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ハッピーサマータイム


「……あ?」
「こんにちは。こーちゃんは、あっちに行かないのね」
「さちえ、なにしてんの」
「ゴリラの天日干しが落ちている」
「なんでお前いんの」
日傘をさして歩いて来たのがさちえ、突然暴言を吐いた不躾な眼鏡が当也である。それは分かるけど、今ここにいる意味が分からない。ぼーっとして、半分くらい寝てたから分かんなかったけど、高井と羽柴と仲有と瀧川と本橋がやってたはずのビーチバレーに、いつの間にか朔太郎と友梨音が混ざってる。なんでだ。なにがどうしたらこうなった。
「あちー!あれ、当也こっち来たの」
「さちえが友梨音ちゃんが見えないって言うから」
「違うわ、とーちゃんが寂しそうだから」
「俺のせいにしないで」
ぷらぷらと戻って来た都築が目を丸くしているけれど、どうも当也が来ていたことは知っていたらしい。ただ、俺は知らない。なんでいんのさ、ともう一度聞けば、さちえが答えた。
「昨日朔太郎が海に行くって言ってね」
「うん」
「そしたら、友梨音も行きたくなっちゃって」
「友梨音そんな我儘言わねえだろ」
「そこは朔太郎が察したのよ。それで私も焚き付けて、ちょっとだけお邪魔するならいいんじゃないって」
「ふうん」
「あの子、お父さんと二人だったから、海なんてあんまり来たことないらしくて」
「あー……」
「朔太郎が、その気持ちは一番分かるでしょうし」
「……それは、さちえのせいじゃないけどな」
「あらー、こーちゃん気遣ってくれちゃって。大人なんだから」
「やめろ」
「良い子ねえ」
「やめろってば」
なでこなでこしてくるさちえの手をぴっぴっと払っていると、都築が挙手した。なんの挙手だと面食らっていれば、何故か当也が、はい、どうぞ、と指名した。会話に割って入りたい時の朔太郎は挙手制をとっているので、そういうことだっていうのは分かるけど、当たり前のように指名すんなよ。
「とーちゃん?」
「はあ」
「こーちゃん?」
「はい」
「朔太郎のお母さん?」
「そんな畏まらなくていいのよ」
「だからって名前呼びにはならないでしょ!」
「そうかしら。前からそうだから、私は気にならないけれど。こーちゃんは?」
「別に」
「とーちゃんは?」
「ちゃん付けは嫌」
「あらら」
「友達の前ではやめてほしい」
「待って!?ねえ!朔太郎のことは朔太郎なんだよね!?」
「そうねえ、息子だからねえ」
「なにそこの関係性!奇妙だよ!」
あんまり気にしたことなかったけど、確かに変かもしれない。高校生にもなって友達の前でちゃん付けは厳しいものがある、と当也と二人で確認し合えば、そうかもしれないわ、とさちえはうんうん頷いていた。けどまあ、どうせこいつら、直す気は無い。だって、さちえもやちよもみわこも、誰に言っても「こーちゃん」「とーちゃん」「さくちゃん」が改善されたことないし。さちえが一番話を聞いてくれる。一番人間に近いからかな。
「で?なんで当也はいんだよ」
「さちえがやちよに、お前らが海に行くことを言って」
「はあ」
「やちよがみわこに確認して、それが事実で」
「はあ」
「うちの子だけ仲間外れにされてるってやちよが昨晩酒をかっ喰らって荒れて」
「……おお……」
「それを全然知らない友梨音ちゃんが、俺だけ行かないのは車に乗り切れなかったからだと勝手に勘違いしてくれて、そういうことだったんだってやちよが納得して、もう俺にはあの人はどうしようもないから、友梨音ちゃんに誘われるままここにいる」
「……お前も大変だったんだな……」
「昨日の夜から寝てない」
よく見るとクマがある。いっそ可哀想に思えてきた。全ての事情を知ってるらしいさちえは、私のせいで、ごめんねとーちゃん、としょんぼりしている。さちえのせいってわけでもないけど、発端の一部は悪気ない彼女の言葉にあることは確かなので、フォローできない。
「はい」
「都築、どうぞ」
「だからなんでお前指名すんだよ……」
「朔太郎は指すまで手を挙げ続けるから」
「あの、いいですか」
「はい、どうぞ」
「登場人物が増えた!しかもまた呼び捨ての相手が!」
「あー……」
「ああ……」
「説明すんのがめんどくせえなって顔に書くのやめてよ!」


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