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執着と終着


多分、異変を感じるのも、遅かった。もっと早く気づいて、もっと早く不安の芽を摘んでおけば、こんなことにはならなかったかもしれなかったのに。
そういえば最近、航介とセックスしてない。そう気づいたのは、雪まみれの外を歩いていると鼻が痛くなってくるような寒い季節だった。ちょうど忙しい時期だった。名が売れてきたご当地キャラクターの売り込みに、俺は勿論、同部署の人間は挙って東奔西走していて、今年度の観光もしくはPRの成果による特需は前年度に比べて右肩上がりなのだと、偉い人も喜んでいた。順風満帆、どこからどう見ても上手く行っている。順調順調、剣呑剣呑。後者は意味が違うかも。
「で」
「……で?」
「気分が良いです」
「はあ」
誰もいない実家、レアシチュエーションだと思わない?江野浦家に限ってはそうでもないけども。ぺらいクッションを抱いてゲームしてたのを全力で邪魔して、しこたま怒り疲れさせた後なので、返事の色に呆れが勝っている。無理やり膝に乗っているので、俺と航介の隙間はくたびれたクッション一枚分。眉毛の真ん中に寄った皺を指先でぐりぐりしたら、払いのけられた。だってそんな顔されてちゃやる気も出ないってもんでしょうよ。
「しない」
「は?」
「したくない」
「……無理矢理が良いってこと?」
「耳腐ってんの?」
「全然元気」
「言葉通りだよ」
この話はおしまい、と膝からいとも簡単に降ろされて、あっさりした態度に特に何も言えなかった。しばらく置いて、はあ、そうですか。そう口に出して言えたかすら、微妙。別に良いんだけどさ。案外結構この男は、拒否するように見えてガードゆるゆるのがばがばだから、行けっかと思った。うん、まあ、そんな日もあるかね。
そんな日がしばらく続いたことを、俺は見て見ぬ振りをした。そんなもん、そんなもんだよ、って多分他のことで手一杯のふりをしたのだ。航介まで構ってらんないよ、と犠牲を作って無理矢理に忙しい思いをする自分を正当化したかった。その間あっちがなに考えてたかも、そもそものきっかけも知らずに、自分ばっかりいいように。仕事のせいにするわけじゃないけど、確かに仕事は順調すぎるくらい順調だった。結果を出せることも、褒められることも、嬉しかった。楽しかった。だから、浮かれすぎて、取り落としたことにすら気づかなかったのだ。
「そういえば最近、みんな揃わないねー」
「ん?」
「もともとわざわざ予定合わしてたわけじゃないけどな」
「それもそうだけど」
あはー、なんて気の抜けた笑い方をした都築と瀧川の言葉に、そうだ、と思い出した、
いつから航介の顔見てないんだっけ。


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