っ!」
伏見が有馬の手の甲を強かに抓っている。俺には何もできない。有馬には学習してもらうしかない。できれば、この長い列が進んで行く間にお願いしたい。飯を食べながらぎすぎすしたくない。
とはいえ、席数は多く設定されているらしく、長い列の割にはすんなり進んで行く。しかし、有馬が手の甲を押さえながら仏頂面で黙っているので、前に並んでいる女の子二人組がすごく振り向いてくる。気持ちはすごく分かるけど。いっそ有馬はずっと黙っていればいいとも思うけれど。ちなみに、わざと黙って困った顔でマフラーを弄っている伏見のことは、すれ違う男の人がよく振り向く。暗がりで余計に分かりにくいんだろうか。この人は悪魔です。
「弁当」
「はい」
「うん」
「……なに?なにで通じあったの?今お前ら」
「馬鹿にはわからない言葉」
「えー。俺にも分かるように喋って」
ついに馬鹿を受け入れた。観覧車で刷り込まれたからだろうか。この前うちに有馬が来た時テレビでやってた馬鹿決定戦みたいなやつ、一個も当たらなかったしな。
そんなこんなしてるうちに、入り口についた。何名様でしょうか、ご予約は、と聞かれて、伏見が営業スマイルで対応する。暖かい店内は美味しそうな匂いでいっぱいになっている。お待たせしました、と運ばれていったグラタンが木になる。美味しそう。
「小野寺どこかな」
「しっかり探せよ、はるか」
「名前で呼ぶなっつってんだよ」
「俺オニオングラタンスープがいい」
「弁当なんにすんの?」
「……グラタン食べたい」
「あとビーフシチューハンバーグ」
「伏見どんだけ食うの?」
「寒いんだもん」
「俺なんにしよっかなー、スパゲッティ食べたい」
「コース料理もあるんだね」
「クリスマスディナーコース……」
「あー。コースデザートはコースを頼んだ人のみ、って買いてある」
「……………」
「……弁当、これ食べたかったんだろ……?」
二人揃ってかわいそうなものを見る目をしないでほしい。別にそんな、そこまで食べたくないから。
それぞれ食べるものを決めたので、注文することにした。声がでかい有馬が、はあい、と手を挙げて店員さんを呼んでくれた。すぐに来た男の店員さんが、ご注文お決まりで、と顔を上げて、口をぽかんと開けた。
「あ。有馬じゃん」
「おー。須藤」
「なにしてんの?彼女連れ?じゃないな」
「うん。小野寺見に来た」
「あー。今日俺とシフト代わってるから、さっき帰ったとこだよ」
「は!?」
「昨日代わってもらったから、しょーのやつ伝え忘れたなー」
ははは、と軽く笑われたけれど、全然笑えないし、冗談じゃない。どうして今日のこの時間にしたかって、伏見が小野寺のスケジュールを盗み見て、それぞれ今日のこの時間にいろいろ誘ってみて、何度も「ごめん、その日バイトだわー」と断られて、安心して決めたのだ。それが昨日代わったとか。唖然としても仕方なくないか。黙りこんだ三人に、笑ってた須藤さんが、なんかごめんな……?と申し訳なさそうな顔をした。貴方のせいではありません、という気持ち。
「……注文、する?」
「……はい……」
飯は美味しかった。ほんと、どれもこれも、美味しかった。コースのデザートが食べられないのが悔やまれる。本当に悔やまれる。グラタンおいしかったけど、あの、あったかいスフレ、もう二度と巡り会えない気がする。食べとけばよかったかなあ。
レストランを出て、もうすることもないので、遊園地を出ることになった。イルミネーションは確かに綺麗だ。ので、写真を撮っておいた。朔太郎にでも送ってあげよう。きらきらしてるアーチをくぐると、当たり前だが外はもう真っ暗だ。バス停はどっちだったか、と三人で見回していると、一番目がいい有馬が声を上げた。
「……あれ?」
「ん?」
「あれ小野寺じゃねえ?」
「なんで。休みだって」
「いやでも、自転車で、あれ」
「おーい!なにしてんのー!」
「ほら」
自転車をかっ飛ばして来たのか、12月に相応しくない薄着の割に暑そうな小野寺が、間に合ったー、と俺たちの前に現れた。伏見も固まっているので、伏見が連絡したわけでもなさそう。ということは、さっきの須藤さんが、気を使って連絡してくれたのだろう。量もあったから、ご飯食べるのに結構時間かかったし。そんなことを考えていたら、なんでいんだよ!と有馬が聞いてくれた。
「すあまから、三人がいるって聞いて。行くなら言ってよー、俺も来たかったよ」
「……………」
「……………」
「……………」
「え?なんで黙るの?ねえ」
今度は、みんなで来ることになった。


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