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おはなし



「海、朔太郎に行ってらっしゃいしよう」
「いってらっしゃあい」
「行きたくないよー!いやだー!」
「早く行け」
「ちょっと離れてる間に海が5メートルくらいに巨大化したりするかもしれないでしょー!いやだー!行きたくなーい!」
「いいから早く行け、新幹線乗り遅れるぞ」
「だっこー」
「それかこのまま連れて行くー!」
「早よ行け!」
「ぎゃー!航介の鬼!」
「さくちゃん、たっちー」
「海ちゃんタッチ!」
「ばいばーい」
「あっ、えっ!?ばいばい!?くそ、切り替え早いな!流石俺の子だよ!」
海が生まれて初めての、長期出張である。出張先は東京、期間は一週間くらいか。なにやらそれなりに重大っぽい会議もあるらしいのだけれど、朔太郎の心配は「俺がいない間に海が突然の成長を見せるかもしれない」の一点のみだった。さっきも「突然5メートルになるかも!」とか言ってたが、その前は「突然お箸でご飯食べだすかも!」、その前は「突然猫の王子様に見初められて猫の国に連れていかれて耳と尻尾とヒゲが生えちゃうかも!」だった。お箸でご飯はいずれ出来るようになるだろうが、猫の王子様云々は、海と朔太郎で昨日の夜見てた映画の話だ。ていうか、こんなのんびりですっとろい子が突然変異するわけないだろ。なんの心配をしてるんだ。
行きたくないと駄々を捏ねていた朔太郎につられて朔太郎から離れなかった海だけれど、俺と朔太郎のやり取りを見て、どうも我儘をしているのは朔太郎らしいと判断したようで、すっとこっちに来た。そういうとこの判断力はあるんだよな、あんまり頭は良くないけど。朔太郎の抱っこから降りて、バイバイのハイタッチをして、俺に抱っこされた海が、にこにこしながら朔太郎に手を振っている。こいつ、バイバイ好きだよな。電車とか見に行くと永遠にバイバイしてる。
「ばいばーい」
「スーツケースに入れたら持ち運べるんじゃない?海ちびだし」
「黙って行け」
「さくちゃん、ばいばーい」
「わー!つらい!」

朔太郎を無事送り出して、現時点でまだ朝七時だ。朔太郎ががたがた準備するので海も起きたから、あっちの準備と平行で海の朝ご飯や着替えも済ませたけれど、まだ保育園には早い。しかし、この時間に俺がいるってことは大体いつもならお休みなわけで、海もそれを分かっているので、不思議そうに見上げられた。
「こーちゃんおしごと?」
「お仕事」
「おやすみー?」
「朔太郎がいない間、俺もお仕事短くしてもらったから、海は早お迎え」
「はやおむかえ?まーちゃんといっしょ!」
「そうそう」
「はやおむかえはー、おやつなし」
「おやつ食べたい?」
「ぱんださんちょこ!」
「……家で食べるってことな」
「そお!」
「分かった」
いつもなら、送って行くのは朔太郎で、迎えが俺だ。お迎えだってなんだかんだ夕方になってしまうのだけれど、朔太郎の出張をうちの両親に相談したら、配達回りだけしてくれればいいと温情をかけてもらえた。だから、早お迎え。こーちゃんとほいくえん、と喜ぶ海の姿を見たら、朔太郎は血の涙を流しそうだ。
「そろそろ行くぞー」
「んー」
「なにしてんの」
「うみねー、あさくつはくの、さくちゃんにやらすの」
「そうなのか」
「さくちゃんやってくれる。こーちゃんやってくれない」
「うん」
「だから、じぶんでくつはこー」
靴なんてがんばれば自分で履けるくせに。やってやる朔太郎も朔太郎だけど、やってくれるからと人を見て任せてる海も海だ。こーちゃんが駄目だからってさくちゃんも駄目だぞ、と一応釘を刺したけれど、しってるもーん、と口を尖らされた。悪知恵をつけたな、こいつ。
保育園に着いて、かすみせんせえ!と走っていった海が、今日は早お迎えでしばらくの間はそれが続くのだ、と自分でぺらぺらお説明していた。そうなんですか、と目を向けられて、まあ仕事の関係で、と頷く。改めて、しばらくは遅い登園で早いお迎えになることをお願いしている間も、海は喋り通しだった。
「さくちゃんいないの!うみとこーちゃんしかいない!」
「そうなの、さみしいね」
「んーん!うみ、さぶしくない!さくちゃんとたっちばいばいした!」
「それなんで、よろしくお願いします」
「はい、分かりました」
「じゃあな、海」
「こーちゃん、ぱんださんちょこ!」
「分かった分かった」
「いってらっしゃーい!いってきます!」
ぱたぱたぱた、と手を振ってすぐ、靴を脱ぎ捨て引っ込んで行った。寂しくない、と言い切った通り、まあ元気だし、いつもと違うからどうかなーと思ったけど、大丈夫かな。

「こーちゃん、ももりうた、して」
「……なにそれ」
「さくちゃんがやるやつ」
「もっかい」
「ももりうた、あれ?こぞりうた?んー、のぼりうた」
「……………」
何のことだかさっぱりだ。
約束通りに早お迎えをして、パンダさんのチョコをおやつに食べて、さくちゃんがいないからね!と張り切る海は晩飯作りや洗濯物を畳むのを手伝いたがった。洗濯物はもしゃもしゃになった。お皿拭きもやらせてみたけれど、ずずーって啜った鼻水を拭った手で綺麗なお皿をごしごし積極的に触るので、洗い直しのお皿が何個かある。それから一緒に風呂に入って、目が爛々としてる海は俺の背中まで擦り切れる勢いでがしがし洗ってくれて、パジャマに着替えて今に至るわけだけれど。
「……それは、なに、どういうやつ?」
「おうた、さくちゃんがうたうの。うみのこととんとんして、へんなうたうたう」
「海のこととんとんしながら歌えばいいのか」
「そお」
「……子守唄かな……」
「ふつうのうたじゃないんだよ、へんなうた」
「なんだそれ」
「うみのしらないうた」
取り敢えず子守唄の代表例を歌ってみたら、ちがうー、と駄々をこねられた。他の童謡も、ちがう、それもちがう、ぜんぶちがう、と海の眉毛がどんどん下がっていく。難しいな。なに歌ってやってるんだ、あいつ。いつもやってるのかと聞いたら、ちょっと、だそうで。たまーに気が向いた時に歌うってことか?じゃあ尚更わからない。
「さくちゃんに聞いとく」
「んー」
「おやすみ」
「こーちゃん、ごほんよんで」
「一つな。なににする」
「……さくちゃんのすきなやつ……」
「……………」

『帰りたいいいいい』
「……ホームシックが史上最速だよ……」
『海は!?寝た!?お顔見せて!』
「寝た。あっちもあっちで荒れてる」
『え?そうなの?さくちゃん不足?』
「そうだな」
海が寝た、後。と言っても、あれからしばらくぐずぐずして、めそめそして、なかなか寝なかったんだけど。朔太郎に、お前は一体なんの歌を歌ってるんだ、と連絡したら、電話が返ってきた。ちなみに、歌は適当、その時に思いついた感じでやってる、そうで。そんなの分かるわけねえだろ。
『そっかー。元気そうに見せかけて、1日持たなかったか』
「夜までは、いろいろ手伝ってくれて、がんばってたんだけど」
『寝る間際だからかもねー。朝になったら復活してたりして』
「……有り得る」
『でしょ』
「お前、明日も早いんだろ」
『そうよ。おじさんばっかでむさ苦しくて眠くなる会議のためにね』
「一人部屋?」
『ううん、後輩くんと一緒。ねっ、井草くん』
遠くから、なんですか?と返事をする声が聞こえた。後輩くん、名前は聞いたことある。俺は朔太郎の仕事関係の人と面識が一切ない、というか海がいる上で事情が複雑になっているからそうせざるを得ないので、電話口から遠目に聞こえる、奥さんと電話ですか?と問いかける後輩くんの声と、そんな感じ、と微妙にずれた朔太郎の答えに、ちょっと笑ってしまった。そんな感じ、って。
『明日またかけていい?』
「いいよ。この時間でいいのか?」
『うん。そっちは時間大丈夫?』
「俺は、遅くしてもらってるから」
『そっかそっか。自分が体調崩さないような気をつけてね』
「おー」
それじゃあまた明日、おやすみなさい、と電話が切れた。と同時に、海が寝てる部屋からふにゃふにゃと泣き声が聞こえた。
「どうした」
「うああ、こーちゃん、ぇゔ」
「怖い夢でも見た?一人にしてごめんな」
「こわい、ひぐ、さむい」
「寒い?」
熱でもあるのかとしばらく様子を見たけれど、一緒にいてやったら割とすぐに落ち着いて、寝息を立てた。不安定、を形にしたら正にこれ、って感じだな。

「いってきまーす!」
「行ってらっしゃい」
「こーちゃんもいってらっしゃーい!」
「行ってきます」
ぐずぐず海は、朝になったら復活した。朔太郎の言った通りだ。笑顔爆発って感じで、寝癖だらけの頭を跳ね散らかしながら、先生に抱きつきに行った。体調悪いってわけでもなさそうだし、夜だけかな。今日も早お迎えだって喜んでたし。
お迎えに行った時も元気だった。元気が有り余りすぎて顔面から転んだらしく、おでこに絆創膏貼られててちょっと笑った。先生は申し訳なさそうだったけれど、別に大怪我でもないし、海も気にしてないみたいだし。家に着いておやつを食べてからも、持て余す力を発散しに殴りかかってきた。早お迎えだから余計に有り余ってんのか。
「ちぇーんじ、あにまーる!たあ!」
「いて」
「こーちゃん、わるものやって!うみ、へんしんする!」
「よし」
「てりゃー!たあ!いたいかー!」
「痛くない。うら」
「に″ゃああ!たかい!うひー!」
持ち上げたら喜ばれた。朔太郎ならここでぶん回すんだろうけど、そこまですると海は泣くので、俺はしない。下ろしたらまたすぐ、たあ!とお!って全然痛くない猫パンチが飛んできたので、もう一度持ち上げておいた。
今日の夜ご飯も、海が手伝ってくれた。さくちゃんいないからね!と意気込んでるのも昨日と同じ。うーん、嫌な予感がする。とりあえず、レタスを千切ったり、それをよそったりするのをお願いしたけれど。

『泣いたんだ』
「泣いた。しくしく泣いてた」
『……我慢してんのかな』
「昼間はほんと、元気すぎるぐらい元気なんだよ。空元気ってわけでもないし」
『じゃあ、夜になると寂しくなっちゃうのかなー。最近俺ずっと一緒に寝てたし」
「そうかも。一緒にいてやると落ち着くんだけど、しばらくは寝ないな」
『ふーん……』
今晩も海は泣きながら寝付いた話を報告する。思ってなかった方向に寂しくなっちゃったみたいだね、と朔太郎が溜息交じりに言った。電話してる俺の膝を枕にして、泣きべそかいた海が寝てるので、声を潜めて話す。間違っても突然帰ってこようとか思うなよ、と釘を刺すと、そんなことしないよー!と棒読みが返ってきた。信用ならない。
『あ、じゃあ、こうしない?』

「海、おいで」
「なあに?」
「乗れるか」
「おひざー、こーちゃんのおひざっ」
よじよじと登って来た海が、ぱそんこなにするのー、と画面を触る。パソコンだって。昨日確認した通りに繋げば、がさがさとノイズが入って、画面の中に知らない部屋が映る。
「こーちゃん、なにするの?」
「うん。待っててごらん」
「うみ、ぴかちゅーみたい。ぱそんこでみる」
「ピカチュウは見ない」
「じゃあぶろっくするー」
「待ってろって。ほら、もう来るから」
『あー!ごめんごめん、ちょっと待ってて!』
「……こーちゃん?」
「ん?」
「さくちゃんのこえ、した」
「うん」
「さくちゃん!さくちゃあん!」
『はいはい!海ちゃん、今行くから!』
どかどかと喧しい音がして、朔太郎が画面の中に写り込んで来た。ばたばたしながらヘッドホンを刺して、ねえ井草くん、これカメラとマイクどこ?と画面外の方を見た朔太郎に、液晶の上です、マイクは下、と遠くから声がする。ぼんやり聞こえるその声は、どうやら別の人と話をしているようなので、映るつもりはないらしい。
『やー、繋いだはいいけど、ちょうど上司の人来ちゃってさ。井草くんにお願いして来たってわけ』
「いいのか?」
『いいよお、飲みに行こって話だもん』
「さくちゃん!」
『海、元気だったー?ははは、おでこどうしたの、かさぶた』
「ころんじゃったの!」
『そっか、痛かった?』
「うみつよいから、なかなかった!」
『痛い時は泣いてもいいんだぞー』
「ん!」
どんどん液晶に近づいて行く海を膝の上に乗せ直しながら、大声でマシンガンのように話す海に、一安心する。朔太郎が昨日出した提案は、「そろそろ居ない期間も半分だし、テレビ電話でもしてみる?」だった。声も聞けない、顔も見れないことでダメージを受けていた海には効果覿面だったようで、目を輝かせながら、ずっと喋っている。しかも大声で、パソコンデスクをがたがた鳴らしながら。
「きーて、きょうのよるごはん、おてつだいした!」
『なにしたの?』
「とまとあらったの!うみ、こうやって、こうやってね」
『うんうん』
「そのまえも、そのまえも、おてつだいした!こーちゃん、うれしいって!」
『そっか、海ちゃんえらいなー』
「ひとりでおくつもはいてるの!」
『それはこれからもよろしく』
「やー!さくちゃんがうみのおくつはかすの!はやく、おうちかえってきて!」
『もうちょっと待っててね、もうすぐ帰るからさ』
「やだ、またない!こーちゃん、さくちゃんあいたいよね?はやくおうちきてほしいよね?」
「えっ」
『そうなの?』
「そう!そうだよね?ねっ、こーちゃん」
「……んん、まあ……」
『へーえ』
「……朔太郎」
『はーい、分かってまーす』
「こーちゃんもさぶしいって!」
『へーえ、ほーお』
「さぶしい?」
「さぶ、さむい、さむしい?」
「さみしい」
「そお!さみしい!」
この前海が突然零した「さむい」の真相が分かった気がする。咄嗟に「さみしい」が出てこない結果、そうなっているのか。そういえば、かすみ先生と話してた時も、変な言い方してたっけ。海が言葉を間違えるのは良くあることだから、聞き逃してたけど。
こーちゃんもさみしいって、とかその他諸々の海の申告ににたにたしてる朔太郎が、泣いちゃったのって実はどこの誰なのかなー、と下らないことを言うので、パソコンのカメラを手で隠せば、悲鳴と共に謝られた。こっちからすると突然驚き慌てている朔太郎しか見えないので、面白い。片耳だけヘッドホンをずらして外した朔太郎が、また口を開く。
『海、明日もお話ししたい?』
「する!さくちゃん、げんきー?」
『元気ー。じゃあ、明日もパソコン借りるね』
『良いですけど』
『他のとこは触んないから安心して』
『元々その約束です。辻さん、息子さんと喋ってるんですか?』
『そう。あー、だめだめ来ないで、恥ずかしがり屋さんだから』
『息子さんが?』
『息子さん抱いてる人が』
「だあれー?」
『さくちゃんのお友だち。じゃあ、明日もお話ししようね、海』
「うん!」
『おやすみー』
「おやすみー!いいこにするんだよ!」
『ははは、海ちゃんこそ』
どうも、パソコンは後輩くんの私物らしい。確かに、朔太郎はパソコンなんて持って行かなかったしな。ヘッドホンをしていたのも多分、俺の声が他に聞こえないように、だ。意外とちゃんと考えている。ばいばい、と手を振って、ぷつりと切れた通話に、海が膝から飛び降りた。
「こーちゃん!こーちゃん!」
「なんだ」
「さくちゃんいたねえ!にこにこだった!」
「そうだな」
「あしたもおはなしするって!うみ、はやくねる!」
「うん、えっ?もう、今すぐ寝んの?」
「そしたら、はやくあしたになるかな!」
「……うん、そうかもな」
「こーちゃんも、はやくねて、あしたになってほしい?」
「うん」
「じゃあ、いっしょにねよ!きょうは、うみがごほんよんであげるから!」
普段よりだいぶ早い時間に布団に入って、海の創作読み聞かせで、一緒に寝てしまった。話の途中途中で、はやくあしたになるといいね、こーちゃんもさぶしかったでしょ、うみとこーちゃんとさくちゃんでおはなししようね、と海が挟んで、俺は頷いた。さぶしかった、のかも。

ついに一週間が経った。帰ってくるのは夕方ということで、あれから毎日テレビ電話をしていたのに「ひみつにする!」と頑張って黙っていた海のサプライズを準備して、しばらく待った頃、玄関の鍵が開く音がした。海は秒速で駆け出して玄関に向かった。見えないけど、朔太郎の声と海が強めに踏み切って飛び上がった音から、なにがあったかは察する。
「ただーいまー」
「さくちゃん!」
「ぉえっ、ぐ……鳩尾に……頭が……」
「さくちゃん!さくちゃん!」
「……ただいま、海ちゃん……」
「おかえりなさいぱーてぃーだよ!」
「なにそれ」
「うみ、さくちゃんのかおかいた!こーちゃんはおはなかってきた、さくちゃんのすきなおはな!」
「……なにそれ?」
「おかえり」
「ただいま……」
「ひみつで、さくちゃんのすきなごはん、うみとこーちゃんがつくったの!」
ぐいぐい手を引かれて為すがままの朔太郎が、言葉を失う。たった一週間、されど一週間、海にとっては莫大に長い時間だったようで、その気持ちの表れがこの「おかえりなさいパーティー」である。折り紙の飾りと、いつもよりちょっとだけ豪華な夜ご飯と、生花がたくさん。さくちゃんはおはながすき!と海が発案して、俺が買いに行った。部屋のいろんなところに咲き誇る花に、きょろきょろした朔太郎が、ふらふら歩き出した。海がその後をてちてちと付いていく。カルガモの親子。
「……海」
「なあにー?」
「……大好き」
「うみも、さくちゃんだいすきー!」
「航介」
「なに」
「……………」
「さくちゃん、こーちゃんだいすきー、は?」
「……海ちゃん代わりに言って」
「こーちゃん、さくちゃんが、こーちゃんだいすきー!だって!」
「うん」
「こーちゃんも、さくちゃんだいすきー、するでしょ?」
「……………」
「あー、こーちゃんとさくちゃん、おんなじかお!なかよしー!」

時刻は十時半。海は寝付いたことだし、改めて乾杯することにした。おかえりなさいパーティーならぬ、おつかれさまパーティー。
「ぷはー!」
「声がでかい」
「起きちゃったら起きちゃったでその時だ」
「……いいけどさ……」
あのパーティーは海発案なの?と聞かれて頷けば、朔太郎は嬉しそうににやにやしていた。酒が進む進む、って顔に書いてある。てんでんばらばらに飾ってあった花は、朔太郎が一つにまとめて花束みたいにした。切り花だからあんまり持たないだろうけど、とは言ってた。テーブルの上に飾ってあるそれに、満足そうに息を吐いた朔太郎が、グラスを煽る。
「買ってきたのは航介?選んだのも?」
「海も一緒にだけど……なんで?」
「……幸福な日々、永久の幸福、喜びを運ぶ、君ありて幸福、幸福の愛」
「なに?」
「花言葉だよ。よくもまあ、こんな幸せなのばっかり選んだよね」
「ふうん……」
「知らないだろうとは思ったけどさ」
知ってるこっちからすると嬉しいわけ、と破顔されて、悪い気はしなかった。花言葉をもう一度聞けば、指差しながらゆっくり、花の種類と一緒に教えてくれた。それからしばらく、離れていた間のことを話して、海を挟んで三人で寝た。いつも通り、三人で。

「おはよーございまー!」
「……飲みすぎた……家なのに……」
「……頭がんがんする……」
「さくちゃんもこーちゃんもおねぼう!うみがいちばん!」


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