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執着と終着


見る視点が違っただけで、どうも同じ問題について俺たちはそれぞれ悩んでいたらしかった。簡単に言えば、「子どもが欲しい」「家庭が欲しい」「けどその相手は自分じゃない」「自分じゃなれない」「それってどうなの?」ってわけである。自分の中で自分同士で会話してみればすぐ答えはわかる。辿り着いた答えは、「そんなもん今は知らねえ」だ。目の前のことだけ考えてきたのに、遠くのことを急に気にしだしたりするから、こうなる。自業自得感は否めない。
「でも、最初に航介が変な風に俺のこと避けたりするから、繊細でガラスハートなさくちゃんが戸惑ったわけじゃん?もしや、悪いのは航介なのでは?」
「……………」
「あだだだだ無言でアイアンクロー決めるのやめて待ってほんとに痛い!砕ける!」
「詫びろ」
「すんませんした!」
ふん、と鼻息荒く手を離した航介は、変な感じに避けたと思われてたなら悪かった、けどこっちにだって色々思うところはあったから間を空けたかった、と口を尖らせた。航介が航介なりに一生懸命考えてくれてた間に、俺が何をしていたかというと、とても比べ物にならないくらい最低な逃げの一手を踏んでいたので、何も言えない。すいません。
結局、何が起こったわけでも、何が解決したわけでもない。元鞘、とかいうやつ。何でここまで縒れて拗れて揉めてたんだかも不明な、長い冷戦期間だった。得たものすら無い。失ったものならある。内訳、普段使い用の携帯、航介の靴、俺の眼鏡、などなど。顔を付き合わせてたら真面目な話なんて出来ない俺たちだから、今だってきっときちんと言わなきゃいけないことがあるのに、巫山戯て茶化して逃げている。けど、この逃げは有りなんじゃないかと思った。俺がやったような全部置いてきぼりの逃避とは違って、その場からただ動かないだけだから。
歩き出すなら、二人で歩きたいと思った。置いていかれるのが嫌なのはお互い様。自分の知らない誰かさんが相手と深い関係を築くのに吐き気を覚えるのだって、お互い様。だったら、一ミリずつだっていいから、二人でじわじわと進んでいくのが、一番楽で、一番楽しいと思ったのだ。時々戻ったりして。時々、一人になってみたいとか言ってみちゃったりして。けど、結局いつも通り、元鞘。そんなのもいいんじゃないか、なんて、思った。思えるようになった。前々からそう思っていたけれど、ちょっとした拍子で揺らぎやすい基盤が、やっと深く根を張り巡らせて、大樹に成った。誰に何を言われようと、俺と航介はそれでいい。先のことなんか知らない。今この瞬間、隣に居られればそれで充分。ちょっと未来に隣に居られなくなるようなことがあれば、それは一大事だ。その未来をぶっ潰しに、俺は奔走しなければならない。どたばたやって、ぐちゃぐちゃになって、それでもなんだかんだ一緒にいたじゃないか。その過去を、無かったことにするのはやめよう。見なかったふりをするのはやめよう。今までと同じように、これからも一緒にいよう。これからも一緒にいられるように、どうしたらいいかを考えよう。俺からの執着じゃなくて、お前からの依存じゃなくて、やっと隣同士対等に、立ち上がって前を向けるようになったんだから。
「ねえ」
「あ?」
「一応、これだけはちゃんと自分で言っとかなくちゃいけないかなって思うから、言うけど」
「なに?」
「笑わない?」
「なんで?」
「いいから。おひさまに誓って、笑わない?」
「……笑わない」
「航介のこと、邪魔じゃないよ。この先一生、邪魔にはならない。邪魔にはしない。邪魔だって言う奴がいるなら、それは俺から見てそいつが邪魔者だってだけの話だから、航介はそうはならない」
「……………」
「……意味伝わった?」
「さっぱり」
流石に、泣きそうな顔でそう言われると、笑えた。

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