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電車シリーズ


☆ゆめ


現実にあったことを夢に見るのは、フラッシュバックというのだろうか。夢の中で夢であると気付くことを明晰夢と呼ぶのなら、記憶を掘り返して見ている夢紛いの映像をそうであると認識することは、なんと呼ぶのだろうか。この、夢に似た記憶を見たことは、今までに何度かあるのだけれど、この場合、俺には何もできないのだ。嬲られる小学六年生の自分を、ぼんやりと宙に浮いて眺めることしかできない。飛び飛びの記憶。自分が見ていた風景しか、自分じゃ覚えていられないから。
始まりは、夏休みの半ば。俺は毎年恒例で、田舎の家に泊まりに行っていた。母さんの兄が一人で暮らしているそこは、広くて、静かで、自然がいっぱいの、良いところだった。俺が小学校高学年になった、その時点から一年前に、はじめて一人で泊まった。夜は少し怖かったけれど、叔父さんが一緒に寝てくれて、暑かったけど安心した。だから、その年も去年と同じく、送り迎えだけ母が来て、俺は3日間叔父さんと二人きり。おじゃまします、とリュックを玄関に下ろして振り返って、鍵が閉まった。
がちゃん、という音が、酷く重く聞こえた。
親指同士を、背中の方で結ばれた。足首は、太腿と括られた。開脚癖がついたのは、長時間股を開かされていたこの時のせいだと、思う。執拗に身体を弄られて、こわいとか、やめてとか、叔父さんの名前を呼んだりとか、大きい声を出したりとか、そういうことをしていたら、猿轡を噛まされた。ふんふん鼻を鳴らすことしかできない俺を見て、叔父さんは満足そうに俺の服を割いて、体を暴いた。
母の名前で何度も呼ばれた。幼い頃の母に俺はそっくりだったらしい。叔父さんは、実の妹であるはずの母を本気で愛して、肉欲を持った目で見ていたらしい。去年の3日間、俺が何の警戒もせずに無防備に過ごしていたのを見て、一年かけて準備をしたらしい。全部「らしい」なのは、恐怖と混乱と痛みと快感で、俺の頭はぐちゃぐちゃで、全部を覚えてはいないからだ。時間はあるんだと、しつこいくらい丁寧に慣らされた。ちっちゃいローター仕込まれて、数時間ほっとかれて、痛みと異物感が快感に押し潰されて、訳わかんなくなって無理矢理床に擦り付けて自慰をする俺に、叔父さんは怒った。あの子はそんなはしたないことはしない、と。母のようにあって欲しかったのだ。頰を張られて震える俺に、怖がらせてごめんよ、と一回り大きいローターを押し込んで、跳ねる身体をいつまでもいつまでも観察された。ずっとビデオカメラが回っていて、どろどろのぐちゃぐちゃになって、ふうふう荒い息を漏らしては下から汁を垂らしてロンパってる俺は、全部記録されていた。体力の限界を迎えて気絶しても、目が覚めたら当然のように続きは始まる。飯は貰えたが、風呂は入れなかった。汗まみれのべたべたで、下半身なんか特にぐちょぐちょで、気持ち悪くて、気持ち良かった。ローターはバイブになって、いつの間にか叔父さんとセックスしていた。行き過ぎた恐怖で心が壊れないように、自己防衛本能が働いたのか、俺は全てを快感として受け取っていた。触ってもらうのは気持ちいい。足を開かれて腹の奥まで突っ込まれるのも気持ちいい。舐め啜られてキスをして唾液を呑み下させられるのも気持ちいい。全部が全部気持ちいいこと。だから、怖くない。俺は悪くない、気持ちいいことはいいことだから。
二回夜を通り過ぎた頃、叔父さんは俺にローターを仕込んで、手と足と口の拘束を解いて、ざっと身体を拭いて、服を着せた。腹の中で震えるそれに、もう言葉を喋ることを忘れてしまった俺は、あうあう鳴いて叔父さんに縋ってセックスを乞うたけれど、叔父さんはやらしく笑って頭を撫でるだけだった。俺の襟首を引きずって玄関に向かった叔父さんは、鍵を開けて、快感に震えて蹲る俺を床に転がして、優しく言った。
じゃあ、おじさんは警察に行ってくるよ。お母さんがもうすぐ迎えに来るから、連れて帰って貰いなさい。って。
その後叔父さんとは二度と会えなくなった。母さんは酷くショックを受けて、しばらく俺を家から出してくれなかった。俺も病院と家との往復ばかりさせられて、小学校へは行けなくなった。あと、大きく変わったのは、俺が男しか好きになれなくなってしまったことだった。というより、欲情を向ける先が男に限定されてしまった。この人はどんなセックスをするんだろうとか。この人に抱かれたらどれだけ気持ちいいんだろうとか。そういう目で同性を見るようになってしまった。そんなこと母に言えるわけもなく、口を噤んでいたけれど。
「なかはらくん?」
「……、」
「また悪い夢見ちゃった?」
「……しん、じょ」
「ぎゅーしてあげるー」
目が醒める時は突然だ。へらりと笑った新城が、こっちおいで、と手を広げる。大人しくその腕の中に収まりながら、また思い出してしまうその日までは忘れよう、って目を閉じた。
新城には、こんなこと言えない。どうして男が好きなのか、問い質されたこともない。ここにいるからね、よしよし、と頭を撫でられて、抱きしめられて、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、泣きそうになった。
今が幸せなら、あんな目に遭ったことも、水に流して良いんだろうか。


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