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mellow


「めだかちゃん、本当に俺のこと好き……?」
「はい」
「そう……」
ならば安心したんだけど……と、先輩が頰を押さえて膝をついている。乙女ポーズで、それが地味に似合っている辺り、女子としては微妙な心持ちである。なんでこんなことになっているかって、時間を少しだけ巻き戻すと、先輩と一緒に水遣りしているところに、先輩の同級生の女の子が来て、二人は楽しそうにお話しして、次のお休みに二人で遊びに出かける約束までも取り付けて、彼女が去った後まず先輩が吐いた言葉が「あ、めだかちゃんも来る?」だったからだ。そりゃ水もかける。水もかけるし、ホースの口を霧から切り替えて、最強の水圧でジェット噴射にもする。勢いのある水に見事に跳ね飛ばされた先輩は、もんどり打ってひっくり返ったというわけである。やりすぎたかな。
「……俺、君が好きになったのが、俺で良かったと、本当に思っている……」
「は?」
「なんでもないです……」
「先輩、びしょびしょですよ」
「めだかちゃんが水をかけたからだよ!」
好きな人に水はかけちゃいけない!と先輩がぷんすか怒っているけれど、好きな人にだって水くらいかけても良いと思う。ほら、水も滴るなんとかって言うくらいだし。濡れてるのが好きな人もいるかもしれないし。
「じゃあ、濡れてる俺が好きなの?」
「いえ、あまり」
「目高智咲ー!」
「なんですか」
「先輩の有りっ丈の憤りだよー!」
というか、先輩、あたしのフルネーム知ってたんですね。

「はい」
「……どうしたの、これ」
「昨日濡らしてしまったので。やっぱりやりすぎたと思って、でもこんなものしか用意できなかったんですけど、お詫びです」
「おわ……作ったの?」
「はい」
「昨日の今日で?」
「はい」
「俺の分だけ?」
「はい」
一応、心ばかりにと可愛くラッピングしたクッキーを手渡せば、何故か震える手で受け取られた。おう、おおう、と変な呻き声を上げている先輩が、両手で包みを捧げ持ちながら呟く。
「……なんていうか、めだかちゃんの、こういうとこ、ほんと……」
「はい?」
「……先輩、自信がつきます。男として」
「は?」
「いただきまーす!」
「味の保証はしませんよ」
「うまーい!普通にうまい!おかわりは?」
「ないです」


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