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執着と終着


「なんかあった?」
「……なんで?」
「辻くんが、あたしまで辿ってくるってなかなかないでしょ」
「会おうって言ったのはそっちじゃないか」
「会おうって言わせたのはそっちだよね?」
「……不満があるならそう言って」
「ありませーん」
「服着ないの?」
「そうやって話を逸らす、はーい、ベッドには上がらないでくださーい」
からから笑ってふかふかの布団に埋もれた彼女から目を外せば、全くの部外者に頼るってことは何かあったって言ってるようなもんだよ、と訳知り顔の声が聞こえた。女の子って、どうして他人の「なにかあった」に酷く敏感で、嫌に聡くて、中身を根掘り葉掘り聞きたがるのだろうか。ほっとけばいいじゃん、なんかあったと思うならさ。
彼女は高校時代の友人で、友人と言うほど仲良くもなかったけれど、卒業する時に連絡先を交換して、なにかあったら連絡してね、話を聞いて慰めるくらいはするから、と言われて、何度か利用させてもらっている捌け口である。慰めてもらっている、意味深。俺がばつが悪くなるように、ここぞという時に限って、高校時代に俺が親しくしていた後輩の名前を出すところだけがあんまり好きじゃないけれど、それもわざとやっている節があるので、もういい。彼女曰く、繋がりは多いほうがいいんだよ、人気者の君とお近づきになれるのは幸せになれるチャンスを増やすのと同義なんだよ、ということらしい。俺といると幸せになれるのかと聞き返したら、周りからちやほやされて名が売れてる人と親しいとあたしまでちやほやされて偉くなった気になるからそれは幸せ、要は別に君じゃなくてもいい、とばっさり切り捨てられた。それを聞いた時、成る程、筋は通っているな、と思った。そこですんなり納得させられるのもどうかと思うが、彼女はどちらかというと俺に近いのだろう。感情どうこうより、利と不利が第一に来てしまうのは、すごくよく分かる。好きだからとか愛してるからとか、そんな訳の分からない理由に左右されたこと、今まで一度もない。まあなんというか、それで詰られたこともあるし、それが理解されないことも多々あるこだけれど。
布団から顔だけ出した彼女が、バスローブを指差したので、取ってあげる。ツーカーっぽくていいねえ、と喜ばれた。それを羽織って、彼女が口を開く。
「ほら、辻くんって、一人とあんまり親しくならないじゃない?」
「友達はたくさんいる方だよ」
「そうじゃなくて。君の詳しいことって、誰も知らないでしょう?」
「……うーん」
「まあ、あっさり付き合えて、こっちからしたらすごく扱いいいんだけどね」
「えー、それはこちらこそ」
「そこで照れるなよなー。ていうか、あたしにずっと構ってていいの?」
「え?」
「彼女と別れたんだか、家でなんかあったんだか、知らないけど。逃げてないで、そっちの解決しなくちゃいけないんじゃないの?」
「……そう見える?」
「いやー、どう見てもそうでしょ、そうでもしないと今までほとんど連絡取ったことないようなセフレ渡り歩かないでしょ」
「渡り歩いてないよ!」
「嘘こけ。高校生の辻くんが成長したのが今の辻くんなんだから、まだどうせしっちゃかめっちゃかにふらふらしてるんだろうとは思ってるよ」
「それに、別に、君のこと、そんなつもりで見てるつもりじゃ」
「はあ、なに今更。セックスするフレンドなんだから、合ってるでしょ?」
にっこりと、疚しく邪悪に、彼女は微笑んだ。そして、君にいいことを教えてあげよう、と口を開いたのだ。


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