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プール




「来たぞー!」
「わー!」
「あつーい」
「……………」
「弁当の顔に、うわあ、来てしまった、って書いてある」
「……そこまでではない」
「書いてある」
確かに、来てしまった、とは思った。伏見にそう言われると、反論できない。有馬が一人でわいわいしてる手前、声に出さなかっただけ褒めて欲しいくらいだ。ものすごい人混みに、こんなに人が多くちゃプールの水になんてつま先くらいしか浸かれないんじゃなかろうか、とぼんやり思う。パラソルの下とか、最早隙間すら開いてないしね。
一応、場所取りをして、置いていけそうな荷物を放り出す。さて行くか、と立ち上がった有馬が、振り向いて言った。
「あれ、弁当、浮き輪は?」
「ないよ」
「えー!弁当しか浮き輪持って来そうな人いなかったのに!」
「……浮き輪いらないから」
「嘘だ」
「泳げないくせに」
「泳げるっつってんじゃん」
「ははん」
信用しない有馬が鼻で笑って来たので、とても腹が立った。てめえ、俺が海で普通に泳いでるとこ見てたろ。忘れちゃったのか、脳みそちっちゃいから。言ったら絶対喧嘩するので言わない。珍しく、ぐでんと足を放り出して座っている伏見が、あー、ああー、とだらしなく声を上げた。
「むりー、あーつーいー」
「炎天下ずっとは無理だよねえ」
「金払えば借りれるぞ、日陰」
「ん?ああ、貸しパラソル」
「……おのでらー……」
「……弁当より先に伏見が溶けちゃうから、借りてくるね……」
「先にプール行っててもいい?」
「いいよー、ここに戻ってきてね」
伏見が動き出すまで俺もここにいるから、と困り顔で手を振った小野寺の隣にいる、つもりだったのに、腕すっぽ抜ける勢いで手を引かれてつんのめった。ぎゃわ、って変な声が出て、有馬が目を丸くする。丸くしたいのはこっちなんだけど。
「行くだろ?」
「待ってるよ」
「待ってるー!?何が悲しくて俺一人でプールだよ!行くぞ!」
「えっ待って」
「いつまで上半身に服着てんだ!脱げ!」
「ひっ」
剥がれた。身ぐるみ剥ぐ、という表現がとっても正しい。ぽいっと放られたシャツに手を伸ばしても届くわけもなく、というか有馬に引っ張られる力が強すぎて、転ばないようにするだけで精一杯だった。溶けかけの伏見にひらひら手を振られて、それもあっという間に見えなくなって。いやいや。二人とか、いやいや。ちょっと待ってよ、ねえ。
「よし!行くぞー!」
「いやいやいや!ねえ!ちょっ、」

「弁当めっちゃテンパってる、うける」
「……伏見がうけてるってことは弁当は全然面白くない状況ってことだよね……俺ついてった方が良かったかな……」
「は?最高に楽しいのに何邪魔しようとしてんの、死なすよ」
「ひええ……」


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