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おはなし


女子会しましょう、とお誘いを受けたのが3日前くらいのこと。女子会?と聞き返したら、ママ友会でも良いわよ!と答えられた。ママという年でもない気がするけれど、年上なのにいつまでもかわいいやっちゃんにそう言われると、しょうがないなあ、と思う。そう思うのも失礼かもしれないけど。
お土産、と言えるほどのものでもないようなものを持ってお邪魔すると、やっちゃんが顔半分だけ覗かせた。半分でも、どうしたのか分かってしまった。3日前にはそんなこと口の端にも登らせなかったから、多分思い立ってやってみたのだろう。
「……髪の毛切ったんですか?」
「うん」
やっちゃんの髪の毛が、短くなっていた。どうかなあ、と珍しく自信なさげな彼女に、似合ってます、可愛らしいです、と素直に感想を伝えれば、頭を抱えられた。どうも、求めていたのはそれじゃないっぽい。でも、こう、なんというか、大人っぽいというよりは、若く、というか幼く見える感じに仕上がっているもんで。
「響也さんにもびっくりされた……もっとお美しい弁財天婦人になるつもりだったのに……」
「びっくりはしましたけど、でも、ありだと思いますよ」
「さちえちゃん優しい……みーちゃんは指さして笑った……」
「私、この時期短くするとすごい広がっちゃうんです。だから、そういう風にできなくて」
「そうなの?」
「そうなんです。癖っ毛で」
「おそろいー!」
「……ふふ」
「ん?」
「いえ、なんでも」
食い気味に、私よりもはしゃいで、小さなお揃いを喜んだやっちゃんに、やっぱり可愛い、と思う。思わず漏れた笑いに、不思議そうな顔をされた。ふわふわ広がってしまう髪の毛はなんとなくコンプレックスだったんだけど、何度も周りの人のひょんな一言に、救われている。思い返している間に、家の中に通されて、紅茶とお菓子を用意して、会話の続きを始める。
「でも、さちえちゃん、あんまりそうは見えないわね。毎朝大変なの?」
「そうですね……纏めてしまえば、そんなに目立たないんですけど」
「あたしは矯正かけてから、ある程度落ち着いたかな。でも、ここまで短くしちゃって、この時期だと、ねえ……」
「……あの、ほんとに、お世辞じゃなくて、似合ってますよ。かわいいですよ」
「ありがと……こう、前下がりショートボブ的なやつになりたかった……」
「すぐ伸びますよ!」
「うん……」
しゅんとしてしまった。なにがまずかったんだろうか。私じゃだめだ、響也さんにもっと励ましてもらったほうがいいかもしれない。湿気が多い時期は広がっちゃうのはすごく分かるし、それはどうにもならないのだ。もごもごしていたやっちゃんが、だってえ、と不貞腐れたように言った。
「昔から嫌だったのよ、もふもふだと笑われるし」
「そ……」
そんなこと、とは言えなかった。心当たりがあったのだ。黙った私に、どうかした?と問いかけたやっちゃんに、思い出をなんとなく零す。
高校生の時だったか。私、髪の毛とちょっと、なんというかこう、うまく付き合えていなかった時があったのだ。しっかりしろー!がんばれー!って毎朝やってた。ほんと、今でこそ落ち着いた方、ってだけ。その時、まだお付き合いもしてなかった幸太郎さんに毎朝、「今日も元気な頭だな!」「昨日よりもシュークリームに近いぞ!」と手を替え品を替え、髪の毛の広がりを評価されていたのだ。やめてください、怒りますよ、と何度も喧嘩した思い出がある。しばらく後に、拗ねたように、だって気を引きたかったんだもの、と子どもじみたことを言われたのだけれど。そんな話を零せば、ふむふむ、と聞いてくれたやっちゃんが、机を叩いた。
「ひどいじゃない!人が必死に毎朝戦ってるのに!」
「……えっ」
「だってそうでしょ!あたしだったらぷっつん行くわよ!」
ぎー、と怒っているやっちゃんに、そういう反応もあるのか、とちょっとびっくりした。この類の思い出話、正確に言うなら「幸太郎さんの話」をすると、大概の人は私の懐かしみを悲しみと取り違えて、それに沿った反応をするのだけれど、やっちゃんはまるで、幸太郎さんが今も目の前にいるように、そんなのはこうしてこうしてこうよ!と宙を拳で切っている。そんなに殴ったら、打たれ弱い幸太郎さんは、泣いちゃいます。
「泣かしてやるわよ!」
「優しくしてあげてください……」
「前々からねえ!いろいろ言ってやりたいことがあるのよ!さちえちゃんだって大変なのよって!」
「ああ……拳の早さがどんどん……」



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