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ハッピーサマータイム


「はあーあ、女子と遊びたい」
「あらやだ」
「ふしだら」
「朔太郎と都築と航介じゃ、いつもと視界が変わらないんだよなー」
「水着エディションなのにね」
「別スチルじゃんね」
「そういうことじゃねんだよ……」
女子勢はパラソルの下で絶賛女子会中、当也と仲有はさっき瀧川の車から発見された釣り竿を持ってテトラポットの方へ行った。残り物四人で沖の方まで泳ぎに来たはいいけど、体力馬鹿の航介はざっぷざっぷ先まで行っちゃうので、実質いないも同然である。今だって、死体よろしくぐったり浮かんでる瀧川と、立ち泳ぎしてる俺と朔太郎から離れて、少し遠くまで一人で泳いで行ってしまった。ちなみに、ほっとくと帰ってくる。昼飯食べるまでうとうと温存してたから、体力が有り余ってるんだ、絶対。
「こーうすけー」
「聞こえてんのかな」
「こっち向いた」
「あ、帰ってくる」
「あいつ何しに来たの?」
「海が実家みたいな節あるからね、航介は」
「そうなんだ……」
ざぷざぷ帰って来た航介が、息も切らさずに、なんだよ、と首を傾げるので、特に用はないと素直に言えば眉を寄せられた。だって本当のことだもの!一人でどっか行っちゃうから呼んだだけだもの!
「もうちょっとあっちまで行くと潜れる」
「そうなの?」
「足とゴーグル持ってくりゃ良かったかな」
「え?持ってんの?」
「持ってるよ」
「持ってるでしょ?」
「持ってないよ!」
「え?都築持ってねえの?」
「待って!?何でみんな持ってるの!?足ってあの、ダイビングする時使うやつでしょ!?」
「そうだよ」
「なんで都築持ってねえんだよ」
「普通の人は持ってないでしょう!?」
俺だけ別の世界線みたいになってる。みんな持ってないよね?冗談だよね?悪乗りだよね?と擦り寄ってみたけど、全員不思議そうな顔でこっちを見てきた。なんでやねん。だらだらしながらぷかぷかしてたら、瀧川が急に大声をあげた。
「ギャッ」
「鮫に足でも齧られた?」
「ちげーよ!朔太郎の足だよ!」
「うははは」
「海パン持ってこうとしやがって!」
「ははは、あぶね、やめてよ!」
「自分がされて嫌なことを他人にするんじゃねえよ!」
瀧川と朔太郎が水面下で水着の脱がしあいっこをしているらしい。他人事に見てたら、他人事づらしやがって!ととばっちりが来た。やめてください、そういう汚れ仕事は瀧川に任せますので。しかも航介はいつの間にかまたしれっといなくなってるし。あいつがまともに会話に参加したの、さっきのヒレとゴーグルを持ってるか持ってないかの下りだけだぞ。やる気出せ。
「やーめーろー!」
「あー!脱げちゃう脱げちゃう!」
「あ!?お前、紐を抜くな!紐を!」
「あっはははは」
朔太郎がげらげら笑って、そのまま沈んで行った。どうやら無事取り返したらしい水着の紐を持った瀧川が、どうやって通せというんだ!と憤っている。俺の水着も一応無事だ。ポケットの裏地は引っ張り出されたけど。ぷくん、と泡が弾けて、へらへらしながら茶色い頭が浮かんできた。
「あのー」
「あ?」
「すいませーん」
「どうしたの」
「俺の水着どっちか持ってない?」
「は?持ってない」
「……え?まさかとは思うけど……」
「うん」
「……まっ、待って?今朔太郎水着履いてるよね?」
「はいてない」
「なんでさ!」
「どっか行ったから」
「そうじゃない!」
「どっか行くほど奪い合ってねえだろ!」
「でもどっか行っちゃったんだもーん」
「もんじゃない!もんじゃ!」
俺のせいじゃないもーん、と口笛をぴるぴるしながら何故か浜辺の方へ向かう朔太郎を、瀧川と二人で必死で止める。お前そのまま上がろうとしてるだろ。女子がいるんだぞ。足が疲れたとか喉が渇いたとか分かるけど、今は駄目だ、絶対に駄目だ、死んでも駄目だ。掴んで止めてる朔太郎の体をうっかり下の方まで触って、マジで水着がないことに気づいてしまったらしい瀧川が、ヤダー!と女子さながらの悲鳴をあげた。
「やだはこっちの台詞だよー、もー」
「航介!こーうすけー!朔太郎の水着がなくなったー!」
「あっダメだ!あいつ今度は聞こえてねえ!勝手に海から上がってやがる!」
「ちゃんと見えないようにあっち側に上がるからさー。岩陰の方ならいいでしょ」
「駄目だってばー!」


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