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おはなし



金曜の9時からやるやつは、よく見る。俺の映画の知識ってそんなもんで、航介や当也は自分たちで何やら発掘してきて勝手に見るので、それに便乗したりしたことも結構あったり。ジャンルもバラバラ、なんだけど、系統的には固まってる。当也が有名な王道もの、要するにヒーローとヒロインがいて必ず正義は勝利するようなタイプ。航介が無名な邪道、というか、感想の種類が批評か崇拝かに分かれるような、人を選ぶ感じのやつ。あとは、きょうやさんが時々オススメしてくれるから、それは見る。だってあの人のオススメ、外れた試しないし。
そしてまあ、今日も今日とて、当也の家に遊びにきている次第であります。ていうか通算累計何十回目かのお泊まりだ。だって、みわことかずなりが繁忙期らしくて、ちょっとした出張で家にいなくて、その間航介は当也の家に預けられてて、そんなんずるいじゃん。いいなあって思うじゃん。ってさちえに相談したら、ご迷惑はかけちゃだめだからね、と心配そうな顔でゴーサインを出してくれた。やったぜ。航介がお風呂に入ってる間に、当也の鞄から見慣れた黒い袋が出てきた。あれ、レンタルしてきたやつだ。
「なに見るの?」
「ジブリ」
「……おお……」
「なに?」
「……満を辞して感が……すごくて……」
「ふうん?」
キャンペーン中で安かったから、とレコーダーに当也がDVDを入れる。まあ、まだ寝るには早いし、当也はもう上がってるけど、航介の後に俺もお風呂だし。じゃんけんで決まった順番なので、文句は言えない。この家庭では、暇潰しがてらになにかしらの映画が上映されていることがとても多いのだけれど、今回もそのパターンになりそうだ。
「なにジブリ?」
「見たいのある?」
「俺ほとんど見たことないんだよねー」
「……ちょっと待ってて」
「うん」
帰ってきた当也は、どれがいい?とパッケージを広げた。きょうやさんの部屋から持ってきたらしい。あの人、ほんとに映画であればなんでもいいんだな。こないだなんか仮面ライダー見てたぞ。
俺でも、名前くらいなら知ってる。内容はあんまり。天空の城のやつとか、物の怪のお姫様のやつとか、赤いリボンの魔女の女の子のやつとかなら、まあなんとなく分かるかなあ、ってくらい。新しいのは分かんないや、と選んでいれば、じゃあこれは?と当也が指差した。名前は知ってる、動くお城のやつでしょ。
「そう」
「この中で誰がハウル?お城?」
「……見る?」
「えー、でもー」
「見よう。見たらいいよ」
「うーん」

「ゔわああああ」
「……なにしてんの」
「あああああん」
「ハウル見てる」
「朔太郎めっちゃ泣いてんじゃん」
「まだ途中なのにね」
「わあああああ」
「……何泣きだよ?」
「分からない」
「ぉえっ、えっ、えっ」
「朔太郎、風呂空いてるんだけど」
「うっ、うぐっ、ぐうううう」
「泣き方怖いな……」
「……ちょっと引く……」

ジブリはやっぱりやばかった。夏はジブリ!とか言うだけのことある。めっちゃ泣いた。記憶無くすくらい泣いた。航介と当也には、なぜかちょっと優しくされた。なんでさ。
本日は航介宅です。宿題やりにきたんだけど、とっとと終わっちゃって、航介の隠しスペースを漁って怒られたところ。知ってるところに隠すほうも悪いだろ。これでも見てろと投げつけられたパッケージを受け取って、表に返す。あっ、ピカチュウ。
「なにこれ?」
「ポケモンくらい知ってんだろ」
「映画見たことない」
「……ポケモンの?」
「うん」
「一個も?」
「うん。これピカチュウが主人公?夏休みって書いてあるけど」
「当也呼んでくる」
「は?なんで?」

「来てやったんだけど」
「遅え」
「うるせハゲ」
「あ!?」
「ミュウツー見るんだって?朔太郎」
「え?ミュウツー?ちがう、こっちこっち。ピカチュウが夏休みを過ごすんじゃないの?」
「見せる」
「ゴリラハゲにしてはいい案だと思う」
「なんなの?クソ眼鏡死にたいの」
「なに二人で盛り上がってんの?」
「バスタオル持ってきてやるからな、朔太郎」
「俺も久しぶりに見るんだよ」
「ねえ、なに?」

「ゔあああああん」
「うるせえ」
「映画館でこれやられたら出禁だよ」
「びがぢゅゔがああああ」
「ここまで泣くか?普通」
「ハウルであれだったしね」
「わああああああ」
「いてっ、いってえ!」
「ついに隣の人を殴り出した」
「やめろ!」
「ごんなのっでないよおおおお」

ポケモンを舐めていた。なにが子ども向けだ、次の日まで引きずるくらい泣いたぞ。流石世界のポケモン、名作としか言いようがない。しかも第1作目であれとか。夏はジブリ、夏はポケモン。分かりみしかない。
後日。当也の家に遊びに来たのに本人が読みかけの小説に没頭してしまい、来客であるさくちゃんをほっとく事態に発展したので、リビングでコーヒーを飲んで暇そうにしていたきょーやさんに構っていたら、当也がずかずか寄って来て、首根っこを掴まれて有無を言わせず書斎に連れていかれた。そのまま設置されたのは映画棚の前。
「どれ見たい?」
「俺、今、きょーやさんと、戯れていた……」
「朔太郎に見せるからって、有名なやつばっかり前に並べといてもらった。どれ見たい?」
「えっ……今日の当也、話聞かない……」
「今回は洋画メイン。ファンタジー路線」
「どれも面白いぞ」
「うっわびっくりした!いるなら言ってよ!」
「自分の部屋に入るのにどうして名乗らなきゃならんのだ……」
「そうだけどさ!」
「ナルニア?指輪物語?」
「魔法使いの話ならこっちのが有名だろ、ハリーポッター」
「え、ええー……」
「ジュマンジはどうだ、お前らゲームとか好きだろう」
「ナルニア見よう」
「当也、お父さんはこれがいいと思うんだが」
「朔太郎ライオンとか好きだから」
もうなんでもいいです。

「ああああ……」
「……静か泣きのパターンもあるんだ……」
「泣くほど感動したのか」
「朔太郎、映画見るとすぐ泣くんだ。こないだからずっと」
「わああ……ゔぅ……」
「ホラーを見せたらどうなるんだ?」
「知らない。航介と見てもらおうかな」
「もお……めっちゃ……すてき……」
「女の子みたいなポーズになってる」
「続きもあるが、どうするんだ」
「朔太郎、続き見る?」
「……うっう……アスラン……」
「聞いてないや」

俺で遊ばないでいただきたい。映画に耐性がないから、めっちゃ泣くしめっちゃ盛り上がるしめっちゃ打ちひしがれる。作り手側からしたらこんなに嬉しい客はいないと思う。
「だからもう新しいやつ持ってこないで!」
「……旧作なんだけど」
「そういう意味じゃなあい!」
しかも怖いやつ!と怒れば、だって当也が、って言い訳された。あいつ!自分が見たくないからって、逃げやがって!航介と俺とで見ろってか!ホラー映画を!
もうパッケージが怖い。割とホラーいける口の航介のおすすめ、というか彼にしては珍しいラインナップで有名作を持って来てくれたらしいから、そりゃ面白いんだろうよ。パラノーマル・アクティビティ。仄暗い水の底から。黒い家。ミスト。デッド・サイレンス。題名と見た目で、洋画か邦画かは分かるけれど、あとはもう「怖そう」ってことしか分からない。どれでもいいからどれか選べば、と適当な航介に意趣返しがしたくて、航介が一番引き摺ったやつ、航介が一番見たくないやつにして、と強請ってみた。道連れにしてやる。

「……………」
「昨日何見たの?」
「ミスト」
「……なんで?ホラー見てっつったじゃん」
「ホラーじゃんか」
「想像してたのと違うんだけど」
「朔太郎が、俺が一番見たくないやつを見せろって言うから」
「……なにその嫌な選択……俺絶対そんなの見たくない……」
「……………」
「おい、しっかりしろ」
「……………」
「めちゃめちゃしっかり引き摺っちゃってんじゃんか」
「昨日からずっとこうなんだよ」

「どうせなら明るいやつとか泣けるやつが見たい」
「そろそろそう言う頃だと思って」
踊らされている。嬉しそうな笑顔の当也に広げられた邦画、恐らくは感動ものの類、に目の前が真っ暗になった。用意されてるとは思わないじゃんかさ。完全に読まれてる。二人掛かりで映画に洗脳される。動物ものとかにしてよ、って言ってみたら、成る程と言った感じで背後から新しいのが出て来た。ここってもしかしてレンタル屋?

「なんで犬の泣ける映画なんか見せるんだよ当也のばかー!わああああ」
「ししまる苦しそう」
「うわああああ!くいーる!」
「ししまるです」
「さくちゃん、最近たくさん映画見るのねえ」
「見せてるんだ」。
「やっちゃんはディズニー好きよ、わかりやすいから」
「……そういえば見てないね」
「うええええん」
「朔太郎、美女と野獣見ようか」
「やだああああどうせまた泣いちゃうからあああ」



「君たちが中学生の時からずっと俺のことを散々洗脳してくれたおかげで、有馬くんから俺まで映画オタクだと思われたよ」
「何の話?」
「心当たりないな」
「くそ!ばか!航介なんか有名なのに挟んでB級映画持ってくる!」
「面白いんだからいいじゃんか」
「腹立たしいことに面白いよ!もう!」



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