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ハッピーサマータイム


「いれてー!」
「いーよー」
都築くんが走ってきて、朔太郎くんが到着したらしいなってのは見て分かって、その間にいる小学生くらいの女の子があわあわしながら必死で転ばないようについてきてるので、首を傾げた。どなたでしょうか。
「朔太郎の妹だって。ちょっとだけ一緒に遊ぼうと思って」
「よろしく」
「えぅ、つ、辻友梨音です、こんにちはっ」
「こんにちはー」
「サンダル歩きにくくね?脱いで置いとけば」
「はっ、はいっ」
基本的に人類全員同じ立場に見えている瀧川くんが、あたしたちに囲まれて小さくなってる妹ちゃんにフランクに話しかけている。あせあせしてる感じが仲有に似てる。当の仲有は、小学生でも女子なので、デフォルトで人見知りしてビーチボールをしっかと抱きしめていた。情けないなあ、もう。
ビーチバレー、もどき。ぽんぽんボールを打つだけだけど、落とさないようにするのが結構難しくて、二人加わった分だけ円が大きくなって、さらに難しくなった。小学生だし、ってみんな気を使って、優しいボールをゆりねちゃんのところに回す。それ、と都築くんが声を上げて、緩い弧を描く甘めのボールを打ち上げた。
「ゆりねちゃん、行ったよー」
「ふああ」
「お、っと。上手」
「……えへ」
とん、と打ち返されたボールは真希ちゃんのところへ。真希ちゃんも上手く返して、上手って笑ってくれたから、慌ててばっかりだったゆりねちゃんも笑ってくれた。かわいい。
しばらくして、喉が渇いたーって都築くんが江野浦くんの方へ戻って、あたしたちも休憩することにして、仲有と瀧川くんと朔太郎くんが強めの打ち合いをしている。それをぼんやり眺めながら、まだどきどきしているらしいゆりねちゃんに声をかける。
「水着は持ってこなかったの?」
「……すぐ、帰るつもりで……」
「じゃあ、今度また遊ぼうね。次は水着着ておいでよ、一緒に浮き輪でぷかぷかしよー」
「珠子、さっき沈んだじゃない」
「調子乗って波乗りするから逆さまになって」
「ね」
「そういう恥ずかしいこと言わなくていいでしょー!真希ちゃんと灯ちゃんの意地悪!」
「ゆ、わ、わたし、泳げなくて」
「大丈夫。灯がすごく泳げるから、助けてくれる」
「はっ!?なんであたし!」
「だってそうでしょ」
「灯ちゃん、頼もしーい」
「う……」
泳ぐの教える約束とかして、ゆりねちゃんもにこにこするようになった。かわいい水着、見せてね!って言ったら、遊びに行く水着持ってないんだって。ちっちゃい頃のやつがあるからってゆりねちゃんは言ったけど、そんなのもったいない。かわいいの、新しくすればいいのに。お母さんにお願いしてごらん、と言えば、口をむにむにさせていた。うん、とは言えないらしい。
「可愛い水着買うと、早く海来たーい!って思うんだよ!ねっ、だからゆりねちゃん、ぜひとも!」
「は、はいっ」
「珠子はすぐ他人に可愛いを押し売りする」
「だってえ!こんなにかわいい妹ちゃんなのに!」
「かわ、いい」
「聞き流しな」
「あたしの妹に欲しいくらいだよ!そしたらお下がりいっぱい着せて毎日かわいくしてあげるのに!」
「おきもちだけで……」
「小学生なのにお気持ちだけとか言うー!」
「しっかりしてるね」
「辻の妹とは思えない」
「お兄ちゃんも、しっかり?ちゃんと?してますっ」
「疑問形だ……」
「不甲斐ない兄なんだ……」
「かわいーい!もう!持って帰る!」
「ひええ」
ぎゅうっとしたら目を回してしまった。力が強い、と灯ちゃんと真希ちゃんからは呆れられたけれど、そんなに強くぎゅーっとはしてないもん。ゆりね、とお母さんが呼ぶ声に振り向いたゆりねちゃんが、ありがとうございました、と礼儀正しく頭を下げた。うん、やっぱり、しっかりしている。顔を上げたゆりねちゃんが、ええと、と言い澱みながら口を開いた。
「あの、つめ」
「ん?」
「……お揃いの、爪、かわいいなあって、いいなあって、思って」
思った、だけです。そう真っ赤になりながら残して、サンダルを拾ってぱたぱた走って行ってしまったゆりねちゃんに、つめ、と見下ろす。うん、確かに、お揃いでお花のネイルをした。車の中で、誰か気づくかなーってこそこそ三人でやったんだけど、まさか、ここまで誰にも気づかれなかったのに、ゆりねちゃんが気づくとは。逆に全く気づかない男子たち、もっとしっかりしてほしい。
最後にもう一度お辞儀して、小さくバイバイしたゆりねちゃんに、大きく手を振り返しながら叫んだ。
「また遊ぼうねー!」

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