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mellow


唯山くんは、お酒に弱い。
「だーからーあ!」
「はいはい」
「有馬は!そうやっていつも!俺の話をあんまり聞いてないけど!」
「聞いてるよー」
「だって!」
駄々っ子だ。そしてしつこいまでに管を巻く。ちょこちょこ「みきは!」って自分のことを自分の名前で呼んじゃうのがちょっとかわいい。あたしだって家ではちょっとだけ、自分のことを名前で呼んじゃうけど、男の子でもそれが罷り通るのは、唯山くんぐらいのもんだと思う。背とかそんなに高くないしね。顔とか、かわいい系だしね。
双子の兄がうるさい、と言う理由で突然家を出た唯山くんは、実のところホラーが苦手で寂しがりなので、一人ぼっちで過ごすことに早々に耐えられなくなり、お節介で世話を焼きに行くあたしが夜になって帰ろうとする度に「え、有馬、もう帰るの……」と子犬の瞳で見つめてくるので、いつも大体朝までコースになる。変な意味は全く無い。逆にびっくりするほど、なにもない。まるであたしは双子の兄の代わりのように、唯山くんの隣でおやすみを言って寝て、同じく隣で目を覚まして、目覚めた彼の寝起き爆発な髪型ととっても嬉しそうな笑みに、どうしようもなく絆される日々である。そして、今日もそのパターン。いつもと違うのは、あたしが来るより前にここを訪れていたらしい、件の双子の兄が、冷蔵庫に入りきらないくらい山盛りに置いて行ったお酒である。何の気なしに、それに手を付け始めたら、宅飲みであることによって唯山くんのリミッターがぶっ壊れたようで、べろんべろんのぐにゃんぐにゃんになってしまった、というわけだ。あたし用になっているクッションを抱き直して、つまみ代わりのお菓子を齧ると、むにゅむにゅ何か言っていた唯山くんが大きな声を出した。
「なあ!ありま!」
「どうしたどうしたー」
「今からなー、みっ、俺がなー、有馬のこと、どこが好きかをなあ、言うからにゃ」
「噛んでる」
「かんでない!」
「後で恥ずかしくなっちゃやだよ」
「ならない!」
まあ、久し振りに会った時も、お酒がんばって飲みすぎて、ふにゃふにゃしてたしなあ、と思い返す。潰れてかっこ悪いところなんて見せたくなかったんだ、と口を尖らせていたけれど、足がよれよれしていた時点で格好はつかないから、安心してほしい。あの時の記憶はあるようだったけど、今回ここまでなっちゃったら覚えてすらいないかもしれない。おもちゃに戯れてくる猫を見てるような気持ちで、両手でグラスを持って舐めるようにお酒を飲む、半目で真っ赤な顔の唯山くんを見守る。うんうん、がんばれ、って感じ。
「あー、んー、まずー」
「まず?」
「えっとー、えーと、足の小指ー」
「……ん?」
「右足の小指、みぎあし」
「……あたしの右足の小指になにが……?」
「あんまはっきり見たことないんだけどお、多分、こう、かわいいと思う、右足の小指!」
「……………」
「つぎがー、あ!次って言っても、二番目ってことじゃない!全部一等賞、みんなでいちばんのり!」
「……唯山くん」
「次はー、左足の小指!右足より、ちょっとだけ大人びている!」
「唯山くん!」
絶対永遠に終わらない。変な扉を開けてしまった。上手く終わらせられないかと思って、片付けでもしようかなー、と空き缶とかを纏めていたら、ちゃんと聞いてよお、とあのあたしが逆らえない子犬の瞳を、よりによって潤ませやがって。座り直すしかない。

「あとー、耳のー、みみ、ここんとこ!」
「……………」
「寝ちゃったのかー?ふふー、かわいいなー、かわいいー」
「……いっそ酔いが冷めても覚えててよ……」
「かわいい口で、なにゆってるんだよー」


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