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ハッピーサマータイム


「ねえ!ねええ!大変なんだ!ねえ!」
「……………」
「弁財天!ねえ!」
「……あ、俺。なに」
机の目の前に立たれてるんだから、最初から自分に話しかけられてることを認識してほしい。黙々と次の時間の小テストの予習をしていた真面目な弁財天の集中を途切らせるのはとても心苦しいんだけど、この人はそもそも頭がいいのでこんなことしなくても100点がとれる。見直しはただの保険だ。だから平気、しかめっ面だったとしても怒ってない、怒ってないよね、弁財天。基本スタイルが無言だから怖い。
「あの、あのさ、今度、たまちゃんと海に行くことになって」
「たまちゃん」
「うん……ぇあ、二人っきりとかじゃないんだけど、いっぱいいるんだけど、でも、たまちゃんと海に……」
「たまちゃん……」
「……高井さん」
「ああ」
弁財天の中に「たまちゃん=高井珠子」という方程式がまだ無いらしかった。遠い目で頭の中を検索していたので助太刀したけど、割と喋ったり関わったりしてるはずなのに、ていうか俺がたまちゃんの話を出来るのが鈍感通り越して恋愛感情が存在するかどうかすら危うい弁財天だけだから結構話題には出してるのに、そこのイコールが出来てなかったんだ。衝撃だよ。
それで、たまちゃんと海に行くんだ、ともう一度繰り返せば、不思議そうな顔で、いってらっしゃい、と手を振られた。少し考えた後に、良かったね?と付け加えられた。はてなマークを語尾につけるな。良かった、で合ってるよ!
「でも、どうしよう、海だよ、海……」
「山よりはいいよ」
「そういう問題じゃないよお!」
「じゃあなに」
「み、水着とか、俺あんま泳げないし、それにこう、かっこいい体とかでもないし」
「水着にならなければいいんじゃない」
「弁財天の解決策は根本的すぎる!」
そもそもなんでそんなに緊張する必要がある、と問いかけられて、たまちゃんと一緒だからだよ!と小声で吠えれば、首を傾げられた。だから!たまちゃんのことを俺は好きだからだよ!と小声で追加する。いつまで経っても覚えてくれやしない!この男!ずっと相談している、というかたまちゃんがいかに可愛くてどこが好きかの吐き出し口になってもらっているのに!そもそもにして俺の話は全く聞いていない可能性がある!
「じゃあもう行かなければいいじゃん」
「そうじゃなーい!馬鹿なのかお前はー!」
「もう。訳分からない」
「他にも都築とか瀧川とか来るんだ……あれ、そういえば、江野浦とかも誘われてたけど、弁財天は誘われてないの」
「うん」
「そっか……ふうん……」
「……いくら俺でも、今の仲有が俺のことを小馬鹿にしているってことは分かる」
「してないしてない」
「小馬鹿にされたところで悪いけど、なに1つ羨ましくないから悔しくもないよ」
「そういうことを口に出すなよ!俺が虚しくなるだろ!」


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