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おやすみなさい




「……伏見ってよく寝るよね」
「んー?」
「夜更かししすぎなんじゃない」
「えー、俺の許可もなく勝手に夜が更けるのがいけないんじゃない?」
「……………」
ものすごい上から目線だった。眠たげに浮ついた声でそんなことを言われたら、何も言い返せない。俺の枕が人質に取られているし。
一人でだらだらするだけのお休みを満喫していたところに、インターホンが鳴り、お腹が空きました、と何故か割り箸だけを持って玄関先に伏見が突っ立っていたのがちょっと前。何でここにいるとか、もし俺が不在だったらどうするつもりだったんだとか、その割り箸はなんだとか、いろいろ聞きたいことはあったけど、取り敢えず家の中に入れて、しょうがないからご飯を食べさせてあげた。作り置きの野菜主体のおかずを出したら、えー!お肉がいいのに!と騒いだ割に箸をちゃんと口に運んでいたので、本当にお腹が空いていたのだと思う。そしてお腹がいっぱいになったら、恐らくは勝手に押入れから引っ張り出してきた俺の枕を抱いて、満足気にむにゃむにゃし始めたのだ。そこで俺が、伏見はよく寝るなあ、と思うのは当然のことではないだろうか。実際よく寝るわけだし。
「そうかなあ」
「……狸の時もあるけど」
「んー、ていうか俺、眠りが浅いんだよね。音とか振動とかで、起きちゃうの」
「それは知ってる」
「だから、ちょっとずつでも睡眠取らないと、持たないんだよね。夜だからってそんなぐっすりなわけじゃないし」
「……夜は寝るもんじゃないの?」
「寝たくても寝られないんだよ」
「暗くしたら眠くなるよ」
「弁当は一回寝たら起こすと不機嫌になるレベルで寝付くじゃん。そういうところが俺とは違うの、俺のことは分かんないの」
言い切った伏見が、ぷん、とそっぽを向いて俺に背中を見せた。いや、俺とは違うって主張は別にいいんだけど、突然ご機嫌斜めになられても。黙ってたらどうせすぐ「喋れよ!」とか言うくせに。絶対そうなる、けどわざわざ口を開く理由もないので、黙っててやろう。
「……………」
「……………」
「……………」
「……なんか言い返せよ!根暗眼鏡!」
「は?」
「無言!」
「寝なよ」
「眠くない!」
「じゃあ枕返してよ」
「嫌!」
「返せ」
「いやー!」
ほら見ろ、と言った心持ちである。枕を取ろうとしたら、ものすごい力で抵抗された。千切れちゃうからやめてくれ。しかも、「だから本当に寝てるわけじゃなくて体力温存なの!」と自信満々に言いきった伏見が5分後にすうすう寝息を立てていたので、驚いた。えっ?どこからどう見てもガチ寝じゃん?電気消そうか?って思った。し、電気は消してあげた。すごい強がり言って疲れてるのを隠してることが分かったわけだし、せめて優しくしてあげよう。


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